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第53話
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ロワールさんの言葉の前に、私たちは身構える。フランツ公爵は一体、どんな情報をつかんだのだろうか…?
「フランツ公爵様いわく、今回のグロス様の動きにはまだなにか裏がありそうだと」
今回の一件、私を追い落とすことが全ての狙いだと思っていたけれど、それ以外に公爵様にはなにか引っかかる事でもあったんだろうか?
「どうやら今回グロス様は、貴族や皇帝府の関係者を味方にするために相当な賄賂を使ったそうなのです。しかし一体どこからそれだけの資金を調達したのか、非常に怪しいと」
い、言われてみれば確かに…しかしそれだけで疑うのは早計な気もする…私はその旨をロワールさんに話す。
「でもそれだけじゃ、何も分からないんじゃ…?」
「はい、今のところは何も分かっておりません」
私の言葉にうなずき、返事をするロワールさん。しかしその後こう続けた。
「しかし本当にそこに何か裏があるのなら、グロス様への告発返しが可能となります。グロス様を追及する上で、我々にとって最大の切り札となりましょう」
「な、なるほど…」
今回の一件で私たちに敗北した上級公爵は、ただでさえ味方の人たちからの信用を落としたはず。そこにそんな証拠が出てくれば、彼を終わらせることだってできるかもしれない。
「その証拠を見つけ出すまで、フランツ公爵様はお屋敷に残られるそうです」
そうか、ロワールさんにフランツ公爵が一緒じゃないのはそう理由で…。彼は本当に私たちと共に戦ってくれるらしい。…どんな結果になったとしても、フランツ公爵とはきちんと話をしないといけないな…
「私も今後しばらくは、そのお手伝いをさせていただこうかと考えております」
いずれにしても、これで終わりというわけでは到底なさそうだ。私ももっともっと頑張らないと…。
そしてロワールさんの報告がすべて済んだところで、シュルツが私に声をかけてくれる。
「本当にありがとうロワールさん。…しかしそれにしても、今日は疲れたね…ソフィア、あの上級公爵相手に本当によく頑張ったね」
シュルツはそう言ってくれるけど、私は全然みんなの力になれては…
「そんな…。私は結局シュルツやみんなに助けられてばっかりで…」
そう口にする私の手を、やさしくシュルツが握りしめる。
「そんなのはお互い様だよ。僕だってどれだけソフィアに」「あのー」
シュルツの言葉をさえぎり、ロワールさんが口を開く。
「…大変恐縮ですがお二人とも、何か大切なことをお忘れではありませんか?」
「「?」」
一件が無事に解決した今、もう何も課題はないはずだけど…私もシュルツもロワールさんの言葉の意図が分からず、頭上にはてなマークを浮かべる。しかしロワールさんのその言葉を聞いた途端、ジルクさんをはじめ私とシュルツ以外の人たちがゆっくりとこの部屋を去っていく。…あ、あれ?
そして皆が去った理由を、次にロワールさんの口から発される言葉によって理解する。
「これより、次の財政チェックを始めまさせていただきたく思うのですが」
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
「ちょっとまって!?今から!?」
私の心の中を代弁するように、シュルツが悲痛な声を上げる。わ、わざわざ今からやらなくても…。
「恐れながら私には時間がなく、やるなら今しかございません」
「な、なら無理してやらなくてもいいんじゃ…?」
シュルツに続き、私も命乞いの言葉を発する。しかしその言葉はロワールさんには届かなかったようで…。
「せっかく総合資産表が手元にあるのですから、やらない手はございません。ここにはすべての財政の流れが記載されていますから、前回よりもより深い監査が可能であると思いますよ?」
…もう、私たちにはどこにも逃げ道はないみたい…
「トホホ…」
ウキウキのロワールさんを前に、感情をそのまま言葉にするシュルツ。一方で私はロワールさんとのやり取りの中に、どこか懐かしさと安心感を感じていた。
「クスクス…。こうなっては仕方ないわシュルツ、一緒に頑張りましょ」
結局私たちはその後一日中、ロワールさんにしぼられるのだった…。
「フランツ公爵様いわく、今回のグロス様の動きにはまだなにか裏がありそうだと」
今回の一件、私を追い落とすことが全ての狙いだと思っていたけれど、それ以外に公爵様にはなにか引っかかる事でもあったんだろうか?
