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第2話
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――今から数か月前の事――
「エリス!あなたにすごくめでたい報告があるの!きっと喜んでくれると思うわ!」
エリスにそう声をかけたのは、エリスの母親であるマリン。
その表情は非常にうれしそうで、これまでエリスが見たことのないほどの明るさだった。
「お母様…?突然どうしたの…?」
「喜びなさいエリス!なんとあなたに婚約のお話が来ているのよ!」
「私に…婚約?」
その話を聞かされた時、エリスは自身の心の中に一抹の期待感を抱いた。
というのも彼女には、以前から思い慕っていた一人の男性がいたためだ。
しかしマリンの口から発せられた人物の名は、彼女が期待した人物の名ではなかった。
「そうよ!しかも相手はあのセントレス社の社長令息、リーウェル・グラン様よ!」
「リーウェル…様…」
セントレス社という名前は、この国に住まう人々ならばまず知らない人はいないほどの存在だった。
社のトップであるテイラー・グランは異様なほどに社の業績を伸ばし、一躍大金持ちの仲間入りを果たしていた。
そしてそんな彼のもとに生まれたのが、リーウェル・グランだった。
年齢はエリスより11つ上の30歳で、ゆくゆくは父の会社を継ぎ、彼もまた将来は今以上の大金持ちとなることが約束されているような人物だった。
…しかし、エリスは母から聞かされた婚約相手の名前が自分が思い描いていた人物の名前ではなかったことに、やや寂しい気持ちを抱く。
しかしマリンはそんなエリスのことなどお構いなしに、上機嫌な口調で言葉を続けた。
「これはもうお受けするしかないでしょう!エリス、私はあなたを幸せにしてくれる人物がリーウェル様だって確信しているの!なんていったってあのセントレス社の御曹司なのよ!あなたにとってこの婚約を結ぶことは運命で、天からの導きなのよ!断る理由なんてどこにもないでしょう?」
いきいきとした雰囲気でエリスにそう言葉を告げるマリン。
しかしそんな彼女とは対照的に、エリスはどこか冷めたような表情を浮かべ、静かな口調でこう言葉を返した。
「…お母様、本当はうちの負債をリーウェル様に肩代わりしてもらいたいだけなのでしょう?自分の欲しいものを手に入れたいだけなのでしょう?私の幸せなんて二の次なんでしょ…?」
そう、実はエリスの家には、外の人間には絶対に言えないほどの大きな負債があった。
彼女の家はれっきとした貴族家なのだが、彼女の父であるトレイクは貴族家としての自分たちのメンツを保つため、手当たり次第にほかの貴族家にお金をばらまきまくっていた。
そしてマリンもマリンで自分の欲を満たすために高価な買い物を繰り返しており、そこでもマリンへのメンツをたもちたいトレイクは結局、最後までそんな彼女の事を止めることもしなかった。
しかし当然、二人が無尽蔵にお金が湧き出る機械などを持っているわけでもないため、すぐに財産は底をつき、むしろ多大な負債を抱える一方となっていた。
…たった今エリスとマリンが会話をしているこの屋敷とて、手放さなければならないのは時間の問題だった。
「そうなんでしょうお母様?私の事なんて何にも考えていないのでしょう?どう考えたって…」
パチンッッッ!!!
「…!!」
マリンはエリスの頬を自身の手で強く叩き、彼女の言葉を途中で遮《さえぎ》った。
そしてどこか怒りを感じさせるような激しい口調で、こう言葉を返した。
「生意気なことを言うんじゃないわ!私たちにとってこんなにも素晴らしい話、これを逃したらもう二度とないのよ!!あのバカ夫がどこかに夜逃げした今、負債に苦しむ私たちの家を建て直すにはこれしかないの!そんなことくらい言われなくても分かるでしょう!」
「そ、そんなのって…」
「いいから黙って受け入れなさい!親の言うことが聞けないの!あなたをここまで育ててあげたのは一体誰だと思っているの!今こそ親への恩を返す何よりのチャンスじゃない!リーウェル様はあなたの事を気に入ってくださっている様子なの!なら素直にその思いを受け入れるだけの事でしょ?一体何が気に入らないっていうの!」
「そ、それはお母様自身が婚約するわけじゃないからそんなことが言えるんでしょ!どうせ他人事にしか思っていないんでしょ!」
「いいから!とにかくこれ!」
マリンは強い口調でそう言葉を告げると、一枚の紙をエリスに向けて差し出す。
「なに、これ…?」
「来週の日曜日、私とあなたとリーウェル様の3人でお食事をするのはどうかってお誘いを頂いたの。もちろん喜んでお受けしますって返事をしておいたから」
「そ、そんなの私聞いてない…!」
「いいから!あなたの持ってるお洋服の中で一番男性を喜ばせられるものを着ていきなさい。当日はリーウェル様の部下の方が家までお迎えに来てくださるらしいから、失礼のないようにきちんと準備するのよ?」
「……」
完全にマリンによって仕組まれてしまった予定を前に、もはやエリスにノーと言うことは許されてはいなかった。
結局エリスはマリンの言葉を受け入れ、リーウェルからの食事の招待を受けることとしたのであった…。
「エリス!あなたにすごくめでたい報告があるの!きっと喜んでくれると思うわ!」
エリスにそう声をかけたのは、エリスの母親であるマリン。
その表情は非常にうれしそうで、これまでエリスが見たことのないほどの明るさだった。
「お母様…?突然どうしたの…?」
「喜びなさいエリス!なんとあなたに婚約のお話が来ているのよ!」
「私に…婚約?」
その話を聞かされた時、エリスは自身の心の中に一抹の期待感を抱いた。
というのも彼女には、以前から思い慕っていた一人の男性がいたためだ。
しかしマリンの口から発せられた人物の名は、彼女が期待した人物の名ではなかった。
「そうよ!しかも相手はあのセントレス社の社長令息、リーウェル・グラン様よ!」
「リーウェル…様…」
セントレス社という名前は、この国に住まう人々ならばまず知らない人はいないほどの存在だった。
社のトップであるテイラー・グランは異様なほどに社の業績を伸ばし、一躍大金持ちの仲間入りを果たしていた。
そしてそんな彼のもとに生まれたのが、リーウェル・グランだった。
年齢はエリスより11つ上の30歳で、ゆくゆくは父の会社を継ぎ、彼もまた将来は今以上の大金持ちとなることが約束されているような人物だった。
…しかし、エリスは母から聞かされた婚約相手の名前が自分が思い描いていた人物の名前ではなかったことに、やや寂しい気持ちを抱く。
しかしマリンはそんなエリスのことなどお構いなしに、上機嫌な口調で言葉を続けた。
「これはもうお受けするしかないでしょう!エリス、私はあなたを幸せにしてくれる人物がリーウェル様だって確信しているの!なんていったってあのセントレス社の御曹司なのよ!あなたにとってこの婚約を結ぶことは運命で、天からの導きなのよ!断る理由なんてどこにもないでしょう?」
いきいきとした雰囲気でエリスにそう言葉を告げるマリン。
しかしそんな彼女とは対照的に、エリスはどこか冷めたような表情を浮かべ、静かな口調でこう言葉を返した。
「…お母様、本当はうちの負債をリーウェル様に肩代わりしてもらいたいだけなのでしょう?自分の欲しいものを手に入れたいだけなのでしょう?私の幸せなんて二の次なんでしょ…?」
そう、実はエリスの家には、外の人間には絶対に言えないほどの大きな負債があった。
彼女の家はれっきとした貴族家なのだが、彼女の父であるトレイクは貴族家としての自分たちのメンツを保つため、手当たり次第にほかの貴族家にお金をばらまきまくっていた。
そしてマリンもマリンで自分の欲を満たすために高価な買い物を繰り返しており、そこでもマリンへのメンツをたもちたいトレイクは結局、最後までそんな彼女の事を止めることもしなかった。
しかし当然、二人が無尽蔵にお金が湧き出る機械などを持っているわけでもないため、すぐに財産は底をつき、むしろ多大な負債を抱える一方となっていた。
…たった今エリスとマリンが会話をしているこの屋敷とて、手放さなければならないのは時間の問題だった。
「そうなんでしょうお母様?私の事なんて何にも考えていないのでしょう?どう考えたって…」
パチンッッッ!!!
「…!!」
マリンはエリスの頬を自身の手で強く叩き、彼女の言葉を途中で遮《さえぎ》った。
そしてどこか怒りを感じさせるような激しい口調で、こう言葉を返した。
「生意気なことを言うんじゃないわ!私たちにとってこんなにも素晴らしい話、これを逃したらもう二度とないのよ!!あのバカ夫がどこかに夜逃げした今、負債に苦しむ私たちの家を建て直すにはこれしかないの!そんなことくらい言われなくても分かるでしょう!」
「そ、そんなのって…」
「いいから黙って受け入れなさい!親の言うことが聞けないの!あなたをここまで育ててあげたのは一体誰だと思っているの!今こそ親への恩を返す何よりのチャンスじゃない!リーウェル様はあなたの事を気に入ってくださっている様子なの!なら素直にその思いを受け入れるだけの事でしょ?一体何が気に入らないっていうの!」
「そ、それはお母様自身が婚約するわけじゃないからそんなことが言えるんでしょ!どうせ他人事にしか思っていないんでしょ!」
「いいから!とにかくこれ!」
マリンは強い口調でそう言葉を告げると、一枚の紙をエリスに向けて差し出す。
「なに、これ…?」
「来週の日曜日、私とあなたとリーウェル様の3人でお食事をするのはどうかってお誘いを頂いたの。もちろん喜んでお受けしますって返事をしておいたから」
「そ、そんなの私聞いてない…!」
「いいから!あなたの持ってるお洋服の中で一番男性を喜ばせられるものを着ていきなさい。当日はリーウェル様の部下の方が家までお迎えに来てくださるらしいから、失礼のないようにきちんと準備するのよ?」
「……」
完全にマリンによって仕組まれてしまった予定を前に、もはやエリスにノーと言うことは許されてはいなかった。
結局エリスはマリンの言葉を受け入れ、リーウェルからの食事の招待を受けることとしたのであった…。
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