上 下
124 / 217
6章 勇者と、魔族と、王女様

王国救援作戦①

しおりを挟む


──人間側のバカ達は元魔王に注意されて反省した。
従って、ようやく会議が本格的に始まる。

だがその前に、アレクセイは話し合いを始める上で重要な事を孝志に確認するみたいだ。


「──そう言えば、一つ、孝志ちゃんに確認したいことがあるんだけど、良いかしら?」

「はい、どうしました?」

「孝志ちゃんは……王国を救いたいかしら?」

改まって何を聞いてくるんだ……と一瞬だけ思うが、前もってそれを確認した意味を孝志は直ぐに理解した。


「ああ、そう言う事ですか」

一斉で皆が俺に注目する。
王国へ戻る必要の無い俺が、どんな判断をするのか気になるんだろう。
因みに、何故かいつの間にかリーダー的ポジションになって居るが、コイツらには言葉が通じないので受け容れるしかない。

そしてこれからどうするかについてだが、この城で暮らしてゆく決断をした以上、今後ラクスール王国の宮殿で暮らす事は無いと断言出来る。
ただ、王国側から拒絶されなければアリアンさんやオーティスさん、それと世話になった人達には会いに行きたいと思ってはいる。

そして堂々と会いに行っても良い筈だ。
何たって、魔王と戦う為に呼び出され、その戦うべき相手のテレサを味方に着けたのだ。
意図してないとはいえ、頼まれた仕事をきっちりこなした事になる。
また、話し合いはアレクセイさんとアルベルトが中心だが、最終決定は迷惑なことに俺へ委ねられている。

……なので、ここで俺の降す決断が、これからの行動を大きく左右する事になるんだけど……


十魔衆達は俺に対して意味不明だが忠実なので、彼らは間違いなく俺の選択肢次第でどう動くか決まる。

アルマス、おばあちゃん、アレクセイさんに関しては最早言うまでもないだろう……自意識過剰かも知れないが、俺が王国へ行くと言えばその様に動いてくれると思う。
いや自意識過剰ではない。この三人はそう言う生物だと俺は認識した方が良い……過保護共が。


アリアンさんとオーティスさんだけは俺の決断に関わらず王国へ帰るだろう。
アリアンさんはおばあちゃんに助けて貰った恩があるらしいが、それでもこの城に留まる理由は本来ない。

それでもすぐに国へ帰らずこの城に滞在している理由は、俺が居るからだそうだ。
オーティスさんもそれは同じらしい。

二人とも俺のことを本当に心配してくれて居るみたいだ。
オーティスさん、ありがとう。
アリアンさんは帰って欲しいけど、ありがとう。

ただ、俺の為に残ってくれて居るとは言っても、流石に今の王国を放って置く事はしない筈だ。
さっきまではふざけていたけど、アルベルトから結界が壊されただけでなく魔族が既に攻め込んでると聞いて、二人は先ほど不真面目だったのを後悔し、今にも飛び出して行きそうな雰囲気に変わっている。

皆んな、思い思いに俺を観ているが──


──俺が降す決断は決まっている。
この決断は、王国に恨みがあるアルマスやおばあちゃん達は嫌がるかも知れないけど……



「──俺は救援に行きたいと思うけど、どうだろう?」

この言葉を聞いて、十魔衆は了解したと頷き、アリアンとオーティスの王国組も孝志の判断に嬉しそうに頷く。
しかし、何百年前に王国と確執のあった弘子は確認する様に理由を尋ねた。


「なんで?王国に義理はないはずよ?いや、そもそも勝手に呼びだされたんだから、孝志ちゃんが義理を感じる必要は無いと思うけど?」

もちろん、弘子は孝志の決断に怒って言っている訳ではない。
彼が良い様に利用されていないか心配なだけである。


「いや、義理とかじゃないんだよ。確かに勝手に呼び出されたのはムカツクけど……」

俺は溜めて少し申し訳無さそうに言葉を続ける。
おばあちゃんと自分とでは、王国からの待遇が全く違うのだと知っているからだ。


「おばあちゃんの境遇を考えると失礼な言い方になっちゃうけど、おばあちゃんを酷い目に遭わせた時と違って、今のラクスール王国の人達は本当に良い人ばかりなんだ。能力的に劣る俺に対して冷たくする人間は居なかったから…………あっ、一部を除いてね」

一部とはビンタして来たネリー王女とかの事だ。
でもまぁ、あの女は俺に気が有るみたいだし、ツンデレ系は苦手だから対応に困るけど、相手が誰で在ろうと好かれて悪い気はしないな、ははは、モテ辛!

