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第47話
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ルイスからカタリーナ家の現状について知らされたセイラとラルクは、帰路に付きながら会話を始める。
「僕ら他人から見れば、あんなお金持ちの家に生まれて順応満帆な人生を送って、こんなに満ち足りた人はいないだろうと思えるけれど…。全くそうじゃなかったみたいだね、セイラ」
「ですね…。カタリーナ家のご令嬢であるシャルナ様が、それほど心を病まれていたなんて…」
――それから数日後、カタリーナ家での出来事――
カタリーナ家の長であるアーロンとその妻であるレベッカは、今日もまたいつものようにシャルナの将来について話し合っていた。
「やはりシャルナは………財閥たるこの家の今後の事も考えて、アルラーク様のご令息と婚約を結ぶのがいいと思うのだが」
「家の事なんて、そんな古臭い考えはおやめになってください!私がこの目で見た限り、シャルナに相応しい人物はロレンツィオ侯爵様をおいて他にはありません!彼のような容姿端麗で女性的な感性をお持ちの方こそ、シャルナの幸せを確立してくださるに違いありません!」
「またそのような感覚的な事を……。いいかい?女性はそうやって感覚で決めるのが得意なのかもしれないが、これは僕たちの未来をも巻き込む重要な問題なんだ。そんな短絡的な思考は止めてくれ」
「はぁ!?それを言うなら旦那様のお考えだって、シャルナのことを何も考えていないではありませんか!」
大きな大きな広間で口論をする二人の声は、上階で目を伏せ、静かにたたずむシャルナの耳にも当然入っていた。ことそしてシャルナはその心の中にさみしくつぶやく。
「(……私、何のために生まれてきたんだろう……)」
シャルナはこの家に生まれた時から、特に何に困ることもない恵まれた人生を送っていた。食べ物、着る物、住む部屋に至ってまで一級のものが取り揃えられ、まさに女性たちのあこがれの財閥のご令嬢、というイメージのままに生かされてきた。
しかしそれは裏返してみれば、シャルナ自身の意思は完全に無視されているということだった。自分がかわいいと思った洋服も、部屋に飾りたいと願った装飾品も、両親が気に入る物でなければ即刻処分されていた。それは人間関係についても同じで、シャルナが好きになった相手が二人の目にかなうものでなければ、話をすることさえも禁止されていた。
…いやそもそもシャルナには、この家から自由に外出することさえ許されていなかったのだった…。
強迫的な態度をくりかえすシャルナの両親は、彼女の心が年々弱って言っていることになど気付きもしなかった。そしてそれからあまり時を経ずに、事件が起こる…。
――――
結局のところシャルナの政略結婚に関しては、レベッカがアーロンに妥協する形で決着した。アーロンがアルラーク侯爵家との手配を全て行い、二人の婚約関係を結ぶに至った。むろんそこに、シャルナの意志など一切反映されていない。
婚約式典として、両家を含む様々な人物が呼ばれる食事会が開催された。シャルナは式典のつい前日にアルラーク侯爵令息との婚約関係について知らされ、当然のようにそれを受け入れさせられた。
「いいかいシャルナ、君が公爵令息であるランハルト様と結ばれることで、カタリーナ家はますますその力を大きくすることだろう。この僕が保証する、彼ならば間違いのない相手だ」
「……まぁ、そういうわけだからシャルナ、ランハルト様に失礼のないように、決してご機嫌を損ねるようなことをしないように、ね」
ランハルトとの面会を目前に控え、二人はシャルナに最後の命令を下していた。シャルナは二人の言葉にうなずいて返事こそしているものの、その目はうつろで光を伴ってはいなかった…。
「おっと、もうこんな時間か……。レベッカ、お相手様にお土産を渡してくるから、一緒に来てくれ」
「仕方ありませんわね…」
二人は足早に持ち物の準備をすると、シャルナの前から姿を消していった。小さな控室のような空間に、シャルナ一人のみが残される。
「……」
彼女は静かにその場を立ち上がると、窓を開けて外の空気を取り込んだ。屋敷から出ることさえめったに許されていなかった彼女にとっては、このようなどこにでもある空気さえ新鮮に感じられたことだろう。
あたりはすっかり暗くなっていて、空には綺麗な星々が浮かんでいる。決して手の届かない存在を見つめ、シャルナは今までに見せたことのない不思議な表情を浮かべていた。一体その心の中には、どんな言葉が浮かんでいたのだろうか…?
