普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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1章 五人の勇者

1章 プロローグ 〜普通の日常〜

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──時刻は朝の7時前。

7時丁度にセットしてあった目覚まし時計──それが鳴り響くより早く俺は目を覚ました。
しばらく目覚まし時計の音を聴いていない。体内時計と言うやつだろうか?時計が鳴るよりも早く起きる事は日課となっている。

いつもと同じ時間に起床した俺は、学校へ行く支度を早々に終わらせて部屋を出た。
後はリビングで朝食を済ませるだけだ。


──俺の名前は松本孝志。年齢は17歳。
女子達が秘密裏に行っていた無慈悲なる企画【学年イケメンランキング】にてベスト16に輝いた実績を誇る顔立ち。要するに普通よりもちょっとイケメンって感じ……まぁ俺自身もっと上だと思ってるけど。


食卓に着くとテーブルにはご飯とベーコン、それと納豆が置かれていた。朝食を食べ始める前に俺はあるものを取り出そうと冷蔵庫を開ける。

「……ない」


だが開けた瞬間、俺はすぐ異変に気が付き思わず消え入りそうな声で呟いてしまった。
そう、俺が愛用しているケチャップが無くなっている……跡形もない。
だが相棒のケチャップを何処かにやった人物については既に検討がつている。間違いなく目の前に居る女子中学生だ。俺はそいつを尋問する事にした。



「おい、弘子……ケチャップはどうした?」

そして問われた少女は悪びれる様子もなく、手をひらひらと動かしながら答えるのであった。


「あ、ごめん。さっき落とした時に踏んじゃってさ、中身全部出ちゃった~」

「おぉう……」

はいやはり犯人は妹の弘子。
しかも朝食を食べ終わりソファーで寛いる。制服がシワになれば良いのに、あと学校にもとっとと行けば良いのに。


──妹の弘子は黒の長髪で背は低く、お目々ぱっちりで可愛らしい少女。でも血の繋がった兄妹の俺からすると可愛いとは思わない。顔も似てるし。

納得できる返答が得られなかったので怒りをグッと堪えながら会話を続けていく。


「いや、全部ってことはないだろう?少しは使えそうな分残るだろ?ほら端っこの所とかにさ。それに絞り込んだら出るだろうし」

「いや、ばっちぃくて棄てたし」

「なんだと……?信じられない、何でそんな酷い事するの?妹だからって容赦ないぞ?お兄ちゃん弘子が思ってるより面倒くさい奴だぞ?」

「うん、いま改めて実感してる」

「はぁ?やっちまうぞコラッ」

「むぅ…!!」

すると『やっちまう』にムカついたらしく、妹はテーブルの上にある朝ご飯を指差し、更に俺の神経を逆撫でする事を言い出す。

「お兄なんかにやられるかよ──てか今日の朝ごはんベーコンと納豆でしょ?ケチャップなんて何に使うの?」

お前は今まで俺の何を見てきたんだ?

「お前ばっか。ベーコンと納豆にケチャップを浴びせるほど掛けて味を濃くするのに使うんだろうが……いつもの事だろ?」

本当に今更だ。俺は重度のケチャラーなんだよ。
ただ妹はケチャップを駄目にしたという失態から逃れたいのだろう……ソファーから勢いよく立ち上って失礼な事を言い出す。


「それがキモいって言ってんの!」

「なんで急にキレてんの?……てか尊敬すべき兄である俺に向かってキモいはやめてキモくないからマジで──だいたい俺は学年のイケメンランキングベスト16なんだぞ?」

「……私、学年で3位だったんだけど?」

「お前すげぇな!……なんかごめんね?ベスト16程度で3位相手にイキったりして」

「ふふ、良いででしょ?」

なんかムカつくな……少しからかってやるか。


「流石自慢の妹だよ!」

「……え?」

「俺の中では弘子が一番だよ!!絶対に3位じゃないよ!!」

「あ、いや、え?そう……なんだ、へぇ~」

弘子は言い淀みながら目を逸らす。
顔は茹で蛸のように耳まで赤く染まり、口元が吊り上がっている……喜びを隠しきれない様子だ。


「何その反応?全部嘘で言ったんだぜ?別に自慢の妹とか一番可愛いなんて1ミリも思ってねーよ」

「……な、くぅ……!」

ソファーに顔を埋めて、悔しそうに脚をパタつかせる弘子……それを見て孝志はとても爽快な気分になるのだった。実にしよーもない男だ。


(よしっ俺の勝ちだな!もう気分良いからケチャップとかどうでもいいや!中学生の妹相手に何やってんだと思わなくもないけど、それすらもどうでもいいや!)

