3 / 6
第3話
しおりを挟む
――王宮内での会話――
…ノークがアルシアの事を婚約破棄してから、1週間ほどの時間が経過した。
ノークは自身が手に入れたリストをもとにして、かたっぱしから自分のしたためた手紙を送りつけて回っていた。
本人はそれこそが自分の運命を切り開き、アルシアのことを後悔させることが出来るに違いない計画だと信じて疑っていなかったものの、現実に起こっていることは彼の想定とは正反対のものであった…。
「…なぁ、最近気持ち悪い手紙が出回ってるって話、知ってるか?」
「あぁ、俺も聞いたよ。なんでも、位の高い貴族令嬢の所に届いてるって話じゃないか」
「嫌がらせのつもりなのかねぇ…」
「でも、手紙の中には自分と婚約を前提にした付き合いをしてくれって内容が書かれてるんだろ?嫌がらせにしたらまじめすぎるというか、だからかえって気持ちがわるいというか…」
王宮内部ではいろいろな人々が集まって噂話をはじめる。
そんな噂話の中心となっていたのが、ノークがいろいろな女性のもとに送り付けていた例の手紙だった。
「そもそも、誰が出したかもわかってないんだって?」
「そうなんだよ。差出人の名前が書かれていないらしい。だから最初は嫌がらを疑われたんだろうけれど…」
「そもそも、名前も書かないでなんで婚約ができるって思ってるんだ?馬鹿なのか?」
「手紙の内容曰く、本当に自分との婚約を結びたいと思ってくれている人は、約束の場所まで来てほしいと書かれているらしい。そこで初めて落ち合って、関係を始めるって算段なんじゃないのか?」
「なんか裏がありそうだなぁ…。ていうか、そんなんで本当に誰かと婚約ができると思っているのかねぇ…」
彼らのいぶかしげな表情はもっともだった。
そもそも、ノークは貴族令嬢たちの事を下に見すぎていたのだ。
位の高い家に生まれた貴族令嬢ならば、きっと箱入り娘に違いない。
過去に恋愛などしたことはないに違いない。
そんなところに、突然自分の将来の婚約者を名乗る男から手紙が届けられたなら、ときめかないはずがない。
ノークはそのような旧時代的な考えに支配され、それをそのまま行動に移してしまっていたのだった。
…それがかえって、自分の立場を苦しくすることになるとも知らず…。
――ある貴族令嬢の会話――
「お父様!!この手紙の送り主を突き止めて罰を与えて!!気分を害されて仕方がないわ!!」
一部からは悪役令嬢という分類をされている彼女。
その理由は、彼女の振る舞いは自分勝手極まりないものであるからだ。
…しかし、今回においては彼女の言葉にこそ利があった。
「いきなり気持ちの悪い言葉をささやきかけてくるだなんて、気持ち悪い以外の感想が出てきませんわ!!」
「や、やはりこの手紙か…。噂は王宮で何度か耳にしたことがあるが、現実にあるんだな…」
「お父様、これって完全に私たちの事を下に見ている証拠です!!だからこんななめ腐った言葉で私たちの事を手にできると思っているんです!!そんな不埒な人間には、しかるべき天罰を与えなければならないでしょう!!貴族家とはそういうものではありませんか!!」
荒々しい口調でそう言葉を発する彼女。
そこには、大げさな思いなど一切なく心の底からその手紙の内容を嫌悪している気持ちが見て取れた。
「分かった、なんとか手紙の送り主を特定して罰してやろうじゃないか。私とて、娘の事をこんな軽い思いで見てくる男の存在は受け入れがたい。…それに、他の貴族家たちも被害に遭っているというのなら、その点から貴族たちを束ねることができるかもしれないな…」
「お父様?何の話ですか?」
「いやいや、こっちの話だとも」
ノークの手紙から始まった一件が、日に日に大きな事態を招いていってしまっていることはもはや明白だった。
もっとも、本人がその事を危機感に思えるかどうかは別の話であるが…。
「…それにしても、本当にこんな内容でこちらの気が引けると思っているのかしら?本気でそう思っているのなら、今までどんなむなしい人生を歩んできたのかしら?きっと誰からも愛されることはなくって、勘違いしてきただけの人生なのでしょうねぇ…。そう思ったらいっそのこと哀れに思えてきたわ…」
「まぁ心配はいらないとも。この件はかならず君に代わってこの私が決着をつけよう」
「あぁお父様、正体がわかったらどこの誰だったかを一番に私に知らせてくださいね?私からも文句の一つ言っておかないと気が済まないので」
「よしよし、分かった。君がそう言うのならそうしよう」
この会話はこの貴族家だけのものではあるが、似たような内容の会話が繰り広げられていた。
…そしてこの事に関しても、ノークは自分の影響力が大きくなっているのだと喜んでいるものの、現実は正反対であるという事を受け入れずにいるのだった…。
…ノークがアルシアの事を婚約破棄してから、1週間ほどの時間が経過した。
ノークは自身が手に入れたリストをもとにして、かたっぱしから自分のしたためた手紙を送りつけて回っていた。
本人はそれこそが自分の運命を切り開き、アルシアのことを後悔させることが出来るに違いない計画だと信じて疑っていなかったものの、現実に起こっていることは彼の想定とは正反対のものであった…。
「…なぁ、最近気持ち悪い手紙が出回ってるって話、知ってるか?」
「あぁ、俺も聞いたよ。なんでも、位の高い貴族令嬢の所に届いてるって話じゃないか」
「嫌がらせのつもりなのかねぇ…」
「でも、手紙の中には自分と婚約を前提にした付き合いをしてくれって内容が書かれてるんだろ?嫌がらせにしたらまじめすぎるというか、だからかえって気持ちがわるいというか…」
王宮内部ではいろいろな人々が集まって噂話をはじめる。
そんな噂話の中心となっていたのが、ノークがいろいろな女性のもとに送り付けていた例の手紙だった。
「そもそも、誰が出したかもわかってないんだって?」
「そうなんだよ。差出人の名前が書かれていないらしい。だから最初は嫌がらを疑われたんだろうけれど…」
「そもそも、名前も書かないでなんで婚約ができるって思ってるんだ?馬鹿なのか?」
「手紙の内容曰く、本当に自分との婚約を結びたいと思ってくれている人は、約束の場所まで来てほしいと書かれているらしい。そこで初めて落ち合って、関係を始めるって算段なんじゃないのか?」
「なんか裏がありそうだなぁ…。ていうか、そんなんで本当に誰かと婚約ができると思っているのかねぇ…」
彼らのいぶかしげな表情はもっともだった。
