普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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6章 勇者と、魔族と、王女様

アリアンサイド 〜最強の敵〜

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「──ぐぁぁッッ!!」

悲鳴を上げてエディは地面に倒れ伏す。

接戦にすらなり得なかった。
エディはたった数回の打ち合いでボロボロになり、玄武が少し力を込めた一撃で遂に限界を迎えていた。

彼と一緒に戦っていたアテナも状況は同じだ。
ただ、エディより少し強いお陰でまだ立ち上がる事は出来ている。
しかし、彼女もあと数回で力尽きる運命だ。
そんな彼女に倒れ伏したエディへ目を向ける余裕などは無い。

なんせ剣を持っている両腕はカタカタと震え、玄武と打ち合った反動の痺れすらどうにもなら無いのだ。
これでは万全の戦闘が行える訳がない……いや、戦いの始まりは万全だったのだから、六神剣は二人がかりにも関わらず、玄武に手も足も出なかった事になる。
その一部始終を観ていた兵士達は、誰一人言葉を発する事など出来ず、ただ絶望するしかなかった。


「──そ、そんな……もうこの国はお終いだ……」
「1分も持たなかったとは……」
「いや、二人とも国の為、立派に戦ってくれた」
「あんなに強いんなら、ユリウスさんやアリアンさんでも勝てっこねぇよ……」
「終わりだ……おしまいだ……」


戦いを見届けていた兵士達から、ネガティブな声がところどころで上がる。
しかし、敗北した二人を責める者はほとんど居ない……雄志を称える声が殆どだ。

玄武の力を見せつけられた者達は一様に、あの化け物は例えユリウスやアリアンでも絶対に勝つ事は出来ないと……そう思っていた。
それ程までに恐ろしい強さを誇る怪物相手に、三大戦力に劣る六神剣では敵いっこないと全員が理解している。

にも関わらず、そんな相手へ勇敢に挑んで行ったのだ。
ただ震えている事しか出来ない者達に、敗北した二人を責める資格など何処にも有りはしない。

まだ辛うじてアテナが粘って居るも、膝をつくのは時間の問題である。
だが、仮に万が一奇跡が起こってアテナが勝利したとしても、背後には三体の魔族が待ち構えているのだ。
もはや数千程度の兵士でどうこう出来るレベルの相手ではない。

だが、兵士の皆は剣を、魔法使いは杖を握り締めて戦いに備えた。
彼らには愛する家族が、恋人が、友人が居る。
大切な者を守る為に彼らは戦いの覚悟を決めた。


「──皆んなッッッ!!!アテナ様が戦っておられる今はチャンスであるッッッ!!!あの方が倒れる前に援護するぞッッ!!」

「「「おおおぉおぉぉッッッ!!!!」」」

指揮官らしき人物の号令のもと、数千の兵士達は雄叫びを上げた。
未だ血だらけになりながらも玄武と戦っているアテナを援護する為に、兵士達は玄武へと突進する……だが、彼らは玄武に近付く事さえ叶わなかった。


「ハハッッ!!しゃらくせぇぞっ!!」

玄武は息を大きく吸い込み、彼らに強く吹きかけた。
たったそれだけで、彼に立ち向かった者達は一斉に吹き飛ばされてしまったのだ。

無論、運良く逃れた者も居る。
また、吹き飛ばされただけで幸運にも死者は出ていない。
しかし、今の玄武の攻撃とも言えないアクションは、王国の兵士達の戦意を失くすのに充分であった。

恐怖に支配され、もはや誰一人として挑もうとはしなかった。


「ハハ、てめぇアテナっつたか?こっちはエディか!お前らよぇーけど、彼奴らに比べたら全然つぇーな!」

そう言いながら、玄武は足下に転がっているエディを踏み付けた。


「貴様ッ!その足を退けなさいっ!」

「なんだぁ?文句が有るなら力尽くで退かしてみろよ?んん?」

玄武はグリグリとエディを痛め付けるように足を動かした。
一思いに力を込めればいつでも頭を潰せるが、直ぐにそうしないのは明らかな侮辱である。
それが解って居るからこそ、アテナも激怒するのだ。


「──調子にのるなぁっ!魔族がっ!」

「おっと、ははは、惜しかったなぁ?──それっ」

虚を突いたアテナの鋭い一撃も簡単に防がれてしまう。
巨体だが機敏に斧を動かして攻撃を防いだ玄武は、そのまま防いだ斧を使ってアテナを後方へと押しやった。


「──がぁあッッ!!……ぐっ……」

斬られた訳では無かった。
しかし、今の玄武の一撃が動けなくなってしまう程の衝撃だったのは事実だ。
突き飛ばされたアテナは、エディと同じ様にうつ伏せに倒れ、もう立ち上がる事が出来なくなってしまうのだった。

