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第27話 資料庫
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滝本さんが僕に言ったのは、きっと彼が長きに渡って願い続けてきたものだろう。会社を信じ、会社に裏切られ、それでもなお会社を信じ続けた滝本さん。その心の中にあったのは、娘さんの体を思う気持ち、ただそれだけだったのだろう。
同じ思いを共有する者として、僕には滝本さんの思が痛いほど伝わってきた。
だからこそ、それに対する僕の答えは決まっている。
「僕を信じてください。必ず、新薬の開発を成し遂げて見せます」
――――
滝本さんは僕を連れて歩き始めると、慣れた足取りである部屋の前へと僕をいざなった。その場所の見た目はまさに普通の会議室。カギだってかかっていない。
「…こ、こんなわかりやすいところに秘密資料が?」
やや驚きを隠せない僕に対し、滝本さんはやや笑みを浮かべながら答えた。
「鍵がある場所や大掛かりな金庫にしまったら、分かりやすくてたまったものじゃないでしょう?本当に隠したい情報や資料というものは、得てして”足元”に隠されているものですよ」
滝本さんはそう言うと、部屋の扉を開けて部屋の中へと入っていく。僕もまたそんな滝本さんの後に続いて、部屋の中に足を踏み入れた。
「…これは…まるでゴミ捨て場のようですね…」
部屋の中は、それはそれは驚くほど資料の山で散乱していた。時々テレビの特集で見かけるような、ゴミ屋敷そのものの光景がそこには広がっていた。
「木を隠すなら森の中、とはよく言ったものです」
「え、えぇ…」
床に散乱する資料をかき分けながら、滝本さんは足をゆっくりと進めていく。部屋自体はそこまで大きくないものの、こうして足場が悪いと一歩進むのにも一苦労だ。
様々な資料が保管されているファイルや段ボール、それらをひとつひとつ丁寧にどかしていき、滝本さんはついに目的の物を見つけ出した様子だった。
「…隠し場所は、私がここにいた時から変わっていないようですね…」
滝本さんはぼそっと一言、そうつぶやいた。…であるなら、この資料をここに隠し、その管理を任されていたのは滝本さんだったのだろう。
滝本さんは僕に向け、一冊のファイルを差し出してきた。そして真剣なまなざしで僕の事を見つめながら、こう言った。
「ここには、黒田さんがひた隠しにしてきたことのすべてが書かれているはずです。ただ…」
「…ただ?」
「…信じていただけないかもしれませんが、実は私はこの中身を見たことは一度もないのです…」
「…それは、どうして?」
僕が投げかけた疑問に対し、滝本さんはやや自嘲気味に答えた。
「…勇気が、でなかった。この中を見てしまったら、私はもう二度と立ち上がることができなくなるような気がしていた…」
知ってしまったら、無知の人間に戻ることはできない。知らなければどれほどよかったことか、と思うことは、誰にだってある経験だろう。
「…しかし、そんな弱気な私とはもうお別れをしなければいけません。私はあなたとともに戦うと、確かに誓」
「おい、ここでなにしてる」
「「っ!?!?」」
…突然現れた第三の人物により、滝本さんの言葉は途中で遮られてしまう。
「…社外の人間がこんなところでかくれんぼか?ずいぶんと幼稚だな」
…一歩、また一歩と僕たちの前に近づいてくるその人物は、ついさっき黒田さんと話していた時、その横に控えていた金田さんだった。
「…滝本、なんのつもりだ?」
金田さんは滝本さんを目で見据え、低い声でそう言った。
「…金田さん、もう隠し通すのは無理ですよ。あなただってご存じなのでしょう?黒田さんがとんでもない秘密を抱えているという事を」
「そんなものは存在しない。リースリル製薬は世界に誇るクリーンな会社であり、反省するべき秘密など一切ありはしない。お前の言っていることはすべてでたらめだ」
滝本さんの言葉に対し、金田さんは堂々とそう言ってのけた。…けれど、僕にだって到底その言葉を受け入れることはできなかった。
「…金田さん、さっき黒田さんが言った言葉、あなたにも聞こえていたのでしょう?」
「……」
「…僕たちの最愛の人の事を、耳の聞こえない役立たずだの、出来損ないだのと…。それはもう、自分の耳を疑うほどの言葉を言っていました。…世界に誇るクリーンな会社の幹部職の人間が言う事とは、とても思えない…」
「……」
「しかも、それだけじゃない。僕たちが調べたところ、この会社には」
「なら!」
…それまで僕の言葉に対して黙っていた金田さんが、突然大きな声を発した。そして彼はこう言葉を続けた。
「…なら、それを証明してみせろ、高野つかさ」
「(…?)」
…そうとだけ言うと、彼はそのまま僕たちの前から姿を消していった。僕はとっさに滝本さんの方に視線を移すが、彼も彼で一体何が起きているのか理解できていない様子だった。
「(…どういう、ことだろう…?金田さんは、見逃してくれた、のか…?)」
金田さんの意図は分からない。そんな証明などできるはずがないと心の中に確信しているからそう言ったのか、それともなにか別の理由があったのか…。
