上 下
4 / 5

第4話

しおりを挟む
――ガランの思いと言葉――

「い、一体何が起こっている…!?どうして日に日に人数が少なくなっていくんだ!?」
「わ、私にはなんとも…。ただ少なくとも少し前までは、我々に協力する人間が多くいたのですが…」

セシリアの捜索が続けられていたある日の事、ガランは一人の部下を呼び出してそう言葉をかけた。
たった今彼はその表情にかなりの焦りの色を示しているわけであるが、そこにはある一つの理由があった。
最近になって、これまで自分に忠義を約束してきていた者たちが一人ずついなくなっていってしまっていたのだ。

「どうしてこんなことになっているのか、調査をしておけといっただろう!このままではセシリアを連れ戻すことはおろか、我が家を存続させることさえも困難になってしまうぞ!」
「そ、それは分かっているのですが…」
「分かっているのですが、なんだ?いいわけでもするのか?」
「そ、それは…」

ガランに対して非常に言葉を発しづらそうにしている部下の男。
しかし、このまま黙っているだけでは何の進展にもならないと思ったのか、意を決してその思いをそのままガランに対して口にした。

「こ、こんなことは非常に申し上げにくいのですが…。実は最近になって、ガラン様に対する貴族会の動きが非常に不安定になっていっています…。セシリア様を追放したことがあだとなっているようで…」
「ちょっと待て!僕はセシリアの事を追放などしていないぞ!向こうが勝手に出て言ったんじゃないか!そこに僕に対する責任など微塵もありはしないだろう!」
「で、ですが、周りの方々はそうは思っておられない様子でして…」

その言葉が、こんな事態を引き起こしたガランに対する答えだった。
それはそのままこの実情を端的に表しているものであり、一切の偽りやでたらめはなかった。
…ただ、その現実をガランがそのまま受け入れられるかどうかは全く別の話だった。

「そんなもの知ったことか!それを何とかするのがお前の仕事なんじゃないのか!」
「わ、私にはどうにもできませんよ…。他の貴族家に話を通すというのなら、この家の長であられるガラン様に動いていただかないことにはなにもできません…。私がどこの誰に話をしようとも、ガラン様が動いていただかないことにはなにも進展しません…」
「生意気なことを言うんじゃない!そもそもこんなことになったのはセシリアを管理していなかったお前のせいじゃないのか!僕に対して申し訳ないとは思わないのか!」

セシリアがいなくなった原因は、誰の目にもガランにあることくらい明らかなことだろう。
彼女に家出を迫っておきながら、本当にいなくなってしまったら今度はその責任を彼女自身のせいにしようとしているところもまた、ガランの器の小ささを露呈する結果となっていた。

「いいから早くセシリアを連れ戻すんだ!今ならまだどうとでもなるタイミングだろう!」
「そ、それがもうそういうタイミングでもないと思われます…。ガラン様がセシリア様の失踪に関する話を全てシャットダウンしてしまったのが裏目に出てしまったようで、他の貴族家の人々はその話を面白がって拡散させ続けていますし…」
「ま、まさかそんな……」

自分がセシリアの失踪を認めさえしなければ、まだどうとでも取り返せると考えていたガラン。
しかしその考えは甘いと言わざるを得ず、現実に彼の考えは全く反映されることなく終わりを迎えようとしていた。
…そもそも、こんな状況になってもなお自分の元から離れずにいるこの部下の存在をガランはありがたがるべきなのだが、そこにさえ気づいていない時点でセシリアとの関係を切り返せるほどの可能性を感じることは不可能と言ってよかった。

「セシリアのやつめ、僕への恩義を忘れてこんなことをしよって…。僕以外に婚約してくれる相手などこの世界に誰一人いないことだろう…。どうしてそんな簡単なことに気づけないのか…。子供にだってわかりそうな理屈だというのに…」
「…ガラン様、やはりセシリア様に対して謝罪の言葉をお伝えになられた方がよろしいかと思うのですが…」
「ふざけるな!僕の方が絶対的に彼女よりも位が上なんだぞ!なのにどうしてこちらから謝らなければならないんだ!むしろ向こうの方から謝りに来るのが筋というものだろう!これだけ僕に迷惑をかけているというのに、平然とした雰囲気で今もどこかで生きていると思うと、その事の方が腹が立って仕方がない!」
「……」

…強気な雰囲気でそう言葉を発するガランの姿を見て、部下の男はややあきらめの表情を浮かべてみせる。
その瞬間、ガランはまた一人自分の事を慕う部下の存在を失ったことになったのだが、彼自身がその事に気づいている様子は全くない。
むしろ、これ以上に状況を悪化させることの方にばかり気を取られているようにさえ感じ取れる…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛に生きるのならお好きにどうぞ、その代わり城からは出て行ってもらいます

まほりろ
恋愛
私の名はイルク公爵家の長女アロンザ。 卒業パーティーで王太子のハインツ様に婚約破棄されましたわ。王太子の腕の中には愛くるしい容姿に華奢な体格の男爵令嬢のミア様の姿が。 国王と王妃にハインツ様が卒業パーティーでやらかしたことをなかったことにされ、無理やりハインツ様の正妃にさせられましたわ。 ミア様はハインツ様の側妃となり、二人の間には息子が生まれデールと名付けられました。 私はデールと養子縁組させられ、彼の後ろ盾になることを強要された。 結婚して十八年、ハインツ様とミア様とデールの尻拭いをさせられてきた。 十六歳になったデールが学園の進級パーティーで侯爵令嬢との婚約破棄を宣言し、男爵令嬢のペピンと婚約すると言い出した。 私の脳裏に十八年前の悪夢がよみがえる。 デールを呼び出し説教をすると「俺はペピンとの真実の愛に生きる!」と怒鳴られました。 この瞬間私の中で何かが切れましたわ。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 他サイトにも投稿してます。 ざまぁ回には「ざまぁ」と明記してあります。 2022年1月4日HOTランキング35位、ありがとうございました!

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?

早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。 物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。 度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。 「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」 そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。 全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

浮気をした婚約者をスパッと諦めた結果

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有り。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...