(お兄ちゃんのばかぁ……普段可愛いとか言ってくれないから本当に嬉しかったのに……でもお兄ちゃんがベスト16だなんて見る目ない女子達だよ)

孝志はウスターソースを代用する事にした。躊躇いなくウスターをベーコンと納豆に浴びせて食べる。
因みに凄く不味かったらしい。


──食事を終え中学生の弘子より早めに家を出る。いつもならこのまま何も言わずに登校するのだが──


「弘子、じゃあ行ってくるわ」

普段は気恥ずかしくて言わない挨拶を弘子に対して孝志は言った。

それを聞いた弘子もパタパタと走って玄関までやって来た。しかも滅茶苦茶嬉しそうな表情で……さっきまでの言い争いは何処へ行ったのやら……いつの間にか上機嫌になっていた。


「めっずらし~今日どうしたの?」

「まぁ偶にはな」

「ふ~ん……じゃあいってら」

「おう──それと母さんに預かった金でケチャップ買っとけよな?アレがないと俺死ぬから」

「うん……ごめんね。いいやつ買うよ」

「愛してる、ちゅ」

「あ、うん……」

「……………冗談だからな?」

ドン引きしてんじゃないよ。



──このやり取り以外は特に変わった事も無く、家を出た俺は一人で通学路を歩いて行く。

別にぼっちと言うわけではない。友達が全員通学路で一緒になる事がないと言うだけだ。
それに言ってしまうと通学や下校は一人でゆっくりと自分のペースで歩きたいので好都合とも言える。


学校に到着すると下駄箱にてある人物を見かけた。そいつは金髪でピアスを付けてる厳つい男。


「おはよう」

俺はその厳つい金髪の兄ちゃんに声を掛ける。
それに対して相手は──


「おっはー」

なかなか古いセンスで挨拶を返してくれる。

コイツは俺の親友・碓井恭輔。
茶色に髪の毛を染めており、見た目ヤンキーだが中身はヘタレ。今でこそピアスを付けているものの、先生が近づくと見つかる前に急いで外す……実に眉唾男なのである。

「眉唾男って何語だよ!!」

「え?今の心の声だぞ?」

「じゃあ何で俺に分かったの?」

「馬鹿だからじゃない?」

「おお!そうか!」

(馬鹿だな~)


会話をしていると先生の姿が見えた。男の先生だが厳しい人じゃないので特にビビる必要は無いのだが……


「や、やべぇ……!センコウだっ!逃げろ逃げろ……」

穴を空けないヘタレ仕様のピアスを外し、その場から逃げ出す碓井。最早イヤリングだが本人はピアスだと言い張っている……こだわりが有るらしい。

「お前のそういう所……結構好きだぜ?」


──結局、その後は休憩の度に仲の良い友達と下らない会話をしていつも通りの学校生活を送り、そのまま放課後を迎えた。

特に変わった事など起きない俺の日常。
俺自身、特に変化を求めていないのでこれで良い。卒業までこのままで居られれば俺にとっては良い事だ。
別に目立ちたく無いとか後ろ向きな事を言うわけでは無いが、俺はこんな生活に十分満足している。

だって面倒くさい日常なんて嫌だからな。
部活とかもやる気ないし、もう今のままで十二分に満たされているさ。
まぁこのまま学校に残ってもする事が無いし、大人しく帰るとするか。

──孝志は荷物を抱えて校舎を出た。



校門を出て5分程歩いたところ。
交差点を超え今は住宅街を歩いて居る。

俺は、ぼ~っと親友(ケチャップ)の事を考えながら歩いていたのだが、ふっと前が騒がしいのに気が付きそちらへと意識を向けた。



「──もう~雄星~由梨にばっかり構い過ぎ~!私にも構ってよ~」

「何言ってるのよ。美咲は昨日雄星とデートに行ったんでしょ?だったら今日は私の番よね?」

「え!?お兄ちゃん昨日、美咲さんとデートに行って来たの?!どうして?!」

「ハハッ、内緒って言ったじゃないか~」


(げえぇ……超うぜぇ奴らが前歩いてんじゃん)

俺は思わず眉を顰めてしまう。

前を歩いていたのは学校でも有名な3人組。
橘雄星とそいつが率いる学校の二大美女、中岸由梨と奥本美咲。
今日はそれに加え、橘雄星の中学生の妹・橘穂花ちゃんも一緒に居るらしい。その四名は人目も気にせずイチャイチャを繰り広げいる。

もう少し恥じらいを持って欲しいものだ。


──唐突だが俺は橘雄星が嫌いだ。というか大抵の男子生徒はコイツの事が嫌いのはずだ。

学校の二大美女を侍らせ、我が物顔で青春を謳歌しているのだから嫌われて当然だろう。
それだけならまだしも、あらゆる学年の大勢の女子達があいつを好きだという。
俺の学校が他所の学校に比べてカップル率が異様に低いのは全部コイツの所為!!……だと思う!!

そして話は戻るがこの橘雄星、顔はなんと言うか……あんまり言いたくは無いけど、コイツ以上のイケメンを俺は見たことがない。
テレビで観るアイドルグループ、碓井が読んでいる雑誌のモデルもコイツを知っている以上『なんだこの程度』と思ってしまう。死ぬほどムカつくが、同じ男としてもそこは認めざるえない。

ただし、コイツ頭は大して良くないんだよな~
俺はテストの順位を常にほぼ中間の位置をキープしている。もちろん狙ってではなく、悲しい事にわりとガチ目に勉強しての中間キープ。

そしてぱっと見頭良さそうに見える橘だが、いつも俺の前後の順位に居座っている。つまり脳みそは中間キープの俺と同格。
それに前後とは言っても、ヤツは大抵が俺より下の順位で、負けたのは体調不良の時に一度だけ。

ただの勝ち負けなら流石に何とも思わないが、なんの因果か毎回毎回ヤツと俺は1つ違いの順位なのだ。ただの一度も二つ以上順位が離れた試しがない。
もはや宿命としか思えない程だ。

そして奴より上の順位の時は心底嬉しい気分になる。
だから毎回友達に自慢しちゃうんだけど、この気持ち良さが解らない友人達は『それがどうした』みたいな顔をする。

まぁ分からんわな!この気持ち良さは!
このまま美女達を頂いてもイイっすかね?(寝言)


……とは言っても、あの二大美女も何処構わず橘にすり寄って居るので好きではないんだよな。
あまりにもイチャイチャしてる所を見過ぎてるので、どれだけ可愛くても好きにはなれそうにない。
というか橘の顔がチラつくと思う。

妹ちゃんの方は……まぁウチの弘子と友達なので、家に遊びに来た時に挨拶を交わしている。なので一応は顔見知りでもあるから何とも言えない。
個人的には礼儀正しいし嫌いじゃないんだが、向こうは俺の事をあまり意識してないと思う。
そういえば、あの子とは家以外でも頻繁に出会してるんだよな?

偶然なのだが俺がストーカーしてるって疑ってないだろうか?……それが少し不安だ。



──等とアホな事を考えながら歩いていた所為で、いつのまにか橘達にかなり近づいてしまった孝志。
慌てて歩くスピードを緩めた。

(危ない危ない。絶対に関わりたくないぜ)

俺はハーレム一行と距離を置く為に、歩行促進を緩める……が、まさにその時だった──


──何の前触れも無く、天から橘達目掛けて眩い光が降り注ぐ。四人ともその眩し過ぎる光に目を強く閉じてしまっていた。

そして俺はというと、他人事の様にその光景をボーッと眺めていた。だが意識も次第に覚醒し、俺はすかさずある事に気が付く。


……この光、凄い勢いで広がってない?いや、ちょっと速す────


──足掻く暇もなく、四人と同じく孝志もあっさり眩い光に呑み込まれてしまった。



五人の学年は瞬く間にこの世界から姿を消した。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


──気が付くと、住宅街の景色が大きな広間の景色へと変わっていた。
気が付いたとは言っても、睡眠や気絶から目が覚めた訳ではない。
眩しい光が弱くなり、まぶたを開いたら突然目の前の景色が変わっていたのだ。


「……広いな」

観るからに日本の建物とは大きくかけ離れた場所に立っている。
床には所狭しと赤い絨毯が敷かれていて、漫画やアニメでしかお目に掛かれないような不思議な場所。

また、目の前にある20段以上ありそうな階段の最上部で、王様らしき人物が豪華そうな椅子に腰を降ろし此方を見ている。
それに加えて、俺や橘達の周りでは沢山の兵士が囲うように集まっているのだ。



(本当に怖いんだけど……?)


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