ずるい男

すずかけあおい

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ずるい男⑦

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「俺より羽田さんのほうが、すごくずるいことがわかりました」
「そう?」
「自覚がないところが、もうずるいです」

 火照る身体を抱き締め合いながらキスをしていたら、今埜くんが不思議なことを言う。俺がずるい? どの辺がだろう。

「『来て』とか、ありえないです」
「あれはわざと」
「だからずるいって言ってるんです」

 でも嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。俺の髪を撫でてくれる手を取って、指先にキスをしてみる。

「そういう仕草がもうずるいです」
「そうなの?」
「ずるい大人に捕まっちゃいました」

 ぎゅうっと抱き締められて、笑ってしまう。

「俺のほうが、ずるい子に捕まっちゃったよ」
「そうですか?」
「まさか持ち帰りたくて飲むのを止めなかったなんて思わなかった」
「……すみません」

 頬を少し赤くする今埜くんが可愛い。あまりいじめたら悪いな。

「冗談だよ」

 俺も抱き締め返すと今埜くんが深呼吸をするので、なんだろうと身体を離す。

「いえ、それだけじゃなくて」
「え?」
「実は、再会も偶然じゃなくて……」
「……え?」

 どういうこと?

「お持ち帰りするつもりだったんですけど、やっぱり自宅に送ったほうがいいのかなってぐるぐる悩んでいるときに羽田さんのバッグの中見て、名刺入れ見つけて……勤務先知って……」
「……」
「後で調べたらアルバイト募集してたから、即応募しました……」

 …………え?

「でもさっき、名前を教えてくれなくてって――」
「だって本人の口から聞きたいじゃないですか……。だから『教えて?』って何回も聞いたのに『俺なんかだめだから』って」

 うん。さっきもそう言ってた。でも今埜くんは知ってたわけだ。それって……ずるくない?

「羽田さんはあの夜のことを話してほしくないだろうから、そのことに一切触れないでいたら逆に意識してもらえるかな、と思って、再会後はあえてなにも言いませんでした」
「……」

 ずいぶんと、まあ……。

「こういうところが、兄さんに勝てない要因なのかもしれませんね……」

 自嘲気味に笑う今埜くん。うーん……それはまた別の話だと思うけど。

「今埜くんは今埜くん、お兄さんはお兄さん。勝ち負けなんてないよ」
「羽田さん……」
「びっくりしたけど、話してくれてありがとう」
「……怒ってませんか?」

 俺の顔色を窺う今埜くんが可愛くて髪を撫でてあげると、ほっとしたような表情になった。

「怒ってる」
「えっ」
「だから鎮めて?」
「……」
「どっちのほうがずるいか、比べてみようか」

 髪を撫でていた手を今埜くんの首のうしろに回してうなじを撫でる。

「……どうやって?」
「こうやって」

 頬を染める今埜くんに唇を重ねた。



おわり


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