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第2話
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――エディン第一王子視点――
「言われた通り、サテラの事は婚約破棄してやったとも。これでよかったのかい?」
「ありがとうございますお兄様!これで私たちの邪魔をする者はどこにもいなくなりましたわ!」
甘々しい口調でそう言葉を発するのは、僕にとって最愛の存在である妹のユリアだ。
彼女ほど可愛らしく美しい女性を僕は知らない。
それゆえ、彼女の願う事であるなら僕はどんなことでも叶えてあげたくなってしまう。
「私、お姉様とはまったくやっていける気がしていなかったのです。もちろん、私だってお姉様と一緒に明るい未来を築いていきたいと思っていたのですよ?なのにお姉様は、私の言葉を完全に無視して自分の事しか考えていなくて…。もう私、どうにかなってしまいそうでしたわ…」
「そうか、そんなにもサテラは君の事を追い詰めていたのか…。全く、どこまでも身勝手な女だったな…」
サテラの我慢のできなさには、僕も呆れていたところだった。
彼女は僕によって守られることが当然かのように思っていたらしく、自分の事をねたんで嫌がらせをしてくる貴族女性がいるから助けてほしい、などと訴えてきたこともあった。
そんな事いちいちこの僕が関わるべきことではない、自分で何とかしろといったらそれはそれは暗い表情を浮かべていたな。
最初こそ容姿に惹かれて婚約関係を結ぶことを決めたわけだが、あれならもういてもいなくても変わらない、むしろいないほうが僕の心の安寧を保つためには良いのではないかと思えてきていた。
ユリアが僕に相談をしてきたのは、ちょうどそんな思いを僕が抱き始めていた時と重なっていた。
「ユリア、君はサテラからなにか嫌がらせを受けてはいなかったか?」
「もちろん、いろいろと受けていました!お姉様の性格の悪さは今までに見たことがないくらいひどいものだったので…」
「やはりそうか…。サテラの奴、ユリアをいじめることで自分のストレスを解消しようとしていたんだな…。全く、どこまでもレベルの低い事ばかり…」
僕はその光景を見たわけではないが、考えればおのずとわかる。
サテラはそういう事をやりかねない性格をしているのだ。
「だがもう安心だ。当のサテラはここからいなくなったのだから、これ以上なににおびえることもない。僕ら兄妹の真実の愛を邪魔するものはいないのだから」
「はい、お兄様!」
ユリアが僕の手を取り、感謝の思いを表現してくれる。
僕はこの思いを受け取りたいがために、毎日を頑張ることが出来るのだ。
そのうれしさに心を浸していたその時、僕の部屋の扉が突然大きくノックされた。
コンコンコン!
「エディン様!!いらっしゃいますか!!」
この声は、騎士であるノドレーではないか。
僕の事を長らく支え続けてくれている片腕ともいうべき存在だ。
「ノドレーか、入れ」
僕がそう返事をするやいなや、ノドレーはやや冷静さを欠いたような様子で扉を開け、そのまま僕の前に現れる。
「エディン様、どうしてサテラ様の事を追放なさるのですか!彼女はこれまであなた様に心血を注いで尽くしてきたというのに!」
ノドレーがどうしてそこまでサテラにこだわるのか、僕にはその理由が全く分からない。
そしてそれは僕だけでなくユリアも同じだったようで、彼女はノドレーの言葉に返事をすることなく自分の言葉を発し始める。
「ノドレー様!今日もお美しいお姿…!私、この後お茶会をしようと思っているのですけれど、ノドレー様もぜひご一緒にいかがですか!私、とびきり美味しい紅茶を用意しておりますの!ぜひノドレー様に召し上がっていただきたく思います!」
ノドレーの姿を見て非常にうれしそうな表情を浮かべるユリアの姿を見て、僕は若干心をチクリと刺されたような思いを感じる。
…そんなことはないと心の中では分かってはいるものの、考えずにはいられない。
まさか、ユリアは僕よりもこのノドレーの事の方が気に入っているのではないか、と…。
「申し訳ありませんユリア様、身に余る光栄であることは理解しているのですが、今日は少々多忙なのです」
「そうですか…。残念ですけれど、騎士様ともなると、私が好き勝手に拘束するわけにもいきませんものね…」
分かりやすく残念そうな表情を浮かべるユリア。
その表情は、たてまえで誘った誘いを断られた時に見せるものではなく、本心からの誘いを断られた時に浮かべるそれであるように僕には感じられた…。
「…ユリア、もしかして君は…」
「それよりもエディン様、サテラ様の事をお考え直しいただけませんか?このままではあまりに一方的でサテラ様が可愛そうでなりません」
「もうその話は終わったんだよノドレー。決まったことを覆すことはない。さぁ、話がそれだけだと言うのならさっさと持ち場に戻るんだ。いつまでも仕事をさぼっていいものではないぞ」
「……」
サテラの件に関して妙に食い下がってくるノドレーに一抹の不信感を抱きながらも、この時僕はそこまで深く考えてはいなかった。
…それが後に大きな事態に発展することになるとも知らず…。
「言われた通り、サテラの事は婚約破棄してやったとも。これでよかったのかい?」
「ありがとうございますお兄様!これで私たちの邪魔をする者はどこにもいなくなりましたわ!」
甘々しい口調でそう言葉を発するのは、僕にとって最愛の存在である妹のユリアだ。
彼女ほど可愛らしく美しい女性を僕は知らない。
それゆえ、彼女の願う事であるなら僕はどんなことでも叶えてあげたくなってしまう。
「私、お姉様とはまったくやっていける気がしていなかったのです。もちろん、私だってお姉様と一緒に明るい未来を築いていきたいと思っていたのですよ?なのにお姉様は、私の言葉を完全に無視して自分の事しか考えていなくて…。もう私、どうにかなってしまいそうでしたわ…」
「そうか、そんなにもサテラは君の事を追い詰めていたのか…。全く、どこまでも身勝手な女だったな…」
サテラの我慢のできなさには、僕も呆れていたところだった。
彼女は僕によって守られることが当然かのように思っていたらしく、自分の事をねたんで嫌がらせをしてくる貴族女性がいるから助けてほしい、などと訴えてきたこともあった。
そんな事いちいちこの僕が関わるべきことではない、自分で何とかしろといったらそれはそれは暗い表情を浮かべていたな。
最初こそ容姿に惹かれて婚約関係を結ぶことを決めたわけだが、あれならもういてもいなくても変わらない、むしろいないほうが僕の心の安寧を保つためには良いのではないかと思えてきていた。
ユリアが僕に相談をしてきたのは、ちょうどそんな思いを僕が抱き始めていた時と重なっていた。
「ユリア、君はサテラからなにか嫌がらせを受けてはいなかったか?」
「もちろん、いろいろと受けていました!お姉様の性格の悪さは今までに見たことがないくらいひどいものだったので…」
「やはりそうか…。サテラの奴、ユリアをいじめることで自分のストレスを解消しようとしていたんだな…。全く、どこまでもレベルの低い事ばかり…」
僕はその光景を見たわけではないが、考えればおのずとわかる。
サテラはそういう事をやりかねない性格をしているのだ。
「だがもう安心だ。当のサテラはここからいなくなったのだから、これ以上なににおびえることもない。僕ら兄妹の真実の愛を邪魔するものはいないのだから」
「はい、お兄様!」
ユリアが僕の手を取り、感謝の思いを表現してくれる。
僕はこの思いを受け取りたいがために、毎日を頑張ることが出来るのだ。
そのうれしさに心を浸していたその時、僕の部屋の扉が突然大きくノックされた。
コンコンコン!
「エディン様!!いらっしゃいますか!!」
この声は、騎士であるノドレーではないか。
僕の事を長らく支え続けてくれている片腕ともいうべき存在だ。
「ノドレーか、入れ」
僕がそう返事をするやいなや、ノドレーはやや冷静さを欠いたような様子で扉を開け、そのまま僕の前に現れる。
「エディン様、どうしてサテラ様の事を追放なさるのですか!彼女はこれまであなた様に心血を注いで尽くしてきたというのに!」
ノドレーがどうしてそこまでサテラにこだわるのか、僕にはその理由が全く分からない。
そしてそれは僕だけでなくユリアも同じだったようで、彼女はノドレーの言葉に返事をすることなく自分の言葉を発し始める。
「ノドレー様!今日もお美しいお姿…!私、この後お茶会をしようと思っているのですけれど、ノドレー様もぜひご一緒にいかがですか!私、とびきり美味しい紅茶を用意しておりますの!ぜひノドレー様に召し上がっていただきたく思います!」
ノドレーの姿を見て非常にうれしそうな表情を浮かべるユリアの姿を見て、僕は若干心をチクリと刺されたような思いを感じる。
…そんなことはないと心の中では分かってはいるものの、考えずにはいられない。
まさか、ユリアは僕よりもこのノドレーの事の方が気に入っているのではないか、と…。
「申し訳ありませんユリア様、身に余る光栄であることは理解しているのですが、今日は少々多忙なのです」
「そうですか…。残念ですけれど、騎士様ともなると、私が好き勝手に拘束するわけにもいきませんものね…」
分かりやすく残念そうな表情を浮かべるユリア。
その表情は、たてまえで誘った誘いを断られた時に見せるものではなく、本心からの誘いを断られた時に浮かべるそれであるように僕には感じられた…。
「…ユリア、もしかして君は…」
「それよりもエディン様、サテラ様の事をお考え直しいただけませんか?このままではあまりに一方的でサテラ様が可愛そうでなりません」
「もうその話は終わったんだよノドレー。決まったことを覆すことはない。さぁ、話がそれだけだと言うのならさっさと持ち場に戻るんだ。いつまでも仕事をさぼっていいものではないぞ」
「……」
サテラの件に関して妙に食い下がってくるノドレーに一抹の不信感を抱きながらも、この時僕はそこまで深く考えてはいなかった。
…それが後に大きな事態に発展することになるとも知らず…。
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