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第12話

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 シガー伯爵家まではやや遠い。私たちは途中途中で休憩をとりつつ、目的地の伯爵家に到着した。
 当初伯爵は私たちに会おうともしなかったけれど、公爵が直々に来ていることを聞いたのだろう、門まで出てきてくれた。

「…公爵家の皆さん、何の御用でしょう…」

 伯爵から尋常ではない殺気を感じる。やはり彼は公爵家を恨んでいるようだ。
 私はちらっと公爵の顔を確認する。早く帰りたくて仕方がなさそうな顔だ。その望みを、叶えてあげることにしよう。

「…私と公爵の婚約は破棄の運びとなりました」

「っ!?」

 それを聞いて伯爵よりも先に、公爵が反応した。

「お、おい!!約束を守れ!僕はちゃんと守ったぞ!」

「あら、私は今回の話こんやくは無かったことにするときちんと申し上げましたが?約束はきちんと守っていますよ?」

「ふ、ふざけるな!」

 公爵はそう言うと右拳を私の肩めがけて突き出した。私は右手で手首を掴んで後ろにひねり上げ、右足で背中を蹴り上げた。

「痛っ!!!!!」

 公爵は情けない声をあげてその場に倒れ込む。伯爵は呆然と私たちを見つめる。

「お、お前最初からそのつもりだったんだな!くっそ!くっそ!!」

 公爵はそう吐き捨て、馬に乗り、逃げるように消えていった。全くざまあみやがれ。

「し、信じられんな…。あの公爵様を蹴り上げるなんて…」

 無理もない。いきなり押し寄せて婚約者を蹴飛ばす女なんて、どこにもいないだろう。

「これは私なりの誠意です。どうか信じていただきたいのです。私たちの目的は、あの男とその妹を地獄に叩き落すことです。そのために、伯爵のお力をお貸し頂けないかと」

「私の…?それはまたどうして…」

 伯爵はそこで言い淀んだ。少し考える素振りをしているあたり、何かを察したのだろうか。

「…ふむ。だが今何より私が信じられないのは、君だ。前に挨拶に来た時はあんなに気弱な女性だったのに、一体何が…?」

 私は一瞬ターナーと目を合わせる。…今まで抑圧されてきた反動で、いきなり本当の自分に気づいただなんて、いきなり話したとして信じてもらえるのだろうか…?
 しかし意外にも、伯爵の方からその話が出た。

「…公爵との暮らしの中で、何かが君を変えたように見える。それが何かは分からないが…少なくとも、今の君は大いに信頼に値すると思うよ。以前の君はどこか生気もなくて、見ているこっちが不安になったくらいだ。そんな自分を、打ち破ったという事かな?」

 私が思っていることをそのまま見透かしたかのような言葉を発する伯爵様。私はただただ笑うしかないのだった。
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