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第55話
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「セ、セイラ!?」
「げっ…。伯爵様…。」
唐突な再会を前に、なかなか驚きを隠せない二人。一体なぜセイラが突然このタイミングで伯爵家に現れたかというと…。
――時間はすこしさかのぼり…――
「ま、まずいセイラ!!あの二人が連れてきた魔獣、いつの間にか逃げ出しちゃった!!」
「あぁもう!!『あの魔獣は僕が片付けておくから、セイラはシャルナ様とお茶にでも行っておいで♪』ってドヤ顔で言ってきたのはお兄様の方でしょう!」
「すみませんすみませんすみません!!!」
かつてカタリーナ家に持ち込まれた一匹の魔獣。その場に現れたセイラの一撃によってすっかりおとなしくなったために、ラルクの考えで実は家まで持ち帰っていたのだった。
「…お兄様?まさか倒した魔獣をみんなの前で掲げることで、自分が倒したかのように自慢して回るつもりだったんじゃないですよね…?」
「(ギクッ!!)」
「最近はファンレターの枚数も少し減ってきているようですし、このあたりで女性たちに対していいかっこをしたかったのでは…?」
「(うっ!!)」
…あからさまに動揺しているラルクだったものの、本人はなんとかそれを表にしないように頑張る…。
「(ここでそれを認めてしまったら、兄として大切な何かを失ってしまう気がする…!そ、それだけは避けなければ…!)ち、違うとも!魔獣を生み出している人間は、まだ誰だかわからないんだろう??この生体を調べれば、それについて何かわかるかもしれないじゃないか!セ、セイラもそう思うだろう!」
「はぁ…。そうですねぇ…。」
そして魔獣を家まで持ち帰ったラルク。しかし案の定、少し力を復活させた魔獣に手も足も出ず、そのまま逃がしてしまったのだった。
しかしまだ体力を万全に戻してはいないためか、魔獣はゆっくりと歩きながら進んでいる。その様子を見たラルクは、退治ではない別の方法をセイラに提案した。
「ど、どうやらこの魔獣、やみくもに進んでいるんじゃなくって、どこかを目指して進んでいるようだね…」
「それじゃあつまり、この魔獣に住処まで案内してもらえば、この魔獣たちを生み出した人間に会えると??」
「そ、そうだとも!!実は僕は最初からそれを狙っていたんだよ!シャルナ様の元から魔獣を連れ戻そうとしたあの時からね!どうだいセイラ!僕の事を見直してくれたかい!」
「はぁ~…。とりあえず行きましょうか…」
「ふんふん♪」
そして二人がたどり着いた場所であるのが、伯爵家だったのだった。
――――
光を放ちながら魔獣が消滅するのはほんの短い時間なのだが、伯爵にとってそれはとてもゆっくりに、そして長く感じられた。
「(な、なんて美しい剣技…)」
自分の前に立つセイラは、まるで騎士であるかのような気品なたたずまいをしている。かつてセイラが自分のもとに婚約者としていたころとは、全く別人のように思われた。
「…大丈夫ですか、伯爵様?」
「あ、あぁ…」
セイラはなんとも形容しがたい口調で伯爵にそう言った。いろんな意味で目の前の現実が理解でいない伯爵は、どこか乾いた声で返事をしてしまう。
「そうですか、それじゃあ私はもう帰りますので」
「そ、そぅ…」
伯爵がこれまでに一度も見たことがないほどに、凛々しい表情をセイラは浮かべていた。そこに、かつての気弱で軟弱だった彼女の姿はひとかけらも感じられない。
伯爵の心の中には、いろいろな感情がうごめいていた。
「(セ、セイラ…。僕の元を出て行ってから、こんなにも別人のようにきれいになって…。ずっとずっとレリアの事しか考えていなかったから、全く気付かなかった…。)」
伯爵はすっかりボロボロになり半壊した屋敷を見つめ、自分の過去を冷静に思い起こす。
「(…そういえば、セイラの部屋をめちゃくちゃにしてしまったこともあったな…。あの時は感情に身を任せてやってしまったけれど、やられたほうはこんな気持ちだったのだろうか…?)」
それと同時に、レリアの思惑の一端にようやく気付く。
「(…レリアが僕に執拗にこだわったのは、セイラがこれほどまでに美しくなっていることに嫉妬していたからなんじゃ…?それはつまり、僕への愛情などはかけらもなくて、自分の事しか考えていないという事なんじゃ…?)」
伯爵は確かにレリアの事を愛していた。しかし向こうが自分の事をどう思っているのか、本当の所はこれまで考えたこともなかった。
「(レリア…。君は一体なにを…)」
「は、伯爵様!?大丈夫ですか!?」
伯爵にとって聞きなれた声が、自分に向かってかけられた。レリアはその隣にオクト団長を伴い、たった今屋敷まで戻ってきたのだった。
彼女は一目散に伯爵の元まで駆け寄り、その体を抱き留める。
「ご無事だったのですね、伯爵様…!本当によかった…!私はもう、心の底から伯爵様の事を愛しているのです……。もしも伯爵様になにかあったら、私はもう一人で生きてはいけません…!それほどに伯爵様の事を……伯爵様の事を……」
「…」
抱擁と同時に、熱い熱い愛の言葉をかけるレリア。しかし伯爵の方は、あまりレリアに対する反応を見せない。
これまでなら、間違いなくその心を高ぶらせていたであろうレリアの声と言葉。しかし今の伯爵には、どこか冷めたものに感じられていた。
「そ、それにしても…。いったい誰がこの魔獣の退治を…?」
伯爵の態勢から推測し、彼が魔獣に飛びつかれたことはすぐに想像できた。しかしその魔獣をだれが仕留めたのかがわからない。レリアは一度、冷静に周囲の事を見回してみる。
…そして彼女は、その瞳に一人の人物をとらえた。
「…あら、セイラじゃない。もしかして、やっぱり伯爵様との関係を忘れられないから、ここまで来たのかしら?」
「…」
「恥ずかしくないのかしら?(笑)弱っている伯爵様を狙えば、簡単に心を動かせるとでも思ったの?あきれてものも言えないわね。いったいどこまで性格が悪いのかしら(笑)」
「…」
一方的にセイラへの言葉を続けるレリアの事を、セイラ自身はもちろんラルクも、オクトも、そしてもはやファーラ伯爵までも冷ややかな目で見ていたのだった…。
「げっ…。伯爵様…。」
唐突な再会を前に、なかなか驚きを隠せない二人。一体なぜセイラが突然このタイミングで伯爵家に現れたかというと…。
――時間はすこしさかのぼり…――
「ま、まずいセイラ!!あの二人が連れてきた魔獣、いつの間にか逃げ出しちゃった!!」
「あぁもう!!『あの魔獣は僕が片付けておくから、セイラはシャルナ様とお茶にでも行っておいで♪』ってドヤ顔で言ってきたのはお兄様の方でしょう!」
「すみませんすみませんすみません!!!」
かつてカタリーナ家に持ち込まれた一匹の魔獣。その場に現れたセイラの一撃によってすっかりおとなしくなったために、ラルクの考えで実は家まで持ち帰っていたのだった。
「…お兄様?まさか倒した魔獣をみんなの前で掲げることで、自分が倒したかのように自慢して回るつもりだったんじゃないですよね…?」
「(ギクッ!!)」
「最近はファンレターの枚数も少し減ってきているようですし、このあたりで女性たちに対していいかっこをしたかったのでは…?」
「(うっ!!)」
…あからさまに動揺しているラルクだったものの、本人はなんとかそれを表にしないように頑張る…。
「(ここでそれを認めてしまったら、兄として大切な何かを失ってしまう気がする…!そ、それだけは避けなければ…!)ち、違うとも!魔獣を生み出している人間は、まだ誰だかわからないんだろう??この生体を調べれば、それについて何かわかるかもしれないじゃないか!セ、セイラもそう思うだろう!」
「はぁ…。そうですねぇ…。」
そして魔獣を家まで持ち帰ったラルク。しかし案の定、少し力を復活させた魔獣に手も足も出ず、そのまま逃がしてしまったのだった。
しかしまだ体力を万全に戻してはいないためか、魔獣はゆっくりと歩きながら進んでいる。その様子を見たラルクは、退治ではない別の方法をセイラに提案した。
「ど、どうやらこの魔獣、やみくもに進んでいるんじゃなくって、どこかを目指して進んでいるようだね…」
「それじゃあつまり、この魔獣に住処まで案内してもらえば、この魔獣たちを生み出した人間に会えると??」
「そ、そうだとも!!実は僕は最初からそれを狙っていたんだよ!シャルナ様の元から魔獣を連れ戻そうとしたあの時からね!どうだいセイラ!僕の事を見直してくれたかい!」
「はぁ~…。とりあえず行きましょうか…」
「ふんふん♪」
そして二人がたどり着いた場所であるのが、伯爵家だったのだった。
――――
光を放ちながら魔獣が消滅するのはほんの短い時間なのだが、伯爵にとってそれはとてもゆっくりに、そして長く感じられた。
「(な、なんて美しい剣技…)」
自分の前に立つセイラは、まるで騎士であるかのような気品なたたずまいをしている。かつてセイラが自分のもとに婚約者としていたころとは、全く別人のように思われた。
「…大丈夫ですか、伯爵様?」
「あ、あぁ…」
セイラはなんとも形容しがたい口調で伯爵にそう言った。いろんな意味で目の前の現実が理解でいない伯爵は、どこか乾いた声で返事をしてしまう。
「そうですか、それじゃあ私はもう帰りますので」
「そ、そぅ…」
伯爵がこれまでに一度も見たことがないほどに、凛々しい表情をセイラは浮かべていた。そこに、かつての気弱で軟弱だった彼女の姿はひとかけらも感じられない。
伯爵の心の中には、いろいろな感情がうごめいていた。
「(セ、セイラ…。僕の元を出て行ってから、こんなにも別人のようにきれいになって…。ずっとずっとレリアの事しか考えていなかったから、全く気付かなかった…。)」
伯爵はすっかりボロボロになり半壊した屋敷を見つめ、自分の過去を冷静に思い起こす。
「(…そういえば、セイラの部屋をめちゃくちゃにしてしまったこともあったな…。あの時は感情に身を任せてやってしまったけれど、やられたほうはこんな気持ちだったのだろうか…?)」
それと同時に、レリアの思惑の一端にようやく気付く。
「(…レリアが僕に執拗にこだわったのは、セイラがこれほどまでに美しくなっていることに嫉妬していたからなんじゃ…?それはつまり、僕への愛情などはかけらもなくて、自分の事しか考えていないという事なんじゃ…?)」
伯爵は確かにレリアの事を愛していた。しかし向こうが自分の事をどう思っているのか、本当の所はこれまで考えたこともなかった。
「(レリア…。君は一体なにを…)」
「は、伯爵様!?大丈夫ですか!?」
伯爵にとって聞きなれた声が、自分に向かってかけられた。レリアはその隣にオクト団長を伴い、たった今屋敷まで戻ってきたのだった。
彼女は一目散に伯爵の元まで駆け寄り、その体を抱き留める。
「ご無事だったのですね、伯爵様…!本当によかった…!私はもう、心の底から伯爵様の事を愛しているのです……。もしも伯爵様になにかあったら、私はもう一人で生きてはいけません…!それほどに伯爵様の事を……伯爵様の事を……」
「…」
抱擁と同時に、熱い熱い愛の言葉をかけるレリア。しかし伯爵の方は、あまりレリアに対する反応を見せない。
これまでなら、間違いなくその心を高ぶらせていたであろうレリアの声と言葉。しかし今の伯爵には、どこか冷めたものに感じられていた。
「そ、それにしても…。いったい誰がこの魔獣の退治を…?」
伯爵の態勢から推測し、彼が魔獣に飛びつかれたことはすぐに想像できた。しかしその魔獣をだれが仕留めたのかがわからない。レリアは一度、冷静に周囲の事を見回してみる。
…そして彼女は、その瞳に一人の人物をとらえた。
「…あら、セイラじゃない。もしかして、やっぱり伯爵様との関係を忘れられないから、ここまで来たのかしら?」
「…」
「恥ずかしくないのかしら?(笑)弱っている伯爵様を狙えば、簡単に心を動かせるとでも思ったの?あきれてものも言えないわね。いったいどこまで性格が悪いのかしら(笑)」
「…」
一方的にセイラへの言葉を続けるレリアの事を、セイラ自身はもちろんラルクも、オクトも、そしてもはやファーラ伯爵までも冷ややかな目で見ていたのだった…。
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