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第76話
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そこに現れたのはほかでもない、ある意味この状況を引き起こした元凶と言っても差し支えない人物である、レリアであった。
彼女は楽しくて仕方がないといった雰囲気で3人の前に姿を現すと、上品な立ち振る舞いで会釈を行った。
「どうしたレリア?この時間はのんびりお茶会をするんじゃなかったのか?」
「はい、伯爵様。そのお茶会をしておりましたら、窓から皆様の姿が見えましたの。なにやらお楽しみの様子でしたので、ぜひ私も混ぜていただければなと♪」
「やれやれ、直感のままに乗り込んでくるとは、さすがはこの俺が見込んだ女…!」
「まぁ♪」
現れたレリアをクライムは自身の隣へと抱き寄せ、自身の体を彼女に密着させる。それはまるで、彼女に捨てられたファーラに自分の優位を見せつけるかのように…。
「(…レリアにクライム、どこまでも性格の悪い…)」
レリアとクライムの姿を、複雑そうな表情で見つめるファーラ。しかし彼とて、かつてはセイラにこれと同じことをした事があるのだが…。
「さ、さすがはクライム伯爵様とレリア様!お二人が並んで立たれると、もう絵画を見ているかのようなお美しさでございます!このレーチス、お二人の関係を見届ける者の一人として立ち会えましたこと、心よりうれしく思います!」
相変わらず主人を持ち上げることに定評のあるレーチスは、下品に両手をさすりながら二人にすり寄る。その姿を見て一段と気をよくするクライムの姿に、ファーラは思うところがあるようだ。
「(…僕は今まで、こんなわかりやすいおだてられ方をしていたのか…。それに気づくこともなく、レーチスは本心から僕の事を慕っていると信じ切っていた…。それがこうしてはたから見た時、こんなにもみっともないものだったとは…)」
ファーラは頭を抱え、過去の自分の鈍感さを後悔した。そんなファーラの姿を見て、今度はクライムが言葉を開く。
「なんだなんだ、やっぱり悔しいのですか兄上?信じていたレーチスにも見限られて、愛していたレリアにさえ見捨てられて…。まぁ、仕方がないというものですなぁ。やはりこの俺に勝てるはずはなかったということでしょう♪」
「(あ、頭を抱えたのはそういうわけではないのだが…)」
そんなやり取りをはたから見つめていたレリアもまた、その口を開いた。
「ファーラ様、私はあなた様に感謝しているのです。私がこうして、真実の愛と呼ぶにふさわしいクライム様と結ばれることが叶ったのは、あなた様のおかげなのですから。これから先はうす暗い人生を送られるのでしょうけれど、私は応援しておりますわ♪」
くすくすと笑いながらそう言葉を発するレリア。その雰囲気は明らかにファーラの事を挑発しているものだが、彼はそれには乗らず、冷静に言葉を返した。
「…レリア。クライムとレーチスはセイラに仕返しをするんだと息巻いているけれど、それは君も知っての事なのか?」
「えぇ、もちろんですわ。あんなに好き勝手されたまま勝ち逃げなんてされたら、私だってどうにかなってしまいそうです。それに、ファーラ様だって覚えているでしょう?私はセイラのせいで一度、命を落としかけているのです。その償いだってしてもらわないと、気が済みませんから」
「死にかけた…?(…あ。…もしかして、ラルクの事を自分が勝手に勘違いして告白して、その場でフラれて、その恥ずかしさからリストカットしようとしたあの時の事を言っているのか…?あれを殺されかけたなんて言い始めたら、もうなんでもありに…)」
「なんだと!?セイラに殺されかけただと!?」
レリアの言葉をそのままの意味に受け取ったクライムは、その瞳の奥を怒りの感情で満たしていく。
「それは聞き捨てならないな…。やはり、セイラには伯爵たるこの俺が天罰を与えなければならない…。このままのうのうと生きていけるなどと思わないことだな…」
「おいクライム、それは彼女が勝手に」
「おっと…。まさかとは思うが、婚約者の命を脅かされたというのに、相変わらずセイラを恐れるあまり何もできずに終わった男がここにいるのではないだろうな?」
「……(もう何を言っても手遅れか…)」
ファーラは説得など無駄だと察したのか、言葉を返すことなく黙り込む。そんな彼の姿を見たクライムは、自分の力を前にしてとうとうファーラが降伏したのだと思い込んだ。
「(くっくっく…。これで筋書きは完璧になった…。レリアの命をおびやかしたセイラにこの俺が天罰を与え、伯爵家の威厳を回復する。それによってレリアは今以上にこの俺に夢中になることだろう。そしてさらに、俺には財閥令嬢シャルナとの婚約が決まっている。財閥の力がこの手に入れば、それこそ俺は何でも手に入る存在となるだろう!…もう、ここから負けることの方が難しいというものだ♪やはり俺の才能は、この男のはるか上を行っているのだ!)」
クライムは頭の中で価値を確信するとともに、その高ぶりが表情にもあふれ出る。くくくと笑みを浮かべる彼の隣で、レリアもまた不敵な笑みを浮かべていた。
そんな二人の姿を見たファーラは、無駄とは思いながらも最後の警告を発した。
「…クライム、お前が助かる方法がひとつだけある。それを教える」
「くっくっく…。どうせ自分に伯爵の位を戻せとでもいうんだろう?」
「それも悪くはない。が、もっともっと効果的な方法が一つだけある」