そんなアテナの姿を見て、玄武はやってしまったと言わんばかりに頭を掻きながら負傷したアテナを見据えている。


「──いけねぇ、力の加減を間違えちまったぜ。もっと遊んでやるつもりだったのによ~」

「………ッぐ!」

玄武はゆっくりアテナへ近付いて行く……トドメを刺す為に。
決闘相手は両方動けなくなり、周囲の兵士達も怯えるばかりで向かって来ようとしない。
玄武にとってこれ以上戦いを続けても何一つ面白味など無かった。
故に、そうそうにアテナの首を切断しようと斧を振り上げるのだが……それは自力で起き上がったエディに止められるのであった。


「──ま、まて……ごほっ……はぁはぁ……姉さんにトドメを刺すのはまだ早いぜ……俺が……まだ戦える……はぁはぁ」

「……んぁ?」

先まで足下に居たが、玄武がアテナの側へ近付いたのでエディとの間に距離がある。
玄武は振り返ってエディへと標的を変える。


「俺が限界だって……笑わせんじゃ……ねぇ……はぁはぁ」

「ははは、死に損ないがッ!!良いだろう、かかって来いっ!!」

再び相まみえる二人。
しかし、再戦したところで先程の焼き直しかと誰もが狼狽てしまうが、エディだけは違った。
彼にはこの状況を好転させる事が出来るかもしれない隠し球がある。
エディは残された力を振り絞り、そのスキルを解放した。


「──スキルッ!【限界突破】!!」

「ほぉ?肉体強化のスキルか……珍しいモノを持ってるなぁ……だが──」

これではまだまだ玄武には届かない。
それはエディだって解っている事だ……しかし──


「まだこれで終わりじゃないぜッ!!」

「よ、よせ、死ぬ気か、エディ!」

彼がやろうとしている事を、エディ以外でアテナも知っている。
彼女は危険なそれを止めるべく、何とか立ち上がって声を出すも、エディがアテナの制止する言葉を聞き入れる事は無かった。


「はぁぁぁーーーッッ!!!【ステータスバースト】ッ!!」

「なにぃ!?」

瞬間………エディを取り巻く空気が変わった。
そこには先程までのエディとは全く違う存在が立っていたのだ。
見た目的な変化は一切無くとも、エディの戦闘能力が大きく上昇したのが誰の目にも明らかだ。
そんなエディの様子を人間側が歓声を上げて見守る中、アテナだけが不思議そうに見つめている。


「──な、肉体強化の重ね掛け……成功していたのか……?失敗すれば自らの肉体に多大なダメージを与えてしまう危険な絶技を……」

「へへ……まぁなっす」

エディはアテナの言葉に反応した後、直ぐに玄武に向き直った……今度は堂々とした佇まいだ。
さっきまでは命を脅かす危険な技を出し惜しんだばかりに追い詰められてしまったが、持てる勇気を振り絞り、どうせ死ぬならとエディは賭けに出たが、幸運にもその賭けにエディは打ち勝つ事が出来た。
人間側では未だかつて誰もなし得た事の無い、肉体強化の重ね掛けという境地を土壇場で成功させたのだ。



「……さっきは良くも頭を踏みつけてくれたな、玄武の旦那よ……」

「うむ……」

しかし、玄武も別人となったエディに臆することは無く、堂々と彼に対峙する。


「……一つ聞いてもいいか?」

「なんだ、言ってみろ?このまま退くと言うのなら、見逃してやっても良いぜ?流石にお前を倒した後でうしろの三体を相手にするのは骨が折れそうだからな」

「いや、それは良いのだが……俺が気になっているのは──お前、どんくらい強くなったんだ?」

「へへ……知りたいかよ?……なら教えてやるぜ……さっきまでの三倍だ」

この言葉で兵士達から破れんばかりの歓声が鳴り響いた。
まるで勝利を確信するかの様に。

そして、それはアテナも同じだ。


「三倍とは……マティアス隊長の実力を大きく超えてしまっている」

アテナは驚愕すると共にある事を思い出していた。
それは六神剣隊長にして序列一位マティアスに聞かされていたある言葉だ。

『エディはいずれユリウスをも超える力を手にするだろう』

無論アテナは自分たち六神剣が、ユリウスを含む三大戦力に大きく劣っている事は知っている。
隊長のマティアスとアテナ以外の者は自分達が上だと思い込んでいるが、マティアスとアテナの二人は違う。
しかし、そんな自分と同じ考えを持つ隊長が、ユリウスをいずれ超えると豪語したのだ。

いや、それでも彼女は半信半疑だったのだが……目の前でその実力を魅せられては信じざる得ない。
それと共に、この戦いに勝機を見出したのも事実──誰もがエディの勝利を信じて疑わなかった。

………………

…………だと言うのに、玄武は呆れ果てた様子でエディを見下ろしていた。


「………………」

「へへ、驚いて声もでねぇーか……逃げる気はないようだし、此処で倒させて貰うぜ?」

エディは玄武目掛けて突撃した。
そのスピードや否や、肉体強化前の比ではない。

これから繰り出される攻撃は更にとてつもない威力を発揮する事だろう。
エディは一切の躊躇も、躊躇いもなく、加えて剣を両手でしっかり握り締め、スピードと力を全開に込めた一撃を玄武目掛けて振り下ろした。


「はああああぁぁぁぁぁーーーッッッ!!!」

──まさに渾身の一撃。
そんな誰しもが認める最強の一振りを、玄武は【自らの肉体】で弾き返した。


「「……はぁ?」」

エディとアテナは同時に声を重ねた。
本当に何が起こったのか分からない。

離れたところで見ていた兵士達にはもっとわからなかった。
……ただ彼らの目には見間違えであって欲しい事に、エディの渾身の攻撃が避けられるでもなく、斧で受け止められるでもなく、まともに当たった玄武の肉体に弾き返された様に見えてしまっていた。


「ば、なかな……は、はぁぁぁッッ!!」

エディは額に焦りの汗を流しながら、もう一度玄武に切り掛かった。
さっきのは夢だろう……きっと興奮し過ぎて攻撃したつもりになっていたのだ……そう言い聞かせてもう一度斬りつけても、結果は同じであった。

……続けてもう一度──


……更にもう一度──


しかし、幾度攻撃を直撃させても玄武はビクともしない。
それを見ていたアテナも堪らず加勢して何度も攻撃するも結果は同じ。
そう、肉体強化を施したエディと全く同じ結果なのだ……何百と剣による攻撃を喰らわせたが無駄。

結局、二人は玄武へ対し擦り傷一つ与える事が出来なかった。

「……嘘でしょ?」

「んな馬鹿な……隊長すらも越えた力なのに……」

「いや、雑魚が三倍になったところで変わりないぞ?」

玄武としても困っものだ。
あれだけ盛大な前振りをしておきながら、繰り出してきた隠し球が、なんと身体能力三倍の肉体強化である。
驚きのあまり動く事が出来ず、思わず攻撃を受け止めてしまった程だ……まともに食らってもダメージを受けないのに、敢えて攻撃を避けて遊んでいたのが台無しである。

もう一度アテナが攻撃を仕掛けた。
避けて来ないのを良い事に、喉仏を目掛けて剣を振るが、命中しても当然の様に通用しない……まるでダイヤモンドを斬りつけたみたいだ……脆い筈の喉元にすら傷を負わせる事は叶わなかった。

そしてエディが何度目かの攻撃を仕掛けたところで玄武は反撃を行う。
ガードの間に合わなかったので腹に直撃してしまい、アテナを巻き込みながらエディは弾き飛ばされる。
肉体強化を施して無ければ死んでいた事だろう。


「──がぁ……ば、ばかな……なんつー硬さだ……」

「エディ……こっちに突っ込んで……来るな……馬鹿……」

男女で身体が縺れ合う格好になるも、互いに羞恥心はない。絶望と恐怖で頭の中はいっぱいだ。
三倍まで戦闘力を引き上げたエディでダメなら誰にも勝てないだろう。

恐らくアリアンが駆けつけたとしても、この状況を覆す事など不可能な筈だ……人間側は全員そう考え、諦めてしまっていた。


「くっ、お前なんて、アリアン様が居れば……」

ただ一人、アリアンを敬愛するアテナを除けば──


「へぇ~?そのアリアンってのなら、俺に勝てるってのかい?」

「そ、それは……」

アテナとて、アリアンの全力で戦う姿を見た事なんてない。
しかし、能力を三倍に引き上げたエディの攻撃が全く通じなかったのだ……アリアン様なら勝てると、口にする事が出来無かった。


そんなアテナを観て、玄武は今度こそ息の根を止めるべく二人へ近づいて行く。


「おっ、そうだ。冥土の土産といっちゃ何だが、一ついい事を教えてやろう。俺は魔族の中でも最高硬度の肉体を持つ硬鬼人族って種族さ。後ろの三人相手なら、少しはダメージを与えられたと思うぜ?」

二人にとっては一つも良い話ではなかった。
何故なら、これから死んでしまうのだから──

エディとアテナは強く目蓋を閉じ、斧を振り上げた玄武の無慈悲な攻撃をその身に受けてしまうのだった。


ガギッッーー!!!


…………

…………


しかし、一向に攻撃が肉体に到達して来ない。
何故だ……もしかして走馬灯だろう……?

アテナはそう考える……だが、だとしても意識がハッキリしている気がした。

加えて直前に聞こえてきた謎の金属音。
それが何だったのか……目を開け状況を確認しようかと思った瞬間──

アテナが行動するよりも早くある人物の声がすぐ近くから聞こえて来るのだった──!




「──おい、敵を前に目を閉じるヤツがあるか、アテナ……それにエディも」

「え…………?…………その声は……?……え、ええ?」

「…………マジかよ……」



──目を見開いたアテナの目には、玄武の攻撃を剣で軽々受け止めているアリアンの姿が映し出されていた。
アテナが最も会いたかった人物が……自分が愛して病まない人物が……自身を庇う様に目の前で立っていたのだ。




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