そうだな……おばあちゃんも居るし、ネリー王女にビンタされた件は言わないでおくか。


「一部って……あのマスターにビンタしたクソ王女ね……くそっ!思い出しただけで腹が立つ、あのゴミカス女っ!実体化している時に会ったらぶち殺してやるっ!」

「あえて言わなかったのに、口にするんじゃないアルマス……てかいつにも増して口悪っ」

孫がビンタされた話を聞いて、孝志の推測通り弘子は猛烈な怒りを露わにするが、両サイドのアリアンと弟子のオーティスがマジモードなため何も言わず我慢する。
しかし、今のアルマスの余計な一言で弘子の王国へ対する憎悪は更に膨れ上がるのであった。



「──てな感じ、恩を仇で返す様な人間になりたくはないし、見知った人達の危険を無視する様な人間にもなりたくないから、王国が危険な状態だったら手助けをしたい…………それで、もし良ければだけど皆んなの力を借りれないか?」

アリアンとオーティスはもちろん、アレクセイや十魔衆達も孝志の申し出に黙って頷いた。
弘子だけが若干渋ったが、最後には『孝志ちゃんが言うなら』と、王国を助けに行くと言う孫の提案を了承するのであった。


「アルマスも大丈夫か?なんか王国の事はよく思ってない感じだから」

全員が納得していた中で、アルマスだけが何も言わず黙っていた。
普段なら、自分の言う事には二つ返事で従うのに珍しいと、孝志は思わず声を掛けていた。


「私が王国を嫌悪している事に、気が付いていたんですか?」

「まぁ、一応は」

「ふふ、でもわざわざそんなこと確認しなくて大丈夫です。例えマスター……いえ、孝志がどんな選択をしようと着いて行くだけです。例えそれが地獄の底だろうと」

「………………ありがとう、でも、さっきから怖い」

何だかんだいつものアルマスだ……良かった。


……けど、じゃあなんで黙ってたんだろうか?
少し気にはなったが、折角話がまとまったのでこれ以上の追求は控えておくか。



「……アリアン嬢……汝が孝志を気に入るのが……解った気がするぞ」

「ああ……自慢の弟子だからな」

「我も帰ったらアンジェリカと真剣に向き合うとしよう…──そう言えば、師は孝志を知ってる様ですが、どう言った関係──ッッ!!?」

オーティスは先ほど孝志の名前を口にしていた弘子に、彼との関係を聞こうと話しながら彼女を観る。

すると、弘子は大粒の涙を流していた。
余りに顔がぐしゃぐしゃだったので、彼女を尊敬するオーティスも思わず後退りする。


「……し、師よ……どうされたのですか……?」

「ゔぅ……うれじい……立派に育ってうれじぃ……」

「はは、弘子殿は気持ち悪いな!」

「…………」

この時、アリアンの辛辣な言葉に対し『そんなことはない』と、オーティスはどうしても言えなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗
恋愛
社会人一年生の三上雪子は、ある日突然初恋の彼氏に振られてしまう。 そしてお酒に飲まれ、気付けば見知らぬ家で一夜を明かしていた。 酔い潰れたところを拾って帰ったという男性は、学生時代に元カレと仲が悪かった相手で、河村貴也。雪子は急いでお礼を言って逃げ帰る。 けれど河村が同じ勤務先の人間だったと知る事になり、先日のお礼と称して恋人の振りを要求されてしまう。 ……恋人の振りというのは、こんなに距離が近いものなのでしょうか……? 初恋に敗れ恋愛に臆病になった雪子と、今まで保ってきた「同級生」の距離からの一歩が踏み出せない、貴也とのジレ恋なお話。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

処理中です...