「ほう、聞こうじゃないか」
「セイラともう一度関係を築くことだ。それこそがただひとつ、お前が助かる方法だ」
彼女は楽しくて仕方がないといった雰囲気で3人の前に姿を現すと、上品な立ち振る舞いで会釈を行った。
「どうしたレリア?この時間はのんびりお茶会をするんじゃなかったのか?」
「はい、伯爵様。そのお茶会をしておりましたら、窓から皆様の姿が見えましたの。なにやらお楽しみの様子でしたので、ぜひ私も混ぜていただければなと♪」
「やれやれ、直感のままに乗り込んでくるとは、さすがはこの俺が見込んだ女…!」
「まぁ♪」
現れたレリアをクライムは自身の隣へと抱き寄せ、自身の体を彼女に密着させる。それはまるで、彼女に捨てられたファーラに自分の優位を見せつけるかのように…。
「(…レリアにクライム、どこまでも性格の悪い…)」
レリアとクライムの姿を、複雑そうな表情で見つめるファーラ。しかし彼とて、かつてはセイラにこれと同じことをした事があるのだが…。
「さ、さすがはクライム伯爵様とレリア様!お二人が並んで立たれると、もう絵画を見ているかのようなお美しさでございます!このレーチス、お二人の関係を見届ける者の一人として立ち会えましたこと、心よりうれしく思います!」
相変わらず主人を持ち上げることに定評のあるレーチスは、下品に両手をさすりながら二人にすり寄る。その姿を見て一段と気をよくするクライムの姿に、ファーラは思うところがあるようだ。
「(…僕は今まで、こんなわかりやすいおだてられ方をしていたのか…。それに気づくこともなく、レーチスは本心から僕の事を慕っていると信じ切っていた…。それがこうしてはたから見た時、こんなにもみっともないものだったとは…)」
ファーラは頭を抱え、過去の自分の鈍感さを後悔した。そんなファーラの姿を見て、今度はクライムが言葉を開く。
「なんだなんだ、やっぱり悔しいのですか兄上?信じていたレーチスにも見限られて、愛していたレリアにさえ見捨てられて…。まぁ、仕方がないというものですなぁ。やはりこの俺に勝てるはずはなかったということでしょう♪」
「(あ、頭を抱えたのはそういうわけではないのだが…)」
そんなやり取りをはたから見つめていたレリアもまた、その口を開いた。
「ファーラ様、私はあなた様に感謝しているのです。私がこうして、真実の愛と呼ぶにふさわしいクライム様と結ばれることが叶ったのは、あなた様のおかげなのですから。これから先はうす暗い人生を送られるのでしょうけれど、私は応援しておりますわ♪」
くすくすと笑いながらそう言葉を発するレリア。その雰囲気は明らかにファーラの事を挑発しているものだが、彼はそれには乗らず、冷静に言葉を返した。
「…レリア。クライムとレーチスはセイラに仕返しをするんだと息巻いているけれど、それは君も知っての事なのか?」
「えぇ、もちろんですわ。あんなに好き勝手されたまま勝ち逃げなんてされたら、私だってどうにかなってしまいそうです。それに、ファーラ様だって覚えているでしょう?私はセイラのせいで一度、命を落としかけているのです。その償いだってしてもらわないと、気が済みませんから」
「死にかけた…?(…あ。…もしかして、ラルクの事を自分が勝手に勘違いして告白して、その場でフラれて、その恥ずかしさからリストカットしようとしたあの時の事を言っているのか…?あれを殺されかけたなんて言い始めたら、もうなんでもありに…)」
「なんだと!?セイラに殺されかけただと!?」
レリアの言葉をそのままの意味に受け取ったクライムは、その瞳の奥を怒りの感情で満たしていく。
「それは聞き捨てならないな…。やはり、セイラには伯爵たるこの俺が天罰を与えなければならない…。このままのうのうと生きていけるなどと思わないことだな…」
「おいクライム、それは彼女が勝手に」
「おっと…。まさかとは思うが、婚約者の命を脅かされたというのに、相変わらずセイラを恐れるあまり何もできずに終わった男がここにいるのではないだろうな?」
「……(もう何を言っても手遅れか…)」
ファーラは説得など無駄だと察したのか、言葉を返すことなく黙り込む。そんな彼の姿を見たクライムは、自分の力を前にしてとうとうファーラが降伏したのだと思い込んだ。
「(くっくっく…。これで筋書きは完璧になった…。レリアの命をおびやかしたセイラにこの俺が天罰を与え、伯爵家の威厳を回復する。それによってレリアは今以上にこの俺に夢中になることだろう。そしてさらに、俺には財閥令嬢シャルナとの婚約が決まっている。財閥の力がこの手に入れば、それこそ俺は何でも手に入る存在となるだろう!…もう、ここから負けることの方が難しいというものだ♪やはり俺の才能は、この男のはるか上を行っているのだ!)」
クライムは頭の中で価値を確信するとともに、その高ぶりが表情にもあふれ出る。くくくと笑みを浮かべる彼の隣で、レリアもまた不敵な笑みを浮かべていた。
そんな二人の姿を見たファーラは、無駄とは思いながらも最後の警告を発した。
「…クライム、お前が助かる方法がひとつだけある。それを教える」
「くっくっく…。どうせ自分に伯爵の位を戻せとでもいうんだろう?」
「それも悪くはない。が、もっともっと効果的な方法が一つだけある」
「ほう、聞こうじゃないか」
「セイラともう一度関係を築くことだ。それこそがただひとつ、お前が助かる方法だ」
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