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第61話
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かつてはセイラも過ごしていた立派な伯爵家。しかし今やもうその面影は全く感じられず、ボロボロになってしまった柱や壁がむき出しとなり、文字通り半壊してしまっていた。
そんな中でもあまり傷を負ってはいなかった伯爵室。その中で二人の人間が会話を行っていた。
「私たちがともに愛を確かめ合ったお屋敷…。すっかりボロボロになってしまいましたね…」
「あぁ、ここにいるみんなには本当に申し訳ないことをしてしまった。…いや、それだけじゃない。セイラにもラルクにも、そして騎士団にも大きな迷惑をかけてしまった」
ファーラはどこか達観したような雰囲気でそう言いながら、伯爵の証であるペンダントを手に取り、それを複雑そうな表情で見つめる。
「…こんな時にお伝えするのは本当に心苦しいのですが、伯爵様にお伝えしなければならないことがございます」
「ほぅ、なんだい?」
「…自分で言うのもおかしいかもしれませんが、私はこれまで伯爵様に誠心誠意尽くしてまいりました。それはもう、ほかのだれにも負けないほどの思いを抱いていたと自負しております。…しかし、私はこんなにも伯爵様の事を愛していきたというのに、伯爵様は全く私の気持ちにこたえてくれませんでした…。このお屋敷のように、私たちの愛情ももう崩壊してしまったように感じられます。…もう私、これから先伯爵様の事を愛し続けられる自信がありません…」
レリア声を震わせ、その頬にうっすらと涙を流しながらそう言葉を発した。その雰囲気はまさに「愛していた婚約者に裏切られた悲劇のヒロイン」を演出していた。しかしその内心で彼女が思っていたのは…。
「(…この男、いつ切り捨てようかと思っていたけれど、もう今しかないわよね。大体これから伯爵ですらなくなる運命のこの男に、これ以上付き合い続ける価値なんて全くないもの。屋敷も半壊して、伯爵の位もはく奪されて、私にも見捨てられて…。もうあなたには何も残らないのだから♪)」
ライオネルとファーラとの会話を盗み聞きしていたレリアには、ファーラがこの先伯爵の座を追われることになるという事が分かっている。であるなら、もはやファーラの隣にい続けることは彼女にとって何のメリットにもならないという考えに至った様子だった。
「…そうか、僕は君の思いにこたえられなかったか…。こんな形で君との関係が終わってしまうのは、残念だけれど仕方がない…」
これまでの伯爵であったなら、レリアと別れることなど絶対に受け入れられなかったはずだった。しかし今の彼はどういうわけか、素直にレリアの言葉を受け入れることとしているようだった。
「(…間違いなく、僕が伯爵の座から降ろされることを知っていてこんな事を言い始めたのだろう…。彼女がこれまで愛していたのは僕じゃなく、僕の座る椅子だったという事か…)」
自分を切り捨てるのがあまりに素直すぎるタイミングであるために、もはやファーラには返す言葉もなかった。そして同時に、ファーラの中にあったレリアへのこだわりがス―っと消えていっている様子。
「君は僕との関係を終わらせて、どうするつもりなんだい」
「もちろん、伯爵様の事を思い続けます!今は少し未来への自信がなくなっているだけですので、時間が経てばまたきっと」
「もういいよ、そんな嘘で塗り固められた言葉は。…今だからこそ、本当の君と話がしてみたい。お願いできるかな?」
「…」
セイラとの再会を経て、どこかレリアへの感情が吹っ切れたらしいファーラ。今までの彼なら絶対にしなかったであろうリクエストをレリアに対し行った。
そしてその言葉を聞いたレリアは、悲しんでいたそれまでの表情を消し去り、若干の笑顔を浮かべながらそれに答えた。
「構いませんよ?それじゃあ正直にお話いたしましょう」
「あぁ、それで頼むよ。君はこれから、何をするんだい?」
「そうですねぇ。今まで我慢に我慢を重ねて、好きでもない伯爵様に媚びを売り続けてきたというのに、あろうことかその伯爵様は私に何の幸せも恵んではくれませんでした。だから次にお付き合いをする方には、きちんと私に見合った幸せをプレゼントしてくださる方を希望したいですわねぇ♪」
「幸せねぇ…。幼馴染のよしみで教えてあげるけれど、君を幸せにできるような人間はこの世界にいないと思うんだけれど…」
「自分が私を手に入れられなかったからって、ひがむのはやめてくださる?私の言っていることと伯爵様の言っていること、どちらが正しいことかはすぐにわかっていただけることと思いますよ?」
