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第10話
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「た、ただいま我が主人が不在でございまして…。代わりにこのレーチスがお相手をさせていただきます」
「たびたびすまないな。ご丁寧にどうもありがとう」
「はじめましてですね!レーチスさん!」
3人は互いに初対面であるため、それぞれが丁寧にあいさつを行った。特にレーチスにとっては、騎士を束ねるリーダーと副リーダとの初めての会話。舞い上がってしまってもおかしくなかったが、これまで伯爵のご機嫌取りをしてきた経験を活かし、失礼のないように取り繕った。
「さあさあ、ぜひ中で紅茶でもどうぞ!!」
「失礼する」
「おじゃましまーす!」
レーチスに導かれるまま、二人は屋敷の中へと足を踏み入れる。そして案内された部屋の中へと入っていき、準備されていた椅子に腰を下ろした。
使用人に用意させていた紅茶を3人分机の上に配置し、レーチスは早速本題に入ることとした。
「そ、それで…本日はどういったご用件で…?」
「ああ。今日はこれを渡しに来たんだ」
オクト騎士団長はそう言うと、自身の懐から手紙の入った封筒のようなものを机の上に差し出した。封がされているため、レーチスはその中を見ることはできない。
「オクト様…こちらは?」
「これは我々騎士団からの、伯爵様とセイラ様へのお祝いの言葉を集めたものだ。今回の婚約は大いにめでたく、我が団員達も大変喜んでおり、こうしてささやかながらお二人の婚約に花を添えさせていただきたく思ったのでね」
「あ、僕も書いたんですよ!みんなの分一緒にしてありますから!」
「さ、左様でございましたか。これはこれはご丁寧に、なんとお礼を申し上げればよいものか。きっと我が主人も、心からお喜びになることでしょう」
レーチスはそう言葉を告げると、うやうやしくお辞儀をして見せる。突然訪問してきた二人に果たして何を言われるのかとびくびくしていた心は、その手紙を見て震えをおとなしくした。
「本当は伯爵様に直接お渡ししたかったのだが、留守とあっては致し方ない」
「ですねぇ。僕もお姿を見たかったのですが…」
騎士の二人はそう言葉を漏らすと、目の前に出されていたティーカップを口に運んだ。その味を舌でゆっくりと感じ取った後に、少しの間をおいて言葉を続けた。
「にしても…伯爵様が不在とはいえ、やけに屋敷が静かだな」
「ええ…みんな寝ちゃってるんですかねぇ?」
「い、いえいえそんなことは…伯爵家とは、いつもこうでございますよ?」
何かを誤魔化すようなレーチスの素振り…。二人はそれを見逃さなかった。
「時に…セイラ様の姿はどちらに?騎士団の代表として挨拶をしておきたいのだが」
「セ、セイラ…様、でございますか?」
レーチスは突然のオクトからの言葉に、すこし言葉に詰まってしまう。
「(そ、そういえば、最近セイラの姿を見ていないような…。もしや、気が進まない伯爵との婚約を前にしてマリッジブルーなどというやつか?年甲斐もなく自分の部屋にこもっているのだろうか…?)」
レーチスは、伯爵からセイラが家出をしてしまった一件のことを聞かされてはいない。伯爵家は大きな屋敷であるため、気づけば長い間、特定の人物を見かけない事などは、決して珍しい事ではなかった。
「き、きっとご自分のお部屋におられるかと思いますが…お呼びしてまいりましょうか?」
「それには及びませんよレーチスさん!会いたいと言っているのは僕らの方なのですから、僕らから伺いますよ!」
「そ、そうですか…お二人がそうおっしゃるのなら…」
これも本来ならばおかしな話。本来なら、レーチス一人がセイラの部屋を訪ね、騎士二人と会うかどうかの返事を聞くべきだ。…しかし彼女の事など内心ではどうでもいいと思っているレーチスは、そのまま彼女の部屋まで二人を案内することを選んだ。
「そ、それではご案内いたします…。こちらへどうぞ」
レーチスは先頭に立ち、そそくさと二人をセイラの部屋の前まで導いた。そして扉にノックを行い、中からの返事を待った。
「セイラ様、いらっしゃいますか?セイラ様?」
しかし彼がどれだけ声をかけようとも、返事らしい言葉は聞こえてこない。
「…どうされたんでしょう?」
「じきにわかるさ」
小声でそうやり取りをする騎士たち。
「セイラ様?いらっしゃいますか?大丈夫ですか?セイラ様?」
どれだけ声をかけても、部屋の中からの返事はない。さてどうしたものかと頭を悩ませるレーチスだったものの、何度か彼女への呼びかけを行った後、彼はあることに気づいた。よく見れば現在扉にカギはかかっておらず、しかもほんの少しだけ隙間の空いた、半開きの状態になっていることに。
「…入りますよ?セイラ様…」
返事を得ずに扉を開けるなどありえない事であるが、レーチスの心の中では好奇心の方が勝った。現在ほんの少しだけ開いているこの扉を開け、中をみてみたいと…
ギーーッ…
「っ!?!?!?!」
