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第79話
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「こ、これとこれはそっちに置いておくとして、当日の事は彼に任せるとして、えーっとその次は…」
「こっちも手伝ってくださーい!飾り付けがまだまだ終わりそうにありませーん!」
「はいはい、今行きまーす!」
祝勝会の開催が間近に迫り、騎士の城はその準備で大慌てになっていた。当日は社会的階級の高い人からそうでない一般の人まで、実に様々な人物がこの場を訪れることになっている。この城ではこれまでに一度もそんな大きなイベントは開催されたことがなかったために、城の中はいい意味でパニックのような状態になっていた。
「聞いたか?祝勝会の開催はあのラルク殿が発案されたらしいぞ?」
「へぇ…。イベントを開催して騎士と人々の距離を縮めようなんて、今まで思いつきもしなかったなぁ…。やっぱり頭のいいやつっているんだなぁ…」
「それに加えて、騎士でもないのに魔獣たちを瞬く間にばったばったと倒していったって噂の人よ?頭もよくて腕っぷしも強いなんて、もう惚れ惚れしちゃうわねぇ…♪」
「で、でも大丈夫なのかよ?俺が聞いた話じゃ、剣を持った時の実力はオクト団長に匹敵するって話だぞ?…もしかしたら、騎士団の乗っ取りまで考えているんじゃないだろうな…?」
「…なるほど、オクト団長にも劣らない実力があるのなら、その可能性もあるのか…。うーむ…」
騎士たちは祝勝会の準備に当たりながら、互いに思い思いの言葉を発して会話していた。その話題の中心はやはり発案者のラルクであり、いったい彼は何者なのかと騎士たちは大きく興味を示していた。…しかしその誰も、まさかこの祝勝会がラルクのテキトーな思い付きから始まったこと、そのラルク自身がまったくなんの剣の実力を持たないことなど、気づく由もないのだった。
そしてそんなさなかの事、一人の騎士が他の騎士たちのもとにすさまじい勢いで現れ、ある知らせを持ち込んだ。
「た、大変だみんな!!地下の闘剣場でオクト団長とターナーが決闘するらしい!!!」
「は、はぁっ!?じょ、冗談だろうっ!?」
「冗談なんかじゃないさ!あと数時間後に一撃必中ルールで決闘するらしい!く、詳しいいきさつは僕にもわからないが…。タ、ターナーの事だから、オクト団長を怒らせる何かをしでかしたんじゃないだろうか…」
「う、うそでしょっ!?オクト団長ほど冷静で穏やかな人が、そんなに怒るほどのことがあったっていうの!?そ、それをまだ新入りのターナーがやってしまったっていうの!?」
「だ、だから詳しいことは僕にもわからないんだ!ただ一つだけ間違いないのは、数時間後にオクト団長とターナーが一騎打ちで戦うということだけ…」
「ま、まじかよ……」
驚きの表情、信じられないという表情、そしていったい何があったのかと心配する表情、話を聞いた騎士たちは各々リアクションを見せていた。
騎士の城の地下にある闘剣場は文字通り、互いに剣を用いて決闘を行う場所だ。基本的には訓練、手合わせ、技術を競う大会などでしか用いられることはない。それがどういうわけか、今回はまだまだ新入りのターナーとオクト団長が真っ向から決闘を行うのだという…。この意味の分からない展開の前に、騎士たちが動揺するのも無理はなかった。
「…新入りのターナーがオクト団長と手合わせ……なはずはないよな…」
「…訓練……なはずもないし…」
「や、やっぱり何かの間違いなんじゃないか??だっておかしいだろ?こんなありえない組み合わせの決闘……」
…誰も口にしないものの、それぞれの心の中にはある一つの合理的な答えが浮かんでいた。ターナーは新入りの騎士ながら、その態度の大きさはもはや多くの騎士たちの知るところとなっていた。確かにそれにふさわしいほどの実力は有してはいるものの、それでもまだまだ経験は浅い存在であることに違いはない。いくら剣の世界が実力主義の世界であるとはいっても、その性格は見て見ぬふりをするには難しいものだった。
そんな中でもたらされたこの知らせ。…ここから推測される答えは、やはりひとつだった…。
「…ターナーが団長の機嫌を損ねるような何かを言ってしまって、それに激怒した団長がみせしめにみんなの前でターナーの事を教育しようとしている、ということか……?」
「「……」」
オクト団長の穏やかで冷静な性格は、ここにいる全員が知っていることだった。その彼を怒らせるほどのターナーの言葉や態度とは、一体どれほどのものだったのか…。そして激怒した団長の見せる姿とは、いったいどれほど恐ろしいものなのか…。騎士たちは想像するだけでその身を震わせ、恐怖するのだった…。
そんな時、騎士たちの前をある人物が横切った。
「が、ガラル副団長様!!!」
「あぁ、みんな準備を進めてくれているんだね、ご苦労様♪」
「そ、そんなことよりガラル様、オクト団長とターナーが決闘を行うというのは本当なのですか!?」
すさまじい形相でガラルにそう問いかける騎士の一人。ガラルはそんな彼の姿を見て、やや表情を重くして答えた。
「(セイラ様のために)二人は戦うことを決めたのですよ。見守ってあげなさい…!」
「っ!?!?」
…二人の決闘がやはり事実であったこと、そしてどこか重い雰囲気をかもしだすガラルの前に、騎士たちは戦々恐々としてしまう。
…その一方、震えあがる騎士たちを見てガラルはその内心でこう思った。
「(これは面白くなってきましたよぉぉぉぉ!!!!)」
「こっちも手伝ってくださーい!飾り付けがまだまだ終わりそうにありませーん!」
「はいはい、今行きまーす!」
祝勝会の開催が間近に迫り、騎士の城はその準備で大慌てになっていた。当日は社会的階級の高い人からそうでない一般の人まで、実に様々な人物がこの場を訪れることになっている。この城ではこれまでに一度もそんな大きなイベントは開催されたことがなかったために、城の中はいい意味でパニックのような状態になっていた。
「聞いたか?祝勝会の開催はあのラルク殿が発案されたらしいぞ?」
「へぇ…。イベントを開催して騎士と人々の距離を縮めようなんて、今まで思いつきもしなかったなぁ…。やっぱり頭のいいやつっているんだなぁ…」
「それに加えて、騎士でもないのに魔獣たちを瞬く間にばったばったと倒していったって噂の人よ?頭もよくて腕っぷしも強いなんて、もう惚れ惚れしちゃうわねぇ…♪」
「で、でも大丈夫なのかよ?俺が聞いた話じゃ、剣を持った時の実力はオクト団長に匹敵するって話だぞ?…もしかしたら、騎士団の乗っ取りまで考えているんじゃないだろうな…?」
「…なるほど、オクト団長にも劣らない実力があるのなら、その可能性もあるのか…。うーむ…」
騎士たちは祝勝会の準備に当たりながら、互いに思い思いの言葉を発して会話していた。その話題の中心はやはり発案者のラルクであり、いったい彼は何者なのかと騎士たちは大きく興味を示していた。…しかしその誰も、まさかこの祝勝会がラルクのテキトーな思い付きから始まったこと、そのラルク自身がまったくなんの剣の実力を持たないことなど、気づく由もないのだった。
そしてそんなさなかの事、一人の騎士が他の騎士たちのもとにすさまじい勢いで現れ、ある知らせを持ち込んだ。
「た、大変だみんな!!地下の闘剣場でオクト団長とターナーが決闘するらしい!!!」
「は、はぁっ!?じょ、冗談だろうっ!?」
「冗談なんかじゃないさ!あと数時間後に一撃必中ルールで決闘するらしい!く、詳しいいきさつは僕にもわからないが…。タ、ターナーの事だから、オクト団長を怒らせる何かをしでかしたんじゃないだろうか…」
「う、うそでしょっ!?オクト団長ほど冷静で穏やかな人が、そんなに怒るほどのことがあったっていうの!?そ、それをまだ新入りのターナーがやってしまったっていうの!?」
「だ、だから詳しいことは僕にもわからないんだ!ただ一つだけ間違いないのは、数時間後にオクト団長とターナーが一騎打ちで戦うということだけ…」
「ま、まじかよ……」
驚きの表情、信じられないという表情、そしていったい何があったのかと心配する表情、話を聞いた騎士たちは各々リアクションを見せていた。
騎士の城の地下にある闘剣場は文字通り、互いに剣を用いて決闘を行う場所だ。基本的には訓練、手合わせ、技術を競う大会などでしか用いられることはない。それがどういうわけか、今回はまだまだ新入りのターナーとオクト団長が真っ向から決闘を行うのだという…。この意味の分からない展開の前に、騎士たちが動揺するのも無理はなかった。
「…新入りのターナーがオクト団長と手合わせ……なはずはないよな…」
「…訓練……なはずもないし…」
「や、やっぱり何かの間違いなんじゃないか??だっておかしいだろ?こんなありえない組み合わせの決闘……」
…誰も口にしないものの、それぞれの心の中にはある一つの合理的な答えが浮かんでいた。ターナーは新入りの騎士ながら、その態度の大きさはもはや多くの騎士たちの知るところとなっていた。確かにそれにふさわしいほどの実力は有してはいるものの、それでもまだまだ経験は浅い存在であることに違いはない。いくら剣の世界が実力主義の世界であるとはいっても、その性格は見て見ぬふりをするには難しいものだった。
そんな中でもたらされたこの知らせ。…ここから推測される答えは、やはりひとつだった…。
「…ターナーが団長の機嫌を損ねるような何かを言ってしまって、それに激怒した団長がみせしめにみんなの前でターナーの事を教育しようとしている、ということか……?」
「「……」」
オクト団長の穏やかで冷静な性格は、ここにいる全員が知っていることだった。その彼を怒らせるほどのターナーの言葉や態度とは、一体どれほどのものだったのか…。そして激怒した団長の見せる姿とは、いったいどれほど恐ろしいものなのか…。騎士たちは想像するだけでその身を震わせ、恐怖するのだった…。
そんな時、騎士たちの前をある人物が横切った。
「が、ガラル副団長様!!!」
「あぁ、みんな準備を進めてくれているんだね、ご苦労様♪」
「そ、そんなことよりガラル様、オクト団長とターナーが決闘を行うというのは本当なのですか!?」
すさまじい形相でガラルにそう問いかける騎士の一人。ガラルはそんな彼の姿を見て、やや表情を重くして答えた。
「(セイラ様のために)二人は戦うことを決めたのですよ。見守ってあげなさい…!」
「っ!?!?」
…二人の決闘がやはり事実であったこと、そしてどこか重い雰囲気をかもしだすガラルの前に、騎士たちは戦々恐々としてしまう。
…その一方、震えあがる騎士たちを見てガラルはその内心でこう思った。
「(これは面白くなってきましたよぉぉぉぉ!!!!)」
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