95 / 217
番外編 綺麗な花
少女白書・下巻
しおりを挟む♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~エミリア視点~
──あまり長居して婆さまに迷惑かけるのも悪いし、日が暮れない内に宿舎に戻るとしよう。
それから勇者様とは一度も話しをする事なく、私は宮殿を後にした。
そして、あれだけハードな訓練を行なっていたのに、勇者様は一度も休憩する事は無かった。
うん、本当に頑張り屋さんな勇者様だ。
……今度はいつ会えるんだろう……いや、相手は勇者様だし、もう会えないかも……うぅ……もしそうだと悲しいな……
王宮親衛隊配属予定のシーラさんやモニクさん位ならチャンスがあるのに……私は大して強くないから、彼女達の様な凄い役職に就くことはないや。
それでも…………どうか、また、会えます様に……!
その日の夜、私はお祈りを捧げてから眠りに就いた。
───────
そして次の日の朝──
──どうやら寝る前に捧げた祈りが通じたみたい!
なんと、勇者様が自ら少女騎士団を見学に来てくれた!
皆んなは勇者様が来てくれた事に大はしゃぎだっ!
中には『イケメンの勇者様が来てくれたら良かったのに』と言っていた子も居たけど、その考えは絶対に変わらないで欲しい……ライバルは少しでも少ない方が良いからねっ!
後からこの勇者様の方が良いって言っても絶対ダメだよ?
勇者様は少し離れた所で遠慮がちに見学している。
そして私はわざとらしく勇者様の近くをうろちょろしながら訓練に励んだ。
誰よりも勇者様の近くに居れば、もしかしたら質問なんかで話掛けて貰えるかも知れないと思ったから。
ちょっと下心が強くてはしたないとは思ったけど、身分の低い私は接点が少ない……故に僅かなチャンスを活かさないと……!
すると思惑通り、勇者様は近くの私に声を掛けてくれた。
「──ちょっと良いかな?」
「え?わ、わたし?本当に私ですか?どうしようどうしようっ……勇者様に声をかけられちゃった、嬉しい……」
望んだ事だけど、やっぱり心の準備が……よしっ!
──エミリアは大きく息を吸い込んで、勇者の迷惑にならない様にしっかりと話を聞いた。
──話を聞いた感じ、どうやらやら勇者様はここが少女騎士団だと知らずに訪ねたみたい……だから訓練の様子を観て少し驚いた表情をしていたんだ……ふふ、可愛い人。
それから勇者様は訓練の休憩時間、皆んなに囲まれて沢山の質問を受け付けてくれた。
私は緊張して何も質問する事が出来なかったけど、他の子が代わりに私の聞きたかった事をいくつか聞いてくれていた。
一つは、今は恋人が居ないと言う事。
開口一番に沢山の恋人が居ると聞いた時は泣きそうになったけど、どうやら嘘だったらしい。
こうして冗談を交えた会話が出来るところも実に良い。
それと名前をここでようやく知った。
勇者様の名前は松本孝志。
年齢は17歳。年の差が6歳程度なら全然大丈夫。
これ以上の事は教えてくれなかったけど、名前と年齢が分かっただけで充分な収穫だ。
勇者様が帰った後、私はいつも以上に張り切った訓練を行うことが出来た。
だって勇者様のお姿を近くで観れて嬉しいんだもん。
気分よく剣を振っていると不意に後ろから誰かに肩を叩かれた。
何だろう?──そう思って後ろを振り向くと、そこにはシーラさんの姿が在る。
どうやら肩を叩いた人物の正体は彼女の様だ。
だけどどうしたんだろ?普段全く話さない人なのに……
その事を不思議に思いながら、私は叩いたその理由を彼女に聞く事した。
「ど、どうしたのシーラさん?」
「……ふふっ、彼に対するその気持ち……大事にしなさい?」
「え?急に何??」
──と言うか、シーラさんは何目線なの?
……って、もしかして孝志様の事を言ってるの!?もしかしてバレてる!!?
だとしたらもの凄くマズいし、何より恥ずかしいッ!!
──エミリアは、もしそうなら口止めしようとシーラを追い掛けた……が、問い質しても結局はぐらかされてしまうのだった。
───────
──そして次の日の朝。
孝志様が獣人国へ旅立つ事になったと報せを聞いた。
なぜ急にそんなんことになったのか、理由は誰も教えてくれなかったので公には出来ない事情があるんだろう。
もちろん、一人で行く訳では無い。
孝志様以外のメンバーは、女性勇者が一人とブローノ様……その護衛としてユリウス様とオーティス様が同行する事になったらしい。
まさか王国最強の騎士と魔法使いが一緒なんて……だけどこれで道中はよっぽどの事でも無い限り安心なはず。
孝志様達の旅立ちは、マリア様や王宮内のメイド数人……あとはそれなりの地位に君臨する騎士の方々で見送る事になった。
そして、私はこの見送りに婆さまの連れ添いという形で強引に参加している。
ちなみに今回はシーラちゃんやモニクちゃんは来ていない……少女騎士団での参加者は私だけだ。
孝志様が側を離れてしまう事は悲しいけど、遅くとも五日後には帰って来るらしいので、そのくらいの期間なら我慢して待とう。
そんな事より今は【これを】どうやって渡そうか思案中。
──ついさっき急いで用意した花束。
婆さまに少し無理を言って用意させてしまったけど、婆さまは『偶には我儘を言って貰えた方が祖母としては嬉しい』と逆に喜んでくれた……ありがとう婆さま。
『なんで勇者様に花束を?』と聞かれた時は孝志様が好きだという事を隠して、旅立つ勇者様二人を労いたいと嘘をついてしまいました……ごめんなさい婆さま。
婆さまは王族の方達も来ているので、無礼のない様にタイミングを見て渡すように言ってくれた。
けど、やっぱり渡せなかった……
だってマリア王女や同じ勇者の女の子と楽しそうに話しをしているんだもの……あのお二人とは身分に天と地の差がある私なんかに入る余地なんてない。
臆病な私は、結局、渡すのを諦めてしまった……
………………
………………
でも別に落ち込まなくても良いよね!
今は渡せなかったけど、5日以内には帰って来るって言ってたし!
うん!今度は帰って来てくれた時に出迎えて『お帰りなさい!』って言葉を掛けて渡す事にしよう!
──ふふ……孝志様……早く帰って来ないかなぁ~……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,056
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる