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伝説のメール 

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♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~石田サイド~

「ご馳走様でした」

石田家は家族四人での食卓。
いち早く食べ終わった石田一樹は手を合わせた後、自分の食器の片付けを行った。
品行方正……坂本家とは次元が違う。


「はい、お粗末さまです」

「一樹、勉強も程々にな!」

「うん、分かったよ」

ごめん、お父さん、お母さん……妹に恥じない兄でいる為にも頑張らなきゃダメだからね。
それに勉強は嫌いじゃないよ?知識を蓄えるのは良いことだ。将来にもきっと役に立つ。


「二葉は?」

「ん?なぁにお兄ちゃん?」

「もう直ぐ実力テストがあるだろう?勉強しなくて良いのかい?」

「ちゃんとやるよ。お笑い番組を観た後に漫画読んでからちゃんとする……5分くらい。毎回それで100点だしね」

「………あ、ずるい」

神様は不平等だな。こんなに可愛らしい妹なのに、天賦の才まで与えるなんて……弱点なんて有るようにはとても見えない。感服するよほんと。

でも兄妹だから嫉妬心もない。まさしく何処に出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。


──────────


勉強机の上で教科書を開く。
そしていざ勉強に取り掛かろうかと気合いを入れたタイミングで、誰かが部屋の扉をノックした。

──コンコンッ


「ん?入って良いよ」

「お邪魔しまーす」

「……二葉か。お笑い番組は良いのか?」

「うん。野球で潰れちゃった……」

「いつの時代の話だよ」

明らかな嘘を吐かれてしまった。
妹は大のお笑い好きで、ネタ番組を毎週楽しみに見ている。今日はその番組が放送される日なのだが……それよりも大事な用が俺に対して有るらしい。

……なんだろう?見当もつかないや。


「……はいっ!」

「……ん?」

二葉は右手を差し出し、手のひらを広げた。

何かの催促……?
それとも漫画でも借りに来たのかな?──でも俺の部屋の漫画なんて二葉はとっくに読み尽くしてる筈だし……何が欲しいんだろう?


「お小遣い?」

「ううん。スマホ貸して」

「ん?急にどうしてだい?」

「また坂本さんにメール送るから──」

「やめろおぉぉぉッッ!!!」

「ええぇ!?どうしたの!?大きい声なんか出したりして??」

「……はぁはぁ」

今の叫びに魂を注ぎ込んだ一樹は、肩から息をするほど体力を削られる。でもそれくらい嫌だったのだ。

あのトチ狂ったメールの内容には送った後に気が付き、一樹はそれはもう大慌てだった。次の日学校で必死に弁明したが、雄治から向けられた正気を疑う様なあの眼差しを、一樹は今でも忘れられない。


……数日かけてようやく誤解を解いたのに、ここで再びあんなメールを送っては元の木阿弥だ。
二葉はメールだと阿呆になる。完璧だと思ってた妹に、まさかこんな弱点が有ったとは……いまだ信じられない。


「お兄ちゃん……ダメ?」

「ああ、ちょっとな……いろいろあってダメなんだよ」

「いろいろって?」

「まぁその………あっ!そうだっ!冷蔵庫にプリンがあるんだっ!後で食べようと思って買ったけど、食べるかい?」

「ええ!良いの!?食べる食べるっ!」

「そうかっ!じゃあ取って来るから待ってて!」

「うんっ!ありがとうお兄ちゃんっ!」

一樹は部屋を飛び出してリビングへと向かった。目的のブツは冷蔵庫に保管してある、夕方買ったばかりのゴージャスな490円プリンだ。
これだけ高額なプリンを差し出すんだ……きっと良い事が有るに違いない……と、石田はそう信じていた。


「……お兄ちゃん優しい──ん?スマホ置きっぱなしだ……待ってる間に送っとこうっ!お兄ちゃん無用心だからロックも掛けてないんだもんねっ!」

そして二葉は兄のスマホに手を伸ばした。
もちろん悪気など一切ない……だって石田一樹は気を遣って言ってないからだ──

──あの文章が頭おかしいという事実を。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~雄治視点~

雄治はスマホ画面と格闘していた。石田一樹から送られて来たメールを開くのを非常に怖がっている。


「見るのが怖いんだよな……」

あの謎メールが頭に残ってる。
石田は間違えたと言ってたんだが……どう間違えんだよいったい……


「でもアレだけ必死だったし……今回は流石に大丈夫だろうな……?」

もしこれでヤバいメールだったら人間性を疑うわ。
けど待てよ……?あのメール以外におかしな点は無かったよな……?てことは本当にアレは間違いだったのかも……あの時は信じられなかったけど、その後はまともで良い奴だったもんな?

「……開いてみるか」

雄治は恐る恐るメールを確認した。




『やっぴー!よっしー!おっぱっぴー!今日は、な、なんとっ!プレミアムフライデーッ!!明日からお休みぃっ!!でも坂本くんと会えないのが寂しいよぉ~とほほほほぉ~……僕はついてゆけるだろうか……君のいない世界のスピードに──でも大丈夫!ちっちゃい事は気にするなっ!きょーれつぅ~!どう?俺ってユーモアに溢れてるだろ?友達になっといて損はないぞ?……つーかーさー?最近マジでヤバくね?何がヤバいかって?アレだよアレ!ほらアレアレッ!今から言う口座に一千万振り込んでくれない?って、オレオレ詐欺やないか~いっ!ルネサァ~ンスっ!ハハハッ!詐欺って良いのは詐欺られる覚悟のある奴だけだっ!これからも仲良くしてねっ!俺って基本こんな感じだからさっ!アデユォス!(←カッコつけてみましたっ!)シュタタタッ(華麗に走り去る音)』


「………………………………ふっ」







──石田やべぇな。








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