上 下
23 / 35

大丈夫② 〜楊花視点〜

しおりを挟む


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~楊花視点~

「先輩ッッ!!!ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさいッッ!!」

雄治と一緒に体育館裏まで来た楊花は、真っ先に頭を下げた。何度も何度も。
金城可憐が許されたから、自分も許されて当然だろうという楽観した考えは消えている。
雄治と顔を合わせたら必死な気持ちが強くなり、ただただ謝るだけだ。


お願いします……先輩……

どうか……どうか許してっ!!


…………


…………


場には静寂が訪れる。
この沈黙が楊花にとって辛いものだった。

我慢出来ず頭を上げそうになる……でも絶対に我慢しなくてはならない。楊花は雄治がいいと言うまで絶対に顔を上げないつもりだ。



…………


…………



「良いよ、許すよ」

「…………え?」

思わず上擦った声を上げてしまった。
だって……それは私が一番欲しい言葉だったから。

『許す』その一言がどんなに欲しかったか……嬉しい……よかった、先輩と関係が元に戻るんだ。


楊花は許しの言葉を貰った事で、ようやく顔を上げ雄治の顔を確認した。



「……せ、先輩……?」

今日、先輩の顔をまともに見たのはこれが初めてだ。怖くてちゃんと観れてなかったから、今まで気付けなかったけど……先輩、どうして──


「どうして震えてるんですか……?」

「…………」

まるで怯えてるようだった……今の私以上に怯えてるみたい……い、一体どうして……?

私は心配になり先輩の側へと駆け寄った。


「来るなぁッ!!」

「……ッ!?」

それは怒鳴り声……それも近付かれるのが怖くて怯えてるような……そう感じられる……もう分からない。

どうして?
許してくれたんじゃないんですか、先輩……


「……楊花は悪くない」

「え?」

「多分、説明しないとダメだから、今から言うよ……どうして俺があんなに楊花を拒絶したのか……本当は打ち明けるつもりは無かったけど、可愛かった後輩の為に……ちょっと生々しい話かも知れないけど、どうか聞いて欲しい」


私は何を聞かされるのか不安になったけど、黙って頷き先輩の言葉に耳を傾けた。
どうしてあそこまでの怒ったりしたのか、どうして私を許しているのにこんな風に拒絶してしまうのか。
聞かなければ……少なくとも私は聞かなくちゃダメ……だって先輩が本当に好きだから……拒絶の理由を知っておきたいよ。


──それは耳を疑うような内容だった。

早い話、先輩の母親が原因だった。
てっきり幼馴染さんの一件だと思ったけど、それよりも母親との出来事がトラウマになって、それで私に嫌悪感を抱いていた。

聞いて自分の行いを後悔した。
知らなかったとは言え、先輩のトラウマを掘り起こしたのは私だ。信じられない、誰よりも先輩を想ってる自信が有ったのに、誰よりも私が先輩を傷付けてたなんて──


「……全部、俺が勝手にトラウマになった事だから、楊花は悪くないんだ。でも楊花を観るとすげぇ怖いんだよ……いつもみたいにふざけた話も出来なくなる」

「え、待って欲しいっす……それって──」

拒絶されるより、よっぽど酷くないっすか。
あんなに怯えられて……本当に私が怖いって顔してる……ああ、先輩が酷い顔色をしてるのも、全部私が居るからなんすか!?

元に戻るには……私が離れないとダメってこと?私が側に居る限り、先輩はずっと苦しむ?でも先輩が近くに居ないと私が壊れてしまう、数日先輩と離れ離れになっただけでキツかったし、これから一生そうなるんだと思ったら死にたくなる。嘘の気持ちじゃないのに、じゃあ私はどうして違う男と?金城可憐が煽ったから?そうだあの女の所為だ!あの女が……あの女が…………あの女──


「違うっすね……私が招いた事っすね、ははは………は、は………うぅぅぅ~……ごべんなざい……先輩ぃ……」

逆恨みも良いところだ。
ずっと金城さんを恨んでたけど、軽率に好きでもない人と付き合う私なんだから、きっと何処かで裏切ってたと思う……だってこうなって初めて気付いたんだもん……全部自分の所為だって事に……!!


