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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者
孝志のプライド
しおりを挟む「いつまで歩かせられるの?」
アルマスが前のマスターと一緒に暮らしていたと言う古城へと向い、俺は歩いている。
そしてミーシャはまだ目を覚まさないので、未だにアルマスが担いでいる状態だ。
歩き出した頃は何でもない並木道だったが、少し前から深い森へと景色が変わった……それくらい歩かされている。
にも関わらず、一向に城どころか何らかの建物すら見えて来ないので、俺は思わず愚痴をこぼしてしまった。
「我慢して下さい、男の子でしょ?………それともマスターは女の子ですか?──あらやだマスターってばとってもキュート」
おいおいおいおいおいおいおい。
いつまで歩かせられるって聞いただけでスゲェ言って来るじゃねーかよ…!
しかも『あらやだマスターってばとってもキュート』のところ、全然感情が込もって無いんだけど?
もっとさ……俺が自分自身をキュートだと勘違いしてしまう様な熱い感情で──って違うわ!
「お前……キュートとか言うから、心の中でとんでもないノリツッコミしちゃったぞ?」
「お前って何ですかーーッッ!!」
「おっ!?わ、わりぃ…」
「気を付けてくださいね?プンプン」
「うわ……きっつ」
頬っぺたを膨らませながら、ぶりっ子っぽく首を左右に振るアルマスを見て俺は素直に感想を漏らしいた。
ストレート過ぎる感想だったので怒られると思ったが、アルマスは何のそのと言った感じだ。
「あれ?怒んないの?」
「私がどうしてマスターに怒るんですか?」
いや、お前って言うのは駄目で、キツイって言うのは良いのかよ。
良くわからんやつだぜ……所詮、人間とスキルは分かり合えない運命なのね……
「──ついでにマスターが聞きたいであろう事にお答えしますが、今目指している城には認識阻害が掛けられてますので、辿り着くまでは城は見えません」
「最初からそう言う風に、普通に答えてくれたら良かったんじゃないですかね?」
無駄に煽って来やがって……
罵声の一つでも浴びせたい所だが、ここまでミーシャを担いで貰ってるのであまり強くは言えない俺だった。
いや、少し前に代わって担ごうとしたんだが、もうほんとに重くって……
バカエルフの身長は俺と同じ位だから、あまり鍛えていない俺にとっては荷が重かったみたいだ。
「荷が重いとは、物質的な意味ですか?それとも感情的な意味ですか?」
「俺の思考を読んだな!」
最近は考えを読まれ過ぎて今更これくらいの事で動揺したりはしない。
そうなんだよ……俺の嘘や考えてる事って分かり易いらしいんだよ。
どうにか冷静沈着な男だと周りから思われる方法は無いだろうか?
この任務が終わってラクスール王国に帰ったら真剣に考えてみた方が良いかも知れないな……
特にマリア王女なんかは俺の事をマジで舐めてる節があるし……よくよく考えてみたら腹たつ。
……うん!まぁ細かい事は帰ってからだな!
俺は深く考えるのを止めた。
──そんな事を考えていると隣を歩くアルマスから視線を感じたので、そちらの方に顔を向けた。
すると、アルマスがニヤニヤしながらこっちを見ている事に気が付いた。
「なに笑ってんねん」
「いえ……女の子になったマスターというのも、私的には有りだと思いまして」
「僕的にはナシです」
──────────
それから数分ほど歩いたところでアルマスが突然立ち止まった。
前方には同じような森の景色が広がっており、別段変わった事は無い。
どうしたのかと思ったが、今の自分の状態で何となく原因が解ってしまった。
「……なんかこの先に進む気が無くなったんだけど……なんかの魔法が掛けられてる?」
「良く分かりましたね……そうです、この先には結界が張られています。結界と言いましても、この世界には壁を作り出す魔法は存在しませんので、これ以上の先へ進む意思を削ぐ精神魔法の様なものですが」
そして俺を見て少し笑みを浮かべると、アルマスは話を続けた。
「マスターには大して影響が無い見たいですね」
「いや、影響ない事はないぞ。今も言った様に、これ以上進む気力が無くなったからな。多分、明確な目的がなければ引き返そうって提案してたと思うぞ?」
「その程度で済んでるのがおかしいんです──これまで……いえ、私が居なくなった後の事は知りませんが、少なくとも私が居た頃は誰にも見つかることの無かった城ですから……本当でしたら目眩を起こす程の気分の悪さを感じてる筈なんです」
「ちょ、おま……アルマス、怖い事言うなよ…!」
お前と言いかけた瞬間、怖い顔で睨み付けられたので、直ぐにアルマスと言い直した。
べ、別にビビって言い直した訳では無いし…!
──って言うか、そんなヤバイ空間に連れて行こうとするんじゃねーよ!
そんな事を思いながらアルマスをジト目で見詰める。
すると、アルマスはその抗議の眼差しに気が付いた様だ。
「少しでも影響が現れる様なら、結界の影響を受けない私が先に中へ入って、城の管理者にこの結界を一時的に解く様に交渉しに行ってましたよ」
「…そういう事なら良いけどさ」
因みに、結界の中に入ってしまうと効果は無いらしいので、気絶しているミーシャが結界の中で目を覚ましても影響を受ける事は無いようだ。
──とりあえず、大きな精神的ダメージが俺に現れなかったとの事でこのまま先へ進む事にした。
……もしかしたらSランクの精神が役に立ってるのかもしれんな。
テレサに掛けられた呪いは、精神がどれだけ高くてもどうしようも無いらしく、俺の高い精神が特に関係している訳では無い様だった。
なので、自分の中では全く存在意義を感じなかったSランクの精神では有ったが、こういう事で役に立てるのかも。
そんな事を考えながらも、アルマスの誘導に従って森を進んで行くが、少し歩いた所で進行を躊躇わされていた精神的な違和感が消えた。
どうやら結界の中に入る事は出来たみたいだ。
そして精神的な違和感が消えたと同時に、周囲の景色にも大きな変化が観られた。
まず、深い森の中を歩いていたはずだったが、最初に歩いていた並木道の様にサッパリとした風景へと変わっている。
少し先には小さな湖が広がっており、更には先程まで無音だったのに、今は鳥の囀りや遠くから動物の鳴き声なんかも聴こえて来る。
正直、かなり住みやすそうな場所に思えた。
「これが結界内の景色か……なんか陽キャのジジイが定年後に移住しそうな場所だな」
「例えが酷い」
「……なんかごめん」
俺のなんとも言えない感想に突っ込みを入れてきたアルマスだが、それ以上食ってかかる事はなく正面を指差した。
そして視線を正面に向けた俺の目には、先程まで無かったはずの巨大な城がそびえ立っていた。
──かなり大きな城だ。
外壁は白塗りで、アルマスが古城と言うからお化け屋敷の様な外装の城を想像していたが、ラクスール王国で寝泊まりしている宮殿に引けを取らない大きさと、外観的な綺麗さを兼ね備えている。
「では参りましょうか、マスター」
「おおう」
俺は城へ向かって歩みを進めるアルマスに大人しくついて行くが、心なしか、アルマスは嬉々として歩いている様に見えた。
そして、ここから城までの距離は1キロ有るかどうかだ。
それから数百メートルほど歩いた所で、目の前にある城の門が開かれて、中から全長4メートルはある巨大なゴーレムの様な魔物?が此方へとやって来た。
アルマスの落ち着いた様子を見る限り敵ではない様だが、初めて見る巨大生物にビビる俺。
「──マスター、大丈夫だと思いますが、一応、私の後ろに控えて居て下さい」
「俺を見くびるなよ?すでに後ろに隠れている」
「…………」
アルマスは自身の背中にピタっと貼り付いて隠れる俺の姿を見て、嬉しいとも呆れとも取れる複雑な表情をしていた。
そして、こちらへやって来たゴーレムはアルマスを見て何やら驚いている様子だ。
「アルマス……オオ……アルマス……!……ヒサシブリダ……ナツカシイ……ドウヤッテ…フタタビ…コノセカイニ?」
喋れるのかい。
俺は声に出さないで心の中で突っ込んだ。ヘタに声を出して目を付けられたら嫌だからね。
「ふふ……あなたも健在なんですね……流石は【ハルート】さんです」
「ワレラ…キカイニンギョウハ…トシヲトラナイ……ソレデ……ソノテニカツイデイルモノハ……!!……マサカ……ミーシャ?」
「ええ、その様に名乗ってましたが、知り合いでしたか?」
「……【アレクセイ】ガ…デシトシテ…メンドウヲ…ミテイルモノダ…スウネンマエニ……アレクセイト…ケンカシテ…デテイッタキリダッタガ……ブジデ…ヨカッタ」
「そうでしたか……あ、大事な事を忘れていました──紹介します……現在のマスターである松本孝志です」
そう言うと、アルマスは横に移動した。
アルマスの背中に隠れながら体を伏せて、目の前のゴーレムから見えない様に隠れて居たのだが、アルマスが動いた事で俺の姿がゴーレムの視界に入る。
アルマス……ナンデヨケイナコトスルノ?
