5 / 6
第5話
しおりを挟む
グリスにとって最後ともいえる日、彼は非常にめずらしく直々に第一王宮に呼びだされた。
他でもない、彼の立場を今後永久に凍結するためである。
しかしグリス本人は、そんなことには全く気付いていない様子…。
「よしよし、エルクが直接僕を呼び出してきたということは、きっと今回の対立を手打ちにしたいという申し出だろう。なんだ、なら素直に最初からそう言えばいいものを。まぁ僕たち二人は腐っても兄弟なのだから、決して仲違いをしたいわけではないのだからな…♪」
通された部屋の中で一人、グリスはそう言葉をつぶやいている。
今日中に自分自身が王でなくなることなど全く知る由もないその姿は、一周回ってどこか哀れにさえ思えてくる…。
「グリス様、エルク様からお声がけがございました。一緒に来ていただけますか?」
「あぁ、分かった」
案内に訪れた使用人の言葉にそう答えると、グリスはそのままその後ろに付いていく。
広い王宮の廊下をしばらく歩いていき、いよいよエルクの待つ部屋の前まで到着する。
「それでは、私の方から挨拶を…」
「そんなものいらない。僕が直接会いに行く」
グリスは使用人の言葉を途中で遮ると、そのまま勝手に扉を開け放って部屋の中に足を踏み入れていく。
「エルク様、僕に話があるのでしょう?」
「グリス…。お前は本当にどこまでも…」
礼儀など微塵も感じさせないグリスの姿に、エルクは呆れを通り越して笑いさえ浮かべてみせる。
しかし、こうして足を引っ張られるのももうあと少しの間だけ。
そう心に思うことで、エルクは胸の中に湧き出る怒りの感情とうまく付き合っていた。
「まぁいい。今日はお前に言うべきことがあって来てもらった」
「聞かずともわかりますよ、僕が最近勢いを持っているから喧嘩をしたくないというお話なのでしょう?」
「………」
どこまでも自分本位な行動をとり続けるグリス。
エルクはそんなグリスに対し、速攻で王子としての立場のはく奪を宣告することはできたものの、あえてこのままグリスを泳がせてみることとした。
「僕がソフィアとの婚約関係を破棄したこと、やはりかなり気にされているのでしょう?それはそうですよね、だってエルク様はソフィアの事を好いていましたものね。でも残念、彼女が選んだのはエルク様ではなくこの僕だったのです。まぁしかし、僕にしてみれば彼女の魅力は僕が見込んだほどのものではありませんでしたから、こうして婚約破棄をすることになったのですけれどね」
「……」
「そして次がエミリー様でしょう?誰にだってわかりますよエルク様、彼女の事を僕に横取りされて面白くないのでしょう?でもそれは仕方がないことだとは思いませんか?だって向こうの方から僕の事を選んでくれているのですよ?それは裏を返せば、エルク様よりも僕の事をより魅力的な相手であると思ってくれているということでしょう?それを認められずにこうして僕の事を呼び出すことの方が、僕はかっこの悪い事ではないかなと思うのですよ」
「……」
どこからそれだけの自信が湧き出てくるのかはわからないものの、止めなければこのまま一生話を続けていきそうな雰囲気を発しているグリス。
エルクはさすがにもう飽きてきたのか、グリスに向けて本題に移るような仕草を見せた。
「じゃあ、そんなお前にここまで呼び出した本当の理由を話すことにしよう」
「まぁ、聞かずともわかりますが…」
「グリス、今日をもってお前は第二王子の座から降りてもらうことになった。その決定を伝える事だけが今日の要件だ。分かったならとっとと帰ってもらおうか」
「…は?」
「おっと、もうお前は第二王子ではなくなったから、第二王宮はもうすでにお前の者ではない。あそこには今後ソフィアと、ソフィアの事を良く理解している人物に入ってもらうことにしている」
「はぁぁ!?!?」
言われた言葉の一つたりとも聞き入れれない様子のグリス。
しかし、もうすでに彼に言い逃れをするだけの権利はなく、ただ宣告された罰を受け入れることした許されない。
「ちょっとまて!!そんなの横暴だ!!お前だけの意見でそんなことをできるはずが!」
「だからきちんと貴族会からの通知書を送っただろう。もうすでに全員がこの処罰に賛同してくれている。幸か不幸か、この決定に反対をしてくる人間は誰一人いなかったよ。お前の慕われなさがこれほどうれしかったことはないね」
「!?!?!?」
「ここまで嫌われる王子というのもめずらしい。大抵は誰か一人くらいは味方をする人間がいるのだが、お前に限れば全方から敵対視されていたようだ。…まぁ、もう第二王子でもなんでもないのだから関係のない話か」
今までは自分の方が一方的な振る舞いを繰り返してきたグリス。
しかし、最後の瞬間だけはこうしてエルクから一方的な言葉を告げられ、それに返す言葉などなにひとつ聞き入れられることはないのだった…。
他でもない、彼の立場を今後永久に凍結するためである。
しかしグリス本人は、そんなことには全く気付いていない様子…。
「よしよし、エルクが直接僕を呼び出してきたということは、きっと今回の対立を手打ちにしたいという申し出だろう。なんだ、なら素直に最初からそう言えばいいものを。まぁ僕たち二人は腐っても兄弟なのだから、決して仲違いをしたいわけではないのだからな…♪」
通された部屋の中で一人、グリスはそう言葉をつぶやいている。
今日中に自分自身が王でなくなることなど全く知る由もないその姿は、一周回ってどこか哀れにさえ思えてくる…。
「グリス様、エルク様からお声がけがございました。一緒に来ていただけますか?」
「あぁ、分かった」
案内に訪れた使用人の言葉にそう答えると、グリスはそのままその後ろに付いていく。
広い王宮の廊下をしばらく歩いていき、いよいよエルクの待つ部屋の前まで到着する。
「それでは、私の方から挨拶を…」
「そんなものいらない。僕が直接会いに行く」
グリスは使用人の言葉を途中で遮ると、そのまま勝手に扉を開け放って部屋の中に足を踏み入れていく。
「エルク様、僕に話があるのでしょう?」
「グリス…。お前は本当にどこまでも…」
礼儀など微塵も感じさせないグリスの姿に、エルクは呆れを通り越して笑いさえ浮かべてみせる。
しかし、こうして足を引っ張られるのももうあと少しの間だけ。
そう心に思うことで、エルクは胸の中に湧き出る怒りの感情とうまく付き合っていた。
「まぁいい。今日はお前に言うべきことがあって来てもらった」
「聞かずともわかりますよ、僕が最近勢いを持っているから喧嘩をしたくないというお話なのでしょう?」
「………」
どこまでも自分本位な行動をとり続けるグリス。
エルクはそんなグリスに対し、速攻で王子としての立場のはく奪を宣告することはできたものの、あえてこのままグリスを泳がせてみることとした。
「僕がソフィアとの婚約関係を破棄したこと、やはりかなり気にされているのでしょう?それはそうですよね、だってエルク様はソフィアの事を好いていましたものね。でも残念、彼女が選んだのはエルク様ではなくこの僕だったのです。まぁしかし、僕にしてみれば彼女の魅力は僕が見込んだほどのものではありませんでしたから、こうして婚約破棄をすることになったのですけれどね」
「……」
「そして次がエミリー様でしょう?誰にだってわかりますよエルク様、彼女の事を僕に横取りされて面白くないのでしょう?でもそれは仕方がないことだとは思いませんか?だって向こうの方から僕の事を選んでくれているのですよ?それは裏を返せば、エルク様よりも僕の事をより魅力的な相手であると思ってくれているということでしょう?それを認められずにこうして僕の事を呼び出すことの方が、僕はかっこの悪い事ではないかなと思うのですよ」
「……」
どこからそれだけの自信が湧き出てくるのかはわからないものの、止めなければこのまま一生話を続けていきそうな雰囲気を発しているグリス。
エルクはさすがにもう飽きてきたのか、グリスに向けて本題に移るような仕草を見せた。
「じゃあ、そんなお前にここまで呼び出した本当の理由を話すことにしよう」
「まぁ、聞かずともわかりますが…」
「グリス、今日をもってお前は第二王子の座から降りてもらうことになった。その決定を伝える事だけが今日の要件だ。分かったならとっとと帰ってもらおうか」
「…は?」
「おっと、もうお前は第二王子ではなくなったから、第二王宮はもうすでにお前の者ではない。あそこには今後ソフィアと、ソフィアの事を良く理解している人物に入ってもらうことにしている」
「はぁぁ!?!?」
言われた言葉の一つたりとも聞き入れれない様子のグリス。
しかし、もうすでに彼に言い逃れをするだけの権利はなく、ただ宣告された罰を受け入れることした許されない。
「ちょっとまて!!そんなの横暴だ!!お前だけの意見でそんなことをできるはずが!」
「だからきちんと貴族会からの通知書を送っただろう。もうすでに全員がこの処罰に賛同してくれている。幸か不幸か、この決定に反対をしてくる人間は誰一人いなかったよ。お前の慕われなさがこれほどうれしかったことはないね」
「!?!?!?」
「ここまで嫌われる王子というのもめずらしい。大抵は誰か一人くらいは味方をする人間がいるのだが、お前に限れば全方から敵対視されていたようだ。…まぁ、もう第二王子でもなんでもないのだから関係のない話か」
今までは自分の方が一方的な振る舞いを繰り返してきたグリス。
しかし、最後の瞬間だけはこうしてエルクから一方的な言葉を告げられ、それに返す言葉などなにひとつ聞き入れられることはないのだった…。
78
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
完結まで執筆済み、毎日更新
もう少しだけお付き合いください
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
婚約者がいるのに、好きになってはいけない人を好きになりました。
桜百合
恋愛
アデール国の公爵令嬢ルーシーは、幼馴染のブライトと政略結婚のために婚約を結んだ。だがブライトは恋人らしい振る舞いをしてくれず、二人の関係は悪くなる一方であった。そんな中ルーシーの実家と対立関係にある公爵令息と出会い、ルーシーは恋に落ちる。
タイトル変更とRシーン追加でムーンライトノベルズ様でも掲載しております。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
カーテンコールは終わりましたので 〜舞台の上で輝く私はあなたの”元”婚約者。今更胸を高鳴らせても、もう終幕。私は女優として生きていく〜
しがわか
恋愛
大商会の娘シェリーは、王国第四王子と婚約をしていた。
しかし王子は貴族令嬢であるゼラに夢中で、シェリーはまともに話しかけることすらできない。
ある日、シェリーは王子とゼラがすでに爛れた関係であることを知る。
失意の中、向かったのは旅一座の公演だった。
そこで目にした演劇に心を動かされ、自分もそうなりたいと強く願っていく。
演劇団の主役である女神役の女性が失踪した時、シェリーの胸に火が着いた。
「私……やってみたい」
こうしてシェリーは主役として王子の前で女神役を演じることになる。
※お願い※
コンテスト用に書いた短編なのでこれはこれで完結していますが、需要がありそうなら連載させてください。
面白いと思って貰えたらお気に入りをして、ぜひ感想を教えて欲しいです。
ちなみに連載をするなら旅一座として旅先で公演する中で起こる出来事を書きます。
実はセイは…とか、商会の特殊性とか、ジャミルとの関係とか…書けたらいいなぁ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる