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第25話

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「ねぇジルクさん、シュルツとアノッサさんって、あんまり仲が良くないのかな…?」

 今、シュルツは屋敷に不在だった。私はそのタイミングを見計らって、ジルクさんにあの日の食事会での出来事を相談してみることにした。

「…」

 私の言葉は聞こえているだろうに、ジルクさんは腕を組んだまま黙ってしまっている。…やっぱり、聞くのはまずかったかな…?そう考え話題を変えてしまおうとした時、重々しくジルクさんが口を開いた。

「…まぁ、仲が良いかと聞かれれば、仲良しではないな」

 私の疑問に、率直ジルクさんは答えてくれた。彼はそのまま続ける。

「…昔、隣国のユークリル連合王国が、帝国に突然攻撃を仕掛けてきたことがあったのは知ってるか?」

「はい、もちろんです」

 それはそれは当時、かなり大きな騒ぎになった出来事だ。帝国と国境を隔てて位置する、隣国のオユークリル連合王国が、予告もなしに突然私たちの住む帝国に武力による攻撃を仕掛けてきたのだ。私は一応は貴族の身分であったから、相応の情報は当時も手に入れられた。

「あれは確か、連合王国内の一部の好戦的な軍人達が、独断で勝手にやったものだったんですよね…?」

「ああ、その通りなんだが…」

 それゆえに、連合王国が早々に帝国へ謝罪をしてきた事で、死傷者などもなく穏便に終わった事のはずだけれど。

「実はあの時、連合王国へ報復攻撃を行う派と、そうはせずに帝国の守りを固める派に上層部は割れてしまってな。そして攻撃派のトップがアノッサ、防戦派のトップがシュルツだったんだ」

「そ、そんなことが…」

 全く知らなかった。当時帝国は公に、「帝国は連合王国を攻撃する意思などない」って発表していたのに…

「結果はソフィアも知っての通り、帝国は防戦という選択を取った。そしてそれが結果的には功を奏して、向こうがすぐに謝罪の言葉を送ってきたことで、ひとまず事態は収束した。だが…」

 そこから先は聞くまでもないかもしれないけど、私はあえてジルクさんの言葉を待った。

「シュルツはその功績で、次期皇帝の立場を確かなものとした。しかしアノッサの方は反対に、一気に評判を大きく落とすことになった。皇帝府長の立場を追われるのも時間の問題だ、なんて声もある」

 隣国が攻めてきたなら、帝国を守るために攻撃の意志を示すことは至極当然のことだ。しかしそれゆえに、結果がこのようになってしまった事が快く受け入れられない、という事なんだろうか…?
 考え込む私の顔を見て、ジルクさんが補足説明を加える。

「まぁただ、二人が本当にお互いをどう思ってるかなんて事は、周りには分からない。二人とも、絶対そんなことは口にしないだろうしな」

「確かに、そうですよね…」

 神妙な面持ちで話していた私たちのもとに、一人の人物が馬で向かってくる。…私の最愛の人だ。

「ああそれと、この話を俺がしたって事は」

「大丈夫です。私からお聞きしたんですから」

 私たちがちょうど会話を終えた頃、シュルツは無事屋敷に到着したのだった。
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