レリアは伯爵にそう言葉を返すと、その場を立ち上がって伯爵の机の方へと進んでいく。何も言わずにその引き出しを開けると、そこから一枚の紙が現れた。
「忘れないように、これも破棄してしまわないといけませんね。私はセイラのように、婚約の誓書をあなたのもとに置き忘れたりはしませんから♪」
ビリビリビリイィィィ
「それではさようなら。元伯爵様♪」
そんな中でもあまり傷を負ってはいなかった伯爵室。その中で二人の人間が会話を行っていた。
「私たちがともに愛を確かめ合ったお屋敷…。すっかりボロボロになってしまいましたね…」
「あぁ、ここにいるみんなには本当に申し訳ないことをしてしまった。…いや、それだけじゃない。セイラにもラルクにも、そして騎士団にも大きな迷惑をかけてしまった」
ファーラはどこか達観したような雰囲気でそう言いながら、伯爵の証であるペンダントを手に取り、それを複雑そうな表情で見つめる。
「…こんな時にお伝えするのは本当に心苦しいのですが、伯爵様にお伝えしなければならないことがございます」
「ほぅ、なんだい?」
「…自分で言うのもおかしいかもしれませんが、私はこれまで伯爵様に誠心誠意尽くしてまいりました。それはもう、ほかのだれにも負けないほどの思いを抱いていたと自負しております。…しかし、私はこんなにも伯爵様の事を愛していきたというのに、伯爵様は全く私の気持ちにこたえてくれませんでした…。このお屋敷のように、私たちの愛情ももう崩壊してしまったように感じられます。…もう私、これから先伯爵様の事を愛し続けられる自信がありません…」
レリア声を震わせ、その頬にうっすらと涙を流しながらそう言葉を発した。その雰囲気はまさに「愛していた婚約者に裏切られた悲劇のヒロイン」を演出していた。しかしその内心で彼女が思っていたのは…。
「(…この男、いつ切り捨てようかと思っていたけれど、もう今しかないわよね。大体これから伯爵ですらなくなる運命のこの男に、これ以上付き合い続ける価値なんて全くないもの。屋敷も半壊して、伯爵の位もはく奪されて、私にも見捨てられて…。もうあなたには何も残らないのだから♪)」
ライオネルとファーラとの会話を盗み聞きしていたレリアには、ファーラがこの先伯爵の座を追われることになるという事が分かっている。であるなら、もはやファーラの隣にい続けることは彼女にとって何のメリットにもならないという考えに至った様子だった。
「…そうか、僕は君の思いにこたえられなかったか…。こんな形で君との関係が終わってしまうのは、残念だけれど仕方がない…」
これまでの伯爵であったなら、レリアと別れることなど絶対に受け入れられなかったはずだった。しかし今の彼はどういうわけか、素直にレリアの言葉を受け入れることとしているようだった。
「(…間違いなく、僕が伯爵の座から降ろされることを知っていてこんな事を言い始めたのだろう…。彼女がこれまで愛していたのは僕じゃなく、僕の座る椅子だったという事か…)」
自分を切り捨てるのがあまりに素直すぎるタイミングであるために、もはやファーラには返す言葉もなかった。そして同時に、ファーラの中にあったレリアへのこだわりがス―っと消えていっている様子。
「君は僕との関係を終わらせて、どうするつもりなんだい」
「もちろん、伯爵様の事を思い続けます!今は少し未来への自信がなくなっているだけですので、時間が経てばまたきっと」
「もういいよ、そんな嘘で塗り固められた言葉は。…今だからこそ、本当の君と話がしてみたい。お願いできるかな?」
「…」
セイラとの再会を経て、どこかレリアへの感情が吹っ切れたらしいファーラ。今までの彼なら絶対にしなかったであろうリクエストをレリアに対し行った。
そしてその言葉を聞いたレリアは、悲しんでいたそれまでの表情を消し去り、若干の笑顔を浮かべながらそれに答えた。
「構いませんよ?それじゃあ正直にお話いたしましょう」
「あぁ、それで頼むよ。君はこれから、何をするんだい?」
「そうですねぇ。今まで我慢に我慢を重ねて、好きでもない伯爵様に媚びを売り続けてきたというのに、あろうことかその伯爵様は私に何の幸せも恵んではくれませんでした。だから次にお付き合いをする方には、きちんと私に見合った幸せをプレゼントしてくださる方を希望したいですわねぇ♪」
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「忘れないように、これも破棄してしまわないといけませんね。私はセイラのように、婚約の誓書をあなたのもとに置き忘れたりはしませんから♪」
ビリビリビリイィィィ
「それではさようなら。元伯爵様♪」
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