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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者
テレサの幸せ、孝志の不安
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~テレサ視点~
「……うん!じゃあ待ってるから!すぐ来てよね?」
そう言ってテレサは孝志からの念話を切断する。
孝志と会える事がよほど嬉しいのか、その顔には笑顔が浮かんでいた。
──今から孝志が会いに来てくれるみたい…!
念話越しで深刻そうにしていたけど、言いづらい事でもあるのかな?
……ふふ、何だっていいや。話ができるだけで僕は幸せだ。
孝志の事に関してテレサはどこまでもポジティブ思考。
例え深刻そうな声で聴こえても、悪い方には決して考えないのだった。
──ああ、本当に幸せだなぁ~……
けどよく考えたら、孝志とはさっき出会ったばかりなんだよね?
なのに頭の中は殆ど孝志で埋め尽くされてしまっている……こんなこと考えてるってバレたら、気持ち悪いと思われるから気をつけないとね。
そしてテレサは思う。
まさか自分が両親以外を、こんなにも愛せる時が来るなんて夢にも思わなかったと……
今までテレサにとって楽しかった思い出は、遠い昔……母や父と一緒に過ごした日々だけだった。
他にも幼い頃、一緒に冒険していたユリウスやアリアンとの思い出もあったが、別れがテレサにとってあまりに辛いものだった為、嫌な思い出として植え付けられている。
自分の所為で死なせてしまう……そう言う意味では両親とも悲しい別れでは有ったけど、死ぬ間際まで自分を愛してくれた両親との日々が、テレサのこれまで生きてきた人生で唯一の光だった。
──当時、僕の呪いの所為で衰弱してしまい、だんだんと肉付きが悪くなっていったレイア母さん。
目を覆いたくなるほど弱りきった母さんの状態に、僕は責任を感じて何度も母さんの前から逃げ出した。
これ以上、自分の呪いで母さんを苦しめたくなかったから……
けど、逃げ出す度に母さんは僕を探して、必ず見つけてくれた。
『どんなに遠くに離れて居てもテレサの居場所ならすぐに解るよ?』と言って、目は見えない筈なのに、言った通りいつでも簡単に見つけてくれる。
そして僕も、見つかる度に喜んだっけ?
本当なら絶対に見つからないくらい遠くに逃げるべきなんだろうけど幼かったあの時の僕は、やっぱり心の奥底では母さんに見つけて貰う事を期待して、遠くには逃げなかったんだ。
母さんは僕を見つけると、一言も怒らずに優しく抱き締めてくれた。本当に大好きだったお母さん。
けど、見つける度に呪いに侵された僕を抱き締める……こんな事を繰り返してしまった事が、お母さんの死期を早めてしまったのだろう。
母さんが亡くなってしまった時、これでもかと言うくらい泣いて、もう死んでしまおうかと思ったけど、そんな僕の考えを見透かしたかの様に、母さんは希望を抱ける言葉を残してくれた。
『テレサ……弱い母でごめんなさいね?……もし生まれ変わる事が出来たら……もう一度、テレサを産みたい………愛してる………幸せに生きてね?』
……最後までありがとね母さん。
その言葉、今も忘れて無いよ?
それでも、お母さんが死んじゃったから、これからは独りぼっちになってしまうんだろうな~……僕はそう思っていたけど、そうはならなかった。
亡くなった母さんと入れ替わる様に、今度はジーク父さんが僕の側に着いてくれるようになったのだ。
それも大事な職務や仲間との絆を全て投げ出してまで、僕の側に付いてくれるようになった。
父さんは母さんみたいに目を捨てなかった。
仲間や職務こそ放棄したが、冒険者だった父さんは強い魔物が現れた時、正義感から倒しに行くらしく、その為に目がどうしても必要だったみたいだ。
父さんも僕の事を心から愛してくれたが、母さんと違ってとっても不器用だった。
不器用と言っても愛し方ではなく、私生活の話だ。
父さんは一緒に料理を作っても、まともな料理を作れた試しがなく、結局は僕が教える事になったし、掃除なんかも全然ダメで逆に散らかす始末だった。
外では最強の冒険者として周りから讃えられていても、家では見る影も無い、本当に手の掛かる人だ。
でも……やっぱり大好きだった。
僕に指摘される度に、父さんは恥ずかしそうに笑うのだが、そんな父さんを見るのもが楽しかった。
そして、父さんは本当に強かった。
母さんもとんでもない強さだったけど、父さんは母さんの様な強さに加えて、凄い精神力の持ち主でもあった。
母さんは呪いの影響で我慢出来ず、偶に僅かだが辛そうに表情を歪ませる事が有ったが、父さんはそんなこと一度も無く、ずっと元気そうにして笑っていた。
流石に僕の醜い顔を見る事は出来なかったみたいだけど。