「違う楊花……俺が悪いんだ……俺がほんとに変な抉られ方をして、トラウマになって……それで似たような立場になったから……もう楊花を見るとそれだけで怖くなって──」

泣いてる私を見て慰めようとしてくる優しい先輩。
本当に嫌いじゃないんだ……ただ私が怖いだけなんだ……嬉しい。

でもだからこそ絶望する。
許すって言葉に喜んだ……でも許されたって意味がなかったんっすね。
だってこれじゃ好感度をどれだけ上げても意味なんてないんだから──


「うるさい!!優しい言葉を掛けないでよ!!どうせ無理なんでしょ!?期待させないで下さい!!」

「…………」

先輩……どうか私を嫌いになって……怖いのに私が嫌いじゃないと辛いでしょ?

「…………先輩」


「………………」

私は大丈夫っすよ?
先輩を傷付けた報いを受けてるだけっすからね。


「…………先輩さよならっす」

「…………さよなら」


ああ、終わったんだ………

私はその場から逃げ出していた。
だって少しでも先輩の気が楽になって欲しいから、先輩の幸せが私の幸せっすよ。

だから……先輩に近づかないようにしなきゃ……私なんかより可愛くて、優しくて、先輩を裏切らない……そんな優しい彼女を見つけて下さい。


「バイバイ先輩……」



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~優香視点~

優香と高宮は物陰から一部始終を覗いていた。


「坂本ちゃん……どうする?」

「…………あんな雄治、初めてみた」

高宮から雄治が彼女に浮気されてるって聞いた。彼女が出来たって話を聞いた時はショックで失神しそうだったけど、その後の言葉が洒落になってない。

雄治という世界で一番良い男を彼氏にしといて浮気とか……カタギの女の子に手を出すつもりは無いけど、二度と雄治に近付かないようにガツンと言うつもりだったんだけどね。


でも、浮気してる感じには見えなかった。
それ以上の大問題が発生、まさか、あの女が原因だったとか──


「とりま、母さんと話着けるわ」

「さ、坂本ちゃん?顔が怖いよ……?」

ホテルって……なにやってんのよ、あの女……
しかもそれを雄治に観られるとかふざけ過ぎ……


…………


……後はあの後輩ちゃんも、あんな状態でほっとく訳にはいかないかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学年一の美少女で自慢の幼馴染が親友に寝取られたので復讐します!+ 【番外編】

山形 さい
恋愛
優斗には学年一の美少女の自慢の幼馴染、玲がいた。 彼女とは保育園の頃に「大人になったら結婚しよ」と約束し付き合う優斗だったが。 ある日、親友の翔吾に幼馴染を寝取られている現場を目にする。 そこで、優斗は誓った。玲よりさらに可愛い女子と付き合って言おうと「お前とは結婚しない」と。

高校デビューを果たした幼馴染みが俺を裏切り、親友に全てを奪われるまで

みっちゃん
恋愛
小さい頃、僕は虐められていた幼馴染みの女の子、サユが好きだった 勇気を持って助けるとサユは僕に懐くようになり、次第に仲が良くなっていった 中学生になったある日、 サユから俺は告白される、俺は勿論OKした、その日から俺達は恋人同士になったんだ しかし高校生になり彼女が所謂高校生デビューをはたしてから、俺の大切な人は変わっていき そして 俺は彼女が陽キャグループのリーダーとホテルに向かうの見てしまった、しかも俺といるよりも随分と嬉しそうに… そんな絶望の中、元いじめっ子のチサトが俺に話しかけてくる そして俺はチサトと共にサユを忘れ立ち直る為に前を向く

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

浮気したけど『ざまぁ』されなかった女の慟哭

Raccoon
恋愛
ある日夫——正樹が死んでしまった。 失意の中私——亜衣が見つけたのは一冊の黒い日記帳。 そこに書かれてあったのは私の罪。もう許されることのない罪。消えることのない罪。 この日記を最後まで読んだ時、私はどうなっているのだろうか。  浮気した妻が死んだ夫の10年分の日記読むお話。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。 そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。 4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。 これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。 -- 【登場人物】 山岸 優李:裏切られた主人公 美山 奏:救った幼馴染み 坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。 北島 光輝:裏切った親友 -- この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。 ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。 人によっては不満に思うこともあるかもです。 そう感じさせてしまったら申し訳ありません。 また、ストーリー自体はテンプレだと思います。 -- 筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。 なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。 小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。 生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...