10 / 17
第10話
しおりを挟む
この日、エリスはある人物と会う約束をしていた。
リーウェルとの婚約をマリンから告げられる以前、エリスはこの日の訪れを非常に楽しみにしていたのだったが、今の彼女はあまり今日の訪れをうれしくは思っていなかった。
なぜなら、今の彼女は婚約者となってしまった身。
彼女はその事を今から、自身が最も心から慕う相手に伝えなければならないのだから…。
――――
自由奔放な性格のクライスは、今日帰ってくるまで外国でイラストを描いて回っているのだという。
そんな彼との約束の場所は、二人の思い出の場所でもあった。
「(クライス、自由な性格だから今日会う約束を忘れちゃったりしてないか心配…)」
その場所は、二人が最初のデートを行った記念の場所。
人気の少ない小高い丘の上でありながら、王都全体を見渡せるほど景色のいい場所であり、デートの穴場スポットして一部の恋人たちに知られている場所だった。
エリスはあの日と同じように、その場所にピクニック用のシートを敷いてその上に腰を下ろすと、あの日と同じように手作りのお弁当をその上に取り出し、クライスの到着を待った。
――あの日――
それは、二人にとって初めてのデート。
それは、ロマンも何もない最悪ともいえる出会い方をした二人の、奇妙な運命によって実現した二人きりのピクニック。
社交界で再会を果たしたクライスとエリスは、その別れ際にこう言葉を交わしていた。
「一週間後の12時に、王都の西側にあるヒューレット丘の上に来てほしい」
「な、なんで…?私別にそこに興味はないし…。行きたいなら一人で勝手に……ひゃ!!!」
ベッドの上で横になり、クライスの事は横目に見ていたエリス。
彼女はさきほどクライスにからかわれたことが悔しいのか、少しいじけた様子で口をとがらせてそう言葉を返した。
そんなエリスの言葉を聞いたクライスは、その身を乗り出して突然にエリスの頭を軽くつかんでその頭をくるっと回転させ、自分の事がよく見える位置まで彼女の頭を動かした。
すると結果的に、二人は非常に近い位置までそれぞれの顔を近づける態勢となり、鼻と鼻がくっついてしまいそうなほどの距離をその目で理解したエリスは再び声を上げてしまった。
「必ず来い。いいな?」
「う……」
その場でははっきりとした返事をしなかったエリスだったものの、当日を迎えるまでの1週間、彼女はその心の中を常にそわそわとさせており、片時もクライスの事がその頭から離れることはなかった。
それゆえ、結局エリスはそのまま約束の時間、約束の場所に向かうことに決め、二人の初デートは実現することとなったのだった。
「本当に来てるのかしら…。召し使いに買い物だって嘘をついてここまで送ってもらったのに、クライスがもしもここに来なかったら、今度こそもう二度と話なんてしないんだから…」
あまり乗り気でない雰囲気を醸し出しながらも、きちんと約束の場所を訪れたエリス。
自分のほかに人影もなく、それでいて初めて訪れる場所であるために、彼女の心の中にはそわそわとした感情が沸き起こっていた。
しかしその感情はいらぬ心配であったことを、彼女はすぐに理解する。
「(ほ、ほんとにいた……)」
丘の上にたどり着いたエリスの視線の先にいたのは他でもない、クライス本人だった。
彼は草原の上で直に腰を下ろし、スケッチブックを広げながら王都の景色を見つめ、それをイラストとしてその手で書き上げている最中だった。
…その表情は真剣そのもので、社交界で会った時の子どもっぽさやいたずらっ子のような雰囲気は完全に鳴りを潜め、目の前の景色をかき上げることに集中していた。
エリスは足音を殺し、そーーっとクライスの背後に近づいていく。
完全にイラストの描き上げに集中しきっているクライスにとって、そんなエリスの接近を察知を発見することは絶望的なほど至難の業と言えた。
エリスはそのままクライスの真後ろまで接近することに成功し、クライスの背中越しに、彼が経った今夢中で描いているイラストを見ることに成功する。
「きれい…!」
「どわっ!!!!!」
「あ」
そのイラストは非常に繊細で丁寧に描かれており、まさに美しいと形容するにふさわし仕上がり具合だった。
それをクラインの真後ろで見て取ったエリスはそのまま素直な気持ちを言葉にしてしまう。
それはクライスから見れば、いきなり自分の真後ろから人間の声が聞こえてきたという経験になり、彼はこれまでに経験したことのないような驚きようを見せた。
「おどろかすなよ!!!びっくりするだろ!!!」
「この間のお返しー。やり返さないと気が済まないもん」
「ったく…。ちょっとかわいいからって調子に…」
「………え??」
クライスが小さな声で発した言葉に、思わず反応してしまうエリス。
しかしクライスはエリスの反応を見てしまったと思ったのか、それからその言葉に言及することはなく、話題を別の内容に移していくのだった。
リーウェルとの婚約をマリンから告げられる以前、エリスはこの日の訪れを非常に楽しみにしていたのだったが、今の彼女はあまり今日の訪れをうれしくは思っていなかった。
なぜなら、今の彼女は婚約者となってしまった身。
彼女はその事を今から、自身が最も心から慕う相手に伝えなければならないのだから…。
――――
自由奔放な性格のクライスは、今日帰ってくるまで外国でイラストを描いて回っているのだという。
そんな彼との約束の場所は、二人の思い出の場所でもあった。
「(クライス、自由な性格だから今日会う約束を忘れちゃったりしてないか心配…)」
その場所は、二人が最初のデートを行った記念の場所。
人気の少ない小高い丘の上でありながら、王都全体を見渡せるほど景色のいい場所であり、デートの穴場スポットして一部の恋人たちに知られている場所だった。
エリスはあの日と同じように、その場所にピクニック用のシートを敷いてその上に腰を下ろすと、あの日と同じように手作りのお弁当をその上に取り出し、クライスの到着を待った。
――あの日――
それは、二人にとって初めてのデート。
それは、ロマンも何もない最悪ともいえる出会い方をした二人の、奇妙な運命によって実現した二人きりのピクニック。
社交界で再会を果たしたクライスとエリスは、その別れ際にこう言葉を交わしていた。
「一週間後の12時に、王都の西側にあるヒューレット丘の上に来てほしい」
「な、なんで…?私別にそこに興味はないし…。行きたいなら一人で勝手に……ひゃ!!!」
ベッドの上で横になり、クライスの事は横目に見ていたエリス。
彼女はさきほどクライスにからかわれたことが悔しいのか、少しいじけた様子で口をとがらせてそう言葉を返した。
そんなエリスの言葉を聞いたクライスは、その身を乗り出して突然にエリスの頭を軽くつかんでその頭をくるっと回転させ、自分の事がよく見える位置まで彼女の頭を動かした。
すると結果的に、二人は非常に近い位置までそれぞれの顔を近づける態勢となり、鼻と鼻がくっついてしまいそうなほどの距離をその目で理解したエリスは再び声を上げてしまった。
「必ず来い。いいな?」
「う……」
その場でははっきりとした返事をしなかったエリスだったものの、当日を迎えるまでの1週間、彼女はその心の中を常にそわそわとさせており、片時もクライスの事がその頭から離れることはなかった。
それゆえ、結局エリスはそのまま約束の時間、約束の場所に向かうことに決め、二人の初デートは実現することとなったのだった。
「本当に来てるのかしら…。召し使いに買い物だって嘘をついてここまで送ってもらったのに、クライスがもしもここに来なかったら、今度こそもう二度と話なんてしないんだから…」
あまり乗り気でない雰囲気を醸し出しながらも、きちんと約束の場所を訪れたエリス。
自分のほかに人影もなく、それでいて初めて訪れる場所であるために、彼女の心の中にはそわそわとした感情が沸き起こっていた。
しかしその感情はいらぬ心配であったことを、彼女はすぐに理解する。
「(ほ、ほんとにいた……)」
丘の上にたどり着いたエリスの視線の先にいたのは他でもない、クライス本人だった。
彼は草原の上で直に腰を下ろし、スケッチブックを広げながら王都の景色を見つめ、それをイラストとしてその手で書き上げている最中だった。
…その表情は真剣そのもので、社交界で会った時の子どもっぽさやいたずらっ子のような雰囲気は完全に鳴りを潜め、目の前の景色をかき上げることに集中していた。
エリスは足音を殺し、そーーっとクライスの背後に近づいていく。
完全にイラストの描き上げに集中しきっているクライスにとって、そんなエリスの接近を察知を発見することは絶望的なほど至難の業と言えた。
エリスはそのままクライスの真後ろまで接近することに成功し、クライスの背中越しに、彼が経った今夢中で描いているイラストを見ることに成功する。
「きれい…!」
「どわっ!!!!!」
「あ」
そのイラストは非常に繊細で丁寧に描かれており、まさに美しいと形容するにふさわし仕上がり具合だった。
それをクラインの真後ろで見て取ったエリスはそのまま素直な気持ちを言葉にしてしまう。
それはクライスから見れば、いきなり自分の真後ろから人間の声が聞こえてきたという経験になり、彼はこれまでに経験したことのないような驚きようを見せた。
「おどろかすなよ!!!びっくりするだろ!!!」
「この間のお返しー。やり返さないと気が済まないもん」
「ったく…。ちょっとかわいいからって調子に…」
「………え??」
クライスが小さな声で発した言葉に、思わず反応してしまうエリス。
しかしクライスはエリスの反応を見てしまったと思ったのか、それからその言葉に言及することはなく、話題を別の内容に移していくのだった。
318
お気に入りに追加
652
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
興味はないので、さっさと離婚してくださいね?
hana
恋愛
伯爵令嬢のエレノアは、第二王子オーフェンと結婚を果たした。
しかしオーフェンが男爵令嬢のリリアと関係を持ったことで、事態は急変する。
魔法が使えるリリアの方が正妃に相応しいと判断したオーフェンは、エレノアに冷たい言葉を放ったのだ。
「君はもういらない、リリアに正妃の座を譲ってくれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる