7 / 7
ずるい男⑦
しおりを挟む
「俺より羽田さんのほうが、すごくずるいことがわかりました」
「そう?」
「自覚がないところが、もうずるいです」
火照る身体を抱き締め合いながらキスをしていたら、今埜くんが不思議なことを言う。俺がずるい? どの辺がだろう。
「『来て』とか、ありえないです」
「あれはわざと」
「だからずるいって言ってるんです」
でも嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。俺の髪を撫でてくれる手を取って、指先にキスをしてみる。
「そういう仕草がもうずるいです」
「そうなの?」
「ずるい大人に捕まっちゃいました」
ぎゅうっと抱き締められて、笑ってしまう。
「俺のほうが、ずるい子に捕まっちゃったよ」
「そうですか?」
「まさか持ち帰りたくて飲むのを止めなかったなんて思わなかった」
「……すみません」
頬を少し赤くする今埜くんが可愛い。あまりいじめたら悪いな。
「冗談だよ」
俺も抱き締め返すと今埜くんが深呼吸をするので、なんだろうと身体を離す。
「いえ、それだけじゃなくて」
「え?」
「実は、再会も偶然じゃなくて……」
「……え?」
どういうこと?
「お持ち帰りするつもりだったんですけど、やっぱり自宅に送ったほうがいいのかなってぐるぐる悩んでいるときに羽田さんのバッグの中見て、名刺入れ見つけて……勤務先知って……」
「……」
「後で調べたらアルバイト募集してたから、即応募しました……」
…………え?
「でもさっき、名前を教えてくれなくてって――」
「だって本人の口から聞きたいじゃないですか……。だから『教えて?』って何回も聞いたのに『俺なんかだめだから』って」
うん。さっきもそう言ってた。でも今埜くんは知ってたわけだ。それって……ずるくない?
「羽田さんはあの夜のことを話してほしくないだろうから、そのことに一切触れないでいたら逆に意識してもらえるかな、と思って、再会後はあえてなにも言いませんでした」
「……」
ずいぶんと、まあ……。
「こういうところが、兄さんに勝てない要因なのかもしれませんね……」
自嘲気味に笑う今埜くん。うーん……それはまた別の話だと思うけど。
「今埜くんは今埜くん、お兄さんはお兄さん。勝ち負けなんてないよ」
「羽田さん……」
「びっくりしたけど、話してくれてありがとう」
「……怒ってませんか?」
俺の顔色を窺う今埜くんが可愛くて髪を撫でてあげると、ほっとしたような表情になった。
「怒ってる」
「えっ」
「だから鎮めて?」
「……」
「どっちのほうがずるいか、比べてみようか」
髪を撫でていた手を今埜くんの首のうしろに回してうなじを撫でる。
「……どうやって?」
「こうやって」
頬を染める今埜くんに唇を重ねた。
おわり
「そう?」
「自覚がないところが、もうずるいです」
火照る身体を抱き締め合いながらキスをしていたら、今埜くんが不思議なことを言う。俺がずるい? どの辺がだろう。
「『来て』とか、ありえないです」
「あれはわざと」
「だからずるいって言ってるんです」
でも嫌そうな顔はしていない。むしろ嬉しそうだ。俺の髪を撫でてくれる手を取って、指先にキスをしてみる。
「そういう仕草がもうずるいです」
「そうなの?」
「ずるい大人に捕まっちゃいました」
ぎゅうっと抱き締められて、笑ってしまう。
「俺のほうが、ずるい子に捕まっちゃったよ」
「そうですか?」
「まさか持ち帰りたくて飲むのを止めなかったなんて思わなかった」
「……すみません」
頬を少し赤くする今埜くんが可愛い。あまりいじめたら悪いな。
「冗談だよ」
俺も抱き締め返すと今埜くんが深呼吸をするので、なんだろうと身体を離す。
「いえ、それだけじゃなくて」
「え?」
「実は、再会も偶然じゃなくて……」
「……え?」
どういうこと?
「お持ち帰りするつもりだったんですけど、やっぱり自宅に送ったほうがいいのかなってぐるぐる悩んでいるときに羽田さんのバッグの中見て、名刺入れ見つけて……勤務先知って……」
「……」
「後で調べたらアルバイト募集してたから、即応募しました……」
…………え?
「でもさっき、名前を教えてくれなくてって――」
「だって本人の口から聞きたいじゃないですか……。だから『教えて?』って何回も聞いたのに『俺なんかだめだから』って」
うん。さっきもそう言ってた。でも今埜くんは知ってたわけだ。それって……ずるくない?
「羽田さんはあの夜のことを話してほしくないだろうから、そのことに一切触れないでいたら逆に意識してもらえるかな、と思って、再会後はあえてなにも言いませんでした」
「……」
ずいぶんと、まあ……。
「こういうところが、兄さんに勝てない要因なのかもしれませんね……」
自嘲気味に笑う今埜くん。うーん……それはまた別の話だと思うけど。
「今埜くんは今埜くん、お兄さんはお兄さん。勝ち負けなんてないよ」
「羽田さん……」
「びっくりしたけど、話してくれてありがとう」
「……怒ってませんか?」
俺の顔色を窺う今埜くんが可愛くて髪を撫でてあげると、ほっとしたような表情になった。
「怒ってる」
「えっ」
「だから鎮めて?」
「……」
「どっちのほうがずるいか、比べてみようか」
髪を撫でていた手を今埜くんの首のうしろに回してうなじを撫でる。
「……どうやって?」
「こうやって」
頬を染める今埜くんに唇を重ねた。
おわり
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「レジ袋はご利用になりますか?」
すずかけあおい
BL
仕事帰りに寄る、いつものコンビニで五十嵐 歩(いがらし あゆむ)はイヤホンをつけたまま会計をしてしまい、「――――?」なにかを聞かれたけれどきちんと聞き取れず。
「レジ袋はご利用になりますか?」だと思い、「はい」と答えたら、実際はそれは可愛い女性店員からの告白。
でも、ネームプレートを見たら『横山 天志(よこやま たかし)』…店員は男性でした。
天志は歩に「俺だけのネコになってください」と言って…。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる