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第1話
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「セ、セシリアがいなくなっただって!?」
自身の貴族としての仕事を終え、自らの屋敷に戻ってきたガラン。
そんな彼が帰るや否や部下から最初に告げられたのは、自身の婚約相手であるセシリアがその姿を消してしまったという報告だった。
「い、いがかいたしましょうガラン様…。まさかこんな事態が起こされようとは想定もしていなかったので、こういう事態に備えてのマニュアルなどが見当たりません…」
「だ、大丈夫だ…。心配はいらない、全てはこの僕の計画通りだとも…」
「……」
口でこそそう言葉を発するガランだったものの、そんな彼の事を見つめる部下たちの目はなかなかに冷たいものであった。
…というのもつい数日前、ガランとセシリアとの間である会話が交わされていたという事を彼らは知っていたためだった…。
――数日前――
その時、ガラルは婚約相手であるセシリアを自室まで呼び出し、有ることに関する叱責を行っていた。
「セシリア、君は僕に選ばれた立場の婚約者だろう?だから君の言う事に優先権があまりないのは仕方がない事じゃないか。婚約者であるからと言って、僕が愛してあげるかどうかは別問題だ。だというのに、自分は愛されて当然だと言わんばかりの表情をしていたな?」
「だ、だってガラル様…。婚約をする男女と言うのは、お互いにその気持ちを通じ合わせているものだというのが普通なのではないですか…?」
「それは違う。僕に言わせれば、そんなものは女性たちが抱く一方的な婚約への幻想に過ぎない。いいかいセシリア、そんな自分勝手な考えは捨てるんだ」
「……」
どちらの言っていることが正しいのかは明らかであるものの、ガラルは自分の言っていることを正しいものだと信じて疑わない。
反対に、セシリアの方はそんなガラルの言葉になにか受け入れがたい雰囲気を発していた。
ガラルはそんなセシリアの雰囲気に気づいたのか、続けてこう言葉を発する。
「セシリア、なんだその顔は?まさかこの僕の言っていることに不服なことでもあるのか?」
「い、いえ別にそう言うわけでは…」
「言っておくけれど、君が嫌だというのなら別にここから出ていってくれても構わないんだぞ?僕は由緒ある貴族家の長なのだから、君以外にもいくらでも婚約を希望する相手は現れる。一方で君の方は同だろう?貴族の婚約者という誰もがうらやむ存在を捨てられたような女なんて、周囲の見る目は一段と苦しいものになっていくことだろう。そうなったなら、もう二度と君は新たな幸せをつかむことはできないぞ?」
「……」
まだ二人は婚約関係にある仲だというのに、まるでその関係はすでに破綻しているかのような言葉を発するガラン。
セシリアはなにもそこまで思ってはいなかったというのに、一方的にガランからそのような言葉をかけられ続けたことで、その心の中に抱く思いは大きく変化してしまっていた。
「まぁ、君にそこまでの勇気などあるはずがないだろうから、なにも心配はしていないが…。ただセシリア、あんまり生意気な事を言うんじゃないぞ?君だって決して安全圏にいる人間というわけではないのだからな?」
ガランは強い口調でセシリアにそう言葉をかけると、そのまま会話を一方的に終えた。
その真意はセシリアの存在にくぎを刺すことにあったのだが、どういうわけかこの二人の会話は屋敷の中の人々の間で知れ渡ることとなり、その果てにセシリアは突然にその姿を消してしまう事となるのであった。
――――
「ガラン様、あなたがセシリア様に冷たく当たっていたために、こんなことになってしまったという可能性は…?」
「そ、そんなことあるはずがないだろう!彼女は間違いなくこの僕の事を愛していたんだ!ゆえに、自分の意思で僕の前からいなくなることなどあり得ない!」
「で、ではこの状況はいったい…」
「決まっている、僕らの関係に嫉妬した何者かが、この関係を壊すべくセシリアの事をさらったのだ。そうに決まっているだろう。でなければ、彼女がこの僕の前から姿を消す理由がない」
「な、なるほど……」
断定的な口調でそう言葉を発するガランではあるものの、その雰囲気の中には少し焦りの感情を見え隠れさせていた。
部下たちもまたそんなガランの様子には気づいていたものの、それを口にするほどの勇気や度胸は彼らにはなかった。
「いいかお前たち、この事は絶対内密にしておくんだ。婚約者に逃げられてしまったなどという事が他の貴族家の連中に知られたら、それこそ我々は周囲から非常に白い眼で見られてしまう事だろう…。それは僕だけでなく、僕に仕えるお前たちとて例外ではない。僕が死ねばお前たちも共に死ぬんだ…。いいか、分かったな?」
「も、もちろんでございます…。ガラン様、セシリア様の行方ですが、我々も独自に追ってみようと思います…」
「あぁ、よろしく頼むよ…」
