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第37話
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「伯爵様、お喜びください。セイラの屋敷の近辺に魔獣を湧かせる作戦は、すべて計画通り上手くいきました!」
「おぉぉ、そうかそうか、上手くいったか!」
ファーラ伯爵の下で長らく魔獣を召喚する儀式の研究を続けてきたノドレーは、作戦の成功を伯爵に告げた。それを聞いた伯爵は機嫌を良くし、いしいしという笑い声を出し始める。
「いしいしいし…!セイラの奴め、今頃泣きわめいているころだろう。だから言ったのだ。この私にたてつく行為など、愚かでしかないと。いしいしいし…」
気持ちの悪い笑い声をあげる伯爵に対し、ノドレーの方はまったくその表情を朗らかにはしていない。…というのも…。
「(ぜ、前回に続き、生み出した魔獣たちがセイラによってぼこぼこにされましたなどと、言えるはずがない…。もしもそんなことを報告してしまったら、お前は一体どれほど弱い魔獣を召喚したのだと言われて、下手したらここから追放されてしまうかもしれない…。な、なんとか隠し通すしかない…。)」
ノドレーは内心、疑心暗鬼になっていた。生み出された魔獣たちのステータスは最高クラスであり、並の人間が叶うはずなどない存在だった。しかし現実に生み出された魔獣たちは、ノドレーの目の前でばったばったとセイラたちによってなぎ倒されていったため、果たして自分は本当に強力な魔獣を生み出せているのかと、彼は自分を疑っていたのだった…。
「(こんなことがあってはならないのだ…。あんな臆病で軟弱だったセイラに、赤子の手をひねるような要領で魔獣が駆逐されるなど…。セイラがまだここにいた時、彼女の存在を笑っていた過去の自分がバカみたいじゃないか…)」
セイラが伯爵家にいた時、誰も彼女に味方をしなかった。それはノドレーも例外ではなく、彼は直接的にセイラを傷つけることはしなかったものの、裏でひそひそと彼女の悪口を重ね、その気弱さを笑っていた。
そして結果から言えば、ノドレーの生み出した魔獣たちは間違いなく一線級の力を持つ魔獣ばかりで、決して彼にミスはなかった。…ただただセイラたちがその予想を大きく超えて行っただけなのだった…。
そんなノドレーの思いなどつゆ知らず、伯爵は今後の展望をその心に思い描いていた。
「(よしよし、これで伯爵としての威厳はたもてそうだな…!この僕が長い長い時間をかけて生み出した魔獣、それに巻き込まれる形でセイラは死んでしまい、僕との婚約は泣く泣く終わりにすることとなった、と…。よし、このストーリーでいこう!これならば貴族たちからの同情も寄せられるだろうし、父上も事故だと理解してくださるはず!僕が強力な魔獣を従えたと知れば、騎士団の連中だって考えを改め、再び僕のもとに来たいといい始めるに決まっている!すべてうまくいくじゃないか!)」
つい先日の食事会、そこでの出来事がトラウマのようになっている伯爵にとって、このストーリーは一石二鳥だった。危ぶまれている自分の伯爵としての地位を再び確立するとともに、セイラへの復讐を果たすこともできる。まさに今の自分にとっては起死回生の一撃…!
「それじゃノドレー、後の事は任せる!」
「は、はいっ…」
伯爵はそう告げると、一目散にレリアの部屋を目指して走り出していった。
――――
「レリア喜んでくれ!僕らの計画はすべてうまくいった!」
「まぁ、さすがは伯爵様!!この私が旦那様として認めたお方!」
「そうだろうそうだろう♪君の旦那はすごいだろう♪」
レリアの愛らしい表情を見て、伯爵は彼女の心を一段と強く引き付けることができた確信している様子。
「間違いなく、セイラたちはこれで終わりだとも!襲い来る魔獣から助かる方法など、仲間のいない彼女たちにはありはしないだろうからな(笑)」
「なんだか気の毒になってきますけれど、自分たちが悪いのですからざまぁないですわね(笑)」
「これで父上だって認めるだろう、セイラが僕の隣に立つにふさわしくはないこと。僕が真に婚約を結ぶにふさわしいのは他でもない、君であると…!」
「すべて私たちの思い描いた通りになっているということですね?たまらないわぁ♪」
「しかもそれだけじゃないぞレリア?魔獣の存在はきっと、騎士団の目を引き付けること間違いなしだ!すぐにでも僕らのもとにすり寄ってくるだろう。魔獣となど戦いたくないので、仲間にしてほしいと!」
「そうなったら…。私たちと騎士様との距離がますます近くなるという事ですよね??(それはつまり、私とオクト様が結ばれる運命への序曲…!!オクト様ったらもしかして、私と結ばれたいからわざとこんな回りくどいやり方を!?な、なんて純粋でかわいい人なのかしら…♪)」
「(レリアの表情が一段と赤くなっている…!これは間違いなく、この僕の事をより好いてくれている証拠!これは押せ押せムードだ!)…レリア、今日の夜は…一緒にどうだい??」
「もう、伯爵様は正直なんですからぁ♪」
…食事会の場であれほど恥ずかしい思いをさせられたというのに、二人は再び同じことを繰り返そうとしているのだった…。
「おぉぉ、そうかそうか、上手くいったか!」
ファーラ伯爵の下で長らく魔獣を召喚する儀式の研究を続けてきたノドレーは、作戦の成功を伯爵に告げた。それを聞いた伯爵は機嫌を良くし、いしいしという笑い声を出し始める。
「いしいしいし…!セイラの奴め、今頃泣きわめいているころだろう。だから言ったのだ。この私にたてつく行為など、愚かでしかないと。いしいしいし…」
気持ちの悪い笑い声をあげる伯爵に対し、ノドレーの方はまったくその表情を朗らかにはしていない。…というのも…。
「(ぜ、前回に続き、生み出した魔獣たちがセイラによってぼこぼこにされましたなどと、言えるはずがない…。もしもそんなことを報告してしまったら、お前は一体どれほど弱い魔獣を召喚したのだと言われて、下手したらここから追放されてしまうかもしれない…。な、なんとか隠し通すしかない…。)」
ノドレーは内心、疑心暗鬼になっていた。生み出された魔獣たちのステータスは最高クラスであり、並の人間が叶うはずなどない存在だった。しかし現実に生み出された魔獣たちは、ノドレーの目の前でばったばったとセイラたちによってなぎ倒されていったため、果たして自分は本当に強力な魔獣を生み出せているのかと、彼は自分を疑っていたのだった…。
「(こんなことがあってはならないのだ…。あんな臆病で軟弱だったセイラに、赤子の手をひねるような要領で魔獣が駆逐されるなど…。セイラがまだここにいた時、彼女の存在を笑っていた過去の自分がバカみたいじゃないか…)」
セイラが伯爵家にいた時、誰も彼女に味方をしなかった。それはノドレーも例外ではなく、彼は直接的にセイラを傷つけることはしなかったものの、裏でひそひそと彼女の悪口を重ね、その気弱さを笑っていた。
そして結果から言えば、ノドレーの生み出した魔獣たちは間違いなく一線級の力を持つ魔獣ばかりで、決して彼にミスはなかった。…ただただセイラたちがその予想を大きく超えて行っただけなのだった…。
そんなノドレーの思いなどつゆ知らず、伯爵は今後の展望をその心に思い描いていた。
「(よしよし、これで伯爵としての威厳はたもてそうだな…!この僕が長い長い時間をかけて生み出した魔獣、それに巻き込まれる形でセイラは死んでしまい、僕との婚約は泣く泣く終わりにすることとなった、と…。よし、このストーリーでいこう!これならば貴族たちからの同情も寄せられるだろうし、父上も事故だと理解してくださるはず!僕が強力な魔獣を従えたと知れば、騎士団の連中だって考えを改め、再び僕のもとに来たいといい始めるに決まっている!すべてうまくいくじゃないか!)」
つい先日の食事会、そこでの出来事がトラウマのようになっている伯爵にとって、このストーリーは一石二鳥だった。危ぶまれている自分の伯爵としての地位を再び確立するとともに、セイラへの復讐を果たすこともできる。まさに今の自分にとっては起死回生の一撃…!
「それじゃノドレー、後の事は任せる!」
「は、はいっ…」
伯爵はそう告げると、一目散にレリアの部屋を目指して走り出していった。
――――
「レリア喜んでくれ!僕らの計画はすべてうまくいった!」
「まぁ、さすがは伯爵様!!この私が旦那様として認めたお方!」
「そうだろうそうだろう♪君の旦那はすごいだろう♪」
レリアの愛らしい表情を見て、伯爵は彼女の心を一段と強く引き付けることができた確信している様子。
「間違いなく、セイラたちはこれで終わりだとも!襲い来る魔獣から助かる方法など、仲間のいない彼女たちにはありはしないだろうからな(笑)」
「なんだか気の毒になってきますけれど、自分たちが悪いのですからざまぁないですわね(笑)」
「これで父上だって認めるだろう、セイラが僕の隣に立つにふさわしくはないこと。僕が真に婚約を結ぶにふさわしいのは他でもない、君であると…!」
「すべて私たちの思い描いた通りになっているということですね?たまらないわぁ♪」
「しかもそれだけじゃないぞレリア?魔獣の存在はきっと、騎士団の目を引き付けること間違いなしだ!すぐにでも僕らのもとにすり寄ってくるだろう。魔獣となど戦いたくないので、仲間にしてほしいと!」
「そうなったら…。私たちと騎士様との距離がますます近くなるという事ですよね??(それはつまり、私とオクト様が結ばれる運命への序曲…!!オクト様ったらもしかして、私と結ばれたいからわざとこんな回りくどいやり方を!?な、なんて純粋でかわいい人なのかしら…♪)」
「(レリアの表情が一段と赤くなっている…!これは間違いなく、この僕の事をより好いてくれている証拠!これは押せ押せムードだ!)…レリア、今日の夜は…一緒にどうだい??」
「もう、伯爵様は正直なんですからぁ♪」
…食事会の場であれほど恥ずかしい思いをさせられたというのに、二人は再び同じことを繰り返そうとしているのだった…。
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