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1章 五人の勇者
ラクスール王国のやべぇヤツ
しおりを挟む「おおっ!よく来たな!今日から私がお前の面倒を観ることになった!よろしくな!」
「……ふぇ?」
俺は不意打ちを食らっていた。
ブローノ王子との会談が終わり、昼食を済ませた俺は昨日と同じ時間に訓練場へ来ていた。
王女に逆らえないとはいえ、俺をマリア王女に売り渡したユリウスさんに嫌味の一つでも言ってやろうと思っていた俺は、目の前の現実に惚けた声を出してしまった。
そう、目の前に佇む赤眼赤髪の女性をみて、俺の体内時間は一瞬で完全停止してしまった。
「よし!では早速始めるか!ビシバシ行くぞ!ヒャッホイ!」
「あああ、アリアンさん、どどどどうしてここに!?」
──あ、そ、そうだ!ブローノ王子との息つまる攻防(孝志が思ってるだけ)で気力を使い果していた俺は、朝の食事場でのやり取りをすっかり忘れていたのだ!
ユリウス『アリアンとチェンジ』
ああああ、どうしよう!マジな話だと解っていたのに、何の対策も取らずにここまで来てしまった!
こういう面倒事の時は何かしら行動を起こして上手く躱して来たのが俺なのに……っ!
ってかヒャッホイちゃうわ!
「ん?朝ユリウスがお前に事情は話したと言っていたぞ?」
いや聞いたけど、同意した覚えはねぇよ……っ!
ていうか薄情過ぎるだろあの人!
俺が本当に嫌がってるの解っていた筈なのに!
──孝志は知らない事だが、実はユリウスも何とか孝志の指導者をアリアンから別の人物に変更出来ないか立ち廻ってくれていたのだが、アリアン自身がそれを拒んだ。
何故なら、ユリウスが孝志を良い風に言うものだから「ユリウスが認める男なら私に任せて!」とアリアンに変なスイッチが入ってしまったのである。
……結局のところユリウスのせいだった───
「……不満そうだな?」
「まっさか!僕ってばそんな風に見えます??」
「そんなのわかる訳ない!」
わ、わかんないのか、そうなのかどう反応したらいいんだ?俺もわかんない。
だがとりあえず彼女がユリウスさんに異常な感情を抱いて居るのは判っている。
ここはあの裏切り者を利用して彼女の機嫌を取り、上手いこと逃げ出す為の活路を切り開くんだ!頑張れ俺っ!命かかってんぞ!
「いや~でもユリウスさん、本当にすごい人ですよね」
「おっ!だろ!?……おまえ話せるじゃないか!」
よっしゃ!アホっぽいやり取りだが手応えはバッチリだ……押せばイケる。
「しかもカッコいいですしね!」
「おぅ……まぁそうだな……とても33歳とは思えないよな」
「おぇ!?あの人 33歳だったの!!?」
驚きの事実である。
正直、自分より少し上くらいに思っていた……見た目若過ぎるだ…って今はそんな事どうでも良いんだよっ!集中だ集中。
「え~っと、ですね……あの…実はユリウスさんからまだ教わりたい事が沢山ありまして……それで、その、やっぱりしばらくはユリウスさんに御指導をお願いしても宜しいでしょうか?」
恐怖で凄く変な喋りになったけど、なんか解って貰えた気がするっ!(思考低下)
「お前…さっきからおかしいな……もしかして私からユリウスを奪い盗るつもりか?」
「あるぇえ?」
アリアンが怒ったような表情でいきなり睨み付けてきた。
そんなバカな!今の流れでどうしてキレてんの?和気あいあいだったじゃん!
コミュニケーション難易度が幾ら何でも高すぎるでしょ!
──とにかく俺は全力で取り繕う事にした。
「な、何を言ってるんですか!奪うなんてとんでもないです!ユリウスさんはアリアンさんにこそ相応しいお方じゃないですか!」
「……そうなのか?」
「そうですとも!アリアンさんが居てこそのユリウスさんですよ!アリアンさん以上にユリウスさんと相応しい人間が居ると思いますか?居ないんですよ?!」
「……それもそうだな!お前いいヤツだな!」
……………。
──まるで地雷原の中を、壊れた探知機を手に走り回ってる気分。
いつ何がきっかけで踏んでしまうかかわからない……だったらもう逃げる周るのは止めよう。
大人しく言うこと聞いてたら地雷を踏むことは無いだろ、うん。
俺は大人しく彼女に指導して貰う事にした。
──────────
「昨日は基礎として踏み込みと素振りを行ったと思う……それを最初に今日もやって貰うぞ!…2日目だし昨日とは倍の数やって貰うつもりだが、昨日は踏み込みと素振りをどれだけ行ったんだ?」
ば、倍とか鬼やん……当然ここは虚偽報告だな!
「はい、昨日は最初に踏み込み100回、素振り100回に取り組みました!(本当は両方200回)」
「そうかっ!100回かっ!では倍の200回だな……いや待てよ?さっきユリウスが昨日踏み込みと素振りを200回させたと言っていたな…」
「……あ、ヤベ」
あの野郎!余計なこと言いやがって!
「ユリウスがウソをつく訳がないし……って事は……お前……ウソをついたな?」
うわ、怖っ。
めちゃくちゃ睨んでくる……う、上手く誤魔化さないと橘ルートに入っちゃう!
「あ、いや、あれ?すいません、数字を数え間違えてたみたいでした。ユリウスさんが200回と言ったのなら200回です!……いや~100回と思ってたら200回だったらしいですね!」
「ははは!お前バカだなぁっ!」
「……ぐっ!」
い、言いたい事は有るが口に出して言うなっ!言ったら殺されるぞっ!耐えろ俺!
けど心の中で言わせて──
お前に言われたくねぇよっ!!!
──いやもう楽しようとかやらしい考えは止めよう。
彼女に小細工は意味を成さない……そう、通じないのではなく、意味が無いのだとはっきりと解った。
もう素振り400回でも良いじゃないか……耐えよう。
今日を耐え抜いて、そして今日の訓練が終わったらユリウスさんに泣き付こう、助けてって。
靴だって舐めてしまえばいいじゃないかっ!
その為には今日を生き抜かないとな……
「一ついいですか?」
「どうしたんだ?」
「あの、さすがに死ぬ様な稽古じゃないですよね?」
「もちろんだ!気を張っていれば死ぬ事は無いっ!!」
「え?気を張ってなければ死ぬの?」
「まぁそうだな!」
やべぇなコイツ。
─────────
その後、結局踏み込みと素振りを1000回やらされた。
1000回だとキリがいいだろう?とか訳の解らない理由で。
『500でもキリが良いのでは?』
と恐る恐る口答えすれば
『なんでだ?』
と返ってきた……この時は背筋が震えたぜ。
そしてそれが終わった後は、走り込みに打ち込みも沢山やらされた。
……結局、彼女から解放されたのは予定終了時刻を3時間も過ぎて辺りが暗くなった頃だった。
──いや誰か止めに来いよっ!
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追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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