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4章 仮面の少女

孝志の役割

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~ブローノ視点~


「う~~む……」

モンスターの奇襲から数時間が経過しており、それからブローノはずっと獣人国に関する資料を読んでいた。
むろん、獣人国に関する文化や知識などは完全に把握しているが、その国の重役や貴族、大臣の情報などを徹底的に調べておかないといけない。


「しかし……」

馬車に揺られながら資料を眺めていたので具合が悪くなってしまった様だ。いわゆる乗り物酔いである。
そして、具合が悪そうにしているブローノにいち早く気が付いたのは孝志だった。


「具合が悪そうですが、大丈夫でしょうか?」

「……ああ、少し目を使い過ぎたようだ。軽い乗り物酔いだよ」

ブローノは何でもないよ、と言いたげに手の平を振る。


「ポーションを飲まれては如何ですか?」

と孝志は親切心からそう言うが、ブローノは自身の単なる体調不良の為に貴重なポーションを使う訳にはいかないと孝志に言い聞かせた。加えて自身の持つ回復魔法も回数制限があるのでこんな事には使えないとも話す。

すると、孝志は昨日ブローノが渡したアイテム袋の中から何かを取り出す。
それを差し出して来たので、ブローノはそのまま渡されたそれを受け取った。


「これは?」

「酔い止めの薬です。馬車移動と言う事で念のために用意しました。是非使ってください」

「……有り難く使わせて貰おう」

ブローノは渡された酔い止め薬をその場で飲み込んだ。この世界の薬は即効性が高いので、飲んだらすぐに効果が現れる。


「ありがとう、孝志。体調が万全になったよ」

「いえいえ。昨日、ブローノ王子から頂いた収納ボックスの中に、必要かもしれない道具や薬などを入れてきました」

「……そうか。おかげで助かった」

孝志も礼をした後で橘穂花の隣へと戻って行った。
馬車移動の間、橘穂花はずっと孝志の隣に引っ付いており意地でも離れようとしない。
仲が良くて良い事だ、うん。

橘穂花は兄として孝志を慕っているものだと、孝志なみに恋愛感情に疎いブローノはそう確信した。


──それにしても……確かに収納ボックスを渡したが、それは今回の旅で活用して欲しくて渡した訳ではなく、それ以降の冒険に役立てて貰いたかったからだ。

そして昨日は午後10時前に解散したから、準備する時間は無かったと思うんだが……

元々、孝志を只者では無いと思っていたブローノだったが、ここで更に評価を上げるのだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~オーティス視点~


「はぁ~…新たなる秘薬が出来上がったと言うのに……肝心の容器を忘れてしまうとは……ああ嘆かわしい」

オーティスの趣味は秘薬の調合である。
作った秘薬が有効活用出来るかは別として。

周囲の警戒は呼び出した使い魔に任せて、今日も趣味に明け暮れていた、しかし──

調合して秘薬を作ったは良いものの、それを入れる肝心の容器を持ってこなかったのだ。
普段、外へなど出ないオーティスは、出発前に細かな荷物チェックをしていなかった。


「く、会心の出来だったのだが……仕方あるまい」

オーティスが仕方なく調合した秘薬を処分しようとした時、一部始終を見ていた孝志がそっと、あるモノを無言でオーティスに差し出した。


「おお!これは!」

孝志が渡して来たのは、まさしく今オーティスが一番欲しいモノである空の容器であった。


「是非使って下さい。水なんかを入れる為に用意したモノですが、飲み物は大量にあるみたいですし、使う事はないでしょう」

「かたじけない!」

オーティスは素直に孝志に感謝の言葉を述べた。中二病も忘れるくらい素直に。
だが、備えと言うなら飲料水で良かったのではないだろうか?とオーティスは少し疑問に思った。
なのにわざわざ空の容器なんて……この男はもっと先の何かを考えているのかもしれない。

──オーティスは孝志に勇者としての興味しか抱いていなかったのだが、これをキッカケに松本孝志という人間にも少し興味を持つのだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~穂花視点~


──時刻は既に夜を大きく過ぎており、現在、馬車を停車させている。
森はとっくに抜けており、今は街道から少し外れた岩場で野営の準備を終わらせた所だ。


「あ~体がベトベト~お風呂入りたいよ~」

そうだ、私は朝からずっとお風呂に入ってない。不潔女なのだ…!
他の人達はみんな男の人だから、あんまり気にしないかもだけど私は死ぬほど気にする……だって女の子だもん…!