ショウカイトカ…ベツニ…イラナイカラ。
思わず心の声がゴーレム口調になる。
「ショウカイ……?……!!……イマノ…アルマスノマスターデ……マツモト……オオオオ!!……マサカ…ソウイウコトナノカ?」
アルマスはゴーレムの問いに黙って頷いた。
俺はどういう事かサッパリ何ですけど?
てか今、松本って苗字に反応していなかったか…?
しかし、そんな疑問はゴーレムの奇行によって掻き消される事となる。
ゴーレムは俺に近づくと、在ろう事か両手で俺を抱き上げた。
赤ちゃんが母親や父親に高い高いをされる気分を、この歳で味わう事になろうとは……なんで赤ちゃんはこんな事されて笑ってんの?死ぬほど怖いんだけど?
「……オオ!カンジルゾ……アノカタノ……イデンシヲ……アルマスガカエッテキテ……ミーシャガブジデ……ソシテ……マツモトタカシ………キョウホドウレシイヒハナイ…!」
なんか色々言ってるが、地面に落下するかも知れないという恐怖で話が全然頭に入って来なかった。
俺は顔を青くしながらも、アルマスに視線だけで助けてとお願いした。
俺のヘルプに気が付いたアルマスは、ゴーレムに近付いて声を掛ける。
「ハルート。マスター怖がってますよ?あちらの世界にはあなたの様な生物は居ませんので、耐性が無いんですよ」
「ソウダッタノカ?……スマナイコトヲシタ……ユルシテホシイ……マツモトタカシ」
そう言うと、ゴーレムは静かにゆっくりと俺を地面に降ろしてくれた。
なんて物分かりのいい……というより絶対いいヤツなんだろうとは思うけど、このハルートという存在に慣れるのには少し時間が必要だろう。
「あなたは元気そうですね。アレクセイはどう?」
「アレクセイモゲンキダゾ……ソウダ……スグニシロへアンナイシヨウ……アレクセイモ……アルマスト……マツモトタカシヲミレバ……ヨロコブダロウ……ハヤクアワセテヤリタイ」
そう言うとハルートというゴーレムは、俺たちに背中を向けて城へと歩いて行った。
歩みがとてもゆっくりなのは付いて来いと言う意味だろう。
ハルートの後ろを歩きながら、俺はアルマスに話掛けた。
「あのさ、俺を置いて話を進めるの止めて?なんだよあの同窓会みたいなノリは」
「ふふっ、ごめんなさい。本当に懐かしくって」
そう言うアルマスの表情は何処か嬉しそうだ。
それと、めちゃくちゃ気になる事をハルートとか言うゴーレムが言っていたので、それについて尋ねる事にした。
「なんか、俺の苗字を聞いて驚いてたけど……なんで?」
「………それについても、城に着いたらお教えします」
アルマスのどこか覚悟を決めた様な表情を見て、俺はそれ以上は何も言わなかった。
アルマスは何かと隠し事が多いかったが、ここで話してくれる様だ。
歩きながら俺は深刻な話にならない事を祈るのだった。
「あ、そう言えば」
そして、もう少しで城に辿り着こうかと言うタイミングで、アルマスは何かを思い出したかの様に声をあげた。
「ん?どうした?」
「さっきハルートさんが近づいて来た時に、私の後ろに真っ先に隠れた男が居たんですよ~」
「な~~にぃ~~!?」
俺やっちまったなぁ!!
だって怖かったんだもん。
応援ありがとうございます!
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