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6章 勇者と、魔族と、王女様
王国救援作戦①
しおりを挟む──人間側のバカ達は元魔王に注意されて反省した。
従って、ようやく会議が本格的に始まる。
だがその前に、アレクセイは話し合いを始める上で重要な事を孝志に確認するみたいだ。
「──そう言えば、一つ、孝志ちゃんに確認したいことがあるんだけど、良いかしら?」
「はい、どうしました?」
「孝志ちゃんは……王国を救いたいかしら?」
改まって何を聞いてくるんだ……と一瞬だけ思うが、前もってそれを確認した意味を孝志は直ぐに理解した。
「ああ、そう言う事ですか」
一斉で皆が俺に注目する。
王国へ戻る必要の無い俺が、どんな判断をするのか気になるんだろう。
因みに、何故かいつの間にかリーダー的ポジションになって居るが、コイツらには言葉が通じないので受け容れるしかない。
そしてこれからどうするかについてだが、この城で暮らしてゆく決断をした以上、今後ラクスール王国の宮殿で暮らす事は無いと断言出来る。
ただ、王国側から拒絶されなければアリアンさんやオーティスさん、それと世話になった人達には会いに行きたいと思ってはいる。
そして堂々と会いに行っても良い筈だ。
何たって、魔王と戦う為に呼び出され、その戦うべき相手のテレサを味方に着けたのだ。
意図してないとはいえ、頼まれた仕事をきっちりこなした事になる。
また、話し合いはアレクセイさんとアルベルトが中心だが、最終決定は迷惑なことに俺へ委ねられている。
……なので、ここで俺の降す決断が、これからの行動を大きく左右する事になるんだけど……
十魔衆達は俺に対して意味不明だが忠実なので、彼らは間違いなく俺の選択肢次第でどう動くか決まる。
アルマス、おばあちゃん、アレクセイさんに関しては最早言うまでもないだろう……自意識過剰かも知れないが、俺が王国へ行くと言えばその様に動いてくれると思う。
いや自意識過剰ではない。この三人はそう言う生物だと俺は認識した方が良い……過保護共が。
アリアンさんとオーティスさんだけは俺の決断に関わらず王国へ帰るだろう。
アリアンさんはおばあちゃんに助けて貰った恩があるらしいが、それでもこの城に留まる理由は本来ない。
それでもすぐに国へ帰らずこの城に滞在している理由は、俺が居るからだそうだ。
オーティスさんもそれは同じらしい。
二人とも俺のことを本当に心配してくれて居るみたいだ。
オーティスさん、ありがとう。
アリアンさんは帰って欲しいけど、ありがとう。
ただ、俺の為に残ってくれて居るとは言っても、流石に今の王国を放って置く事はしない筈だ。
さっきまではふざけていたけど、アルベルトから結界が壊されただけでなく魔族が既に攻め込んでると聞いて、二人は先ほど不真面目だったのを後悔し、今にも飛び出して行きそうな雰囲気に変わっている。
皆んな、思い思いに俺を観ているが──
──俺が降す決断は決まっている。
この決断は、王国に恨みがあるアルマスやおばあちゃん達は嫌がるかも知れないけど……
「──俺は救援に行きたいと思うけど、どうだろう?」
この言葉を聞いて、十魔衆は了解したと頷き、アリアンとオーティスの王国組も孝志の判断に嬉しそうに頷く。
しかし、何百年前に王国と確執のあった弘子は確認する様に理由を尋ねた。
「なんで?王国に義理はないはずよ?いや、そもそも勝手に呼びだされたんだから、孝志ちゃんが義理を感じる必要は無いと思うけど?」
もちろん、弘子は孝志の決断に怒って言っている訳ではない。
彼が良い様に利用されていないか心配なだけである。
「いや、義理とかじゃないんだよ。確かに勝手に呼び出されたのはムカツクけど……」
俺は溜めて少し申し訳無さそうに言葉を続ける。
おばあちゃんと自分とでは、王国からの待遇が全く違うのだと知っているからだ。
「おばあちゃんの境遇を考えると失礼な言い方になっちゃうけど、おばあちゃんを酷い目に遭わせた時と違って、今のラクスール王国の人達は本当に良い人ばかりなんだ。能力的に劣る俺に対して冷たくする人間は居なかったから…………あっ、一部を除いてね」
一部とはビンタして来たネリー王女とかの事だ。
でもまぁ、あの女は俺に気が有るみたいだし、ツンデレ系は苦手だから対応に困るけど、相手が誰で在ろうと好かれて悪い気はしないな、ははは、モテ辛!
そうだな……おばあちゃんも居るし、ネリー王女にビンタされた件は言わないでおくか。
「一部って……あのマスターにビンタしたクソ王女ね……くそっ!思い出しただけで腹が立つ、あのゴミカス女っ!実体化している時に会ったらぶち殺してやるっ!」
「あえて言わなかったのに、口にするんじゃないアルマス……てかいつにも増して口悪っ」
孫がビンタされた話を聞いて、孝志の推測通り弘子は猛烈な怒りを露わにするが、両サイドのアリアンと弟子のオーティスがマジモードなため何も言わず我慢する。
しかし、今のアルマスの余計な一言で弘子の王国へ対する憎悪は更に膨れ上がるのであった。
「──てな感じ、恩を仇で返す様な人間になりたくはないし、見知った人達の危険を無視する様な人間にもなりたくないから、王国が危険な状態だったら手助けをしたい…………それで、もし良ければだけど皆んなの力を借りれないか?」
アリアンとオーティスはもちろん、アレクセイや十魔衆達も孝志の申し出に黙って頷いた。
弘子だけが若干渋ったが、最後には『孝志ちゃんが言うなら』と、王国を助けに行くと言う孫の提案を了承するのであった。
「アルマスも大丈夫か?なんか王国の事はよく思ってない感じだから」
全員が納得していた中で、アルマスだけが何も言わず黙っていた。
普段なら、自分の言う事には二つ返事で従うのに珍しいと、孝志は思わず声を掛けていた。
「私が王国を嫌悪している事に、気が付いていたんですか?」
「まぁ、一応は」
「ふふ、でもわざわざそんなこと確認しなくて大丈夫です。例えマスター……いえ、孝志がどんな選択をしようと着いて行くだけです。例えそれが地獄の底だろうと」
「………………ありがとう、でも、さっきから怖い」
何だかんだいつものアルマスだ……良かった。
……けど、じゃあなんで黙ってたんだろうか?
少し気にはなったが、折角話がまとまったのでこれ以上の追求は控えておくか。
「……アリアン嬢……汝が孝志を気に入るのが……解った気がするぞ」
「ああ……自慢の弟子だからな」
「我も帰ったらアンジェリカと真剣に向き合うとしよう…──そう言えば、師は孝志を知ってる様ですが、どう言った関係──ッッ!!?」
オーティスは先ほど孝志の名前を口にしていた弘子に、彼との関係を聞こうと話しながら彼女を観る。
すると、弘子は大粒の涙を流していた。
余りに顔がぐしゃぐしゃだったので、彼女を尊敬するオーティスも思わず後退りする。
「……し、師よ……どうされたのですか……?」
「ゔぅ……うれじい……立派に育ってうれじぃ……」
「はは、弘子殿は気持ち悪いな!」
「…………」
この時、アリアンの辛辣な言葉に対し『そんなことはない』と、オーティスはどうしても言えなかった。
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