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第85話

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「ラルク殿、いったいどのような鍛錬を積めばあなたのような力を!?」
「難しいことはなにもありません。心の中に愛する人の事を思う、ただそれだけで力は無限に湧き出てくるのです♪」
「「おおぉぉぉ!!」」

 相変わらず調子のいいラルクをしり目に、ターナーは自身の剣を回収した後、そのままオクトのもとへと歩み寄った。いまだに不思議そうな表情を浮かべるターナーに対し、オクトの方から言葉をかけた。

「大丈夫かターナー?」
「あ、あぁ…」

 ついさっきまでバチバチとにらみ合っていた二人だったものの、想像だにしていなかったセイラとラルクの登場を目の当たりにして、すっかり緊張がほどけた様子。

「…団長、今回の決着は次回に持ち越しのようだな」
「くすくす…。あぁ、そうだな。今からまた戦う気になどなれん(笑)」
「祝勝会でのセイラのエスコートは……あそこにいる男がやるのがふさわしいだろう。……今日はあの男に完敗だ」
「あぁ、まったくだ。彼と戦っていたなら、私もまたお前と同じことになっていただろう。我々はまだまだ未熟だということを思い知らされたというわけだ」

 二人がともに視線を送る先には、すっかり騎士たちの人気者になっているラルクの姿があった。先ほどの対決、きっとなにかからくりがあろうことにはターナー自身も感づいている様子であるが、この場の空気をすべて持って行ってしまったラルクの前にそんなことはもうどうでもよくなっている様子で、呆れにも似た苦笑いを浮かべるほかなかった。
 …しかし一人だけ、内心この流れを残念がっている者が一人…。

「(ええええ!!!二人ともこれで今日は終わりなの!?!?この場でセイラ様をめぐって告白しあってもらって、修羅場にするつもりだったのにぃ……)」

 …サプライズで二人をこの決闘の場に招待したガラルだけは、どこかしょんぼりとした表情を浮かべていた。この状況を作りだした彼自身も、まさかここまでラルクがすべてを持っていくことになるとは思っていなかった様子。




「…………?」
「っ!?!?」

 …ふとした瞬間、ターナーは近くにいたセイラと視線を合わせた。セイラはターナーの視線に気づき、彼に向けてぺこりと頭を下げて会釈をしたものの、それを見たターナーは一瞬のうちに魔法で石化されたかのようにフリーズしてしまう。

「(こ、こんな近くでセイラを見たのははじめてすぎる!!!か、かわいすぎる!!!ど、どうしよどうしよ、何か話さないといけないんじゃないのか!!いやでも一体なにをはなせばいいんだ!!あぁもうこんなこともあろうかとセイラが興味を引きそうな喫茶店やお菓子の情報を前に仕入れていたじゃないか!!なんでそれを今日に限って頭に入れてきてないんだ!!そ、そもそもラルクに完敗した俺の姿を見られてしまった!!これはもう完全にがっかりされたってことなんじゃないのか!!あぁもうどうすれば!!!)」
「???」

 脳内では大騒ぎになっているものの、体は相変わらずフリーズしたままのターナー。そんな彼の姿にセイラは不思議そうに首を傾けてみるが、それがまたターナーの心をかき乱す。

「(い、今セイラが少し首をひねったぞ!!こ、これは間違いなく俺の事を変な騎士だと思ったんじゃないだろうか!?そ、それはまずい!!い、一刻も早くこの場から消えて作戦を立て直さなければ!!)」

 ターナーは突然ハっと我に返ると、そのまま勢いよく会場出口をめざして駆け出し、嵐のようにその場を後にしていった。目が合っただけで逃げるように消えていったターナーの姿にセイラはぽかんとしてしまうが、その光景を隣で見ていたオクトとガラルは…

「(ターナーめ、どこまでも自分勝手な……)」
「(笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑!!)」

 それぞれがらしい反応を見せていた。とくにガラルは笑いをこらえるのに必死なようで…。

「(さっきまであんなにかっこつけてたくせに、好きな人と視線を合わせただけであんなに赤くなって…(笑笑笑笑)。いやいや、これはいいものを見せてもらったというもの。お二人をサプライズでここに招待した甲斐があったというもの(笑)」

 笑いをこらえ、体をプルプルと震わせているガラル。セイラはそんな彼の姿を見てさらにぽかんとした表情を浮かべるほかなかった。
 オクトはターナーとガラルの姿にやれやれといった表情を浮かべつつ、セイラに対して申し訳なさそうに言葉を発した。

「はぁ…。セイラ様、せっかく来ていただいたというのに問題児ばかりですまない…。団長として恥ずかしい限り…」
「いえいえそんなとんでもありません!!問題児というのでしたら、うちのお兄様のほうがよっぽど問題児ですので!!」

 お腹を抱えて笑い始め、もう隠すつもりのない様子のガラル、そして相変わらず騎士たちの前で調子のいいことを言っているラルク。二人の姿を遠目に見たセイラとオクトは、互いに深いため息をつくのだった。
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