――――
「失礼します。シャルナ様、旦那様がお呼びですので、そろそろ式典に参加される準備を……?」
「……シャルナ様???」
参加の合図を知らせに訪れた二人の使用人の前に、シャルナはどこにもいなかった。全開に開けられた窓と、その下に丁寧にそろえられた靴だけを残して…。
「僕ら他人から見れば、あんなお金持ちの家に生まれて順応満帆な人生を送って、こんなに満ち足りた人はいないだろうと思えるけれど…。全くそうじゃなかったみたいだね、セイラ」
「ですね…。カタリーナ家のご令嬢であるシャルナ様が、それほど心を病まれていたなんて…」
――それから数日後、カタリーナ家での出来事――
カタリーナ家の長であるアーロンとその妻であるレベッカは、今日もまたいつものようにシャルナの将来について話し合っていた。
「やはりシャルナは………財閥たるこの家の今後の事も考えて、アルラーク様のご令息と婚約を結ぶのがいいと思うのだが」
「家の事なんて、そんな古臭い考えはおやめになってください!私がこの目で見た限り、シャルナに相応しい人物はロレンツィオ侯爵様をおいて他にはありません!彼のような容姿端麗で女性的な感性をお持ちの方こそ、シャルナの幸せを確立してくださるに違いありません!」
「またそのような感覚的な事を……。いいかい?女性はそうやって感覚で決めるのが得意なのかもしれないが、これは僕たちの未来をも巻き込む重要な問題なんだ。そんな短絡的な思考は止めてくれ」
「はぁ!?それを言うなら旦那様のお考えだって、シャルナのことを何も考えていないではありませんか!」
大きな大きな広間で口論をする二人の声は、上階で目を伏せ、静かにたたずむシャルナの耳にも当然入っていた。ことそしてシャルナはその心の中にさみしくつぶやく。
「(……私、何のために生まれてきたんだろう……)」
シャルナはこの家に生まれた時から、特に何に困ることもない恵まれた人生を送っていた。食べ物、着る物、住む部屋に至ってまで一級のものが取り揃えられ、まさに女性たちのあこがれの財閥のご令嬢、というイメージのままに生かされてきた。
しかしそれは裏返してみれば、シャルナ自身の意思は完全に無視されているということだった。自分がかわいいと思った洋服も、部屋に飾りたいと願った装飾品も、両親が気に入る物でなければ即刻処分されていた。それは人間関係についても同じで、シャルナが好きになった相手が二人の目にかなうものでなければ、話をすることさえも禁止されていた。
…いやそもそもシャルナには、この家から自由に外出することさえ許されていなかったのだった…。
強迫的な態度をくりかえすシャルナの両親は、彼女の心が年々弱って言っていることになど気付きもしなかった。そしてそれからあまり時を経ずに、事件が起こる…。
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結局のところシャルナの政略結婚に関しては、レベッカがアーロンに妥協する形で決着した。アーロンがアルラーク侯爵家との手配を全て行い、二人の婚約関係を結ぶに至った。むろんそこに、シャルナの意志など一切反映されていない。
婚約式典として、両家を含む様々な人物が呼ばれる食事会が開催された。シャルナは式典のつい前日にアルラーク侯爵令息との婚約関係について知らされ、当然のようにそれを受け入れさせられた。
「いいかいシャルナ、君が公爵令息であるランハルト様と結ばれることで、カタリーナ家はますますその力を大きくすることだろう。この僕が保証する、彼ならば間違いのない相手だ」
「……まぁ、そういうわけだからシャルナ、ランハルト様に失礼のないように、決してご機嫌を損ねるようなことをしないように、ね」
ランハルトとの面会を目前に控え、二人はシャルナに最後の命令を下していた。シャルナは二人の言葉にうなずいて返事こそしているものの、その目はうつろで光を伴ってはいなかった…。
「おっと、もうこんな時間か……。レベッカ、お相手様にお土産を渡してくるから、一緒に来てくれ」
「仕方ありませんわね…」
二人は足早に持ち物の準備をすると、シャルナの前から姿を消していった。小さな控室のような空間に、シャルナ一人のみが残される。
「……」
彼女は静かにその場を立ち上がると、窓を開けて外の空気を取り込んだ。屋敷から出ることさえめったに許されていなかった彼女にとっては、このようなどこにでもある空気さえ新鮮に感じられたことだろう。
あたりはすっかり暗くなっていて、空には綺麗な星々が浮かんでいる。決して手の届かない存在を見つめ、シャルナは今までに見せたことのない不思議な表情を浮かべていた。一体その心の中には、どんな言葉が浮かんでいたのだろうか…?
――――
「失礼します。シャルナ様、旦那様がお呼びですので、そろそろ式典に参加される準備を……?」
「……シャルナ様???」
参加の合図を知らせに訪れた二人の使用人の前に、シャルナはどこにもいなかった。全開に開けられた窓と、その下に丁寧にそろえられた靴だけを残して…。
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