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第89話
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「……では正直に言わせていただきます」
「あぁ、ぜひ頼む♪」
シャルナは少し深く呼吸をして息を整えると、勢いのままにこう言った。
「ライオネル様、もう迷惑なので来ないでほしいです!」
「…………っっっ!?!?」
…満面の笑みでそう言ったシャルナの顔を、ライオネルは絶句して見つめている…。その様子は、彼女の言ったことがまったく理解できないといったように見え、同時に全身を固くフリーズさせてしまっていた…。
そして追い打ちをかけるように、隣に座っていたアーロンがその口を開いた。
「こらこら、だめだよシャルナ。いくらクライム様が魅力に欠ける殿方であるとはいっても、そこまで正直に話してしまってはライオネル様の心を傷つけてしまうだろう?」
「ご、ごめんなさいお父様…。正直に言いなさいと言われましたので、ついうっかり…」
何度も何度もしつこい誘いを受け続けてきたのだから、これくらいの仕返しは当然と言わんばかりの様子でそう言葉を発する二人。全く持ってライオネルの自業自得なのだが、二人の言葉を受けてライオネルはより一層その心の中を煮えたぎらせていった。
「(め、迷惑……だと……。上級伯爵であるこの私が……わざわざおいしい婚約話を持ってきてやっているというのに……め、迷惑だと……!?)」
…ライオネルの心の中に、この場でこの二人を張り倒してやりたいという感情が沸き上がる。…しかしそんなことをしてはかえって自らの評判をさらに落とすこととなるだけ…。それが愚かな行為であるということは重々理解しているライオネルは、なんとか怒りの感情を押し殺して冷静に取り繕った。
「(お、落ち着け落ち着け…。なにも問題はない、用意してきた新たな作戦を実行に移すだけの事…)」
ライオネルは息を整えると、先ほどまでと変わらない余裕の表情を浮かべながら、二人に言葉を返した。
「なるほどなるほど、つまり我が息子クライムなど比にならないほど、素晴らしい相手がシャルナ様にはいるということなのですな」
「その通りなのです!!その方はずっとずっと凍り付いていた私の心を温かく溶かしてくださって、素敵な言葉を何度もかけてくださって!それでいてすっごくかっこよくて、その方の事を思うともう夜も眠れないほどに胸がたかなってしまって…!」
「(シャルナ……そこまで自分に正直になってくれて、私はうれしいぞ……!!)」
シャルナは目をキラキラと輝かせながら、ときめく乙女のような表情でライオネルに言葉を返した。そんな彼女の言葉を隣で聞くアーロンもまたうるうるとした表情を浮かべており、ラルクに対する二人の思いを強さを象徴していた。
そんな二人に対し、ライオネルが仕掛けを企てた。
「…まさかとは思いますがそのお相手とは、この男ではございませんか?」
ライオネルはそう言いながら、準備してきた資料を二人の前に提示した。…そこにはほかでもない、ラルクの姿が描かれていた。
突然見せられたその資料を目にして、二人はやや驚きを隠せず言葉に詰まってしまう。そしてそんな二人に対し、ライオネルは言葉をつづけた。
「どうやら当たっているようですねぇ。いえね、実はこの男、とんだ大問題児なのですよ……。もしもお二人がこの男に心を奪われているのだとしたら、それは大間違いの事ですので是非考えの方を改めていただきたいと思いましてね?」
挑発的にそう二人に問いかけるライオネル。それに対してアーロンが口を開いた。
「大問題児、とはどういうことですか?」
「クックック…。ご存じですか?この男には一人の妹がいるのですが、あろうことかその妹は我が息子ファーラの心をたぶらかした挙句、伯爵家を滅茶苦茶にして一方的に雲隠れしたという考えられない女なのです!」
「は、はぁ……」
…二人の反応は微妙であるが、ライオネルはかまわずそのまま言葉を続ける。
「ラルクの方も大問題です!町ゆく人々からいろいろともてはやされているようですが、あの男は私も知る一人の女性を自殺未遂に追い込んだことがあるのです!そんなろくでもない性格の男に、シャルナ様を幸せにすることができるでしょうか!?」
「(…自殺未遂?)」
「(…あぁ、伯爵家主催の食事会でラルク様に関係を迫って断られて、恥ずかしさのあまり逃げ出していったって噂の……)」
激しい口調でそう訴えるライオネルであったが、そのことまですでに知っている二人に対し、ライオネルが発した偽りの警告が届くはずもない。
「…お話はそれだけですか?それじゃあもうお帰り頂きたいのですが」
「(…な、なんだなんだ?…全く動揺していない様子じゃないか……。この私がこうしてわざわざ教えてやりに来たというのに、いったいどうして……)」
…二人の反応から、あまり手ごたえを感じられないライオネル。そこでついに彼は、準備した最後の手段をとることとした。かなり強引で反感を買う方法であるが、この際そんなことにこだわってなどいられない。
「…そうですか。それでもなおこのラルクという男との関係を続けられますか。それでは仕方がありません。彼にはこの世から消えてもらうことにしましょう…!」
