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第49話
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そのまま草むらに自分たちの姿を隠していたラルクとシャルナ。しばらくの時間が経過して、追手の者たちはどこかへと姿を消していき、二人だけがこの場に残された。
きっと今頃、婚約者シャルナが突然に失踪したことで、婚約式典は大パニックになっていることだろう。自分勝手な者たちの意向のみで成り立った政略婚約であったため、ざまぁ見ろと言えばそれまでなのだが…。
一方で二人は、これから一体どうするべきかと頭を悩ませていた。
「シャルナ、君は元いたお屋敷に戻りたいかい?それなら馬で送っていくけれど」
「そ、それは……」
ラルクの提案を聞いたシャルナはうつむきがちに目を伏せ、その雰囲気をズーンと暗くする。それを見たラルクは、彼女の心の中にある答えはもう決まっていたのだろうと考えた。
「それじゃあ、一緒に来るかい?僕の愛する人が待っている場所へ!!」
「あ、愛する人…?」
…発せられたその言葉を聞いて、シャルナはどこか心がずきんと痛む感覚を覚えた。…もしかしたら今までの人生で初めてだったかもしれない、自分の恋心を一瞬でつかんでしまった目の前の人物。…けれど彼にはもう、愛する人物がいるのだという。
「(…わがままにも、ラルク様との未来を期待していたわけじゃではない…けれど、こうして現実に相手の真実を突き付けられてしまうと、やっぱり苦しいのですね……)」
ラルクとその人との素晴らしい関係。そんな二人の間に割って入ることなど、シャルナの望むものではなかった。彼女はそのままラルクの申し出を断り、再び心を殺して自分のいるべき場所へ戻ろうと決意した。
…しかし、ラルクは彼女をそうはさせなかった。
「おいおい、そんな死んでしまいそうな表情で元いた場所に帰るといわれても、返せるはずがないじゃないか。僕はこれでも、全世界の女性たちの女心を肌で感じ取ることができるんだ。自分にうそをついたとしても、僕にうそはつけないぜ?」
……聞いたものの心かゾッとするほどのその言葉。隣にセイラがいたなら間違いなく蹴飛ばされていたであろうレベルであったが、それを聞いたシャルナは…。
「(!!!!!わ、私の心、どうしちゃったんだろう…。ラルク様から素敵な言葉をかけられるたびに、心臓が破裂しちゃいそうな…。こ、こんなにかっこいい姿を見せられて、好きでいるなという方が無理な話だもの…!!)」
いつものように調子のいい言葉を並べるラルク。しかしそんな彼にすっかり心を奪われているシャルナの目には、ラルクは白馬の王子様のように映っている様子…。
結局シャルナはラルクの手を借りながら、彼の愛する人の待つ屋敷へ向かうこととしたのだった。
――――
ラルクの用意していた馬に二人でまたがり、目的地を目指して出発する。シャルナは式典用のドレスを身にまとっていたために、馬の跳ねる土や泥によってそれらが汚れて行ってしまう……けれど、全く彼女はそんなことを気にしてはいなかった。
「(い、今までだったら、少しでも衣装を汚してしまったら……お父様とお母さまに嫌われてしまうから、絶対に気を付けないといけないと思っていたけれど……。もう私は、誰に気を使う必要なんてないんだもの…!!)」
シャルナにとっては、ラルクの後ろにくっついて馬で走る経験は、刺激に満ちたものだったことだろう。しかしそんな時間もすぐに終わりを迎え、二人はラルクの屋敷の前に到着する。
屋敷の前へと戻ってきた二人。普段なら特に警戒などすることもなく中へと足を踏み入れるのだが、ここを訪れるのが初めてであるシャルナに、ラルクはある言葉をかける…。
「い、いいかいシャルナ…。僕の愛する人になにか変なことを言ったら、容赦のないローキックが飛んでくるんだ…。だから絶対に彼女の機嫌を損ねちゃいけないし、言われたことにノーと言ってもいけない…。分ったかい?」
「は、はい……が、がんばります…!」
ラルクに言われたことをそのまま素直に受け止めるシャルナ。もちろんラルクが誰の事を言っているかといえば…。
「それじゃあ、覚悟を決めていざっっ!」「そんなありもしないうそを言うんじゃない!!!」「ぶぁっ!?!?」
突如上から落ちてきたセイラによって、ラルクは一瞬のうちにぺちゃんこにつぶされてしまう。屋敷の入り口には壁があるのだが、セイラはそこに待ち受けていた様子…。
「…壁の掃除をしようかと上に上がっていたら、いつものようにありもしない話を…。お兄様のその性格はもう死んでも治らないのでしょうねぇ…」
「そ、そこまで言わずとも……」
涙目でぐったりと地に伏せているラルクを放って、セイラはシャルナの方へと向き合った。
「うちのばかお兄様が本当に申し訳ございません、シャルナ様……」
「い、いえいえそんな、むしろ私の方がラルク様に助けられてばかりで……(…あ、あれ??今、お兄様?と言った??)」
「さあさあ、こんな外ではなんですので、ぜひ中の方へといらしてください!僕もセイラも歓迎しますよ!」
「お兄様……いつのまに元気に……」
