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第15話
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ノーティス第二王子がその胸を大いに躍らせていたその一方、どこかそんな王子の態度に不信感を抱いていた男が一人…。
「…なにかおかしいな…。聖獣の存在を突き止め、それを報告したのは俺のはずなのに…」
聖獣の一件をもって、ノーティスは自分の事をこれまで以上に気に入ったに違いないと踏んでいたカサル。
…しかし最近の自分に対するノーティスの態度や雰囲気は、そうとは感じさせないものばかりだった。
「…気に入られているどころか、むしろ煙たがられているような雰囲気さえ感じる…。いったい何がどうなっているんだ…」
カサルは小さな声でそうつぶやきながら、自室の椅子に腰かけ、机に顔を伏せる。
普段よりも重く感じる頭を手で支えながら、彼は心の中にこうつぶやいた。
「(…やはり、シュルツのやつがなにか動いているのか…?)」
自分とノーティスの関係が芳《かんば》しくない原因の一つに、カサルは心当たりがあった。
「(シュルツ…。最近使用人の長に任命されたのをいいことに、ノーティス様との距離を異常なほど縮めているらしいじゃないか…。まさかその過程で、俺に関するあることないことをノーティス様に吹き込んでいるんじゃ…)」
これまではカサルがその役割を担っていたのだが、シュルツの事を大層気に入ったノーティスは、その立場を逆転させるかのようにシュルツの事を自分の近くに置くようになり、その反動でカサルはあまり近くに置かれなくなっていた。
「(あいつ…。生まれも平民の生まれで、年齢だってまだ20歳の若造のくせに、一体どうやってノーティス様に取り入ったのか…)」
カサルの言った通り、シュルツは決して自身の血に恵まれたわけでも、経験を買われたわけでもなかった。
もともとは一人の使用人としてノーティスに使える大勢の者の中の一人にすぎなかったのだが、彼のどこか変わった性格をノーティスが気に入り、今に至っては使用人を束ねる立場になるほどに出世を果たしていた。
「(…このままあの若造の好きになどさせてなるものか…。せっかくエリッサがここからいなくなり、ようやく俺の時代を迎えられるというのに、こんな邪魔たてを…)」
カサルが心の中に怒りの言葉を漏らしたその時、彼の部屋の扉が数回ノックされた。
コンコンコン
「お父様、入りますね」
その声とともにカサルの前に姿を現したのは、二女のシーファだった。
「あ、あぁ、シーファ、どうした?何か用か?」
ついさきほどまでシュルツに対する怒りの感情を心の中に煮えたぎらせていたカサルは、完全に気持ちを切り替えることができず、どこか言葉がたどたどしくなってしまう。
しかしシーファはそんなこと気にせず、むしろどこかシーファの方が神妙な表情を浮かべ、こう言葉を返した。
「…お父様、実はサテラお姉さまの事で、お話したいことが…」
「…?」
シーファが何を言うつもりなのか、全く見当もついていない様子のカサル。
彼はそのまま黙ってシーファの言葉を待つこととし、それ以上の言葉を発しはしなかった。
「…お父様、王宮の使用人の方々を束ねられている、シュルツ様と言う方をご存じですか?」
「(っ!?)」
…まさかシーファの口からその名が出るとは思ってもいなかったカサルは、心の中の驚きを全く隠せなかった。
まるで狙ったかのようなタイミングの良さに、彼はどこか動揺さえしているように感じられる。
「あ、あぁ…。知っているが、その男とサテラがなんだというんだ?」
自分の心を落ち着かせるかのようにカサルはそう言ったものの、それに対するシーファの答えを聞いて彼はその心をより驚愕させる…。
「実はサテラお姉様、シュルツ様の事を慕われているようなのです…」
「なっ!?!?!?」
…その言葉は、シュルツを憎むカサルにとって最も聞きたくないものであった。
もはやその全身で驚きを表現するカサルだったが、シーファはそんなカサルの姿をすでに予想していた様子だった。
シーファは口調をそれまでと変わらない冷静なままで、こう言葉を続けた。
「…最近、サテラお姉さまはシュルツ様の事ばかりを気にかけておられるのです。口を開けばシュルツ様の話ばかりされますし、その視線を追ってみた先にはシュルツ様の姿が必ず…。別にお姉さまが誰を好きになろうとも私には関係のないことですが、なんだか私はシュルツ様には嫌な予感を感じていて…。それでお父様に相談を、と…」
「そ、そうか…!シーファもそう思うか…!」
サテラはともかくの事、シーファは自分と同じ思いを抱いてくれている。
その事実はカサルの中で深い意味を持ち、二人の姉妹に対する印象を大きく変えるものとなる…。
「(シーファはこんなにも人間が見えているというのに、サテラの奴め…)」
そしてその一方、カサルが自分になびいたであろうことを感じ取ったシーファは、その心の中にでこうつぶやく…。
「(…サテラお姉様、次にここからいなくなるべきなのはあなたなのですよ…♪)」
…エリッサの事を敵視するという限定的な条件の元、固まっていた家族の絆。
それが崩壊しつつある今、彼女たちの関係もまた終わりに向かいつつあるのだった…。
「…なにかおかしいな…。聖獣の存在を突き止め、それを報告したのは俺のはずなのに…」
聖獣の一件をもって、ノーティスは自分の事をこれまで以上に気に入ったに違いないと踏んでいたカサル。
…しかし最近の自分に対するノーティスの態度や雰囲気は、そうとは感じさせないものばかりだった。
「…気に入られているどころか、むしろ煙たがられているような雰囲気さえ感じる…。いったい何がどうなっているんだ…」
カサルは小さな声でそうつぶやきながら、自室の椅子に腰かけ、机に顔を伏せる。
普段よりも重く感じる頭を手で支えながら、彼は心の中にこうつぶやいた。
「(…やはり、シュルツのやつがなにか動いているのか…?)」
自分とノーティスの関係が芳《かんば》しくない原因の一つに、カサルは心当たりがあった。
「(シュルツ…。最近使用人の長に任命されたのをいいことに、ノーティス様との距離を異常なほど縮めているらしいじゃないか…。まさかその過程で、俺に関するあることないことをノーティス様に吹き込んでいるんじゃ…)」
これまではカサルがその役割を担っていたのだが、シュルツの事を大層気に入ったノーティスは、その立場を逆転させるかのようにシュルツの事を自分の近くに置くようになり、その反動でカサルはあまり近くに置かれなくなっていた。
「(あいつ…。生まれも平民の生まれで、年齢だってまだ20歳の若造のくせに、一体どうやってノーティス様に取り入ったのか…)」
カサルの言った通り、シュルツは決して自身の血に恵まれたわけでも、経験を買われたわけでもなかった。
もともとは一人の使用人としてノーティスに使える大勢の者の中の一人にすぎなかったのだが、彼のどこか変わった性格をノーティスが気に入り、今に至っては使用人を束ねる立場になるほどに出世を果たしていた。
「(…このままあの若造の好きになどさせてなるものか…。せっかくエリッサがここからいなくなり、ようやく俺の時代を迎えられるというのに、こんな邪魔たてを…)」
カサルが心の中に怒りの言葉を漏らしたその時、彼の部屋の扉が数回ノックされた。
コンコンコン
「お父様、入りますね」
その声とともにカサルの前に姿を現したのは、二女のシーファだった。
「あ、あぁ、シーファ、どうした?何か用か?」
ついさきほどまでシュルツに対する怒りの感情を心の中に煮えたぎらせていたカサルは、完全に気持ちを切り替えることができず、どこか言葉がたどたどしくなってしまう。
しかしシーファはそんなこと気にせず、むしろどこかシーファの方が神妙な表情を浮かべ、こう言葉を返した。
「…お父様、実はサテラお姉さまの事で、お話したいことが…」
「…?」
シーファが何を言うつもりなのか、全く見当もついていない様子のカサル。
彼はそのまま黙ってシーファの言葉を待つこととし、それ以上の言葉を発しはしなかった。
「…お父様、王宮の使用人の方々を束ねられている、シュルツ様と言う方をご存じですか?」
「(っ!?)」
…まさかシーファの口からその名が出るとは思ってもいなかったカサルは、心の中の驚きを全く隠せなかった。
まるで狙ったかのようなタイミングの良さに、彼はどこか動揺さえしているように感じられる。
「あ、あぁ…。知っているが、その男とサテラがなんだというんだ?」
自分の心を落ち着かせるかのようにカサルはそう言ったものの、それに対するシーファの答えを聞いて彼はその心をより驚愕させる…。
「実はサテラお姉様、シュルツ様の事を慕われているようなのです…」
「なっ!?!?!?」
…その言葉は、シュルツを憎むカサルにとって最も聞きたくないものであった。
もはやその全身で驚きを表現するカサルだったが、シーファはそんなカサルの姿をすでに予想していた様子だった。
シーファは口調をそれまでと変わらない冷静なままで、こう言葉を続けた。
「…最近、サテラお姉さまはシュルツ様の事ばかりを気にかけておられるのです。口を開けばシュルツ様の話ばかりされますし、その視線を追ってみた先にはシュルツ様の姿が必ず…。別にお姉さまが誰を好きになろうとも私には関係のないことですが、なんだか私はシュルツ様には嫌な予感を感じていて…。それでお父様に相談を、と…」
「そ、そうか…!シーファもそう思うか…!」
サテラはともかくの事、シーファは自分と同じ思いを抱いてくれている。
その事実はカサルの中で深い意味を持ち、二人の姉妹に対する印象を大きく変えるものとなる…。
「(シーファはこんなにも人間が見えているというのに、サテラの奴め…)」
そしてその一方、カサルが自分になびいたであろうことを感じ取ったシーファは、その心の中にでこうつぶやく…。
「(…サテラお姉様、次にここからいなくなるべきなのはあなたなのですよ…♪)」
…エリッサの事を敵視するという限定的な条件の元、固まっていた家族の絆。
それが崩壊しつつある今、彼女たちの関係もまた終わりに向かいつつあるのだった…。
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