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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者

5章 プロローグ 〜勘違いする者達よ〜

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~敵サイド・十魔衆~


──ラクスール王国や獣人国から遠く離れた孤島……その中央に大きな城がそびえ立つ。
外壁は黒で塗り固められ、中はかなり高レベルの魔族や魔物達で揃えられている巨大な城。
更に周囲は深い森に覆われているので、外敵を全く寄せ付けない威圧感を放っている。
この島には当然、人間など一人も存在していない。

魔王軍と呼ばれる人類と敵対する者たちは、ここを拠点に活動を行なっており、テレサもミーシャも普段はこの孤島で生活している。

この城の名前を【魔王城】と呼ぶ。

そして、この孤島の地下には各地域へ移動する為の転移装置が設置されており、この装置を使って魔王軍は行動する。
転移装置とは言ってもミーシャのテレポートの様な正確性はまるで無く、決められた箇所にしか転移は出来ない。
故に奇襲には一切向かず、純粋に移動手段としての使用となっている。


──そして、この城内の一室。
以前、ミーシャとアルベルトが作戦を建てていた十魔衆の会議場にて、二人の魔族の男が、ある映像を観ていた。

観ている映像はアルベルトのビギニングアイズで映し出されているもの……従って二人の内の一人はアルベルトだ。

そしてもう一人の男は十魔衆序列六位・アッシュ=ディストス。
特徴は漆黒の髪で、腰には髪の色と同じ黒さの剣をさしている。
人間とは大きくかけ離れた容姿のアルベルトとは異なり、アッシュは人間に近い姿をしている。
街中に紛れ込んでも気付かれない程だ。

そして、そんなアッシュだが……彼はアルベルトの能力で映し出された映像をみて憤怒していた。

「クソがっ!!」

彼はもたれ掛かっていた壁を思いっきり殴りつけると、映像を睨み付けた。
殴られた壁はかなり頑丈な作りだが、強大な力を持つアッシュが殴った事で、その箇所にひび割れが起こる。

「落ち着け、アッシュ」

そして、すかさず宥めるアルベルトも動揺が表情に現れている。
なんせ彼にとって目の前の光景は予想だにしていないモノだったからだ……


──予定通り、ミカエル大草原の名も無き洞窟へと転移したミーシャ。
しかし、転移後、映像がぱったりと途切れてしまっていた。

転移予定のエリアには魔物がたくさん居たので、その目を通して経過を確認するつもりだったアルベルトなのだが、どういう訳かミーシャと黒髪勇者が転移した場所に魔物が一匹も居なかったのだ。

どうしたものかと悩んでいたアルベルトだったが、唐突に二人の姿がビギニングアイズに捉えられた。

捉える事が出来た理由は、洞窟の最奥に居たはずの二人が入り口に突如とて現れたからなのである。

しかも、ミーシャと黒髪の勇者だけでは無く、水色の髪をした女も一緒に現れた。
洞窟内で偶々出会ったとは考え難い……恐らくは勇者が何らかの方法で呼び出した増援だろう。

洞窟内におびただしいほど徘徊している魔物達と一度も出会わずに、入り口に現れたのだ……間違いなく転移の魔法かスキルを使用したとアルベルトは推測した。

アルベルトが抱いている、黒髪勇者への脅威度が更に高まった。
成長しきる前に何としても仕留めなくてはならない。


……そしてアルベルトにとって、もう一つ厄介な事がある……それは──


「ああっ!?落ち着いていられるかっ!命がけで作戦を実行した同胞があんな目にあってるんだぞっ!?」

このヤンキー崩れのアッシュという魔族だ。

アッシュが憤怒している理由は、黒髪勇者が洞窟の入り口に転移して現れた事ではない。
確かに最初はその事にも驚いていたが、アッシュの目の色が変わったのは、気絶したミーシャを水色の女が荷物の様に担ぎ出した時だった。

アッシュとアルベルトの目には、気絶させられたミーシャが無慈悲な扱いを受けている様にしか見えなかったのである。

それを見てアッシュは立腹した。

アルベルトとしても同胞が非情に扱われて何も思わない訳ではなかった。
勇者が健在なので目論見が失敗した事がわかったが、文句一つ言わず命懸けで計画を実行したミーシャに対してアルベルトは尊敬の念を抱いていた。

割と冷酷なアルベルトでこれなのだから、仲間意識の強いアッシュなら激怒して当然だろう。
任務で城に居なかったので、ミーシャが行動を開始する時は見送りに居なかったが、在中だったら駆けつけていた。
魔王軍で一番情に熱い男なのだ。

──口調が荒く、仲間意識が強い……そう、どこまでもヤンキーなのである。


「悪いが地下の転移装置を借りるぞっ!野郎ぶっ殺してやるっ!」

「おいっ!待ちたまえ!アッシュ!」

アッシュはアルベルトの制止を無視して部屋を飛び出してしまった。
目的地は間違い無く地下に設置している転移装置だろう。

「……ふぅ~……行ってしまったか……」

机を囲い込むように並べられている椅子の一つを引き、その上に腰掛けると、アルベルトは大きなため息を吐いた。

「十魔衆のザイスとミーシャが敗れた。もうこれ以上、十魔衆を減らす訳にはいかないと言うのに……」

アルベルトは、アッシュが黒髪の勇者に勝てるとはあまり考えて居ない。なんせザイスもミーシャも奇襲に近い方法で攻撃を仕掛けたにも関わらず、悉く失敗に終わったのだ……真っ正面から挑む低い知力のアッシュが勝てるとは到底思えなかった。

そして、ミーシャのワードは転移する意外にも隠された能力がある。
彼女のワードには【対象者の腕力、速度、魔力を大幅に低下させる】というもう一つの能力。

しかし、黒髪勇者の立ち振る舞いを見る限り、動揺や慌てた様子が全く見られない。
つまり、大幅に能力が低下しても問題ならない程にステータスの高い男なのだろうとアルベルトは考えていた。

……この勇者をこのまま成長させてしまうのは益々まずい。

「……仕方あるまい」

アルベルトは最強の存在である魔王に、彼の事を頼む事にした。

テレサは孝志以外の者には醜く見える。
無論、このアルベルトも例外では無い。
恐怖の方の呪いに関しては、ある程度の耐性があるので長時間見られでもしない限り大丈夫だが、容姿の方は全くどうしようもない。
アルベルトや他の十魔衆の目には、ただの悍ましく醜い化け物として写ってしまう。

故に、アルベルトも魔王に何かを頼むのは嫌なのだが……仕方がないとここは割り切る事にした。

そして懐に仕舞い込んでいた、魔王と唯一の連絡手段となる通話装置を取り出して彼女へ通信を行うのだった。


『────お掛けになった通話装置は──通話に出る事が出来ません──ピーという発信音の後に御用件をお話し下さい……ピー!』


「…………」

アルベルトは急ぎ、新たな作戦を考えるのだった。


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~オーティス視点~

一方その頃、街道を駆け抜ける一人の男が居た。
その者の名前はオーティス。彼は自身に身体強化魔法と追風の魔法を付与し、ある場所を猛スピードで目指している。

今現在、ブローノ達は二手に分かれて行動しており、ここにはオーティスしかいない。

振り分けとしては、獣人国へ予定通り出向くメンバーとしてブローノ、ユリウス、穂花の三名。
そして、敵に攫われてしまった松本孝志を救出する者として、オーティスが単独で向かう事になった。


──孝志の居場所や安否はっきりしている。
オーティスはブローノと勇者の二人に対し、予めマーキングを施していたので居場所を特定している。
このマーキングは、施された対象が存命である限り、オーティスが解除しない限りは永続的に効果が続く。

ただし、アルベルトのスキルと違い映像で様子が観れる訳では無いので、孝志がどういった状態なのか迄は分からない。

移動を速める魔法を重ね掛けし、精一杯急いで移動しているオーティスだが、マーキングの場所へ到着するのには距離的にも一日は掛かる。

いや、本来ならばあと数時間で到着予定だったが、ミカエル大草原に辿り着こうかというタイミングで孝志再び転移し、更に離れた場所へと移動してしまったので到着予定時間がかなり伸びてしまった。

「……クッ…!」

思わずオーティスは悔しさから小さく声を漏らす。
一刻の猶予も無いのに再び移動されてしまった事によるものだ。

一刻の猶予も無い……この理由は、会談に遅れるのがマズイ、というの理由も勿論あるが、一番の懸念は魔族に捕らえられてしまったという事にあった。

オーティスは孝志の位置が分かるだけなので、どういった場所に転移したのか、今どういう目にあってるのかは分からない。


──だが、どういう目にあってるのかは想像出来る。なんせ相手は魔族。
中でもダークエルフは、魔法を使って苦痛を与える拷問が得意の残忍な種族でもある。

最初に転移した場所から次の場所へ転移するまで1時間程あったが、恐らくは何かしらの責めや耐え難い苦痛を味わったに違いない。
なのに、ここから孝志の元にたどり着くまで、更に1日掛かってしまうなんて……

こんな時の為に転移魔法を覚えておくべきだったとオーティスは激しく後悔した。
引き篭もり気味のオーティスは、移動系の魔法に必要性を感じず、ましてや興味も無かったのでこれまで一切憶えようとしてこなかった。

「すまないが、もう少し耐えてくれ…!」

思わず独り言を漏らすオーティス。
孝志の不憫な状態を想像し、得意の中二病口調も息を潜めている。
状況に応じてオフに出来てしまうなんて、中二病の風上にも置けない男だ。


──オーティスは再び孝志が転移しない事を、走りながら祈るのだった。









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