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第4話
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「フォ、フォーリッド様ではございませんか!?こ、このような場所に突然姿をお店になられるだなんて、一体何があったのですか!?」
「なぁに、可愛い可愛い最愛の娘とも言うべき存在が、相手方の男からぞんざいな扱いを受けたと聞いてな。到底納得などすることもできず、久々にこうしてこの場を訪れることとした次第」
「そ、そのような事が……」
フォーリッドはセシリアと話をした後、ある一人の旧友の元を訪れていた。
2人は現在、ともに王国の政治の舞台の一線からは退いている身ではあるものの、その影響力は互いに持ち続けている二人である。
「クライン、お前の元にはなにか話は来ていないのか?かつて貴族会を統括していた私の右腕として活躍していたお前ならば、いくらでも詳しい話を手に入れることはできるだろう?」
そう、このクラインはかつてフォーリッドの右腕として貴族たちを束ねる仕事のサポートを行っていたものである。
それゆえ、現在もなお貴族たちの動きに関してはこの上ないほどの情報を有しており、フォーリッドはそれを求めてクラインの元を訪れたのだった。
「相手方の男、といいますと、ノレッド伯爵の事で間違いはないですかね?最近婚約破棄を行ったという話が私の耳にも届いておりますので」
「さすがクライン。私が名前を上げずともその男が誰だかすぐにわかったか」
「正直なところ、最近の貴族会は伯爵様のお話でもちきりでございますからな…」
「もちきり?」
疑問の声を上げるフォーリッドに対し、クラインは自身が持つノレッドに関する情報を順番に提示していく。
「そもそもの婚約破棄の原因、というのも非常に馬鹿馬鹿しい話です。ノレッド伯爵様はそれまで女性とお付き合いをしたことがなかったそうで、セシリア様との関係が人生で初めての女性とのお付き合いだったと。彼は最初こそその関係を飛んで喜んだそうですが、次第に大きな勘違いをしていくようになったそうです」
「大きな勘違い?」
「はい。自分はこれまで本気を出していなかっただけで、本気を出せばもっと多くの女性たちから求婚されるものではないか、と…」
「…なるほど」
それを勘違いと言わずしてなんと言うのか。
フォーリッドはクラインの話を聞いて少しずつ婚約破棄の背景を理解していく。
「そこでノレッド様はいろいろな女性にアプローチをかけたそうです。そこで出てくるのが、たった今彼が婚約関係を築こうとしているルリアです。彼女はノレッドの商人欲求にうまく漬け込み、その心を完全に我が物にした様子」
「女性を利用して自分の欲望を満たそうとしたつもりが、逆に利用されてしまう結果となったわけか…。伯爵位の貴族ともあろう男が、なんと情けない…」
「セシリア様はそんなノレッド様の性格の危うさと、ルリア様の持つ危険性に気づいておられた様子。しかし盲目的にルリア様の事を愛してしまっているノレッド様はセシリア様の話に聞く耳を持たず、むしろその指摘に腹を立てて機嫌を損ね、最終的に婚約破棄を決断するに至ったと…」
「やれやれ……」
クラインから告げられた婚約破棄の顛末は、おおよそ自分が想像していたものと外れてはいなかった。
…この時、少しでも同情できるような要素をクラインから知らされていたなら、フォーリッドもノレッドに対する罰を少し考え改めようと思っていたものの、その気遣いも全く必要ないものとなった。
「他の貴族家のもの達も、伯爵様に関しては思うところがある様子です。しかし伯爵様は貴族家の中でも高い地位にありますから、皆大きな声ではなかなか言い出せないようなのです」
「やはりそうか。では仕方がない、我々が彼再び表舞台に出るしかないな」
元々最初からそのつもりであったフォーリッドに、考えの変化はない。
自分にとって可愛いくて仕方のない、本当の娘のように愛らしい存在であるセシリアをぞんざいに扱ったことに対する天罰を、これから与えるだけなのだから。
「フォーリッド様がそうされるのでしたら、当然私もお力添えをさせていただきますとも。今回の件を除いて考えたとしても、伯爵様には権力を濫用している様子が見受けられます。他の貴族家のもの達が迷惑している事実があるのですから、放っておくわけにもいきません。セシリア様の事も併せて考え、しかるべき報いを受けてもらうのは貴族として当然のことでございましょう」
クラインの意思もまたノレッドに同じく、固まっていた。
…かつての貴族会ツートップがノレッドに対して動き始めることが決した今、もはやここからノレッドが助かるすべはもうないものに思われる…。
今だルリアに夢中なままなノレッドがこの事に気づいた時どのような顔を見せるのか、二人が注目しているのはまさにその点だった…。
「なぁに、可愛い可愛い最愛の娘とも言うべき存在が、相手方の男からぞんざいな扱いを受けたと聞いてな。到底納得などすることもできず、久々にこうしてこの場を訪れることとした次第」
「そ、そのような事が……」
フォーリッドはセシリアと話をした後、ある一人の旧友の元を訪れていた。
2人は現在、ともに王国の政治の舞台の一線からは退いている身ではあるものの、その影響力は互いに持ち続けている二人である。
「クライン、お前の元にはなにか話は来ていないのか?かつて貴族会を統括していた私の右腕として活躍していたお前ならば、いくらでも詳しい話を手に入れることはできるだろう?」
そう、このクラインはかつてフォーリッドの右腕として貴族たちを束ねる仕事のサポートを行っていたものである。
それゆえ、現在もなお貴族たちの動きに関してはこの上ないほどの情報を有しており、フォーリッドはそれを求めてクラインの元を訪れたのだった。
「相手方の男、といいますと、ノレッド伯爵の事で間違いはないですかね?最近婚約破棄を行ったという話が私の耳にも届いておりますので」
「さすがクライン。私が名前を上げずともその男が誰だかすぐにわかったか」
「正直なところ、最近の貴族会は伯爵様のお話でもちきりでございますからな…」
「もちきり?」
疑問の声を上げるフォーリッドに対し、クラインは自身が持つノレッドに関する情報を順番に提示していく。
「そもそもの婚約破棄の原因、というのも非常に馬鹿馬鹿しい話です。ノレッド伯爵様はそれまで女性とお付き合いをしたことがなかったそうで、セシリア様との関係が人生で初めての女性とのお付き合いだったと。彼は最初こそその関係を飛んで喜んだそうですが、次第に大きな勘違いをしていくようになったそうです」
「大きな勘違い?」
「はい。自分はこれまで本気を出していなかっただけで、本気を出せばもっと多くの女性たちから求婚されるものではないか、と…」
「…なるほど」
それを勘違いと言わずしてなんと言うのか。
フォーリッドはクラインの話を聞いて少しずつ婚約破棄の背景を理解していく。
「そこでノレッド様はいろいろな女性にアプローチをかけたそうです。そこで出てくるのが、たった今彼が婚約関係を築こうとしているルリアです。彼女はノレッドの商人欲求にうまく漬け込み、その心を完全に我が物にした様子」
「女性を利用して自分の欲望を満たそうとしたつもりが、逆に利用されてしまう結果となったわけか…。伯爵位の貴族ともあろう男が、なんと情けない…」
「セシリア様はそんなノレッド様の性格の危うさと、ルリア様の持つ危険性に気づいておられた様子。しかし盲目的にルリア様の事を愛してしまっているノレッド様はセシリア様の話に聞く耳を持たず、むしろその指摘に腹を立てて機嫌を損ね、最終的に婚約破棄を決断するに至ったと…」
「やれやれ……」
クラインから告げられた婚約破棄の顛末は、おおよそ自分が想像していたものと外れてはいなかった。
…この時、少しでも同情できるような要素をクラインから知らされていたなら、フォーリッドもノレッドに対する罰を少し考え改めようと思っていたものの、その気遣いも全く必要ないものとなった。
「他の貴族家のもの達も、伯爵様に関しては思うところがある様子です。しかし伯爵様は貴族家の中でも高い地位にありますから、皆大きな声ではなかなか言い出せないようなのです」
「やはりそうか。では仕方がない、我々が彼再び表舞台に出るしかないな」
元々最初からそのつもりであったフォーリッドに、考えの変化はない。
自分にとって可愛いくて仕方のない、本当の娘のように愛らしい存在であるセシリアをぞんざいに扱ったことに対する天罰を、これから与えるだけなのだから。
「フォーリッド様がそうされるのでしたら、当然私もお力添えをさせていただきますとも。今回の件を除いて考えたとしても、伯爵様には権力を濫用している様子が見受けられます。他の貴族家のもの達が迷惑している事実があるのですから、放っておくわけにもいきません。セシリア様の事も併せて考え、しかるべき報いを受けてもらうのは貴族として当然のことでございましょう」
クラインの意思もまたノレッドに同じく、固まっていた。
…かつての貴族会ツートップがノレッドに対して動き始めることが決した今、もはやここからノレッドが助かるすべはもうないものに思われる…。
今だルリアに夢中なままなノレッドがこの事に気づいた時どのような顔を見せるのか、二人が注目しているのはまさにその点だった…。
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