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3章 フェイトエピソード
会場の中心で何を叫ぶ?
しおりを挟むユリウスさん、穂花ちゃんと別れた俺は、すれ違う人達と挨拶をかわしながら一人で料理を食べ歩いていた。
──そんな時、一人の人物がこちらに近づいて来るのがわかった。
そちらを向くとそこに居たのは、あの第一王女だ。
いい加減にしつこいなこの女……
そして、今回はパーティーという事もあって騎士は引き連れて居ない。
会話をする前からヤバい事になると察した俺は、助けを求めてマリア王女とブローノ王子の方を見る。
マリア王女は沢山の貴族に囲まれていて身動きが取れない様だ。
立場的に蔑ろには出来ないんだろう…第一王女に俺が絡まれてる事に気が付いているらしく、こちらが気が気でない様に見える。
……というよりか、このくそ王女はマリア王女が貴族に囲まれたタイミングを見計らって俺に絡んで来てるな……その用意周到さは逆に尊敬出来るわ。
もちろん、貴族の人たちもマリア王女を足止めしよう何て意図はまったく無いだろう。
そしてブローノ王子の方は、さっきのやり取りを見ていないので俺と第一王女が険悪な関係であることを知らない。
つまり動ける状況ではあるが、何も無ければこちらに来る事も無いだろう。
それでも近くに居れば恥を気にせず助けを求めるが、ブローノ王子との距離は離れ過ぎていてそういう訳にもいかない。
…ここでも用意周到だな、このクソ王女。
ユリウスさんと穂花ちゃんは王族じゃないので頼る訳にはいかない。
…ふぅ~詰んだなこれ。
事前にここまでするのだから、よっぽどの事を言うつもりなんだろう。
言っとくけど、マジでムカついたら10倍にして言い返すからな?
俺はそんな事を思いながらも覚悟を決めた。
第一王女はニヤリと一度俺をあざ笑うと、周囲に聞こえる様に大きな声で言い放った。
「御機嫌よう勇者様っ!……皆さん!御出でなさい!勇者様を紹介しますわ!」
第一王女が周囲に声を掛けると、彼女の周りには令嬢達が集まって来る。
数は10人はいるだろうが、俺を見下す様な目をしているので、事前に第一王女に仕込まれた連中だろう……いわば完全な敵である。
「ん~~……ふふふ、貴方ってばいつ見ても本当に──」
わざとらしく、俺をじっくりと観察する仕草をみせる。
──そして彼女は侮辱の言葉を述べた。
「──素敵な殿方ですわね!貴方以上に美しい殿方は見たことありませんわ!もうほんと大好きですわ!」
それはもうとんでもない侮蔑の言葉を──
「………ん?」
「………え?」
周りの令嬢達も何を言ってるのかわからず、停止スイッチでも押された様に止まってしまう。
まるで事前に聴いてた話とは違うだろ、とでも言いたげだ。
そして、貴族に囲まれているマリア王女も呆気に取られた様に口をポカーンと開けて、周囲にいる貴族の人達を驚かせている。
しかし、一番驚いたのは孝志……ではなく、発言した当のネリー本人であった。
「ちょ、な、何を言ってる私は……ち、違うの、私は貴方が──」
そして彼女が次に発した言葉は──
「…私はこの人が本当に好きで好きでたまりませんのよっ!もう抱きしめて欲しいのよっ!!」
──周りが静寂に包まれる。
周囲の人達もすでに会話はなく、ネリーと孝志の二人に注目していた。
何故ならそれ程までに大きかったのだ…声が。
「ち、違う!違うの、違うわ!……貴方何て好きよ!好きよ!好き好き!……ってなんなのよ~!訳がわからないわ!」
さっきと内容は同じで何も違う事はない。
誰がどう聞いても熱烈な告白でしか無かった。
──訳がわからないのはこっちだからな?
という事はつまり……この女──
「俺の事好きだったから……今までのは照れ隠しでしょうか?」
「そうに決まってるでしょ!第一印象からずっと気に入っていたのよ!その生き生きとした目が特に好き!……なんでよ!」
なんでよってなんだよ。
……こんな場で嘘をつく事はないだろうし、マジで俺が好きだったのか…?
そして第一王女の雄叫びに周りに居た貴族達が驚き、それにより解放されたマリア王女が此方へとやって来る……それも可哀想な者を見る様な目をしながら。
「……お姉様…そういう事でしたのね」
「何がよ!」
「孝志様が好きだったのね…」
「っ!!何を言ってるのよ!そうに決まってるでしょ!今も抱き締めたいのを我慢してるくらいよ!交際したいわ!」
マジかよ…ぜんっっぜん気がつかなかったわ…
俺普通にガチで嫌いだったからな~……まぁとりあえず交際とか言ってるけど付き合うとかは嫌だわ。
性格悪そうだし。
俺は意を決して、彼女の気持ちに答える事にした。
「すいませんけど、告白ならお断りします」
「…え?……どうして私振られたみたいになってるの?……あ…あぁ…」
ネリーは口をパクパクさせて軽い放心状態だ。
──本音が言えなくなってしまったネリーの気持ちを代弁するとこうだ。
本当に嫌っている相手に、散々愛の言葉を大勢の前で叫ばされ、いつの間にか告白した事になっていて、あまつさえそれを断られてしまったのだ。
……ネリー本人にとってすれば、まさしく地獄の様な状況である。
「……ぅう……うわ~~ん、どうじでよ~!」
ネリーは人生で初めて人前で号泣してしまった。
「うぉ!なんかごめんなさい」
もちろん、ネリーの涙は屈辱とどうしていいか判らないことでの涙で有るが、事情を知らない孝志や周囲の人間から見たら告白に破れて号泣する哀れな王女にしか見えない。
「うう…覚えときなさいよ…!あんたなんて死ぬほど好きなんだから!いつか結婚してやるんだから…!………うわ~~んっ!」
「け、結婚?!お、重い…!」
最後にプロポーズをしたネリーは、そのまま逃げる様に会場を後にした。
そのネリーの顔は燃える様に真っ赤だったという。
会場は完全に静まり返っており、未だに誰も動くことが出来ないでいる。
それ程に衝撃的だったのだ、ネリーの一世一代の告白が。
「──あんなに憎かったお姉様の事を初めて可愛いと思ってしまったわ……孝志…あんた何をやったの?」
「いや、俺は俺をやってるだけだぞ?…ふぅ~やれやれ…女性を振るって辛いもんだな」
「………」
俺のボケに突っ込む余裕も無い様だな。
いや、俺だってビックリしてんだぜ?憎しみ合ってた相手が実は俺を好きだったなんて……
というか、なんとか王女……いや、ネリー王女には本気の殺意を抱いてしまって居たが……そうか、愛情の裏返しだったのか。
そう思って昨日からのやり取りを思い返してみたら、なんだ……考えてみればツンデレっぽかった気がしない事も無いな、うん。
付き合うのは普通に嫌なタイプだけど、今度会った時はあまり気を張らずに優しくしてやるか!
俺はネリー王女の評価を改めるのだった。
──因みに余談だが、この会場に来ていた貴族や権力者の概ねが、傲慢で自分勝手なネリーを嫌って居たのだが、この事件がきっかけで少し好感度が上がったという。
そしてネリーがこういう性格になってしまったのは、このときネリーの周囲に集まった性格の悪い令嬢達が半分原因なのだが、こちらは逆で、この事件をきっかけにネリーから距離を置くようになったという──
なんともネリーの更生に打ってつけの状況が、誰も意図せず整ってしまったのである。
──そして波乱の歓迎パーティーは、まだ続く。
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