私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…？

第26話

　そして迎えた食事会の当日、セイラはラルクを引き連れてその会場へと向かった。

「思ったよりも人が多いなぁ…」
「うわぁ、これはすごいですね…」

　二人はそろって感嘆の声を上げた。そこには名だたる貴族関係者たちの顔ぶれがそろっていた。さすがはファーラ伯爵が主催しているだけのことはある。
　…しかし、参加している人々の思いはどうやら複雑な様子…。

「…伯爵様から誘われた手前断るわけにはいかなかったが、正直面倒だよなぁ…」
「あぁ、全くだ…。誰が好き好んで伯爵の自己満足愛人紹介パーティーに参加するものか…」
「お、おい…。あんまり言ったら誰かに聞かれるぞ…。今は我慢するんだ…」

　会場のいろいろな場所から、そのような小声が聞こえてきた。みんな内心では、伯爵に付き合うことをうっとうしく思っている様子…。
　そんな風にして、参加している人たちの様子を見ていたセイラたちの前に、伯爵に最も近しい人物がその姿を現した。

「来てくださったのですね、ラルク様！私、ファーラ伯爵様と幼馴染の関係にあります、レリアと言います！」

　体のラインを激しく主張する派手なドレスを身にまとい、匂いの強い香水の匂いを拡散させながら、レリアは二人の前にあいさつに訪れた。

「おお！！これはこれはレリアさん！前に僕らの屋敷に来ていただいたぶりですね！今日はお招きいただき、本当にありがとうございます！…それにしても、今日はまたなんとお美しいお姿…！！」

　刺激の強いレリアの姿を前にして、ラルクはいつものようにその気持ちを高ぶらせている様子…。

「うれしいですわ！ありがとうございます！ラルク様のお噂は私も良く知っております！なんでもお一人だけで騎士の皆さまに匹敵するほどの力をお持ちだとか！たたずまいも凛々しく男らしいですし、正直心がもうときめいております…♪」

「いやいやぁ、本当は隠すつもりだったのですが、知られてしまっては仕方がありませんなぁ！しかもそれを言ってくれる相手があなたのような麗しい女性であるなら、僕はなおさら心臓が飛び出そうな思いですよ～！はっはっはー！」

「(くすくす、その目を見ればわかるわ…。この私の魅力を前にして、もうすでにノックダウン寸前といったところかしら？どれだけ強い男といえど、やはり男なんて単純よね♪)」

「(お兄様、また調子のいいことを言って…。会う人会う人みんなにそう言うんだから…)」

「あらセイラ、あなたも来てくれたのね。婚約している伯爵様の前からいなくなっておいて食事会には来るだなんて、一体どういう神経をしているのかしら？」

「私は招待を受けたから来ただけ。別に伯爵様がどうなんて関係ないもの」

「あらそう、それはそれは。(強がっちゃって…。でもそれも今日で終わりよ？あなたの恋人であるラルクは、今日をもってこの私のものになるのだから♪)」

　本人たちを前にして、いまだに二人の関係が恋人関係であると信じて疑わないレリア…。

「ラルク様、こんな言い方はなんですけれど…。あなたの愛するセイラは、本当にあなたに相応しい人物でしょうか？恋人にするなら、もっとあなたに相応しい人物がいるのではないですか？」

「え？」

「もしも私があなたの恋人なら…。セイラの何百倍も、あなたの心と体に満足感を与えられるかと思いますよ？♪」

　さっそく先制攻撃を仕掛けたレリア。彼女の中ではこれが計画の第一段階だったのだろうが、あいにくその声はラルクの心まで届いてはいなかった。…なぜなら…。

「(ぼ、僕とセイラが恋人だなんて！？やっぱりわかる人には分かるんだなぁ～、僕たちがどれほど深い愛で結ばれる関係か…！。)聞いたかいセイラ！やっぱり僕らは」
「もうこのあたりでいいでしょう、お兄様。私たちも挨拶に行かないといけない人がいるのですから、そろそろ行きましょう？」
「え～…。せっかく久々に会えたんだし、もっと話したいことが…」
「なにか文句でも？」
「あ、ありません…」

　二人の間で交わされるいつものやり取り。それは二人の息のピッタリさを証明するものなのだが、それを見たレリアは違う感想を抱いた様子…。

「(あらあら、もう仲たがいをしているのかしら？セイラ、その心の中はさぞ焦っているのでしょうね♪大切な恋人を私に奪われそうになって、なんとかそれを阻止しようとする姿が透けて見えるもの♪)」

「そ、それじゃあセイラさん、またあとで」
「ええ、楽しみにしています♪」

　自分の前から姿を消す二人の背中を見て、レリアは心の中に勝利を確信していた。…数時間後には、すべて自分に跳ね返ってくることになるとも知らず…。