上 下
77 / 217
5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者

アルマスの失態

しおりを挟む


「じゃあ、おばあちゃんはその悪魔の復活を阻止する為に、デルラット深穴って場所に行ってるんすか?」

アレクセイから孝志は事細かな詳細を教えて貰っていた。
弘子が何処へなんの目的で向かったのかを。
怪物の強さも教えて貰っていたが、これまで怪物じみた者達を散々見てきた孝志にはイマイチパッとしなかった。

だが、以前この世界に住んでいたアルマスは、孝志と違い青ざめる。

「デ、デルラットの怪物ですか…?だ、大丈夫でしょうか?──もし、復活を許してしまったら、この世界がとんでもない事になりますよ」

「そんなにヤバいのか?」

割と他人事だった孝志も、アルマスのリアクションを見て少し不安な気持ちになってしまう。

そして、アルマスからの返答でその不安は一気に加速する。

「──はい……この世界に来て、マスターは沢山の強者達と出会って来ましたよね?馬車で共に行動していたユリウス、オーティスもそうですし、女神アリアンさんにも出会いました。……そうですね……簡単に言いますと、女神であるアリアンさんと同レベルの相手だと考えて下さい」

「……!!??」

この時、孝志の中に電流が走った。予想を超える衝撃とは正にこの事だろう。

孝志は身体を震わせながらこう思った。
『アリアンさんと同レベルってヤバくない!?」……と。

孝志にとってアリアンが二人居るなど、恐怖でしかない。
そして、もし万が一にアリアン二人に挟まれたりしたら……

孝志は有り得ない想像を勝手に行い、気を失いそうになるのだった。

そして勝手な被害妄想で青ざめている孝志を見てアルマスが心配そうに声をかける。

「大丈夫ですか?!……マスター、女神様はアリアンという狂人を演じてますが、アレは間違いなく演技です。……なんであの様なイカれた演技をされてるかは謎ですが、女神様は孝志が思っている様な人物ではありませんよ?」

孝志の隣に寄り添う様に座ってたアルマスは、宥める様に彼の背中を摩りながら語る。

「わかってる……わかってるんだがよぉ……震えが止まらねぇんだよ…!」

孝志はガクガク身体を震わせる。
アルマスはそんな孝志の震えを止める為に背中を優しく撫で続けた。

「ま、マスター…!か、可哀想に……ううぅ……」

アルマスは孝志を不憫に思うあまり、ついには泣き出す始末である。


──それと一つ勘違いしないで欲しいが、孝志はアリアンを嫌っている訳ではない。ただ怖いだけなのである。


そして、そんな二人の姿をアレクセイはジトッとした眼差しで見つめる。
アレクセイにとって既に孝志は弘子の孫という事もあり、大切な存在の一つであるのは間違い無いのだが、ここまで深いノリには流石について行けなかった。

そして何より、二人の話している事は【全てを知っている】アレクセイにとって、なにを勘違いしているのかと思う所であった。

「あんたら、さっきから何を言ってるのん?」

「……?」

顔を上げ、アレクセイを見る松本孝志。
隣に座るアルマスも同じ様にアレクセイに体を向けた。

そして次に発せられたアレクセイの言葉で、二人は驚愕に目を見開くのだった。

「あのアリアンとか言う騎士は、女神様じゃないわよ?」

「……ふえぇ?」

目を見開きながら可愛らしい声を上げるのはアルマス。
孝志の方は目を見開いたままジッと動かなくなってしまった。

「──あ、アレクセイ!?なんでそんな事がわかるの?!」

予想だにしないことを聞いた事により、いつもの様な丁寧語がなりを潜めてしまうアルマス。

「いや~ね?私達って、アルマスを【あっちの世界】に送った後、結構ティファレト様と交流が有ったのよぉ?それでティファレト様がいまどんな人間の姿をしているのか知っているんだけれど、もっとまともな人間よ~?」

「………ま、マジすか?」

このマジすか発言は孝志では無く、アルマスのものだ。
ザイスの一件で、アルマスの中ではアリアン=女神様だと凝り固まっていた為、衝撃のあまり孝志が普段使う様な口調になっていた。

そして孝志はと言うと、オカマが【あっちの世界】と口にした事で違う世界を想像していた。
アリアンが女神では無いと知り、少し心にゆとりが生まれていたのだ。

そして直ぐにアルマスを殺意の篭った目で睨む。

「……アルマスさんよぉ………自信満々で言ってくれたよなぁ?アリアンさんが女神だって……どう落とし前つける気だ?おおん?!無駄に精神が追い詰められたじゃね~かよ!」

孝志は顔をアルマスに近付けて詰め寄る。

孝志の顔が目の前にあるが、女神と確信していた人物が的外れで申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちが同時に生まれたアルマスに、それを喜ぶ余裕なんてない。

とりあえずは目の前の孝志には謝っておこうと手を合わせた。
そして心を込めて謝罪の言葉を口にする。

「………ゆ、許してヒヤシンス☆」



──この後、アルマスは孝志から強烈なチョップをお見舞いされる。


そして孝志が初めて女性に手を挙げた瞬間でもあったが、彼の中に後悔はなかった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗
恋愛
社会人一年生の三上雪子は、ある日突然初恋の彼氏に振られてしまう。 そしてお酒に飲まれ、気付けば見知らぬ家で一夜を明かしていた。 酔い潰れたところを拾って帰ったという男性は、学生時代に元カレと仲が悪かった相手で、河村貴也。雪子は急いでお礼を言って逃げ帰る。 けれど河村が同じ勤務先の人間だったと知る事になり、先日のお礼と称して恋人の振りを要求されてしまう。 ……恋人の振りというのは、こんなに距離が近いものなのでしょうか……? 初恋に敗れ恋愛に臆病になった雪子と、今まで保ってきた「同級生」の距離からの一歩が踏み出せない、貴也とのジレ恋なお話。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...