驚異的な回復力を見せるラルクは、うれしそうにそのままシャルナを屋敷の中へと案内していった。その様子をやれやれといった目で見つめながら、セイラもまたどこかうれしそうにそれに続いていった。
きっと今頃、婚約者シャルナが突然に失踪したことで、婚約式典は大パニックになっていることだろう。自分勝手な者たちの意向のみで成り立った政略婚約であったため、ざまぁ見ろと言えばそれまでなのだが…。
一方で二人は、これから一体どうするべきかと頭を悩ませていた。
「シャルナ、君は元いたお屋敷に戻りたいかい?それなら馬で送っていくけれど」
「そ、それは……」
ラルクの提案を聞いたシャルナはうつむきがちに目を伏せ、その雰囲気をズーンと暗くする。それを見たラルクは、彼女の心の中にある答えはもう決まっていたのだろうと考えた。
「それじゃあ、一緒に来るかい?僕の愛する人が待っている場所へ!!」
「あ、愛する人…?」
…発せられたその言葉を聞いて、シャルナはどこか心がずきんと痛む感覚を覚えた。…もしかしたら今までの人生で初めてだったかもしれない、自分の恋心を一瞬でつかんでしまった目の前の人物。…けれど彼にはもう、愛する人物がいるのだという。
「(…わがままにも、ラルク様との未来を期待していたわけじゃではない…けれど、こうして現実に相手の真実を突き付けられてしまうと、やっぱり苦しいのですね……)」
ラルクとその人との素晴らしい関係。そんな二人の間に割って入ることなど、シャルナの望むものではなかった。彼女はそのままラルクの申し出を断り、再び心を殺して自分のいるべき場所へ戻ろうと決意した。
…しかし、ラルクは彼女をそうはさせなかった。
「おいおい、そんな死んでしまいそうな表情で元いた場所に帰るといわれても、返せるはずがないじゃないか。僕はこれでも、全世界の女性たちの女心を肌で感じ取ることができるんだ。自分にうそをついたとしても、僕にうそはつけないぜ?」
……聞いたものの心かゾッとするほどのその言葉。隣にセイラがいたなら間違いなく蹴飛ばされていたであろうレベルであったが、それを聞いたシャルナは…。
「(!!!!!わ、私の心、どうしちゃったんだろう…。ラルク様から素敵な言葉をかけられるたびに、心臓が破裂しちゃいそうな…。こ、こんなにかっこいい姿を見せられて、好きでいるなという方が無理な話だもの…!!)」
いつものように調子のいい言葉を並べるラルク。しかしそんな彼にすっかり心を奪われているシャルナの目には、ラルクは白馬の王子様のように映っている様子…。
結局シャルナはラルクの手を借りながら、彼の愛する人の待つ屋敷へ向かうこととしたのだった。
――――
ラルクの用意していた馬に二人でまたがり、目的地を目指して出発する。シャルナは式典用のドレスを身にまとっていたために、馬の跳ねる土や泥によってそれらが汚れて行ってしまう……けれど、全く彼女はそんなことを気にしてはいなかった。
「(い、今までだったら、少しでも衣装を汚してしまったら……お父様とお母さまに嫌われてしまうから、絶対に気を付けないといけないと思っていたけれど……。もう私は、誰に気を使う必要なんてないんだもの…!!)」
シャルナにとっては、ラルクの後ろにくっついて馬で走る経験は、刺激に満ちたものだったことだろう。しかしそんな時間もすぐに終わりを迎え、二人はラルクの屋敷の前に到着する。
屋敷の前へと戻ってきた二人。普段なら特に警戒などすることもなく中へと足を踏み入れるのだが、ここを訪れるのが初めてであるシャルナに、ラルクはある言葉をかける…。
「い、いいかいシャルナ…。僕の愛する人になにか変なことを言ったら、容赦のないローキックが飛んでくるんだ…。だから絶対に彼女の機嫌を損ねちゃいけないし、言われたことにノーと言ってもいけない…。分ったかい?」
「は、はい……が、がんばります…!」
ラルクに言われたことをそのまま素直に受け止めるシャルナ。もちろんラルクが誰の事を言っているかといえば…。
「それじゃあ、覚悟を決めていざっっ!」「そんなありもしないうそを言うんじゃない!!!」「ぶぁっ!?!?」
突如上から落ちてきたセイラによって、ラルクは一瞬のうちにぺちゃんこにつぶされてしまう。屋敷の入り口には壁があるのだが、セイラはそこに待ち受けていた様子…。
「…壁の掃除をしようかと上に上がっていたら、いつものようにありもしない話を…。お兄様のその性格はもう死んでも治らないのでしょうねぇ…」
「そ、そこまで言わずとも……」
涙目でぐったりと地に伏せているラルクを放って、セイラはシャルナの方へと向き合った。
「うちのばかお兄様が本当に申し訳ございません、シャルナ様……」
「い、いえいえそんな、むしろ私の方がラルク様に助けられてばかりで……(…あ、あれ??今、お兄様?と言った??)」
「さあさあ、こんな外ではなんですので、ぜひ中の方へといらしてください!僕もセイラも歓迎しますよ!」
「お兄様……いつのまに元気に……」
驚異的な回復力を見せるラルクは、うれしそうにそのままシャルナを屋敷の中へと案内していった。その様子をやれやれといった目で見つめながら、セイラもまたどこかうれしそうにそれに続いていった。
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