「なっ!?!?!?!?」
「こ、これは…!?」
その部屋の光景を見た三人は、全く同じ反応を見せた。幸せな婚約を控えた婚約者とは全く言えないその部屋の惨状を目の当たりにして…
「たびたびすまないな。ご丁寧にどうもありがとう」
「はじめましてですね!レーチスさん!」
3人は互いに初対面であるため、それぞれが丁寧にあいさつを行った。特にレーチスにとっては、騎士を束ねるリーダーと副リーダとの初めての会話。舞い上がってしまってもおかしくなかったが、これまで伯爵のご機嫌取りをしてきた経験を活かし、失礼のないように取り繕った。
「さあさあ、ぜひ中で紅茶でもどうぞ!!」
「失礼する」
「おじゃましまーす!」
レーチスに導かれるまま、二人は屋敷の中へと足を踏み入れる。そして案内された部屋の中へと入っていき、準備されていた椅子に腰を下ろした。
使用人に用意させていた紅茶を3人分机の上に配置し、レーチスは早速本題に入ることとした。
「そ、それで…本日はどういったご用件で…?」
「ああ。今日はこれを渡しに来たんだ」
オクト騎士団長はそう言うと、自身の懐から手紙の入った封筒のようなものを机の上に差し出した。封がされているため、レーチスはその中を見ることはできない。
「オクト様…こちらは?」
「これは我々騎士団からの、伯爵様とセイラ様へのお祝いの言葉を集めたものだ。今回の婚約は大いにめでたく、我が団員達も大変喜んでおり、こうしてささやかながらお二人の婚約に花を添えさせていただきたく思ったのでね」
「あ、僕も書いたんですよ!みんなの分一緒にしてありますから!」
「さ、左様でございましたか。これはこれはご丁寧に、なんとお礼を申し上げればよいものか。きっと我が主人も、心からお喜びになることでしょう」
レーチスはそう言葉を告げると、うやうやしくお辞儀をして見せる。突然訪問してきた二人に果たして何を言われるのかとびくびくしていた心は、その手紙を見て震えをおとなしくした。
「本当は伯爵様に直接お渡ししたかったのだが、留守とあっては致し方ない」
「ですねぇ。僕もお姿を見たかったのですが…」
騎士の二人はそう言葉を漏らすと、目の前に出されていたティーカップを口に運んだ。その味を舌でゆっくりと感じ取った後に、少しの間をおいて言葉を続けた。
「にしても…伯爵様が不在とはいえ、やけに屋敷が静かだな」
「ええ…みんな寝ちゃってるんですかねぇ?」
「い、いえいえそんなことは…伯爵家とは、いつもこうでございますよ?」
何かを誤魔化すようなレーチスの素振り…。二人はそれを見逃さなかった。
「時に…セイラ様の姿はどちらに?騎士団の代表として挨拶をしておきたいのだが」
「セ、セイラ…様、でございますか?」
レーチスは突然のオクトからの言葉に、すこし言葉に詰まってしまう。
「(そ、そういえば、最近セイラの姿を見ていないような…。もしや、気が進まない伯爵との婚約を前にしてマリッジブルーなどというやつか?年甲斐もなく自分の部屋にこもっているのだろうか…?)」
レーチスは、伯爵からセイラが家出をしてしまった一件のことを聞かされてはいない。伯爵家は大きな屋敷であるため、気づけば長い間、特定の人物を見かけない事などは、決して珍しい事ではなかった。
「き、きっとご自分のお部屋におられるかと思いますが…お呼びしてまいりましょうか?」
「それには及びませんよレーチスさん!会いたいと言っているのは僕らの方なのですから、僕らから伺いますよ!」
「そ、そうですか…お二人がそうおっしゃるのなら…」
これも本来ならばおかしな話。本来なら、レーチス一人がセイラの部屋を訪ね、騎士二人と会うかどうかの返事を聞くべきだ。…しかし彼女の事など内心ではどうでもいいと思っているレーチスは、そのまま彼女の部屋まで二人を案内することを選んだ。
「そ、それではご案内いたします…。こちらへどうぞ」
レーチスは先頭に立ち、そそくさと二人をセイラの部屋の前まで導いた。そして扉にノックを行い、中からの返事を待った。
「セイラ様、いらっしゃいますか?セイラ様?」
しかし彼がどれだけ声をかけようとも、返事らしい言葉は聞こえてこない。
「…どうされたんでしょう?」
「じきにわかるさ」
小声でそうやり取りをする騎士たち。
「セイラ様?いらっしゃいますか?大丈夫ですか?セイラ様?」
どれだけ声をかけても、部屋の中からの返事はない。さてどうしたものかと頭を悩ませるレーチスだったものの、何度か彼女への呼びかけを行った後、彼はあることに気づいた。よく見れば現在扉にカギはかかっておらず、しかもほんの少しだけ隙間の空いた、半開きの状態になっていることに。
「…入りますよ?セイラ様…」
返事を得ずに扉を開けるなどありえない事であるが、レーチスの心の中では好奇心の方が勝った。現在ほんの少しだけ開いているこの扉を開け、中をみてみたいと…
ギーーッ…
「っ!?!?!?!」
「なっ!?!?!?!?」
「こ、これは…!?」
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