だから死ぬ時はとてもあっさりで、夜にお休みと互いに交わした次の日の朝、起こそうとしたら冷たくなっていた。
本当に父さんらしい……最後まで誰にも心配かけない、たくましい最後だ。
本当にカッコいいよ父さん。
今までありがとね。
──そして、此処からが僕の孤独の始まりだった。
父さんは自分が死んだ時に備えて、信頼できる仲間に僕を託してくれていたらしいが、呪いを承知の上で僕の事を引き受けてくれた優しい人達を犠牲にはしたくなかった。
だから僕は誰にも迷惑を掛けない様にと、一人森の中へと消えた。
強い魔物がウヨウヨしている森だったが、最強だと周囲を言わしめていた両親が驚くほどの高い戦闘能力を持っていた僕は、この場所で生きて行くのに苦労はしなかった。
偶にどうしようない位に寂しくなる事はあったけどね。
数年前、魔王に迎えられた時は少し期待したけど、やっぱり僕の周りには誰も集まって来ない。
挙げ句の果てに、僕の容姿や呪いに対する恐怖、険悪、蔑みを向けられる事が多かった。
正直、魔王にならず、森で一人過ごして居た頃の方がマシだったかもしれない。
だから僕は──
──こんな日が生涯続くんだろうな……と、もう諦めてしまって居たんだ。
……だけど、今日僕は奇跡の出逢いを果たした。
僕に直接見られても呪いの影響を受けない所か、僕の容姿に掛けられた呪いも効かない人と会えた。
そして、その人は今日一日だけで沢山の幸せを僕に与えてくれた。
それから、目いっぱい僕を甘えさせてくれる……そんな救世主みたいな人を見つけた。
母さん、言われた通りやっと幸せになれたよ?
父さん、あなたよりカッコイイ人に出会えたよ?
辛いことだらけの人生だったけど、今はとっても幸せだ。
どうかこれからも、天国で僕を見守って居てください。
それから──
「……本当に大好きだよ、孝志。これからも僕の側にずっと居てね?」
本人が聞いたら発狂して興奮しそうな言葉を呟きながら、テレサは思い人がやって来るのを心待ちにするのだった。
※この後、結局、発狂して興奮します。
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~孝志視点~
テレサが魔王だと言う事実を知った俺は、アレクセイさんから話をして来るように促されたので、そのまま夜を待たずに結界の外でテレサと落ち合う事にした。
アルマスも着いて来てくれたが『これ以上はキツイです…』と、途中で待機する事になった。
凄く悲しい顔で見送ってくれているけど、心配しなくても直ぐに帰って来るからな?
心は非常に痛むが(笑)、そんなアルマスを無視して結界の外へ向かう事にする。
──外へ出ると穏やかな景色が一変……薄暗い森林へと変わってしまうのだが、そんな事を考える間もなく、テレサが俺に向かって飛び付いて来た。
「孝志ー!……えへへぇ~……夜まで我慢出来なかった?仕方ないなぁ~」
俺の腹回りに顔を埋めて嬉しそうにテレサは笑う。
そんな可愛いことされたら死ぬんだが…?
いや……今は真面目な話をしに来たんだ。
俺は抱き締め返したい衝動に駆られながらも、何とかそれを抑えてテレサを引き剥がした。
引き剥がされたテレサは不満そうにするが、目が合うとニッコリと笑い掛けてくれる。
……何この子?俺への特攻でも付いてんの?
──いろいろと出会い頭にダメージを負うも、俺は自分が勇者である事を話した。
そして、城の管理者のアレクセイさんが元魔王で、勇者で有る俺をテレサが受け容れてくれるんだったら、結界内で暮らせる様に準備すると言ってくれた事を話す。
すると彼女は──
「うん!じゃあ魔王辞めるね!」
とアッサリ了承してくれるのだった。
……いや軽っ!?そんなんで良いのか!?
あまりに簡単な返答に、俺が少し問い詰めるとテレサは──
「いいよ別に。みんなどうせ僕のこと嫌いだし。酷いんだよ?僕の事を魔王に選んだの自分達の癖に……それにもう孝志の居ない生活なんて考えられないよー……えへへ」
なんてトンデモなく可愛い事を言い出しやがった…
普通に話をしていた筈なのにどうしてそんな可愛くなるんだ?
「……テレサ……いい加減怒るよ?」
「……え?どうして?」
テレサは不思議そうに首を傾げた。
「あんまり可愛いことばっかり言ってると、もう口聞いてやんないからな?」
我ながら言ってる事が理不尽である。
しかし、俺に可愛いと言われた事が余程嬉しかったのか、テレサはジャンプして俺に飛び付いて来るのだった。
避けてしまうと地面に激突してしまうので思わず受け止めると、テレサは密着したまま体を横へ向けたので、お姫様抱っこをする形となった。
そして俺の胸元に顔を埋めて、上目遣いで一言
「ふふ……これも可愛い?」
「かわいいぃぃに決まってるからぁぁーーーーッッ!!!」
「……♡」
ハッ!?やべぇ思わず発狂して興奮してしまった。
……前から思ってたけど、俺こんな大声で奇声上げてるのに、テレサは何とも思わないのだろうか?自分で言うのも何だが、普通におかしくないか俺?
