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キスして④
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次の日、楓磨にまた彼女ができた。告白してくれた子とつき合うことにした、と以前のように笑う。そこにはもうなんの翳りもない。
それなのに俺の胸はずきずき痛む。でもきっとこれでよかったのだ、と自分を納得させる。楓磨がこれでいいと思っているのなら、それでいいではないか。もう俺が自分を責める必要はない。
無性に苦しくなるのは、楓磨の気持ちを忘れられないから。
昼休み、楓磨が彼女と教室を出ていく。なんとなく目で追うけれど、すぐに視線を逸らした。
見たくない。以前の楓磨のようでいて違う。俺が楓磨の気持ちを知ってしまったから、やはりあれは以前の楓磨ではない。
パンを食べながらぼんやりと楓磨のことを考える。今頃彼女とふたりで楽しいランチタイムをすごしている。キスくらいするかもしれない。相手に「して」と言われたら楓磨は断れない。
「……」
それはとても、せつない。
楓磨がこの先、彼女を好きになるのならばいいではないか。そう自分を納得させようとしても理解したくなくて首を振る。
今さらどうにもできない。
放課後、楓磨が彼女を待つ間、一緒に教室に残って欲しいと言われた。これは以前にもあったことだから、「別にいいけど」と頷いた。
楓磨は本当に吹っ切ったように俺に笑いかける。それが逆に泣いているように見えてしまう。
本を読むのは久しぶりだ。楓磨が話しかけてくるのを流し聞きながら活字に視線を走らせる。
以前と同じなのに違う。もやもやが広がり、本を閉じる。
「もうキスしたの?」
「したよ」
「好きじゃないのに?」
「だって『して』って言われたから」
断れなかった、と笑う。
そんなふうに笑うのはもうやめて欲しい。
「……好きな人とキスできないなら、誰としたって同じだし」
ぽつりと呟かれた言葉に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る。
やはりもう以前の関係には戻れないのだ。楓磨も俺も、友達だと互いを認識してふざけ合っていたあの頃には戻れない。
「……」
楓磨のネクタイを掴んで引き寄せる。近づいた唇に俺は自分のそれを重ねた。なにが起きたのかわからないという顔で見つめる楓磨に縋る視線を送る。
「もうやめて」
「敦弥……?」
「そんなふうに無理に笑わないで。楓磨の気持ち、全部受け止めるから」
受け止めたい。楓磨の全部を抱きしめたい。
「言っておくけど、俺は同情でキスなんてできないから」
「……どういう意味?」
聞き返されて言葉が詰まる。それくらいわかれ、と思いながらきっと睨みつける。
「好きな人にキスしていいってことだよ!」
頬が熱い。もうこれ以上視線を合わせていられず俯くと、顔を覗き込まれた。
「敦弥は俺が好きなの?」
「好き。自分からキスできるくらい」
でも、と言葉を続ける。
「楓磨と同じだけの気持ちで好きなのかはわからない。だから楓磨と同じくらいの大きさの『好き』になるようにして」
気持ちをうまく伝えるのは難しい。それでもなんとか言葉を紡ぐ。
「それは……どうやって?」
期待と不安の入り混じった瞳で見つめられ、すうっと大きく息を吸い込む。
「ありのままの楓磨でいてくれればそれでいい」
自分を偽りで飾らず、嘘で作らず、真実の楓磨でいてくれたら、俺は今以上に楓磨を好きになれる。
「そんなことでいいの?」
「いい。楓磨が自分に嘘をついてると俺は苦しいしせつない」
楓磨の腕が伸びてきて、抱き寄せられそうになるのと同時に教室の扉が開いた。入ってきたのは楓磨の彼女。
突然現実に戻される。
「あれ、楓磨くん……待っててくれたの?」