しかもお風呂に入ってない状態で孝志さんにべったりする訳にはいかない。
橘穂花は明日から『孝志さんの近くに居るのにベタベタ甘える事が出来ない』という生き地獄を想像し、絶望に打ちひしがれるのだった。


「穂花ちゃん、ちょっといい?」

そこへやって来たのは愛する孝志だった。

──ど、どうしたのかな?告白に来たのかな?私は妄想に心をときめかせて居た。


「はい!もちろんオーケーです!宜しくお願いします!」

「なんの話?……それより、ちょっと待っててね」

すると、孝志さんは昨日ブローノさんから受け取ったヘンテコな袋の中から巨大なドラム缶を取り出した。
そして薪や火をつけるライターらしき物と、火をつきやすくする油の様な物も一緒に取り出す。

……この組み合わせって……まさか……!


「お風呂ですか?!」

「そうだよ。急ぎだから町へは寄らないって聞いてたし、穂花ちゃんやブローノ王子には必要かな~と思ってね」

「やったー!ありがとう!孝志さん!」

私は孝志さんに飛び付こうと思ったが、寸前の所で堪えて止めた。先にお風呂に入って体を綺麗にしなくてはいけないからだ。

孝志さんが薪に火を付けてお風呂を沸かしてくれた。こんなのもう完全なる夫婦でしょ?!旦那の沸かしたお風呂に入る私。

今ハッキリと分かった、これは謝罪の旅では無く、孝志さんとの新婚旅行なのだと(※重症)


──元々孝志への好感度は恐ろしく高い穂花だが、コレを機にまた一段と愛が深まってしまうのだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~ユリウス視点~


「これ……味薄いな」

ユリウスは夜食を食べている所だった。
魔法で加工してある入れ物に入った肉を食べている。
食糧は大量に用意しているものの、殆どが保存食なので味は……いやもうハッキリ言おう。不味い。
こんなモノをブローノ王子に食べさせてるのかと思うと気が引ける。

そんな事を思ってた所へ、孝志が大量の何かを抱えてやって来る。

「ユリウスさん、好きなのを使って下さい」

そう言って孝志が見せてきたのは大量の調味料だった。
塩やソースは疎か、マヨネーズなども有る。そして何故かケチャップだけが大量に用意されていた。


「すまんな……」

「どういたしまして」

俺は礼を言って調味料に手を伸ばした。
……いや、待てよ?なんか他の人達に比べて──


「俺だけ貰えるのしょぼくね?」

俺はそう口にしながらも、大量に用意されているケチャップの中から一つを手に取った。
やっぱり、味付けと言ったらこれだ…!

そして、真っ先にケチャップへと手を伸ばしたユリウスの姿を見ていた孝志は、感心した様な表情で頷くのだった。

因みに、他の者達には既にお好みの調味料を配っており、ユリウスの所へやって来たのが一番最後だったりする。
そんな中、ケチャップを手に取ったのはユリウス一人だけだったので、ケッチャプ好きの孝志はユリウスへの好感度を少し上げるのだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~アルマス視点~



「マスター、お腹空いた~」

「うっせ!土でも食ってろ!」

「orz……」

この一言で終わり……アルマスは孝志から非常に冷たい対応をされてしまった。

だがアルマスの孝志へ対する愛情は、既に限界を大きく超え、もはや何があっても下がらない領域にまで達してしまっている。
なので、例え本当に土を口に突っ込まれたとしても下がる事は決して無いのだ。

因みに、アルマスは食事を必要としないので、ただ構って欲しかっただけである。



──こうして孝志の冒険1日目は、意外にもすんなりと過ぎてゆくのだった……

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