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第20話

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 ラルクの噂は日に日にその勢いを増していき、その内容はレリアの耳に入るまでに至った。

「(へぇ…。どうやら伯爵の言っていたことは本当だったみたいね)」

 レリアは自室にて、ラルクの事が大々的に取り上げられた号外紙を見て、セイラに味方をする男の存在を確かなものと認めた。
 彼女はさらに詳しく内容を読んでみることにする。

「なになに…。名前はラルク、その勇ましい性格とたくましい心意気は、多くの人々の心に力を分けあたるに至った。彼は自身の隣に立つ女性の事を愛する存在であると認め、素晴らしい関係を築いているのだという…」

 隣に立つ女性…。間違いなくそれはセイラの事を指すのであろうとレリアは推測する。

「(やっぱり私の思った通り、二人は恋人関係らしいわね…。まぁそうでなくっちゃ、略奪する面白味もないってもの♪)」

 伯爵とセイラが婚約関係において意地をはり合っているといまだに思っているレリア。一体どうしてこれまで臆病で弱気だったセイラが、急にこれほどに強気に出られるのか、そのことを疑問に思っていたレリアの頭の中に、一つの可能性が浮かびあがった。

「(きっとセイラは、このラルクって男の事を本命にしているに違いないわ。だからあんな強気になって伯爵にたてつくようになったのよ!つまりそれは、このラルクって男が伯爵以上の価値を持つ男って事になる!それくらいでないと、伯爵との婚約をここまで渋れるわけがないもの!)」

 レリアはその表情を緩ませながら、さらに妄想を続ける。

「(伯爵以上ってなると……公爵令息?それとも王族につながる誰かだったり??いやいや、それほどに力が強いのなら、次期騎士団の団長候補だったり???どれだったとしても寝取るだけの価値はありそうね♪)」

 善は急げ、とでも言わんばかりの様子で彼女は使用人を呼び出し、ある指示を下した。それは彼女にとっての、ラルク略奪婚計画の始まりだった。
 …全くの勘違いから始まったその計画の結末が、とんでもないフィナーレを迎えることになるなど、この時のレリアは知る由もないのだった…。

――――

 ラルクに関する噂話が多くなっていく中、本当の当事者であるセイラはスローライフのような悠々自適な生活を送っていた。




「~♪」

 私は自分でも分かるほどに上機嫌になりながら、机の上に並べられたお花の種を見ている。誰かは分からないけれど、お兄様がめちゃくちゃにしてしまったこの花壇を片付けてもらえたおかげで、またこうしてきれいな花々を育てることができるようになった。

「今度はどの子を育てようかな…。赤色もいいけれど、いい匂いのするこの子もいいな…。うーん…」

「おっと!!大切な手紙が落ちそうに…。あぶないあぶない…」

 机の前で頭を悩ませていた私の横を、両手に持ち切れないほどの手紙の山を抱えたお兄様が横切る。あの日以来お兄様の元には毎日のように大量のラブレターが届いており、それはもちろん今日も例外ではなかった。

「もう…。気を付けてくださいよ、お兄様?」

「あは、ごめんごめん」

 たくさんの手紙にそれぞれ返信を出すことは、かなりの時間と体力のかかること。けれど心優しいお兄様は、そのひとつひとつに丁寧に返事を書いていた。その右手首に、将来のお嫁さん候補である女の子から渡された手作りブレスレットを輝かせながら。

「頂いたお手紙の全てにお返事をするのはご立派だと思いますけれど、体を壊されないでくださいよ?」

「大丈夫大丈夫!!綺麗な女性からの手紙を目の前にして、体を壊すような僕じゃないとも!」

「はぁ~…」

「ん?なにか不機嫌そうだね?もしかして、僕が他の女性になびくんじゃないかと心配に」「ぶち殺しますよ?」「調子に乗りましたごめんなさい」

 私はお兄様の軽口を、いつもの様子でねじ伏せる。

「そ、そそんな勇猛で果敢なセイラに、おおお手紙だよ?」

「お手紙?」

 お兄様と違って、私は別に有名人でも何でもない。いったい誰からの手紙だろう?

「差出人は……レリアですね」

「なになに?なんて書いてあるの?」

 過剰なほど香水をかけられたその封筒を開けてみると、中から2枚の招待状が姿を現した。

「どうやら…レリアの主催するお食事会の招待状らしいですね、これ」

「お!いいねぇ!彼女が主催するほどの食事会なら、それはそれは美しい女性たちがあつまることだろうし…!セイラだけでなく僕まで誘ってくれるなんて、なんて気前のいい!」

 スイッチの入ってしまったお兄様はもう放っておいて、私は招待状に書かれたメッセージに視線を移した。私の方には無難な事しか書かれていないけれど、お兄様の方は違った。

『親愛なるラルク様。あなたの隣に立つに本当に相応しい女が、お食事会でお待ちしております♪』

 その文面を見て、私はすぐに彼女の考えを察した。…きっとお兄様の評判を聞きつけて、しかも私の恋人に違いないと勘違いした彼女は、私からお兄様の事を寝取ってやろうと考えたのだろう。この招待状の出し方から考えて、間違いなく彼女は私たちがただの兄妹だという事にも、お兄様が噂されているような凄腕の人物でもないという事にも気づいていない様子。

「(…どうしようこれ。お兄様を寝取る瞬間を私に見せつけたいレリアは、多くの貴族関係者を食事会に呼んでいるでしょうし…。そんな場で自分が盛大な勘違いをしていたことが発覚するなんて、もう死んでも死にきれないほど恥ずかしい思いをさせることだろうけど…。いいのかなぁ)」

 もう彼女の計画の結末が透けて見えている私。いったいどう返事を出してあげようかと頭を悩ませていたら…。

「なになに?行くに決まってるよね??せっかく誘ってくれたんだから!ね!」

 すっかり乗り気になっているお兄様。私はそんな明るい姿に背中を押されて、彼女の招待を受けることにした。
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