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第1話

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「伯爵様、またレリアの所へ行かれていたのですか…?」

「そうだが、それがなにか問題でもあるのか?会いたい人物に会いに行くというのは普通の事だろう?」

 さも当然の事のように自身の浮気を正当化するファーラ伯爵様…。彼は私に婚約を申し込み、将来を約束している関係でありながら、自分の幼馴染であるレリアの事を溺愛といってもいいほどに気にかけていた。

「会うだけならいいのですが旦那様は…関係を深めすぎなのではないかと思いまして…」

 彼は毎日のようにレリアの元へ押しかけていた。私との約束があってもほったらかし、貴族同士の食事会などがあってもレリアに呼ばれたりしたら、私にすべてを押し付けて出て行ってしまう…。

「深めすぎ??それの何が問題なのか分からないが…。君は何か勘違いをしているんじゃないのか?僕と君との関係は、形だけの婚約関係だろう?どうせ君だって僕の貴族としての権力目当てで婚約を受け入れたのだろう?」

「そ、そんなこと…わ、私は…」

「しかし僕と彼女との関係は違うんだ。お互いがお互いを本気で愛し合う、いわば真実の愛というもので結ばれているんだ。僕にとってはなによりもかけがえのない存在、それが彼女なんだ。君とどちらが優先されるかなど、誰の目にも明らかだろう?」

 全く罪悪感など感じる様子もなく、彼はそう言葉を発する。…もともと私は、貴族である彼に逆らえる身分ではなかった。だから持ち掛けられた婚約を断ることなどできるはずもなく、半ば強引にこの関係は結ばれていた。
 彼は私の事を都合のいい相手としか思っていないのでしょう。決して自分に逆らえないのを良い事に、自分はやりたい放題の行いを繰り返す…。それを当然の事のように…。

「…これほどに裏切りを続けられたら、どうにかなってしまいそうです…」

 自分でも意識せずに漏れ出た独り言。けれど彼をイラつかせるには十分だったようで…。

「なんだ?それじゃあ婚約を投げ出して出て行ってみるか?そんなことができるなら是非見せてくれ。貴族である相手との約束された将来を捨てるような度胸が、君にあるのならな(笑)」

 にやにやとした表情を浮かべながら、楽しそうにそう彼は言った。…もちろん最初は本気で出て行くつもりなんてなかったけれど、そう言われたからには本当にそうしてあげようか、と私は思ったのだった…。

――――

 それに対し、セイラに家出を迫った伯爵はその気持ちを大いに高ぶらせていた。

「(あれで本当に家出ができるような度胸などセイラにはないし、なにも案ずることなどありはしない♪)」

 形だけの婚約者であるセイラとの会話を終え、私は再びレリアの元を目指して足を進める。わざわざ彼女の住む場所の近くに自分の屋敷を構えたため、時間は全くかからない。

「レリア、つい先日君に会ったばかりだけれど…また会いたくなって来てしまったよ」

 これは彼女の機嫌を取る言葉ではなく、僕の本心からの言葉。

「あーあ。セイラに知られたらまた怒られるんじゃないの?(笑)」

 そんな僕の姿を見て、彼女はどこか楽しそうな表情を浮かべる。きっと僕が会いに来たことがうれしくてたまらないのだろう。

「大丈夫だよ、セイラはいるだけの存在だ。別にどんな扱いをしようとも僕に逆らうことなどできるはずもないのだから」

 身分を異にする僕たちの婚約。普通に考えればおかしな話だが、あえて僕は彼女を選ぶことにした。僕よりも身分の低い彼女ならば、僕の行いに決して文句を言えないだろうから。

「それじゃあ今日はどこへ連れて行ってくれるのかしら?」

 間違いなく、僕と彼女との間にあるのは真実の愛…。彼女だってこうして乗り気で僕に構ってくれている。セイラは憂いているようだが、僕の心をつかんで離さないのはレリアの方なのだから仕方がないというもの。

「とっておきの場所をみつけておいたんだ。二人だけで行こうじゃないか」

「まぁ、それは楽しみね♪」

 生まれを同じくする、年齢も同じ幼馴染の彼女。婚約者がいながら彼女との関係を深める背徳感。それほど僕の男心をつかんで離さないものはなかった…!
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