けれど、それを気にして立ち止まっている時間は僕たちにはない。僕は滝本さんが手に持っていた秘密ファイルを借りると、その中身を机の上に広げ、ついにその内容に目を通す。
…そこには、僕たちが追い求めていたあらゆる真実が克明に記載されていたのだった…。
同じ思いを共有する者として、僕には滝本さんの思が痛いほど伝わってきた。
だからこそ、それに対する僕の答えは決まっている。
「僕を信じてください。必ず、新薬の開発を成し遂げて見せます」
――――
滝本さんは僕を連れて歩き始めると、慣れた足取りである部屋の前へと僕をいざなった。その場所の見た目はまさに普通の会議室。カギだってかかっていない。
「…こ、こんなわかりやすいところに秘密資料が?」
やや驚きを隠せない僕に対し、滝本さんはやや笑みを浮かべながら答えた。
「鍵がある場所や大掛かりな金庫にしまったら、分かりやすくてたまったものじゃないでしょう?本当に隠したい情報や資料というものは、得てして”足元”に隠されているものですよ」
滝本さんはそう言うと、部屋の扉を開けて部屋の中へと入っていく。僕もまたそんな滝本さんの後に続いて、部屋の中に足を踏み入れた。
「…これは…まるでゴミ捨て場のようですね…」
部屋の中は、それはそれは驚くほど資料の山で散乱していた。時々テレビの特集で見かけるような、ゴミ屋敷そのものの光景がそこには広がっていた。
「木を隠すなら森の中、とはよく言ったものです」
「え、えぇ…」
床に散乱する資料をかき分けながら、滝本さんは足をゆっくりと進めていく。部屋自体はそこまで大きくないものの、こうして足場が悪いと一歩進むのにも一苦労だ。
様々な資料が保管されているファイルや段ボール、それらをひとつひとつ丁寧にどかしていき、滝本さんはついに目的の物を見つけ出した様子だった。
「…隠し場所は、私がここにいた時から変わっていないようですね…」
滝本さんはぼそっと一言、そうつぶやいた。…であるなら、この資料をここに隠し、その管理を任されていたのは滝本さんだったのだろう。
滝本さんは僕に向け、一冊のファイルを差し出してきた。そして真剣なまなざしで僕の事を見つめながら、こう言った。
「ここには、黒田さんがひた隠しにしてきたことのすべてが書かれているはずです。ただ…」
「…ただ?」
「…信じていただけないかもしれませんが、実は私はこの中身を見たことは一度もないのです…」
「…それは、どうして?」
僕が投げかけた疑問に対し、滝本さんはやや自嘲気味に答えた。
「…勇気が、でなかった。この中を見てしまったら、私はもう二度と立ち上がることができなくなるような気がしていた…」
知ってしまったら、無知の人間に戻ることはできない。知らなければどれほどよかったことか、と思うことは、誰にだってある経験だろう。
「…しかし、そんな弱気な私とはもうお別れをしなければいけません。私はあなたとともに戦うと、確かに誓」
「おい、ここでなにしてる」
「「っ!?!?」」
…突然現れた第三の人物により、滝本さんの言葉は途中で遮られてしまう。
「…社外の人間がこんなところでかくれんぼか?ずいぶんと幼稚だな」
…一歩、また一歩と僕たちの前に近づいてくるその人物は、ついさっき黒田さんと話していた時、その横に控えていた金田さんだった。
「…滝本、なんのつもりだ?」
金田さんは滝本さんを目で見据え、低い声でそう言った。
「…金田さん、もう隠し通すのは無理ですよ。あなただってご存じなのでしょう?黒田さんがとんでもない秘密を抱えているという事を」
「そんなものは存在しない。リースリル製薬は世界に誇るクリーンな会社であり、反省するべき秘密など一切ありはしない。お前の言っていることはすべてでたらめだ」
滝本さんの言葉に対し、金田さんは堂々とそう言ってのけた。…けれど、僕にだって到底その言葉を受け入れることはできなかった。
「…金田さん、さっき黒田さんが言った言葉、あなたにも聞こえていたのでしょう?」
「……」
「…僕たちの最愛の人の事を、耳の聞こえない役立たずだの、出来損ないだのと…。それはもう、自分の耳を疑うほどの言葉を言っていました。…世界に誇るクリーンな会社の幹部職の人間が言う事とは、とても思えない…」
「……」
「しかも、それだけじゃない。僕たちが調べたところ、この会社には」
「なら!」
…それまで僕の言葉に対して黙っていた金田さんが、突然大きな声を発した。そして彼はこう言葉を続けた。
「…なら、それを証明してみせろ、高野つかさ」
「(…?)」
…そうとだけ言うと、彼はそのまま僕たちの前から姿を消していった。僕はとっさに滝本さんの方に視線を移すが、彼も彼で一体何が起きているのか理解できていない様子だった。
「(…どういう、ことだろう…?金田さんは、見逃してくれた、のか…?)」
金田さんの意図は分からない。そんな証明などできるはずがないと心の中に確信しているからそう言ったのか、それともなにか別の理由があったのか…。
けれど、それを気にして立ち止まっている時間は僕たちにはない。僕は滝本さんが手に持っていた秘密ファイルを借りると、その中身を机の上に広げ、ついにその内容に目を通す。
…そこには、僕たちが追い求めていたあらゆる真実が克明に記載されていたのだった…。
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