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第69話
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「セ、セイラについてでございますか?」
「あぁ。かつてファーラが婚約者としていた相手なのだろう?俺の予想では、間違いなくセイラになんらかの利用できる価値があるからこそ、ファーラはセイラを婚約者にしたのではないかと思っている。そうでもなければ、あの現金な男が何の価値もない相手を婚約者になどするはずがないからな」
どや顔でそう言葉を発するクライムと、そんなクライムを見てしめしめといった表情を浮かべるクライム。
「さ、さすがはクライム様!まったくその通りでございます…!(これはラッキー…♪。まさかファーラとライオネルから聞かされていたセイラの秘密が、こうして役に立ってくれることになるとは…♪)」
セイラが聖女の血を引く存在であるという事。これはファーラとライオネルの最大級の秘密であったが、かつてレーチスに気をよくしたファーラは、酔った勢いでその秘密を暴露してしまっていた。それは後にライオネルにたしなめられることとなるわけだが、結局のところライオネルもまたレーチスに秘密を打ち明けることを認めていた。
レーチスはその秘密をクライムに打ち明けることで、自分をより良い待遇としてもらうことを画策した。
「…それで、セイラの秘密とはなんだ?ファーラが婚約者の座に座らせるまでに欲しがったものとは、一体なんだ?」
「じ、実は………セイラの体には、聖女の血が流れているという話があるのです…」
「聖女…?王族を守護するために生み出されたっていう、あの聖女か?」
「は、はい…。最初は私も半信半疑だったのですが、ファーラもライオネルも真剣な表情でそう言っておりましたし、それになにより、私は彼女がその力を発揮する瞬間を見たのです…!」
「…」
広く知られている聖女の伝説。それをレーチスより聞かされたクライムは、ややいぶかしげな表情を浮かべた。
「…それを俺に信じろと言っているのか?あいにく、俺はそんな話に付き合うほどおとぎ話好きではないんだが?」
「で、ですがうそなどではないのです!現実にそうとしか考えられないような現象が度々起こっておりまして、最終的にファーラが伯爵の座を追われることになったのも、セイラの力が影響しているのではないかと私は確信しております…!」
「どんな力だ?」
「それまでの気弱でおとなしいセイラとは別人のように、剣技にしても体術にしても圧倒的な力を発揮しておりました…。あれはもう、聖女の力であると説明しなければ理解できないほどのものでした…」
「…ククク…」
「…?」
レーチスの話を聞いて、クライムはその顔を手で覆いながらなにやら小さく笑い声をあげた。そんなクライムの姿を、レーチスはただ黙って見守るほかなかった。
「ククク…。聖女ねぇ…、まぁ、あの場で披露する催しくらいにはなるか…ククク…」
「ク、クライム様…?」
クライムはなにやら、その頭の中に考えがある様子。にやにやとした表情を浮かべていることから、なにか怪しげな考えであることは誰の目にも明らかだ。
「なぁレーチス、聖女の力なんて子どもの絵本に出てくるような話、俺が馬鹿みたいに信じるはずがないだろう?お前ファーラに騙されてるんじゃないのか?(笑)」
「ク、クライム様!ま、間違いないのです!私も最初は疑っておりましたが、セイラの正体は間違いなく」
「まぁそう焦るな、別にお前をどうこうしようってんじゃない。…ただ、聖女様の存在を使って面白いことがしたいだけさ♪」
「お、面白いことでございますか…?」
クライムはそう言うと、自身の机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「こ、これは…」
「”戦勝記念祝勝会”だそうだ。騎士団主催のな」
それは魔獣の一件に決着がついたことを祝勝する会の知らせであった。もちろんこの知らせがクライムのもとに届けられるはずはないため、これは他の誰かに届けられたものをクライムが横取りしたものだった。
「ク、クライム様…。もしかして、こちらに出席されるのですか?」
「俺は長らく地方へと飛ばされていたから、騎士の連中に顔は割れていないはず。来るもの拒まずといった様子で開催されるなら、俺が行ったって文句は言われまい」
「(そ、それはどうでしょうねぇ…。魔獣の一件を引き起こした張本人の弟ですから、バレたら何を言われるか…)」
「なぁレーチス、お前もそう思うだろう?」
「は、はいっ!!おっしゃる通りかと!!」
レーチスもまた、そのイエスマンな性格が直るはずもない。
「し、しかしそこに参加されて何をされるおつもりなのですか…?」
「あぁ。そこで本当にセイラが聖女なのかどうか、見せてもらおうじゃないか…。もしもそうでなかったら、あいつが一方的に大恥をかくことになる、面白いゲームを思いついたんでね…(笑)」
得意げに笑うクライムには、沸き上がる自信のほどが見て取れた。しかし一方で、レーチスの方は過去のトラウマからか、心の中に不安を抱かずにはいられなかった様子…。
