普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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6章 勇者と、魔族と、王女様

ラスボス幼女

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♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~シャルロッテ視点~


「──おねぇさま、おきをつけて、いってらしゃいませ」

シャルロッテは、ネリーの姿が見えなくなるまで【念の為】笑顔のまま手を振り続けた。
彼女がこちらを振り返る可能性が低いと解っているが、シャルロッテは少しも気を緩める事はない。


そして、ネリーの姿が見えなくなった途端、シャルロッテは振っていた手を素早く下ろし、マリアの部屋へ向かって再び歩き始める。
この瞬間、幼い王女の顔からは普段見せている天使の笑顔は見られなくなった。

今のシャルロッテの姿を第三者が観れば、誰しもが大いに驚く事だろう。
それ位、普段とは違った冷たい表情を見せている。


──しかし、今のようなシャルロッテを見慣れているモニクは、別段おかしく思わなかった。
彼女を良く知るモニクには、これこそが普段から見慣れている第三王女の姿なのである。


「……ぁッ!?」


シャルロッテが動き出すのが急だった為、一歩下がっていたモニクは少し出遅れてしまった。
歩き始めた主人を見てモニクは慌てたように後を追い掛ける。


「──う~ん……いったいなにがあったのかしら?」

「……え?」

シャルロッテは独り言を呟く。
モニクはそれを自分への言葉だと勘違いし、反応を示した。


「ネリーの心は、数年前にわたくしが折ってやったのに、だいぶ立ち直っていたわね~……なんか面白くないわ。何もかも諦めてしまった可哀想なネリーが、わたくし好きだったのに」

シャルロッテは歩みを止めない。表情も変えない。
ただ不思議そうに首だけを傾げて、物騒な独り言をボソリと呟いた。


「は、はい!何でありましょう!シャルロッテ様!」

会釈をして礼儀正しく受け答えするモニク。

だがしかし、今のが単なる独り言でモニクに用事など無かったシャルロッテは、口元を歪めながら自分より少しだけ背丈の高いモニクを不機嫌そうに見上げて言い放った。


「……あのね?わたくしは貴女に話掛けて居ないわよ?わかる?呼んでないの?」

「あっ!ご、ごめんなさい!」


──やってしまった。

そう思ったモニクは頭を何度も下げ、必死に謝罪の言葉を口にする。
まだ子供で土下座という秘奥義の知識は無いが、知って居れば躊躇なくその行為を行っただろう。
それだけの謝罪力が今のモニクからは感じられる。


だが、モニクは必死なのだ。
何たってこの幼女の機嫌を損なえば、いったいどんな酷い目に遭わされるのか解ったモノじゃない。
彼女の本性を知り、裏の顔を散々見せつけられて来たモニクにとって、この幼い王女はもはや恐怖の象徴でしか無いのだ。


そして、必死に頭を下げるモニクの姿を観て、当のシャルロッテは特に何も感じていない。
ネリーのように頭を下げさせて優越感に浸る事もない。
かと言って罪悪感を感じる事もない。
怖がっているから可哀想なんて事も思わない。

シャルロッテにとって、マリア以外の存在など心底どうでも良かった。それくらい他人に興味が持てない。
シャルロッテは物心ついた時から、既にそういう風に仕上がってしまったのだ。


「──もういいわ、頭を下げるのを辞めなさい。誰かに見られたらどうするの?わたくしが酷い女の子だと思われるじゃない?やめて」

「は、はい!お情け感謝致します!」

シャルロッテは、この場面を誰かに目撃されてしまった時の事を考え、打算的に頭を上げるようにモニクを促した。


それを聴いたモニクは安心した様に頭を上げる。


──そして、その従順な騎士の立ち振る舞いをシャルロッテはつまらなそうに眺めた。


────────


その後はマリアが軟禁されている部屋を目指し、二人は黙々と長い王宮の廊下を歩いて行く。
場所が離れで時間が早朝と言う事もあり、数分ほど歩いても誰かとすれ違うなんて出来事は無かった。

此処にモニク以外の誰かが居れば、シャルロッテは全く違った人格になるのだが……
一人っきりの時や、周りにモニクしか居ない場合のシャルロッテはいつもこんな感じだ。
気紛れ程度にしか笑わないし、時間潰しの会話なんて一切行わない。

モニクはそんな主人の機嫌を伺いながら付き従う。



しかし、今日は気紛れを見せる珍しい日のようだ。
歩いて居る途中で何かを思ったらしく、シャルロッテは立ち止まり無表情だった顔を笑顔へ変化させた。

その表情の変化を観たモニクに戦慄が走る。
シャルロッテが二人っきりの時に笑顔を見せた場合、だいたいろくな話をして来ないからだ。



「──ふふ……ねぇモニク。お父様、今頃どうしているかしらね?」

今度は間違いなく自分へ語り掛けている。
モニクはそれを確信して返事を返した。


「はい!……あ、あの……とてもお困りかと思います……よ?」

「でしょうね!──だって、わたくしのような幼い子供にまんまと出し抜かれたんですもの!……今頃は発狂してるんじゃないかなぁ~?アハハハッ!ねぇモニク?想像すると面白くない?」

「……………」

「……あれモニク面白くないの?わたくしは面白いんだけど?」

「は、はい……ですが、国王の不幸を面白がる事は…………さ、流石に……も、申し訳ありません」

「んふふ、意外に強情な所もあるのね──いいわ少し見直したから、今逆らった事は許してあげる」

「あ、ありがとうございます……!」

モニクは、今のやり取りでシャルロッテが不機嫌にならなかった事に安堵した。


「けどね、アナタが面白く無くても、わたくしは面白いわよ?」

「……何故でしょう?踏み込んだ事を聴いてしまいますが……ゼクス王は、御身の父上ではございませんか。なのに何故、ゼクス王の不幸を望まれるですか?」

「え?父親だからなに?そんなの関係ないでしょ?」

「え?……では何故、あのような仕打ちを……?」

「あっ、勘違いしないでね?わたくしは父が不幸になったから喜んでる訳じゃないわよ?」

「……どういうことでしょうか?」

「う~ん……騎士のアナタには理解出来ない話でしょうけど、私は父の不幸が観たいんじゃなくて、誰かの失敗を観るのが好きなの!──だって、凄く面白いんだもの!」

「…………」

騎士とか関係なく普通理解できないだろ。
……とモニクは思った。口が裂けても言えないが。


「だって何年も掛けて建てた計画の大詰めを、わたくしみたいな幼女に台無しにされたのよ?面白くない?」

「…………はは」

「それにユリウスまで裏切らせたのに……わたくしの所為でそれも全部無駄になった……アハッ!もうほんと!……こんな面白い事はないわよ!ふふふ」

「………………はは」


モニクは先程、シャルロッテの【しでかした】とんでもない事を思い出し額に汗を浮かべていた。

シャルロッテはイタズラっ子ぽく無邪気に笑っているが、あれはイタズラとして笑い飛ばして良い事ではない。

時間的に、今頃ゼクスは内密に進めていた計画の最終段階へ移行している最中だろう。
その計画の詳細こそモニクは教えて貰えなかったが、シャルロッテが言うに『何年も掛けて父は慎重に計画を進めていた』……らしい。


その計画達成の為に必要なモノが三つ。

獣人国に祀られた秘宝と、フェイルノートの生き血……
そして最後に封印された何らかの宝らしいのだが……


その最後の宝を、シャルロッテが国王よりも先回りし、ついさっき持ち帰ったのである。
なので国王が六神剣を引き連れて向かって居る場所には、既に何も無いと言う訳だ。

もちろん、モニクは全て終わった後にシャルロッテから結果のみを聞かされただけで、この件には一切関与していない。


シャルロッテは誰の力も借りず、何らかの方法で国王の計画を独自に見破り【自分一人】の力で、宝を回収して来たのだ。


それがモニクにとっては何よりも恐ろしかった。
こんな幼い少女の何処にそんな力があるのか、と。

だが、どうやって一人の力でやり遂げたのかを聞いてもシャルロッテが答える事はないだろう。
そう悟ったモニクは、その話には触れず、もう一つ気になった他の事を尋ねる事にした。


「……あの……一つお聴きしたいのですが、宜しいでしょうか?」

「ん?な~に~?アナタが質問なんて珍しいわね?何でも答えてあげるわよ?」

モニクから珍しく話しかけられた事に悪鬼は機嫌を良くし、優しい言葉を返した。
今の表情だけを見れば、実に幼く可愛らしい幼女なのだが……中身はとんでもない。 


──そして、主人から質問の許可を貰ったモニクは、もう一つの気になっている事を尋ねた。


「その……ユリウス様が裏切ったと言う話は、本当でしょうか?」

「……あら、アナタはわたくしが嘘を付いていると言いたいのね?許せない!!」

「ヒィッ!!ご、ごめんなさい!違います!ただ、私はユリウス様が我々を裏切るなど、とても信じられなくて……!ただそれだけです!ごめんなさい!」

「……ふふ、いいわ別に」

「……うぅ……」


シャルロッテは怒っている訳ではなく、冗談を言ってモニクの反応を楽しんで居るだけだが……被害者のモニクには溜まったものではない。
今のやり取りだけで何日か寿命が縮んだ事だろう。

……やり過ぎた所為でモニクがビビって喋らなくなってしまったので、シャルロッテが言葉を続けた。


「今は信じられなくても、後々、彼の裏切りは国中に伝わる筈よ?それも彼にとっては最悪の形でね?」

「……そ、そんな」

「まぁ私なら、わざわざユリウスを裏切らせなくても、上手く出来たんだけどね~……お父様って案外立ち回りヘタクソなのよ」

「…………」

「黙っちゃって……どうしたの?──ひょっとして、まだ怖くて声が出ない?さっきのは冗談よ?」

「いえ、そう言う訳では…………ただ…………」

「ん?ただ?」

「私、ユリウス様に憧れていたんです……ユリウス様にお会いしたくて騎士団入った位なので……そんな人が裏切ったって聞くと、とてもショックです」

「あら、そうだったの」

「はい。あわよくばお近付きになれるかな?なんて事も期待してたんですよ……」

「お近付きって……あの人、アナタが大人になる頃には四十歳よ?」

「いや、あれだけカッコよければお年を召されていても充分行けます!それにユリウス様、30歳超えててあの若々しさなんですよ!きっと40歳過ぎてもイケてますよ!」


ユリウスの話題になった途端、今までとは打って変わり饒舌となるモニク。
これだけでユリウスへの憧れの強さが窺える。


「しかも未婚みたいですし……ワンチャン有るかも知れないですね……!」


「──それはやめときなさい。アリアンに殺されるわよ?」

「え?嫌ですね~、あの優しいアリアン様が殺す訳無いじゃないですかっ!アリアン様は慈愛に満ち溢れた素晴らしいお方ですよ!」

「…………まぁいいわ。お父様の飼い犬になんて興味無いもの」

「ええ~!もっとユリウス様の話しましょうよ~──あっ、ですけど、計画が潰されたって事はユリウスはどうされて居るのでしょうか?」

「まぁ、お父様からユリウスへ連絡とる手段もついでに潰したし?──お父様の指示も無いから、今頃はユリウス【魔王】にでもなっているのじゃない?」

「いやいや、流石にそれは……何を言っているんですかシャルロッテ様」

「……アナタ急に調子に乗りだしてるけど……その辺にして置きなさい……ほんとんに殺すわよ?」

「──え、あっ!──も、申し訳ありませんでした!ユリウス様の話が出来て嬉しくて、つい」

「わたくし、調子に乗られる事が死ぬほど嫌いだから、気を付けてね?」

真っ青に顔を染めるモニク。
シャルロッテはその姿を楽しそうに観察していた。

そう……実はそれほど怒っている訳では無い。
モニクという少女のリアクションを観て、シャルロッテは楽しんで居るだけに過ぎないのだ。

シャルロッテにとって目の前の少女は、こうして遊ぶのに実に打ってつけの存在なのである。


「──で!他に聞きたいことは?」

「い、いえ!これ以上は……すいません」

「…………他には?」

「え、え~と、じゃあもう一つだけ!」

「ん?なぁに?」

「その……持ち出した宝というモノはどうするのですか?」

「……ん~……どうしましょう~」

シャルロッテはどう答えて良いのかと、少し考える。
宝には、使い道が幾つも有りそうだからだ。


「今は特にどうするつもりは無いわね……けどその内、使いたい時が来るんじゃないかしら~?」

「……つ、使い道が今のところ無いなら、元あった場所へ戻した方が良いのでは……?流石にゼクス王が気の毒ですよ……」

「それは嫌よ、せっかく取ってきたのに」

「そうですか……不躾な事をお聞きして申し訳ありませんでした……」

同じ鉄を二度は踏まない。
余計な事を口にしてしまう前に、話を終わらせようとするモニク。

しかし、そんな彼女の逃げ思考を先読みしたかの様に、シャルロッテは不気味に微笑んでいた。


「──ねぇモニク」

「……え?」

「手に届く場所に珍しい【おもちゃ】が転がって居るのよ?」

「……おもちゃ……ですか?」

「そう、おもちゃよ。とても珍しいおもちゃを、お父様が手に入れようとした。けど、私はそれがどうしても欲しくなったから、横から奪い取ったの。別に不幸を観たかっただけでは無いわよ?──それに父親だったら可愛い娘におもちゃを譲るのが普通じゃ無い?」



──嬉しそうに笑うシャルロッテを観て、モニクは心底ゾッとし、震えた。

なんせ、シャルロッテに邪魔された今のゼクスは、間違いなく絶望の淵に居る筈なのだ。
にも関わらず、シャルロッテは嬉しそうに笑って居るのだ。

モニクはシャルロッテが怖すぎて堪らなかった。


「──さてと、どうでも良い無駄話はこの辺にしておきましょう!!……早く可愛らしいマリアお姉様に癒されに行くとしましょうか!」

「…………はい」

「あ、それと折角だから、お父様から奪い取ったおもちゃと、後で挨拶させてあげるわ~」

「え?挨拶ですか?」

モニクの脳裏にとてつも無く嫌な予感が過ぎる。
今の言い方だと、まるで──


「確か【覇王】と名乗っていたかしら?アナタは一応、わたくし親衛隊だし紹介してあげるわ──ふふ、みんなには内緒よ?」

「ええッ!?シャルロッテ様が持ち出した宝って、生物だったんですかッ!?」

「ええ、そうよ?案外、私に忠実だから今は部屋で大人しくして居るわ」

「…………あぁ」



この王女と一緒に居ると、何をされるか判らない。
いつか今以上に酷い目に遭わされる。

だから……そうなる前に……誰でも良いから……自分を助けて欲しい。



──肩を震わせながら、モニクは心の底からそう思うのだった。
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