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第4話
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――ガランの思いと言葉――
「い、一体何が起こっている…!?どうして日に日に人数が少なくなっていくんだ!?」
「わ、私にはなんとも…。ただ少なくとも少し前までは、我々に協力する人間が多くいたのですが…」
セシリアの捜索が続けられていたある日の事、ガランは一人の部下を呼び出してそう言葉をかけた。
たった今彼はその表情にかなりの焦りの色を示しているわけであるが、そこにはある一つの理由があった。
最近になって、これまで自分に忠義を約束してきていた者たちが一人ずついなくなっていってしまっていたのだ。
「どうしてこんなことになっているのか、調査をしておけといっただろう!このままではセシリアを連れ戻すことはおろか、我が家を存続させることさえも困難になってしまうぞ!」
「そ、それは分かっているのですが…」
「分かっているのですが、なんだ?いいわけでもするのか?」
「そ、それは…」
ガランに対して非常に言葉を発しづらそうにしている部下の男。
しかし、このまま黙っているだけでは何の進展にもならないと思ったのか、意を決してその思いをそのままガランに対して口にした。
「こ、こんなことは非常に申し上げにくいのですが…。実は最近になって、ガラン様に対する貴族会の動きが非常に不安定になっていっています…。セシリア様を追放したことがあだとなっているようで…」
「ちょっと待て!僕はセシリアの事を追放などしていないぞ!向こうが勝手に出て言ったんじゃないか!そこに僕に対する責任など微塵もありはしないだろう!」
「で、ですが、周りの方々はそうは思っておられない様子でして…」
その言葉が、こんな事態を引き起こしたガランに対する答えだった。
それはそのままこの実情を端的に表しているものであり、一切の偽りやでたらめはなかった。
…ただ、その現実をガランがそのまま受け入れられるかどうかは全く別の話だった。
「そんなもの知ったことか!それを何とかするのがお前の仕事なんじゃないのか!」
「わ、私にはどうにもできませんよ…。他の貴族家に話を通すというのなら、この家の長であられるガラン様に動いていただかないことにはなにもできません…。私がどこの誰に話をしようとも、ガラン様が動いていただかないことにはなにも進展しません…」
「生意気なことを言うんじゃない!そもそもこんなことになったのはセシリアを管理していなかったお前のせいじゃないのか!僕に対して申し訳ないとは思わないのか!」
セシリアがいなくなった原因は、誰の目にもガランにあることくらい明らかなことだろう。
彼女に家出を迫っておきながら、本当にいなくなってしまったら今度はその責任を彼女自身のせいにしようとしているところもまた、ガランの器の小ささを露呈する結果となっていた。
「いいから早くセシリアを連れ戻すんだ!今ならまだどうとでもなるタイミングだろう!」
「そ、それがもうそういうタイミングでもないと思われます…。ガラン様がセシリア様の失踪に関する話を全てシャットダウンしてしまったのが裏目に出てしまったようで、他の貴族家の人々はその話を面白がって拡散させ続けていますし…」
「ま、まさかそんな……」
自分がセシリアの失踪を認めさえしなければ、まだどうとでも取り返せると考えていたガラン。
しかしその考えは甘いと言わざるを得ず、現実に彼の考えは全く反映されることなく終わりを迎えようとしていた。
…そもそも、こんな状況になってもなお自分の元から離れずにいるこの部下の存在をガランはありがたがるべきなのだが、そこにさえ気づいていない時点でセシリアとの関係を切り返せるほどの可能性を感じることは不可能と言ってよかった。
「セシリアのやつめ、僕への恩義を忘れてこんなことをしよって…。僕以外に婚約してくれる相手などこの世界に誰一人いないことだろう…。どうしてそんな簡単なことに気づけないのか…。子供にだってわかりそうな理屈だというのに…」
「…ガラン様、やはりセシリア様に対して謝罪の言葉をお伝えになられた方がよろしいかと思うのですが…」
「ふざけるな!僕の方が絶対的に彼女よりも位が上なんだぞ!なのにどうしてこちらから謝らなければならないんだ!むしろ向こうの方から謝りに来るのが筋というものだろう!これだけ僕に迷惑をかけているというのに、平然とした雰囲気で今もどこかで生きていると思うと、その事の方が腹が立って仕方がない!」
「……」
…強気な雰囲気でそう言葉を発するガランの姿を見て、部下の男はややあきらめの表情を浮かべてみせる。
その瞬間、ガランはまた一人自分の事を慕う部下の存在を失ったことになったのだが、彼自身がその事に気づいている様子は全くない。
