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第58話

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「ど、どうかな?」

「良い!!すごくいいと思うの!!」

 文字だけ見ると、このやり取りは私とシュルツのやり取りのように思えるけれど、実はこれは私とルーク君のやり取りだ。昨日の朝にルーク君と彼のお母さんであるセフィリアさんが屋敷に到着して、セフィリアさんの方は治癒師の先生の付きっ切りで療養してもらうことになったのだけど、ルーク君の方は私たちのお手伝いがしたいと言ってきかなかったのだ。そういうわけでルーク君には、ジルクさんが来ている服と同じ柄の衣装がすぐに用意されて、今着てもらったというわけだ。…その姿はまさにミニジルクさんといった姿で、とても可愛らしい。これだけでも十分私たちの心の癒しになってくれていると思うの…!

「うん!用意したかいがあったね!」

 その様子を見つめていたシュルツは口元に手をあてながら、うれしそうな表情を浮かべている。

「まあ、いい感じで何よりだ。これからよろしく頼むぜ、ルーク」

 ルーク君の横にジルクさんが立ち、その頭を乱暴になでる。ジルクさんもルーク君も、どこかうれしそうな表情だ。

「それじゃソフィア、ジルク、後は頼んだよ」

 シュルツは私たちにそう告げると、支度を整えはじめる。シュルツは今日は一人での公務のようで、これからどこかへとお出かけの様子だ。シュルツはてきぱきと準備を終えた後、私たちに見送られながら出発していった。

「それじゃジルクさん、私はセフィリアさんの様子を見に行ってきますね」

「ああ、分かった」

 ルーク君にまたあとでねと告げて、彼をジルクさんに託して私はセフィリアさんのいる療養室へと向かった。もし何か必要な物があったら、早めに聞いておかないと…。
 彼女の部屋の扉を数回ノックし、返事を確認したのち私は部屋の中へと足を踏み入れた。

「あら、ソフィアさん。来てくれて、どうもありがとう」

 弱弱しい声ながらも、はっきりと感謝の言葉を伝えてくれるセフィリアさんの姿があった。

「わ、私は何も…。それよりセフィリアさん、なにか必要な物や足りないものはないですか?」

 私のその言葉にゆっくりと首を横に振ってこたえるセフィリアさん。

「もう十分ですよ、皆さんにも本当に良くしていただいて…。そういえば、ルークはご迷惑をおかけしていませんか?」

 彼女は心配そうにそう口にした。め、迷惑どころかルーク君はもう…

「迷惑どころか、かわいくてかわいくて仕方がないと言いますか、彼にはもはや愛おしささえ…あ」

 ちょ、ちょっとばかり心の声が出てしまったかな…?そんな私の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたセフィリアさんだったけど、その表情はすぐに笑顔へと戻った。

「くすくす、それならよかった…そういえばひとつ、ソフィアさんにお聞きしたかったことが」

「?」

 突然のセフィリアさんからの質問に、何を聞かれるのか若干ドキドキする。

「前にお作りいただいたお料理、本当に美味しかったのですが、ソフィアさんは一体どこであの技術を…?」

「あー…」

 …話すこと自体は全く構わないのだけれど、話が長くなっちゃうかな…でも十分時間はあるし、別に良いかっ…!
 私は自身の生い立ちから、ここに来るまでのいきさつ、これまでくぐりぬけてきた死線の数々をセフィリアさんに嘘偽りなく話した。最初は信じられないような表情を浮かべていた彼女だったけど、あまりに突飛な私の経験の連続に少しずつ慣れてきたのか、段々と落ち着いた表情を浮かべてくれていった。
 けれど最後には、心底申し訳なさそうな表情を浮かべながら私に言葉を発した。

「そ、そうだったのですか…お辛い話をさせてしまって、ごめんなさい…」

「いえいえ、気にしないでください!私は大丈夫ですから!」

 私自身、あのつらかった思いは乗り越えられつつある…と思う。ほかならぬ、ここにいるみんなのおかげで。
 そんな私の表情を見てか、セフィリアさんが続けて言葉をかけてくれる。

「…あなたは本当に強い女性なのね。私も見習わないと…」

「い、いえ!そんなとんでもない…!…私なんてまだまだで…」

 私なんて、全然みんなの力に慣れていないし、助けられてばかりだし…

「くすくす。そういう所も含めて、ね」

「??」

 セフィリアさんは、頭上にはてなマークを浮かべる私を見て笑みを浮かべながら、私たちは会話を終えたのだった。
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