「どうやら今回グロス様は、貴族や皇帝府の関係者を味方にするために相当な賄賂を使ったそうなのです。しかし一体どこからそれだけの資金を調達したのか、非常に怪しいと」
い、言われてみれば確かに…しかしそれだけで疑うのは早計な気もする…私はその旨をロワールさんに話す。
「でもそれだけじゃ、何も分からないんじゃ…?」
「はい、今のところは何も分かっておりません」
私の言葉にうなずき、返事をするロワールさん。しかしその後こう続けた。
「しかし本当にそこに何か裏があるのなら、グロス様への告発返しが可能となります。グロス様を追及する上で、我々にとって最大の切り札となりましょう」
「な、なるほど…」
今回の一件で私たちに敗北した上級公爵は、ただでさえ味方の人たちからの信用を落としたはず。そこにそんな証拠が出てくれば、彼を終わらせることだってできるかもしれない。
「その証拠を見つけ出すまで、フランツ公爵様はお屋敷に残られるそうです」
そうか、ロワールさんにフランツ公爵が一緒じゃないのはそう理由で…。彼は本当に私たちと共に戦ってくれるらしい。…どんな結果になったとしても、フランツ公爵とはきちんと話をしないといけないな…
「私も今後しばらくは、そのお手伝いをさせていただこうかと考えております」
いずれにしても、これで終わりというわけでは到底なさそうだ。私ももっともっと頑張らないと…。
そしてロワールさんの報告がすべて済んだところで、シュルツが私に声をかけてくれる。
「本当にありがとうロワールさん。…しかしそれにしても、今日は疲れたね…ソフィア、あの上級公爵相手に本当によく頑張ったね」
シュルツはそう言ってくれるけど、私は全然みんなの力になれては…
「そんな…。私は結局シュルツやみんなに助けられてばっかりで…」
そう口にする私の手を、やさしくシュルツが握りしめる。
「そんなのはお互い様だよ。僕だってどれだけソフィアに」「あのー」
シュルツの言葉をさえぎり、ロワールさんが口を開く。
「…大変恐縮ですがお二人とも、何か大切なことをお忘れではありませんか?」
「「?」」
一件が無事に解決した今、もう何も課題はないはずだけど…私もシュルツもロワールさんの言葉の意図が分からず、頭上にはてなマークを浮かべる。しかしロワールさんのその言葉を聞いた途端、ジルクさんをはじめ私とシュルツ以外の人たちがゆっくりとこの部屋を去っていく。…あ、あれ?
そして皆が去った理由を、次にロワールさんの口から発される言葉によって理解する。
「これより、次の財政チェックを始めまさせていただきたく思うのですが」
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
「ちょっとまって!?今から!?」
私の心の中を代弁するように、シュルツが悲痛な声を上げる。わ、わざわざ今からやらなくても…。
「恐れながら私には時間がなく、やるなら今しかございません」
「な、なら無理してやらなくてもいいんじゃ…?」
シュルツに続き、私も命乞いの言葉を発する。しかしその言葉はロワールさんには届かなかったようで…。
「せっかく総合資産表が手元にあるのですから、やらない手はございません。ここにはすべての財政の流れが記載されていますから、前回よりもより深い監査が可能であると思いますよ?」
…もう、私たちにはどこにも逃げ道はないみたい…
「トホホ…」
ウキウキのロワールさんを前に、感情をそのまま言葉にするシュルツ。一方で私はロワールさんとのやり取りの中に、どこか懐かしさと安心感を感じていた。
「クスクス…。こうなっては仕方ないわシュルツ、一緒に頑張りましょ」
結局私たちはその後一日中、ロワールさんにしぼられるのだった…。
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