「うん……」
ぎこちなく彼女を見る楓磨を見て、俺は立ちあがる。
「先帰るね」
教室を出て、これ以上ないくらい大きなため息をつく。
そうだ。楓磨には彼女がいる。それなのにキスをしてしまった。後悔が襲ってきて心がずんと重くなる。
静かな廊下をひとり歩いていると先程のやりとりが夢のように思えてくる。教室でうたた寝をしていたらこんな時間になってしまった、そんな感じだ。誰もいない廊下に俺の足音だけが響く。
重くなった心のまま俯くと、悔しさが滲み出てきた。
「待って、敦弥」
「……!」
後ろから肩を掴まれて振り返る。息を切らした楓磨がいて、視線を逸らす。
「……彼女はいいの?」
少し声が震えてしまったけれど仕方がない。目を合わせられない。
「振られた」
「え?」
「『楓磨くん、なんか違う』って。最短新記録だ」
「……」
笑っているが、それはあまり嬉しくない新記録だろう。
「敦弥が好きだ。気持ちを捨てるなんてできないくらい好き」
「うん」
周りを見まわし、誰もいないことを確認して楓磨が顔を近づけてきたのでゆっくり瞼をおろす。
でもなにも起こらない。不思議に思いながら目を開けると、楓磨が頬を赤らめてじっと俺を見ていた。
「どうしたの?」
「……敦弥が好きだ」
「うん……」
「…………本気で好きになったらキスなんてできない」
目を逸らして口を手で覆う楓磨に噴き出してしまう。そんなの可笑しい。やはり楓磨は軽い男かもしれない。
「本気じゃなければキスできるの?」
「うん」
「変なの」
腹を抱えて笑っていると、楓磨が幸せそうに目を細める。どきりとして、それからほっとした。
「ありがとう」
「なにが?」
「楓磨が幸せそうにしてるのが嬉しい」
そっと頭を撫でてやると、くすぐったそうに口元を緩めて俺を見つめ返してくれる。
いつもそうしていてね、という気持ちを込めて楓磨の手を握る。
「最長新記録、作ろうか」
「敦弥と?」
「そう。俺、自信あるよ」
整った顔を覗き込むと、潤んだ瞳が揺らめいていた。
綺麗だな、と思った。
それなのに俺の胸はずきずき痛む。でもきっとこれでよかったのだ、と自分を納得させる。楓磨がこれでいいと思っているのなら、それでいいではないか。もう俺が自分を責める必要はない。
無性に苦しくなるのは、楓磨の気持ちを忘れられないから。
昼休み、楓磨が彼女と教室を出ていく。なんとなく目で追うけれど、すぐに視線を逸らした。
見たくない。以前の楓磨のようでいて違う。俺が楓磨の気持ちを知ってしまったから、やはりあれは以前の楓磨ではない。
パンを食べながらぼんやりと楓磨のことを考える。今頃彼女とふたりで楽しいランチタイムをすごしている。キスくらいするかもしれない。相手に「して」と言われたら楓磨は断れない。
「……」
それはとても、せつない。
楓磨がこの先、彼女を好きになるのならばいいではないか。そう自分を納得させようとしても理解したくなくて首を振る。
今さらどうにもできない。
放課後、楓磨が彼女を待つ間、一緒に教室に残って欲しいと言われた。これは以前にもあったことだから、「別にいいけど」と頷いた。
楓磨は本当に吹っ切ったように俺に笑いかける。それが逆に泣いているように見えてしまう。
本を読むのは久しぶりだ。楓磨が話しかけてくるのを流し聞きながら活字に視線を走らせる。
以前と同じなのに違う。もやもやが広がり、本を閉じる。
「もうキスしたの?」
「したよ」
「好きじゃないのに?」
「だって『して』って言われたから」
断れなかった、と笑う。
そんなふうに笑うのはもうやめて欲しい。
「……好きな人とキスできないなら、誰としたって同じだし」
ぽつりと呟かれた言葉に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る。
やはりもう以前の関係には戻れないのだ。楓磨も俺も、友達だと互いを認識してふざけ合っていたあの頃には戻れない。
「……」
楓磨のネクタイを掴んで引き寄せる。近づいた唇に俺は自分のそれを重ねた。なにが起きたのかわからないという顔で見つめる楓磨に縋る視線を送る。
「もうやめて」
「敦弥……?」
「そんなふうに無理に笑わないで。楓磨の気持ち、全部受け止めるから」
受け止めたい。楓磨の全部を抱きしめたい。
「言っておくけど、俺は同情でキスなんてできないから」
「……どういう意味?」
聞き返されて言葉が詰まる。それくらいわかれ、と思いながらきっと睨みつける。
「好きな人にキスしていいってことだよ!」
頬が熱い。もうこれ以上視線を合わせていられず俯くと、顔を覗き込まれた。
「敦弥は俺が好きなの?」
「好き。自分からキスできるくらい」
でも、と言葉を続ける。
「楓磨と同じだけの気持ちで好きなのかはわからない。だから楓磨と同じくらいの大きさの『好き』になるようにして」
気持ちをうまく伝えるのは難しい。それでもなんとか言葉を紡ぐ。
「それは……どうやって?」
期待と不安の入り混じった瞳で見つめられ、すうっと大きく息を吸い込む。
「ありのままの楓磨でいてくれればそれでいい」
自分を偽りで飾らず、嘘で作らず、真実の楓磨でいてくれたら、俺は今以上に楓磨を好きになれる。
「そんなことでいいの?」
「いい。楓磨が自分に嘘をついてると俺は苦しいしせつない」
楓磨の腕が伸びてきて、抱き寄せられそうになるのと同時に教室の扉が開いた。入ってきたのは楓磨の彼女。
突然現実に戻される。
「あれ、楓磨くん……待っててくれたの?」
「うん……」
ぎこちなく彼女を見る楓磨を見て、俺は立ちあがる。
「先帰るね」
教室を出て、これ以上ないくらい大きなため息をつく。
そうだ。楓磨には彼女がいる。それなのにキスをしてしまった。後悔が襲ってきて心がずんと重くなる。
静かな廊下をひとり歩いていると先程のやりとりが夢のように思えてくる。教室でうたた寝をしていたらこんな時間になってしまった、そんな感じだ。誰もいない廊下に俺の足音だけが響く。
重くなった心のまま俯くと、悔しさが滲み出てきた。
「待って、敦弥」
「……!」
後ろから肩を掴まれて振り返る。息を切らした楓磨がいて、視線を逸らす。
「……彼女はいいの?」
少し声が震えてしまったけれど仕方がない。目を合わせられない。
「振られた」
「え?」
「『楓磨くん、なんか違う』って。最短新記録だ」
「……」
笑っているが、それはあまり嬉しくない新記録だろう。
「敦弥が好きだ。気持ちを捨てるなんてできないくらい好き」
「うん」
周りを見まわし、誰もいないことを確認して楓磨が顔を近づけてきたのでゆっくり瞼をおろす。
でもなにも起こらない。不思議に思いながら目を開けると、楓磨が頬を赤らめてじっと俺を見ていた。
「どうしたの?」
「……敦弥が好きだ」
「うん……」
「…………本気で好きになったらキスなんてできない」
目を逸らして口を手で覆う楓磨に噴き出してしまう。そんなの可笑しい。やはり楓磨は軽い男かもしれない。
「本気じゃなければキスできるの?」
「うん」
「変なの」
腹を抱えて笑っていると、楓磨が幸せそうに目を細める。どきりとして、それからほっとした。
「ありがとう」
「なにが?」
「楓磨が幸せそうにしてるのが嬉しい」
そっと頭を撫でてやると、くすぐったそうに口元を緩めて俺を見つめ返してくれる。
いつもそうしていてね、という気持ちを込めて楓磨の手を握る。
「最長新記録、作ろうか」
「敦弥と?」
「そう。俺、自信あるよ」
整った顔を覗き込むと、潤んだ瞳が揺らめいていた。
綺麗だな、と思った。
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