25 / 67
第25話
しおりを挟む
「ねぇジルクさん、シュルツとアノッサさんって、あんまり仲が良くないのかな…?」
今、シュルツは屋敷に不在だった。私はそのタイミングを見計らって、ジルクさんにあの日の食事会での出来事を相談してみることにした。
「…」
私の言葉は聞こえているだろうに、ジルクさんは腕を組んだまま黙ってしまっている。…やっぱり、聞くのはまずかったかな…?そう考え話題を変えてしまおうとした時、重々しくジルクさんが口を開いた。
「…まぁ、仲が良いかと聞かれれば、仲良しではないな」
私の疑問に、率直ジルクさんは答えてくれた。彼はそのまま続ける。
「…昔、隣国のユークリル連合王国が、帝国に突然攻撃を仕掛けてきたことがあったのは知ってるか?」
「はい、もちろんです」
それはそれは当時、かなり大きな騒ぎになった出来事だ。帝国と国境を隔てて位置する、隣国のオユークリル連合王国が、予告もなしに突然私たちの住む帝国に武力による攻撃を仕掛けてきたのだ。私は一応は貴族の身分であったから、相応の情報は当時も手に入れられた。
「あれは確か、連合王国内の一部の好戦的な軍人達が、独断で勝手にやったものだったんですよね…?」
「ああ、その通りなんだが…」
それゆえに、連合王国が早々に帝国へ謝罪をしてきた事で、死傷者などもなく穏便に終わった事のはずだけれど。
「実はあの時、連合王国へ報復攻撃を行う派と、そうはせずに帝国の守りを固める派に上層部は割れてしまってな。そして攻撃派のトップがアノッサ、防戦派のトップがシュルツだったんだ」
「そ、そんなことが…」
全く知らなかった。当時帝国は公に、「帝国は連合王国を攻撃する意思などない」って発表していたのに…
「結果はソフィアも知っての通り、帝国は防戦という選択を取った。そしてそれが結果的には功を奏して、向こうがすぐに謝罪の言葉を送ってきたことで、ひとまず事態は収束した。だが…」
そこから先は聞くまでもないかもしれないけど、私はあえてジルクさんの言葉を待った。
「シュルツはその功績で、次期皇帝の立場を確かなものとした。しかしアノッサの方は反対に、一気に評判を大きく落とすことになった。皇帝府長の立場を追われるのも時間の問題だ、なんて声もある」
隣国が攻めてきたなら、帝国を守るために攻撃の意志を示すことは至極当然のことだ。しかしそれゆえに、結果がこのようになってしまった事が快く受け入れられない、という事なんだろうか…?
考え込む私の顔を見て、ジルクさんが補足説明を加える。
「まぁただ、二人が本当にお互いをどう思ってるかなんて事は、周りには分からない。二人とも、絶対そんなことは口にしないだろうしな」
「確かに、そうですよね…」
神妙な面持ちで話していた私たちのもとに、一人の人物が馬で向かってくる。…私の最愛の人だ。
「ああそれと、この話を俺がしたって事は」
「大丈夫です。私からお聞きしたんですから」
私たちがちょうど会話を終えた頃、シュルツは無事屋敷に到着したのだった。
今、シュルツは屋敷に不在だった。私はそのタイミングを見計らって、ジルクさんにあの日の食事会での出来事を相談してみることにした。
「…」
私の言葉は聞こえているだろうに、ジルクさんは腕を組んだまま黙ってしまっている。…やっぱり、聞くのはまずかったかな…?そう考え話題を変えてしまおうとした時、重々しくジルクさんが口を開いた。
「…まぁ、仲が良いかと聞かれれば、仲良しではないな」
私の疑問に、率直ジルクさんは答えてくれた。彼はそのまま続ける。
「…昔、隣国のユークリル連合王国が、帝国に突然攻撃を仕掛けてきたことがあったのは知ってるか?」
「はい、もちろんです」
それはそれは当時、かなり大きな騒ぎになった出来事だ。帝国と国境を隔てて位置する、隣国のオユークリル連合王国が、予告もなしに突然私たちの住む帝国に武力による攻撃を仕掛けてきたのだ。私は一応は貴族の身分であったから、相応の情報は当時も手に入れられた。
「あれは確か、連合王国内の一部の好戦的な軍人達が、独断で勝手にやったものだったんですよね…?」
「ああ、その通りなんだが…」
それゆえに、連合王国が早々に帝国へ謝罪をしてきた事で、死傷者などもなく穏便に終わった事のはずだけれど。
「実はあの時、連合王国へ報復攻撃を行う派と、そうはせずに帝国の守りを固める派に上層部は割れてしまってな。そして攻撃派のトップがアノッサ、防戦派のトップがシュルツだったんだ」
「そ、そんなことが…」
全く知らなかった。当時帝国は公に、「帝国は連合王国を攻撃する意思などない」って発表していたのに…
「結果はソフィアも知っての通り、帝国は防戦という選択を取った。そしてそれが結果的には功を奏して、向こうがすぐに謝罪の言葉を送ってきたことで、ひとまず事態は収束した。だが…」
そこから先は聞くまでもないかもしれないけど、私はあえてジルクさんの言葉を待った。
「シュルツはその功績で、次期皇帝の立場を確かなものとした。しかしアノッサの方は反対に、一気に評判を大きく落とすことになった。皇帝府長の立場を追われるのも時間の問題だ、なんて声もある」
隣国が攻めてきたなら、帝国を守るために攻撃の意志を示すことは至極当然のことだ。しかしそれゆえに、結果がこのようになってしまった事が快く受け入れられない、という事なんだろうか…?
考え込む私の顔を見て、ジルクさんが補足説明を加える。
「まぁただ、二人が本当にお互いをどう思ってるかなんて事は、周りには分からない。二人とも、絶対そんなことは口にしないだろうしな」
「確かに、そうですよね…」
神妙な面持ちで話していた私たちのもとに、一人の人物が馬で向かってくる。…私の最愛の人だ。
「ああそれと、この話を俺がしたって事は」
「大丈夫です。私からお聞きしたんですから」
私たちがちょうど会話を終えた頃、シュルツは無事屋敷に到着したのだった。
86
お気に入りに追加
1,522
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる