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第22話
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「シュルツ、例の二人が屋敷の前に着いたってよ」
ジルクさんが私たちのもとへ、二人の到着を知らせに来た。…とうとうこの時が来たようだ。
「分かった。よし、行こう」
私はシュルツとともに、二人の待つ屋敷前へと向かった。
――――
「調子はどうだい、ソフィア♪」
「ごきげんよう、お姉様♪」
満ち足りたシュルツとの生活に幸せを感じていた私は、正直二人への負の感情を忘れつつあった。二人がここへ来ると聞いた時も、きっとなんの感情もわかないことだろうと思っていた。しかしこうして二人の顔を直接見ると、忘れかけていたこれまでの日々が体中に、感覚的によみがえる。
「はるばるようこそ。私が当主のシュルツです」
彼は公務などの際、一人称が僕から私へと変わる。気の許す相手との挨拶の場などであれば、一人称は僕のままであるから、今の彼は二人に気を許してはいないのであろう。
「これはこれはどうもご丁寧に。僕はこのソフィアの婚約者だったフランツと申します。こちらは我が最愛の妹、エリーゼでございます。…それにしても、まさかこの屋敷が伯爵家であったなんて…小さすぎて近づくまで見えませんでしたね。…まぁ、お二人にはお似合いの場所だと思いますけれど♪」
会う早々嫌味を垂れてくる公爵。この人を見なくなってしばらく経ったけれど、やはりあれからも様子は全く変わっていないようだ。
案内され私たちの屋敷の中に上がった後も、変わらず同じ調子で口を開く。
「おやおや、全く使用人がいない様子ですねこれは。女癖や酒癖が悪くて、みんなここから逃げ出していったというのは本当なのですね~♪」
「お兄様、ご本人の前でそんなことを言っては失礼でしてよ~」
「おっと、これは失礼。お気を悪くされないでくださいね、伯爵様」
「…さきほどから見ていたのですけれど…ジルクさん?ちょっとよろしいですか?」
ここに来て、エリーゼが横に立っていたジルクさんに話しかける。そしてそのまま、彼女はジルクさんの腕を取り抱き着く姿勢をとる。
「…ねぇジルクさん、うちに来てはいただけないかしら?♪私、あなたのような殿方にそばにいてもらいたいの。こんな所なんかにいるより、間違いなく幸せになれますわよ?♪」
背が高く整った顔立ちのジルクさんを、エリーゼは早速気に入ったらしく、恥ずかしげもなく公然と誘惑を始める。しかしエリーゼの下品にしか見えないその行為を受けても、ジルクさんは表情を変えず、冷静に返事をした。
「…気持ちは嬉しいが、俺はシュルツの父親から直々に、息子を頼むと言われてるんだ。…それに…」
「…それに?」
「軽い女は嫌いなんでね」
その言葉を聞いた途端、エリーゼはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる。
「…使用人のくせに生意気なのね。そんな男、こっちから願い下げだわ」
ついさっきまで絡めていた腕を自ら乱暴に振りほどき、そう捨て台詞を発する。
「大体、どんな教育をすればこんなどうしようもない伯爵が生まれるのだろうね。きっと、父親だってどうしようもない人物に違いない」
私たちを煽るように気持ちの悪い笑みを浮かべながら、公爵がそう言った。それを聞いたジルクさんは、やや苦笑いをしながら口を開く。
「どうしようもない、ねぇ…お前はどう思う?」
その視線はシュルツに向けられていた。彼もまた苦笑いで、それでいて少し呆れたような表情で答える。
「ある意味、そうかもしれないね。それくらい振り切れてないと、帝国の皇帝なんて務まらないだろうし」
…刹那、二人の表情が凍りついた。
ジルクさんが私たちのもとへ、二人の到着を知らせに来た。…とうとうこの時が来たようだ。
「分かった。よし、行こう」
私はシュルツとともに、二人の待つ屋敷前へと向かった。
――――
「調子はどうだい、ソフィア♪」
「ごきげんよう、お姉様♪」
満ち足りたシュルツとの生活に幸せを感じていた私は、正直二人への負の感情を忘れつつあった。二人がここへ来ると聞いた時も、きっとなんの感情もわかないことだろうと思っていた。しかしこうして二人の顔を直接見ると、忘れかけていたこれまでの日々が体中に、感覚的によみがえる。
「はるばるようこそ。私が当主のシュルツです」
彼は公務などの際、一人称が僕から私へと変わる。気の許す相手との挨拶の場などであれば、一人称は僕のままであるから、今の彼は二人に気を許してはいないのであろう。
「これはこれはどうもご丁寧に。僕はこのソフィアの婚約者だったフランツと申します。こちらは我が最愛の妹、エリーゼでございます。…それにしても、まさかこの屋敷が伯爵家であったなんて…小さすぎて近づくまで見えませんでしたね。…まぁ、お二人にはお似合いの場所だと思いますけれど♪」
会う早々嫌味を垂れてくる公爵。この人を見なくなってしばらく経ったけれど、やはりあれからも様子は全く変わっていないようだ。
案内され私たちの屋敷の中に上がった後も、変わらず同じ調子で口を開く。
「おやおや、全く使用人がいない様子ですねこれは。女癖や酒癖が悪くて、みんなここから逃げ出していったというのは本当なのですね~♪」
「お兄様、ご本人の前でそんなことを言っては失礼でしてよ~」
「おっと、これは失礼。お気を悪くされないでくださいね、伯爵様」
「…さきほどから見ていたのですけれど…ジルクさん?ちょっとよろしいですか?」
ここに来て、エリーゼが横に立っていたジルクさんに話しかける。そしてそのまま、彼女はジルクさんの腕を取り抱き着く姿勢をとる。
「…ねぇジルクさん、うちに来てはいただけないかしら?♪私、あなたのような殿方にそばにいてもらいたいの。こんな所なんかにいるより、間違いなく幸せになれますわよ?♪」
背が高く整った顔立ちのジルクさんを、エリーゼは早速気に入ったらしく、恥ずかしげもなく公然と誘惑を始める。しかしエリーゼの下品にしか見えないその行為を受けても、ジルクさんは表情を変えず、冷静に返事をした。
「…気持ちは嬉しいが、俺はシュルツの父親から直々に、息子を頼むと言われてるんだ。…それに…」
「…それに?」
「軽い女は嫌いなんでね」
その言葉を聞いた途端、エリーゼはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる。
「…使用人のくせに生意気なのね。そんな男、こっちから願い下げだわ」
ついさっきまで絡めていた腕を自ら乱暴に振りほどき、そう捨て台詞を発する。
「大体、どんな教育をすればこんなどうしようもない伯爵が生まれるのだろうね。きっと、父親だってどうしようもない人物に違いない」
私たちを煽るように気持ちの悪い笑みを浮かべながら、公爵がそう言った。それを聞いたジルクさんは、やや苦笑いをしながら口を開く。
「どうしようもない、ねぇ…お前はどう思う?」
その視線はシュルツに向けられていた。彼もまた苦笑いで、それでいて少し呆れたような表情で答える。
「ある意味、そうかもしれないね。それくらい振り切れてないと、帝国の皇帝なんて務まらないだろうし」
…刹那、二人の表情が凍りついた。
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