「っ!?!?」
「っ!?!?」
「あぁ、ぜひ頼む♪」
シャルナは少し深く呼吸をして息を整えると、勢いのままにこう言った。
「ライオネル様、もう迷惑なので来ないでほしいです!」
「…………っっっ!?!?」
…満面の笑みでそう言ったシャルナの顔を、ライオネルは絶句して見つめている…。その様子は、彼女の言ったことがまったく理解できないといったように見え、同時に全身を固くフリーズさせてしまっていた…。
そして追い打ちをかけるように、隣に座っていたアーロンがその口を開いた。
「こらこら、だめだよシャルナ。いくらクライム様が魅力に欠ける殿方であるとはいっても、そこまで正直に話してしまってはライオネル様の心を傷つけてしまうだろう?」
「ご、ごめんなさいお父様…。正直に言いなさいと言われましたので、ついうっかり…」
何度も何度もしつこい誘いを受け続けてきたのだから、これくらいの仕返しは当然と言わんばかりの様子でそう言葉を発する二人。全く持ってライオネルの自業自得なのだが、二人の言葉を受けてライオネルはより一層その心の中を煮えたぎらせていった。
「(め、迷惑……だと……。上級伯爵であるこの私が……わざわざおいしい婚約話を持ってきてやっているというのに……め、迷惑だと……!?)」
…ライオネルの心の中に、この場でこの二人を張り倒してやりたいという感情が沸き上がる。…しかしそんなことをしてはかえって自らの評判をさらに落とすこととなるだけ…。それが愚かな行為であるということは重々理解しているライオネルは、なんとか怒りの感情を押し殺して冷静に取り繕った。
「(お、落ち着け落ち着け…。なにも問題はない、用意してきた新たな作戦を実行に移すだけの事…)」
ライオネルは息を整えると、先ほどまでと変わらない余裕の表情を浮かべながら、二人に言葉を返した。
「なるほどなるほど、つまり我が息子クライムなど比にならないほど、素晴らしい相手がシャルナ様にはいるということなのですな」
「その通りなのです!!その方はずっとずっと凍り付いていた私の心を温かく溶かしてくださって、素敵な言葉を何度もかけてくださって!それでいてすっごくかっこよくて、その方の事を思うともう夜も眠れないほどに胸がたかなってしまって…!」
「(シャルナ……そこまで自分に正直になってくれて、私はうれしいぞ……!!)」
シャルナは目をキラキラと輝かせながら、ときめく乙女のような表情でライオネルに言葉を返した。そんな彼女の言葉を隣で聞くアーロンもまたうるうるとした表情を浮かべており、ラルクに対する二人の思いを強さを象徴していた。
そんな二人に対し、ライオネルが仕掛けを企てた。
「…まさかとは思いますがそのお相手とは、この男ではございませんか?」
ライオネルはそう言いながら、準備してきた資料を二人の前に提示した。…そこにはほかでもない、ラルクの姿が描かれていた。
突然見せられたその資料を目にして、二人はやや驚きを隠せず言葉に詰まってしまう。そしてそんな二人に対し、ライオネルは言葉をつづけた。
「どうやら当たっているようですねぇ。いえね、実はこの男、とんだ大問題児なのですよ……。もしもお二人がこの男に心を奪われているのだとしたら、それは大間違いの事ですので是非考えの方を改めていただきたいと思いましてね?」
挑発的にそう二人に問いかけるライオネル。それに対してアーロンが口を開いた。
「大問題児、とはどういうことですか?」
「クックック…。ご存じですか?この男には一人の妹がいるのですが、あろうことかその妹は我が息子ファーラの心をたぶらかした挙句、伯爵家を滅茶苦茶にして一方的に雲隠れしたという考えられない女なのです!」
「は、はぁ……」
…二人の反応は微妙であるが、ライオネルはかまわずそのまま言葉を続ける。
「ラルクの方も大問題です!町ゆく人々からいろいろともてはやされているようですが、あの男は私も知る一人の女性を自殺未遂に追い込んだことがあるのです!そんなろくでもない性格の男に、シャルナ様を幸せにすることができるでしょうか!?」
「(…自殺未遂?)」
「(…あぁ、伯爵家主催の食事会でラルク様に関係を迫って断られて、恥ずかしさのあまり逃げ出していったって噂の……)」
激しい口調でそう訴えるライオネルであったが、そのことまですでに知っている二人に対し、ライオネルが発した偽りの警告が届くはずもない。
「…お話はそれだけですか?それじゃあもうお帰り頂きたいのですが」
「(…な、なんだなんだ?…全く動揺していない様子じゃないか……。この私がこうしてわざわざ教えてやりに来たというのに、いったいどうして……)」
…二人の反応から、あまり手ごたえを感じられないライオネル。そこでついに彼は、準備した最後の手段をとることとした。かなり強引で反感を買う方法であるが、この際そんなことにこだわってなどいられない。
「…そうですか。それでもなおこのラルクという男との関係を続けられますか。それでは仕方がありません。彼にはこの世から消えてもらうことにしましょう…!」
「っ!?!?」
「っ!?!?」
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