いずれにしても、この状況においてはセシリアを探す以外に手立てがない彼ら。
その思惑がどこまでうまく行くかどうかは、結果から見れば明らかなのであった…。
自身の貴族としての仕事を終え、自らの屋敷に戻ってきたガラン。
そんな彼が帰るや否や部下から最初に告げられたのは、自身の婚約相手であるセシリアがその姿を消してしまったという報告だった。
「い、いがかいたしましょうガラン様…。まさかこんな事態が起こされようとは想定もしていなかったので、こういう事態に備えてのマニュアルなどが見当たりません…」
「だ、大丈夫だ…。心配はいらない、全てはこの僕の計画通りだとも…」
「……」
口でこそそう言葉を発するガランだったものの、そんな彼の事を見つめる部下たちの目はなかなかに冷たいものであった。
…というのもつい数日前、ガランとセシリアとの間である会話が交わされていたという事を彼らは知っていたためだった…。
――数日前――
その時、ガラルは婚約相手であるセシリアを自室まで呼び出し、有ることに関する叱責を行っていた。
「セシリア、君は僕に選ばれた立場の婚約者だろう?だから君の言う事に優先権があまりないのは仕方がない事じゃないか。婚約者であるからと言って、僕が愛してあげるかどうかは別問題だ。だというのに、自分は愛されて当然だと言わんばかりの表情をしていたな?」
「だ、だってガラル様…。婚約をする男女と言うのは、お互いにその気持ちを通じ合わせているものだというのが普通なのではないですか…?」
「それは違う。僕に言わせれば、そんなものは女性たちが抱く一方的な婚約への幻想に過ぎない。いいかいセシリア、そんな自分勝手な考えは捨てるんだ」
「……」
どちらの言っていることが正しいのかは明らかであるものの、ガラルは自分の言っていることを正しいものだと信じて疑わない。
反対に、セシリアの方はそんなガラルの言葉になにか受け入れがたい雰囲気を発していた。
ガラルはそんなセシリアの雰囲気に気づいたのか、続けてこう言葉を発する。
「セシリア、なんだその顔は?まさかこの僕の言っていることに不服なことでもあるのか?」
「い、いえ別にそう言うわけでは…」
「言っておくけれど、君が嫌だというのなら別にここから出ていってくれても構わないんだぞ?僕は由緒ある貴族家の長なのだから、君以外にもいくらでも婚約を希望する相手は現れる。一方で君の方は同だろう?貴族の婚約者という誰もがうらやむ存在を捨てられたような女なんて、周囲の見る目は一段と苦しいものになっていくことだろう。そうなったなら、もう二度と君は新たな幸せをつかむことはできないぞ?」
「……」
まだ二人は婚約関係にある仲だというのに、まるでその関係はすでに破綻しているかのような言葉を発するガラン。
セシリアはなにもそこまで思ってはいなかったというのに、一方的にガランからそのような言葉をかけられ続けたことで、その心の中に抱く思いは大きく変化してしまっていた。
「まぁ、君にそこまでの勇気などあるはずがないだろうから、なにも心配はしていないが…。ただセシリア、あんまり生意気な事を言うんじゃないぞ?君だって決して安全圏にいる人間というわけではないのだからな?」
ガランは強い口調でセシリアにそう言葉をかけると、そのまま会話を一方的に終えた。
その真意はセシリアの存在にくぎを刺すことにあったのだが、どういうわけかこの二人の会話は屋敷の中の人々の間で知れ渡ることとなり、その果てにセシリアは突然にその姿を消してしまう事となるのであった。
――――
「ガラン様、あなたがセシリア様に冷たく当たっていたために、こんなことになってしまったという可能性は…?」
「そ、そんなことあるはずがないだろう!彼女は間違いなくこの僕の事を愛していたんだ!ゆえに、自分の意思で僕の前からいなくなることなどあり得ない!」
「で、ではこの状況はいったい…」
「決まっている、僕らの関係に嫉妬した何者かが、この関係を壊すべくセシリアの事をさらったのだ。そうに決まっているだろう。でなければ、彼女がこの僕の前から姿を消す理由がない」
「な、なるほど……」
断定的な口調でそう言葉を発するガランではあるものの、その雰囲気の中には少し焦りの感情を見え隠れさせていた。
部下たちもまたそんなガランの様子には気づいていたものの、それを口にするほどの勇気や度胸は彼らにはなかった。
「いいかお前たち、この事は絶対内密にしておくんだ。婚約者に逃げられてしまったなどという事が他の貴族家の連中に知られたら、それこそ我々は周囲から非常に白い眼で見られてしまう事だろう…。それは僕だけでなく、僕に仕えるお前たちとて例外ではない。僕が死ねばお前たちも共に死ぬんだ…。いいか、分かったな?」
「も、もちろんでございます…。ガラン様、セシリア様の行方ですが、我々も独自に追ってみようと思います…」
「あぁ、よろしく頼むよ…」
いずれにしても、この状況においてはセシリアを探す以外に手立てがない彼ら。
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