むしろ、これ以上に状況を悪化させることの方にばかり気を取られているようにさえ感じ取れる…。
「い、一体何が起こっている…!?どうして日に日に人数が少なくなっていくんだ!?」
「わ、私にはなんとも…。ただ少なくとも少し前までは、我々に協力する人間が多くいたのですが…」
セシリアの捜索が続けられていたある日の事、ガランは一人の部下を呼び出してそう言葉をかけた。
たった今彼はその表情にかなりの焦りの色を示しているわけであるが、そこにはある一つの理由があった。
最近になって、これまで自分に忠義を約束してきていた者たちが一人ずついなくなっていってしまっていたのだ。
「どうしてこんなことになっているのか、調査をしておけといっただろう!このままではセシリアを連れ戻すことはおろか、我が家を存続させることさえも困難になってしまうぞ!」
「そ、それは分かっているのですが…」
「分かっているのですが、なんだ?いいわけでもするのか?」
「そ、それは…」
ガランに対して非常に言葉を発しづらそうにしている部下の男。
しかし、このまま黙っているだけでは何の進展にもならないと思ったのか、意を決してその思いをそのままガランに対して口にした。
「こ、こんなことは非常に申し上げにくいのですが…。実は最近になって、ガラン様に対する貴族会の動きが非常に不安定になっていっています…。セシリア様を追放したことがあだとなっているようで…」
「ちょっと待て!僕はセシリアの事を追放などしていないぞ!向こうが勝手に出て言ったんじゃないか!そこに僕に対する責任など微塵もありはしないだろう!」
「で、ですが、周りの方々はそうは思っておられない様子でして…」
その言葉が、こんな事態を引き起こしたガランに対する答えだった。
それはそのままこの実情を端的に表しているものであり、一切の偽りやでたらめはなかった。
…ただ、その現実をガランがそのまま受け入れられるかどうかは全く別の話だった。
「そんなもの知ったことか!それを何とかするのがお前の仕事なんじゃないのか!」
「わ、私にはどうにもできませんよ…。他の貴族家に話を通すというのなら、この家の長であられるガラン様に動いていただかないことにはなにもできません…。私がどこの誰に話をしようとも、ガラン様が動いていただかないことにはなにも進展しません…」
「生意気なことを言うんじゃない!そもそもこんなことになったのはセシリアを管理していなかったお前のせいじゃないのか!僕に対して申し訳ないとは思わないのか!」
セシリアがいなくなった原因は、誰の目にもガランにあることくらい明らかなことだろう。
彼女に家出を迫っておきながら、本当にいなくなってしまったら今度はその責任を彼女自身のせいにしようとしているところもまた、ガランの器の小ささを露呈する結果となっていた。
「いいから早くセシリアを連れ戻すんだ!今ならまだどうとでもなるタイミングだろう!」
「そ、それがもうそういうタイミングでもないと思われます…。ガラン様がセシリア様の失踪に関する話を全てシャットダウンしてしまったのが裏目に出てしまったようで、他の貴族家の人々はその話を面白がって拡散させ続けていますし…」
「ま、まさかそんな……」
自分がセシリアの失踪を認めさえしなければ、まだどうとでも取り返せると考えていたガラン。
しかしその考えは甘いと言わざるを得ず、現実に彼の考えは全く反映されることなく終わりを迎えようとしていた。
…そもそも、こんな状況になってもなお自分の元から離れずにいるこの部下の存在をガランはありがたがるべきなのだが、そこにさえ気づいていない時点でセシリアとの関係を切り返せるほどの可能性を感じることは不可能と言ってよかった。
「セシリアのやつめ、僕への恩義を忘れてこんなことをしよって…。僕以外に婚約してくれる相手などこの世界に誰一人いないことだろう…。どうしてそんな簡単なことに気づけないのか…。子供にだってわかりそうな理屈だというのに…」
「…ガラン様、やはりセシリア様に対して謝罪の言葉をお伝えになられた方がよろしいかと思うのですが…」
「ふざけるな!僕の方が絶対的に彼女よりも位が上なんだぞ!なのにどうしてこちらから謝らなければならないんだ!むしろ向こうの方から謝りに来るのが筋というものだろう!これだけ僕に迷惑をかけているというのに、平然とした雰囲気で今もどこかで生きていると思うと、その事の方が腹が立って仕方がない!」
「……」
…強気な雰囲気でそう言葉を発するガランの姿を見て、部下の男はややあきらめの表情を浮かべてみせる。
その瞬間、ガランはまた一人自分の事を慕う部下の存在を失ったことになったのだが、彼自身がその事に気づいている様子は全くない。
むしろ、これ以上に状況を悪化させることの方にばかり気を取られているようにさえ感じ取れる…。
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