「(そ、それって…もしもセイラが本当に聖女だったら、我々の方が大恥をかいてしまうことになるんじゃ…)」
「あぁ。かつてファーラが婚約者としていた相手なのだろう?俺の予想では、間違いなくセイラになんらかの利用できる価値があるからこそ、ファーラはセイラを婚約者にしたのではないかと思っている。そうでもなければ、あの現金な男が何の価値もない相手を婚約者になどするはずがないからな」
どや顔でそう言葉を発するクライムと、そんなクライムを見てしめしめといった表情を浮かべるクライム。
「さ、さすがはクライム様!まったくその通りでございます…!(これはラッキー…♪。まさかファーラとライオネルから聞かされていたセイラの秘密が、こうして役に立ってくれることになるとは…♪)」
セイラが聖女の血を引く存在であるという事。これはファーラとライオネルの最大級の秘密であったが、かつてレーチスに気をよくしたファーラは、酔った勢いでその秘密を暴露してしまっていた。それは後にライオネルにたしなめられることとなるわけだが、結局のところライオネルもまたレーチスに秘密を打ち明けることを認めていた。
レーチスはその秘密をクライムに打ち明けることで、自分をより良い待遇としてもらうことを画策した。
「…それで、セイラの秘密とはなんだ?ファーラが婚約者の座に座らせるまでに欲しがったものとは、一体なんだ?」
「じ、実は………セイラの体には、聖女の血が流れているという話があるのです…」
「聖女…?王族を守護するために生み出されたっていう、あの聖女か?」
「は、はい…。最初は私も半信半疑だったのですが、ファーラもライオネルも真剣な表情でそう言っておりましたし、それになにより、私は彼女がその力を発揮する瞬間を見たのです…!」
「…」
広く知られている聖女の伝説。それをレーチスより聞かされたクライムは、ややいぶかしげな表情を浮かべた。
「…それを俺に信じろと言っているのか?あいにく、俺はそんな話に付き合うほどおとぎ話好きではないんだが?」
「で、ですがうそなどではないのです!現実にそうとしか考えられないような現象が度々起こっておりまして、最終的にファーラが伯爵の座を追われることになったのも、セイラの力が影響しているのではないかと私は確信しております…!」
「どんな力だ?」
「それまでの気弱でおとなしいセイラとは別人のように、剣技にしても体術にしても圧倒的な力を発揮しておりました…。あれはもう、聖女の力であると説明しなければ理解できないほどのものでした…」
「…ククク…」
「…?」
レーチスの話を聞いて、クライムはその顔を手で覆いながらなにやら小さく笑い声をあげた。そんなクライムの姿を、レーチスはただ黙って見守るほかなかった。
「ククク…。聖女ねぇ…、まぁ、あの場で披露する催しくらいにはなるか…ククク…」
「ク、クライム様…?」
クライムはなにやら、その頭の中に考えがある様子。にやにやとした表情を浮かべていることから、なにか怪しげな考えであることは誰の目にも明らかだ。
「なぁレーチス、聖女の力なんて子どもの絵本に出てくるような話、俺が馬鹿みたいに信じるはずがないだろう?お前ファーラに騙されてるんじゃないのか?(笑)」
「ク、クライム様!ま、間違いないのです!私も最初は疑っておりましたが、セイラの正体は間違いなく」
「まぁそう焦るな、別にお前をどうこうしようってんじゃない。…ただ、聖女様の存在を使って面白いことがしたいだけさ♪」
「お、面白いことでございますか…?」
クライムはそう言うと、自身の机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「こ、これは…」
「”戦勝記念祝勝会”だそうだ。騎士団主催のな」
それは魔獣の一件に決着がついたことを祝勝する会の知らせであった。もちろんこの知らせがクライムのもとに届けられるはずはないため、これは他の誰かに届けられたものをクライムが横取りしたものだった。
「ク、クライム様…。もしかして、こちらに出席されるのですか?」
「俺は長らく地方へと飛ばされていたから、騎士の連中に顔は割れていないはず。来るもの拒まずといった様子で開催されるなら、俺が行ったって文句は言われまい」
「(そ、それはどうでしょうねぇ…。魔獣の一件を引き起こした張本人の弟ですから、バレたら何を言われるか…)」
「なぁレーチス、お前もそう思うだろう?」
「は、はいっ!!おっしゃる通りかと!!」
レーチスもまた、そのイエスマンな性格が直るはずもない。
「し、しかしそこに参加されて何をされるおつもりなのですか…?」
「あぁ。そこで本当にセイラが聖女なのかどうか、見せてもらおうじゃないか…。もしもそうでなかったら、あいつが一方的に大恥をかくことになる、面白いゲームを思いついたんでね…(笑)」
得意げに笑うクライムには、沸き上がる自信のほどが見て取れた。しかし一方で、レーチスの方は過去のトラウマからか、心の中に不安を抱かずにはいられなかった様子…。
「(そ、それって…もしもセイラが本当に聖女だったら、我々の方が大恥をかいてしまうことになるんじゃ…)」
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