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第13話
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カサルからの報告を聞き終えたノーティスは、彼を部屋から下がらせると、1人で今後の事について考え始めていた。
今後の展望を想像するその場にカサルを残さなかったということは、つまりそういうことである。
「(さて、聖獣と思わしき存在が見つかったのはいいが、これからどうするべきか…?)」
いくら自分が王子であり、いずれは聖獣を従える運命にあるとはいっても、強引な形でエリッサから聖獣を奪ったのでは、この国に住まう人々からいらぬ誤解を持たれる可能性がある。
自分を大いに愛しているノーティスは、周囲から妙な目で見られることを非常に案じていたのだった。
「(…とはいっても、聖獣をよこせと言って簡単に渡してくれるほどエリッサも馬鹿ではなかろう。なにかうまい手立てを考えなければ…)」
ノーティスはゆっくりとそれまで腰かけていた椅子から立ち上がると、窓を開けて外の空気を部屋の中に取り込んだ。
カサルからの知らせを聞いて興奮しきっていた体が、外から流れ込んでくる風によって冷やされ、脳内もだんだんと冷静さを取り戻していく。
「(それにしても、まさかエリッサが聖獣になつかれているとは…。どんな役立たずでも、何か一つくらいは才能があるというものだな)」
エリッサが周囲の人々に不幸をもたらすという話は、もともとは彼女の両親が言い始めた事ではある。
しかしその話がどんどんと大きくなって広まってしまった結果、自分たちの周りの都合の悪い出来事はすべてエリッサのせいにするという風潮が出来上がっていってしまった。
ノーティスもまたその風潮の完成を助長させたものの一人であり、第二王子である自分の失態であったとしても、すべての原因をエリッサに押し付けることで自分の責任から逃れていた。
「(エリッサのやつ、今までさんざん迫害の限りを尽くしてきてやったからな…。おそらく今頃は一人で……?)」
…その時だった。
ノーティスの脳裏に、逆転の発想ともいえる一つのアイディアが沸き上がった。
「(…そうか、あいつは家族から全く愛情をかけられず、第二王子であるこの私ともいい関係を築くことができなかった。あいつとて一人の女、その心の中では第二王子であるこの私との良好な関係、さらに言えば婚約関係をも願っていたことだろう。事実、あいつの姉妹二人は私と結ばれることを願っているのだ。あいつだって内心では間違いなく同じことを想っているはず…)」
第二王子という立場を持つ自分に、好意を抱かない女性などいるはずがない。
彼の思考の根源はそこにあった。
「(しかし、それが叶わない夢と気づいてあいつは家出をしたのだろう。…であるならその内心は、今頃大きく傷心しているに違いない。本当は結ばれたいと思っているこの私との関係が、実現不能な未来だと悟ったからだ。…しかしそれが、今になって実現できるとしたらあいつはどう思う?もしも私の方から向こうに婚約も申し入れを行ったのなら、泣いて喜ぶのではないか??そして気を良くし、聖獣ともども私のもとまで来るのではないか??)」
そう考察する彼は、時間とともにその表情にじわじわと不敵な笑みを浮かべていった。
「(ククク、そうなれば後はこちらのもの。これまでと同じく、適当な理由をつけてエリッサに罪を着せ、そのままあいつには再退場してもらう。そしてエリッサに失望した聖獣はあいつを見捨て、王であるこの私に付き従うことだろう…!これ以上ない完璧な計画ではないか!)」
自ら家出に追い込んだともいえるエリッサを、あえてもう一度自分のもとに呼び戻す。
彼女は心の内でそれを望んでいて、自分はそれをかなえてやる。
そして目的を果たした段階で再び現実を突きつけ、聖獣だけを手に入れてエリッサの事は永久追放とする。
…ある意味逆転的ともいえるその発想は、ノーティスの心を大いに高ぶらせた。
「(…一度エリッサに夢を見せて、その後再び地獄に突き落とす…。望まれずに生まれてきた女にはふさわしい罰であろう。…想像しただけでも楽しみで仕方がない…!最後の瞬間、あの女はいったいどんな絶望の表情を見せてくれるというのか…!)」
ノーティスは窓を開けっぱなしにしたまま、自身の机の上に置かれた聖獣に関する記録書を開く。
そこに描かれた聖獣のイラストを目にしながら、心の中でこうつぶやいた。
「(…聖獣よ、待っていろよ。もうすぐ第二王子であるこの私が直々に迎えに行ってやろう。お前とて、いつまでもそんな女のそばにいるのは嫌で嫌で仕方がないだろう?)」
レグルスがエリッサを心の底から慕っていることなどつゆ知らず、ノーティスは自分にも聖獣を従えられるに違いないと信じて疑ってない。
「(さて、そうと決まればさっそく詳細な計画を立てるとしよう。カサル……はもう用済み候補だな…。ここから先は使用人の長であるシュルツに任せることとしよう。…さぁ、聖獣の力で私が真の王となるのはもうすぐだ…♪)」
エリッサの気持ちなど全く考えず、自分の思いのままに計画を練り始めるノーティス。
…エリッサを軽んじ、かつ大きな欲望に満ちた彼の心は、エリッサを愛するレグルスからは大いに敵視される要素であるとも知らず…。
今後の展望を想像するその場にカサルを残さなかったということは、つまりそういうことである。
「(さて、聖獣と思わしき存在が見つかったのはいいが、これからどうするべきか…?)」
いくら自分が王子であり、いずれは聖獣を従える運命にあるとはいっても、強引な形でエリッサから聖獣を奪ったのでは、この国に住まう人々からいらぬ誤解を持たれる可能性がある。
自分を大いに愛しているノーティスは、周囲から妙な目で見られることを非常に案じていたのだった。
「(…とはいっても、聖獣をよこせと言って簡単に渡してくれるほどエリッサも馬鹿ではなかろう。なにかうまい手立てを考えなければ…)」
ノーティスはゆっくりとそれまで腰かけていた椅子から立ち上がると、窓を開けて外の空気を部屋の中に取り込んだ。
カサルからの知らせを聞いて興奮しきっていた体が、外から流れ込んでくる風によって冷やされ、脳内もだんだんと冷静さを取り戻していく。
「(それにしても、まさかエリッサが聖獣になつかれているとは…。どんな役立たずでも、何か一つくらいは才能があるというものだな)」
エリッサが周囲の人々に不幸をもたらすという話は、もともとは彼女の両親が言い始めた事ではある。
しかしその話がどんどんと大きくなって広まってしまった結果、自分たちの周りの都合の悪い出来事はすべてエリッサのせいにするという風潮が出来上がっていってしまった。
ノーティスもまたその風潮の完成を助長させたものの一人であり、第二王子である自分の失態であったとしても、すべての原因をエリッサに押し付けることで自分の責任から逃れていた。
「(エリッサのやつ、今までさんざん迫害の限りを尽くしてきてやったからな…。おそらく今頃は一人で……?)」
…その時だった。
ノーティスの脳裏に、逆転の発想ともいえる一つのアイディアが沸き上がった。
「(…そうか、あいつは家族から全く愛情をかけられず、第二王子であるこの私ともいい関係を築くことができなかった。あいつとて一人の女、その心の中では第二王子であるこの私との良好な関係、さらに言えば婚約関係をも願っていたことだろう。事実、あいつの姉妹二人は私と結ばれることを願っているのだ。あいつだって内心では間違いなく同じことを想っているはず…)」
第二王子という立場を持つ自分に、好意を抱かない女性などいるはずがない。
彼の思考の根源はそこにあった。
「(しかし、それが叶わない夢と気づいてあいつは家出をしたのだろう。…であるならその内心は、今頃大きく傷心しているに違いない。本当は結ばれたいと思っているこの私との関係が、実現不能な未来だと悟ったからだ。…しかしそれが、今になって実現できるとしたらあいつはどう思う?もしも私の方から向こうに婚約も申し入れを行ったのなら、泣いて喜ぶのではないか??そして気を良くし、聖獣ともども私のもとまで来るのではないか??)」
そう考察する彼は、時間とともにその表情にじわじわと不敵な笑みを浮かべていった。
「(ククク、そうなれば後はこちらのもの。これまでと同じく、適当な理由をつけてエリッサに罪を着せ、そのままあいつには再退場してもらう。そしてエリッサに失望した聖獣はあいつを見捨て、王であるこの私に付き従うことだろう…!これ以上ない完璧な計画ではないか!)」
自ら家出に追い込んだともいえるエリッサを、あえてもう一度自分のもとに呼び戻す。
彼女は心の内でそれを望んでいて、自分はそれをかなえてやる。
そして目的を果たした段階で再び現実を突きつけ、聖獣だけを手に入れてエリッサの事は永久追放とする。
…ある意味逆転的ともいえるその発想は、ノーティスの心を大いに高ぶらせた。
「(…一度エリッサに夢を見せて、その後再び地獄に突き落とす…。望まれずに生まれてきた女にはふさわしい罰であろう。…想像しただけでも楽しみで仕方がない…!最後の瞬間、あの女はいったいどんな絶望の表情を見せてくれるというのか…!)」
ノーティスは窓を開けっぱなしにしたまま、自身の机の上に置かれた聖獣に関する記録書を開く。
そこに描かれた聖獣のイラストを目にしながら、心の中でこうつぶやいた。
「(…聖獣よ、待っていろよ。もうすぐ第二王子であるこの私が直々に迎えに行ってやろう。お前とて、いつまでもそんな女のそばにいるのは嫌で嫌で仕方がないだろう?)」
レグルスがエリッサを心の底から慕っていることなどつゆ知らず、ノーティスは自分にも聖獣を従えられるに違いないと信じて疑ってない。
「(さて、そうと決まればさっそく詳細な計画を立てるとしよう。カサル……はもう用済み候補だな…。ここから先は使用人の長であるシュルツに任せることとしよう。…さぁ、聖獣の力で私が真の王となるのはもうすぐだ…♪)」
エリッサの気持ちなど全く考えず、自分の思いのままに計画を練り始めるノーティス。
…エリッサを軽んじ、かつ大きな欲望に満ちた彼の心は、エリッサを愛するレグルスからは大いに敵視される要素であるとも知らず…。
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