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第88話
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それから数日の時が経過し、ついにライオネルがカタリーナ家を訪れる日を迎えた。ライオネルの到着を待つアーロンは自室にシャルナを呼び出すと、一言こう告げた。
「シャルナ、今日は君にも同席してほしいんだ」
「え?私もですか?」
「ライオネル様は、今日が最後の話し合いだと言ってきた。ならば君も、最後に思いのたけをライオネル様に告げるといい。遠慮することなんかいらないとも♪」
「はい!分かりました!」
アーロンからかけられた言葉に対し、シャルナは明るくそう返した。二人はすでに、ライオネルの襲撃を迎え撃つ準備は万端な様子。
――――
「旦那様、ライオネル様がご到着でございます」
「よし、いつもの部屋にお通ししてくれ」
「承知しました」
アーロンからの指示を受け、使用人であるルイスはそのままライオネルの案内に向かった。襲撃はこれが最後であろうことは彼もまた察しており、普段以上に緊張感を持っている様子。
「ライオネル様、よくぞいらっしゃいました。お部屋までご案内いたします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
ルイスはライオネルの様子に、やや不気味な違和感を覚えた。見たところライオネルの様子は普段以上に活き活きとしており、どこかこの状況を楽しんでいるようにも感じられたためだ。…やはり今日の彼には、なにかとっておきの考えがある様子…。
「(…何事もなく終わってくれればいいのだが…)」
かつてシャルナの事をセイラとラルクに相談したルイスにしてみれば、ライオネルからの横やりはたまったものではなかった。二人によってシャルナが救われ、カタリーナ家全体の関係も改善することができたというのに、ライオネルに妙なことをされてそれを台無しになどされたら、到底受け入れられるものではない。
そう心に願うルイスにとって、何か企んでいそうなライオネルの表情はやはり不気味でしかなかった。
「こちらでお待ちください、ライオネル様」
「あぁ、ありがとうありがとう」
用意された椅子に腰かけると、ライオネルは抱えていたカバンからいくつかの書類を机の上に取り出し、話し合いの準備を始める。これまでは特に書類など持ってくることもなく、ただただ一方的に二人の婚約関係を迫ってくるのみだったが、今回においてはこれが最後と明言しただけあり、なかなかの気合の入りような様子。
そして、ライオネルが待つ部屋にアーロンとシャルナの二人が姿を現した。
「はるばるようこそ、ライオネル様。お待ちしておりました」
「いやいや、こちらこそ……。ほぅ、今回はシャルナ様もご同席されるという事ですかな?」
「はい、彼女の人生にかかわることですので、一緒に話をさせてやりたく思います。よろしいですか?」
「あぁ、もちろんだとも。シャルナ様、よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
「(……??)」
…アーロンとシャルナの後ろに控えて立つルイスは、ライオネルが一瞬だけ妙な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
「(よしよしよし……ここまでは計算通り…。アーロン、お前の性格を考えれば必ず最後にはシャルナを同席させると読んでいた。これで計画の第一段階はクリアされたというもの…♪)」
ルイスはその心に妙な胸騒ぎを抱いたが、それだけでなにかが変わるわけもない。
そんな彼に構わず、ライオネルは早速本題に移った。
「さて、まずお二人に確認をさせてほしいのだが…。我が息子であり、伯爵の位を継いだクライムとの婚約。どちらにとっても悪くない話だと思うのだが、いかがお考えかな?」
ライオネルはダイレクトにそう問いかけた。そればらばこちらも、といった様子でアーロンが言葉を返す。
「お話は大変うれしく思っております。が、何度もお話させていただきました通り、シャルナ本人にはもうすでに心に決めた相手がいるのです。申し訳ございませんが、お答えすることはできません」
「ふむ……。それは、シャルナ様も同じ思いでございますか?」
ライオネルはシャルナの方へと視線を移す。そんな彼に対し、シャルナもまたはっきりと言葉を返した。
「はい、同じでございます。私を相手にと言っていただけることは本当に身に余る光栄でございますが、それにお応えすることはできません」
「それは、本当にあなた自身の意思ですか?」
「…?」
ライオネルは早速、第一のカマかけを図る。
「私は形ばかりの上級伯爵、一線は退いた身です。が、そんな私の元にもいろいろな情報は入ってくるのです。…シャルナ様、あなたはずっとずっとアーロン様の言いなりになっておられたのでしょう?そして私が見る限り、それは今も続いている…。あなたが受け入れようとしているそのお相手との関係、本当にあなたが望んだものなのですか?」
いやらしい笑みを浮かべながら、挑発するように言葉を発するライオネル。それを受けアーロンは少しうつむいたが、シャルナはきょとんとした表情を浮かべていた。
「クックック、図星ではありませんかシャルナ様?いいのですよ、ここは腹を割って話し合う場です。言いたいことがあるのなら、はっきりというべきですよ♪」
「……」
ライオネルは余裕の表情を見せつけつつ、シャルナに対して自分の疑問に答えるよう手で促した。短い間だけシャルナは黙っていたが、上品に、そしてはっきりとした口調でライオネルの疑問に答えた。
「……では正直に言わせていただきます」
「あぁ、ぜひ頼む♪」
シャルナは少し深く呼吸をして息を整えると、勢いのままにこう言った。
「ライオネル様、もう迷惑なので来ないでほしいです!」
「…………っっっ!?!?」
「シャルナ、今日は君にも同席してほしいんだ」
「え?私もですか?」
「ライオネル様は、今日が最後の話し合いだと言ってきた。ならば君も、最後に思いのたけをライオネル様に告げるといい。遠慮することなんかいらないとも♪」
「はい!分かりました!」
アーロンからかけられた言葉に対し、シャルナは明るくそう返した。二人はすでに、ライオネルの襲撃を迎え撃つ準備は万端な様子。
――――
「旦那様、ライオネル様がご到着でございます」
「よし、いつもの部屋にお通ししてくれ」
「承知しました」
アーロンからの指示を受け、使用人であるルイスはそのままライオネルの案内に向かった。襲撃はこれが最後であろうことは彼もまた察しており、普段以上に緊張感を持っている様子。
「ライオネル様、よくぞいらっしゃいました。お部屋までご案内いたします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
ルイスはライオネルの様子に、やや不気味な違和感を覚えた。見たところライオネルの様子は普段以上に活き活きとしており、どこかこの状況を楽しんでいるようにも感じられたためだ。…やはり今日の彼には、なにかとっておきの考えがある様子…。
「(…何事もなく終わってくれればいいのだが…)」
かつてシャルナの事をセイラとラルクに相談したルイスにしてみれば、ライオネルからの横やりはたまったものではなかった。二人によってシャルナが救われ、カタリーナ家全体の関係も改善することができたというのに、ライオネルに妙なことをされてそれを台無しになどされたら、到底受け入れられるものではない。
そう心に願うルイスにとって、何か企んでいそうなライオネルの表情はやはり不気味でしかなかった。
「こちらでお待ちください、ライオネル様」
「あぁ、ありがとうありがとう」
用意された椅子に腰かけると、ライオネルは抱えていたカバンからいくつかの書類を机の上に取り出し、話し合いの準備を始める。これまでは特に書類など持ってくることもなく、ただただ一方的に二人の婚約関係を迫ってくるのみだったが、今回においてはこれが最後と明言しただけあり、なかなかの気合の入りような様子。
そして、ライオネルが待つ部屋にアーロンとシャルナの二人が姿を現した。
「はるばるようこそ、ライオネル様。お待ちしておりました」
「いやいや、こちらこそ……。ほぅ、今回はシャルナ様もご同席されるという事ですかな?」
「はい、彼女の人生にかかわることですので、一緒に話をさせてやりたく思います。よろしいですか?」
「あぁ、もちろんだとも。シャルナ様、よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
「(……??)」
…アーロンとシャルナの後ろに控えて立つルイスは、ライオネルが一瞬だけ妙な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
「(よしよしよし……ここまでは計算通り…。アーロン、お前の性格を考えれば必ず最後にはシャルナを同席させると読んでいた。これで計画の第一段階はクリアされたというもの…♪)」
ルイスはその心に妙な胸騒ぎを抱いたが、それだけでなにかが変わるわけもない。
そんな彼に構わず、ライオネルは早速本題に移った。
「さて、まずお二人に確認をさせてほしいのだが…。我が息子であり、伯爵の位を継いだクライムとの婚約。どちらにとっても悪くない話だと思うのだが、いかがお考えかな?」
ライオネルはダイレクトにそう問いかけた。そればらばこちらも、といった様子でアーロンが言葉を返す。
「お話は大変うれしく思っております。が、何度もお話させていただきました通り、シャルナ本人にはもうすでに心に決めた相手がいるのです。申し訳ございませんが、お答えすることはできません」
「ふむ……。それは、シャルナ様も同じ思いでございますか?」
ライオネルはシャルナの方へと視線を移す。そんな彼に対し、シャルナもまたはっきりと言葉を返した。
「はい、同じでございます。私を相手にと言っていただけることは本当に身に余る光栄でございますが、それにお応えすることはできません」
「それは、本当にあなた自身の意思ですか?」
「…?」
ライオネルは早速、第一のカマかけを図る。
「私は形ばかりの上級伯爵、一線は退いた身です。が、そんな私の元にもいろいろな情報は入ってくるのです。…シャルナ様、あなたはずっとずっとアーロン様の言いなりになっておられたのでしょう?そして私が見る限り、それは今も続いている…。あなたが受け入れようとしているそのお相手との関係、本当にあなたが望んだものなのですか?」
いやらしい笑みを浮かべながら、挑発するように言葉を発するライオネル。それを受けアーロンは少しうつむいたが、シャルナはきょとんとした表情を浮かべていた。
「クックック、図星ではありませんかシャルナ様?いいのですよ、ここは腹を割って話し合う場です。言いたいことがあるのなら、はっきりというべきですよ♪」
「……」
ライオネルは余裕の表情を見せつけつつ、シャルナに対して自分の疑問に答えるよう手で促した。短い間だけシャルナは黙っていたが、上品に、そしてはっきりとした口調でライオネルの疑問に答えた。
「……では正直に言わせていただきます」
「あぁ、ぜひ頼む♪」
シャルナは少し深く呼吸をして息を整えると、勢いのままにこう言った。
「ライオネル様、もう迷惑なので来ないでほしいです!」
「…………っっっ!?!?」
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