そう思ってテレサを見るが、嬉しそうに笑っているので気にしている様子は無い。
……じゃあいいか。
──とはいえ、テレサが魔王を辞めるって事は、この城で一緒に暮らして行くことになんの障害も無くなった事になる。
そしてこれからの事を話そうと思い、今だにお姫様抱っこのテレサを降ろそうとするが、しがみ付いて離れようとしないので、仕方なくこのまま話を進める事にした。
「此処で暮らして行くなら、離れた場所に別荘があるらしいから、そこをテレサが使って良いってさ」
「そう言えば、今回はちゃんと許可を取ったんだ……孝志って勝手に話を進める所が有るから、心配したよ」
……以外に嫌味な子だな?
勝手に連れ出した事はごめんて。
しかし、俺はそんな事ではへこたれず、説明を続ける。
「それと、水色の被害妄想女が居ただろう?アレは耐性が無いからテレサに近付けないらしいけど、それ以外の住人は直接見られたらダメだけど、近付く分には大丈夫らしいよ。なんか此処に居る人達って強い人ばっかりみたい」
あ、後はミーシャもアウトっぽいけど、アレは気にしなくていいか、転移させられた恨みがあるから。
でもアレのお陰でテレサに会えたし、おばあちゃんにも会えそうなんだよな……ま、ムカツクしどうでもいいか!
「で、どう?此処で暮らさない?」
「………」
テレサは少し考えた後、俺を見つめてある事を訪ねてきた。
「孝志はどうする?城には帰らなくて良いの?」
「……あっ」
俺意外に阿保だわ。完全に自分の事を考えて無かった。
今の話は、俺が此処で暮らして行くことを前提で進めているな……どうしようか?
……って言うか、獣人国は絶対に行くとしても、そもそも勝手に呼び出された訳だし、自堕落が約束された生活を捨ててまで王国に戻る必要があるんだろうか?
……けど、俺が戻らないと世話になった人達や穂花ちゃんに迷惑を掛ける事になるし……う~~ん………………ん?待てよ?
俺って魔王討伐の為にこの世界に呼び出されたんだよな?
「テレサって魔王だったよな?」
「うん、そうだけど?」
良く考えたら、色んな意味で討伐完了してるな。
じゃあ、もういいか!
「俺も此処で暮らすわ」
「やった!」
その為にはラクスール王国に事情を話さないといけないけど……つーか、俺ってとんでもない偉業を成し遂げたんじゃないのか?
おっしゃ、マリア王女に自慢してやろう。
俺が頭の中で自分の功績を称えていると、俺に抱っこされたままのテレサは、足をブラブラさせながら口を開いた。
「此処で暮らして行くのが決定だとして、一応、魔王軍のみんなには抜ける事を報告して来ないと」
「……そうだな。後ついでに松本孝志には絶対に手を出すなって言っておいて」
「ふふ……わかった。少し離れる事になると思うけど、2~3時間くらいしたら帰って来るから……寂しいと思うけど我慢してね?」
おっ、言うようになったな~。
テレサはぼっちの達人だから卑屈なイメージがどうしても有るけど、何気に全くそんな事が無い。
むしろ明るくてスキンシップ激しい子だ。
……というかそろそろ重い……!
「……おう……取り敢えず降りな?」
「……むぅ~……は~い」
「態度悪いな」
テレサは不満そうにしていたが、何とか抱き上げていた彼女を降ろす事が出来た。
別に彼女が重い訳ではなく、俺の力が無いだけだが……悲しいぜ。
「じゃあ、直ぐに行った方が良いよね?僕って面倒な事は早く終わらせたいから!」
「ん。そうだな、寂しいから早く帰って来てよな~」
俺が冗談交じりに言うと、テレサは飛び跳ねるように喜ぶ。
俺は可愛いと思いつつも、空を飛んで移動しようとするテレサを見送ろうとした時だった──
「………ッ!?いや、ちょっとまって!」
「……?どうしたの?」
俺は思わずテレサを呼び止めてしまった。
──なんだろう?何故か分からないけど、テレサがこの場から離れようとした瞬間、もの凄い胸騒ぎがした。
「どうしたの?」
テレサは心配そうに声を掛けてくれる。
危険予測とは違うみたいだし……でも、よくわからない事で引き止めても悪いか…
それに数時間で帰って来るみたいだし、大丈夫だろ。
元魔王のアレクセイさんも居るしな。
「………………いや、何でもない。気を付けて」
嫌な予感を抱きつつも、俺はそのまま見送る事にした。
「うん!それじゃ、行ってくるよ!」
テレサは今住んでいる魔王城を目指して飛んで行くが、飛びながら何度も振り返って手を振っていた。
ってこらっ!投げキッスするんじゃないよっ!
本当に人懐っこいんだよなテレサは……だからこそ孤独は辛かっただろうに……うん、大抵の事は大目に観てやるか。
俺が投げキッスを返すと、テレサはやっぱり満面の笑みで喜んでくれた。
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追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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