そもそも、ノークは貴族令嬢たちの事を下に見すぎていたのだ。
位の高い家に生まれた貴族令嬢ならば、きっと箱入り娘に違いない。
過去に恋愛などしたことはないに違いない。
そんなところに、突然自分の将来の婚約者を名乗る男から手紙が届けられたなら、ときめかないはずがない。
ノークはそのような旧時代的な考えに支配され、それをそのまま行動に移してしまっていたのだった。
…それがかえって、自分の立場を苦しくすることになるとも知らず…。
――ある貴族令嬢の会話――
「お父様!!この手紙の送り主を突き止めて罰を与えて!!気分を害されて仕方がないわ!!」
一部からは悪役令嬢という分類をされている彼女。
その理由は、彼女の振る舞いは自分勝手極まりないものであるからだ。
…しかし、今回においては彼女の言葉にこそ利があった。
「いきなり気持ちの悪い言葉をささやきかけてくるだなんて、気持ち悪い以外の感想が出てきませんわ!!」
「や、やはりこの手紙か…。噂は王宮で何度か耳にしたことがあるが、現実にあるんだな…」
「お父様、これって完全に私たちの事を下に見ている証拠です!!だからこんななめ腐った言葉で私たちの事を手にできると思っているんです!!そんな不埒な人間には、しかるべき天罰を与えなければならないでしょう!!貴族家とはそういうものではありませんか!!」
荒々しい口調でそう言葉を発する彼女。
そこには、大げさな思いなど一切なく心の底からその手紙の内容を嫌悪している気持ちが見て取れた。
「分かった、なんとか手紙の送り主を特定して罰してやろうじゃないか。私とて、娘の事をこんな軽い思いで見てくる男の存在は受け入れがたい。…それに、他の貴族家たちも被害に遭っているというのなら、その点から貴族たちを束ねることができるかもしれないな…」
「お父様?何の話ですか?」
「いやいや、こっちの話だとも」
ノークの手紙から始まった一件が、日に日に大きな事態を招いていってしまっていることはもはや明白だった。
もっとも、本人がその事を危機感に思えるかどうかは別の話であるが…。
「…それにしても、本当にこんな内容でこちらの気が引けると思っているのかしら?本気でそう思っているのなら、今までどんなむなしい人生を歩んできたのかしら?きっと誰からも愛されることはなくって、勘違いしてきただけの人生なのでしょうねぇ…。そう思ったらいっそのこと哀れに思えてきたわ…」
「まぁ心配はいらないとも。この件はかならず君に代わってこの私が決着をつけよう」
「あぁお父様、正体がわかったらどこの誰だったかを一番に私に知らせてくださいね?私からも文句の一つ言っておかないと気が済まないので」
「よしよし、分かった。君がそう言うのならそうしよう」
この会話はこの貴族家だけのものではあるが、似たような内容の会話が繰り広げられていた。
…そしてこの事に関しても、ノークは自分の影響力が大きくなっているのだと喜んでいるものの、現実は正反対であるという事を受け入れずにいるのだった…。
146
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
婚約者から婚約破棄のお話がありました。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね」女主人公視点の語り口で話は進みます。*世界観や設定はふわっとしてます。*何番煎じ、よくあるざまぁ話で、書きたいとこだけ書きました。*カクヨム様にも投稿しています。*前編と後編で完結。
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています
マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」
「そ、そんな……!」
伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。
リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。
その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。
婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。
百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。
半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。
のだけど、ちょっと問題が……
「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」
「おかしいわよね、お母様!」
「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」
「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」
という具合に、めんどくさい家族が。
「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」
「よく、言い聞かせてね」
私たちは気が合うし、仲もいいんだけど……
「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」
この婚約、どうなっちゃうの?
【短編】側室は婚約破棄の末、国外追放されることになりました。
五月ふう
恋愛
「私ね、サイラス王子の
婚約者になるの!
王妃様になってこの国を守るの!」
「それなら、俺は騎士になるよ!
そんで、ラーニャ守る!」
幼馴染のアイザイアは言った。
「そしたら、
二人で国を守れるね!」
10年前のあの日、
私はアイザイアと約束をした。
その時はまだ、
王子の婚約者になった私が
苦難にまみれた人生をたどるなんて
想像すらしていなかった。
「サイラス王子!!
ラーニャを隣国フロイドの王子に
人質というのは本当か?!」
「ああ、本当だよ。
アイザイア。
私はラーニャとの婚約を破棄する。
代わりにラーニャは
フロイド国王子リンドルに
人質にだす。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる