10 / 12
第10話
しおりを挟む
シャルク君はゆっくりと、いきさつの話を始めた。
「…陛下の無茶な要求の前に、財政は破綻寸前でした…。ミリアさんがいなくなっちゃってからは、それにさらに拍車がかかってしまって…。それで、臨時歳出金という架空の歳入予算を計上することで、負債をすべて隠ぺいしたんです…おかげで見かけ上、王国は黒字財政になり、周辺国や民営組織からの資金借り入れも容易になりました…」
私は確認の意味を込めて、改めて彼に質問する。
「…けれど、それで本当に王国が黒字になったりするはずがない…。その実態は、借金に借金を重ねる悪循環…もはや、だれにも止められない負のスパイラル…」
「…」
心の底から悔しそうな表情を浮かべるシャルク君に、一つ質問をするジャック。
「…からくりはよくわかったよ。だけど、一つだけわからない。君のような誠実で真面目な人間が、どうしてこんなことをしたんだ?前は陛下に直訴に行ってたほどじゃないか。それなのにどうして…」
ジャックのその質問には、私が答える。
「あなたの言う通りよ、ジャック。だって彼は、何も悪くないんだから」
「?」
「!?」
二人が同時に驚愕の表情を浮かべる。私はシャルク君に一歩近づき、語り掛ける。
「…あなたは王国を心から愛してる。だから、王国の事をかばってるのでしょう?自分がこの一件の犯人役となることで、批判の目は王国よりもあなたに向けられる。王国を救うにはそれしかないって、誰かに言われたんじゃないの?」
これは帳簿を見ようが裏帳簿を見ようが分からない事ではある。けれども私は確信していた。彼がその場しのぎのためだけにこんな事、するはずがない。彼は本当にまじめで、誠実な人なのだから。
「…う、ううう、、ミリアさん、、」
彼の目から、涙がこぼれ落ちる。彼の性格を考えれば、相当悔しかったに違いない。そして彼にこんな残酷なことを強いた人間を、絶対に許すわけにはいかない。
「…一人で、よく頑張ったわね、シャルク君」
彼の手を取り、そう言葉をかける。ジャックもまた、彼の背中をさすってくれていた。
その後落ち着きを取り戻したシャルク君が、事の真実をすべて打ち明けてくれた。
まずこの一件の真犯人はリルアだった。彼女は陛下の無茶な要求を無理やり通すため、シャルク君が言った手口で不正処理をした。そして彼女はシャルク君の愛国心と誠実な性格を利用し、王国を救うために責任をかぶれ、できなければ君の愛する王国は崩壊するというという、彼にとって死の宣告にも等しい選択を突き付けた。そしてシャルク君はリルアの要求をのみ、すべての責任をかぶる覚悟をした…というのが真相だった。
「…全く、救えない連中だな…」
「…陛下の無茶な要求に泣きたくなる気持ちは分かるけど、それでもめげずに陛下の説得をするのが財政部の仕事でしょうに…それを一度もせずに、挙句シャルク君の気持ちを利用するだなんて…」
もはや王国に救いはない。滅ぶべくして、滅ぶべきだ。
「…陛下の無茶な要求の前に、財政は破綻寸前でした…。ミリアさんがいなくなっちゃってからは、それにさらに拍車がかかってしまって…。それで、臨時歳出金という架空の歳入予算を計上することで、負債をすべて隠ぺいしたんです…おかげで見かけ上、王国は黒字財政になり、周辺国や民営組織からの資金借り入れも容易になりました…」
私は確認の意味を込めて、改めて彼に質問する。
「…けれど、それで本当に王国が黒字になったりするはずがない…。その実態は、借金に借金を重ねる悪循環…もはや、だれにも止められない負のスパイラル…」
「…」
心の底から悔しそうな表情を浮かべるシャルク君に、一つ質問をするジャック。
「…からくりはよくわかったよ。だけど、一つだけわからない。君のような誠実で真面目な人間が、どうしてこんなことをしたんだ?前は陛下に直訴に行ってたほどじゃないか。それなのにどうして…」
ジャックのその質問には、私が答える。
「あなたの言う通りよ、ジャック。だって彼は、何も悪くないんだから」
「?」
「!?」
二人が同時に驚愕の表情を浮かべる。私はシャルク君に一歩近づき、語り掛ける。
「…あなたは王国を心から愛してる。だから、王国の事をかばってるのでしょう?自分がこの一件の犯人役となることで、批判の目は王国よりもあなたに向けられる。王国を救うにはそれしかないって、誰かに言われたんじゃないの?」
これは帳簿を見ようが裏帳簿を見ようが分からない事ではある。けれども私は確信していた。彼がその場しのぎのためだけにこんな事、するはずがない。彼は本当にまじめで、誠実な人なのだから。
「…う、ううう、、ミリアさん、、」
彼の目から、涙がこぼれ落ちる。彼の性格を考えれば、相当悔しかったに違いない。そして彼にこんな残酷なことを強いた人間を、絶対に許すわけにはいかない。
「…一人で、よく頑張ったわね、シャルク君」
彼の手を取り、そう言葉をかける。ジャックもまた、彼の背中をさすってくれていた。
その後落ち着きを取り戻したシャルク君が、事の真実をすべて打ち明けてくれた。
まずこの一件の真犯人はリルアだった。彼女は陛下の無茶な要求を無理やり通すため、シャルク君が言った手口で不正処理をした。そして彼女はシャルク君の愛国心と誠実な性格を利用し、王国を救うために責任をかぶれ、できなければ君の愛する王国は崩壊するというという、彼にとって死の宣告にも等しい選択を突き付けた。そしてシャルク君はリルアの要求をのみ、すべての責任をかぶる覚悟をした…というのが真相だった。
「…全く、救えない連中だな…」
「…陛下の無茶な要求に泣きたくなる気持ちは分かるけど、それでもめげずに陛下の説得をするのが財政部の仕事でしょうに…それを一度もせずに、挙句シャルク君の気持ちを利用するだなんて…」
もはや王国に救いはない。滅ぶべくして、滅ぶべきだ。
118
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。
木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。
彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。
ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。
その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。
そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。
彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。
紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。
すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。
しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。
妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます
なかの豹吏
恋愛
「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」
双子の妹のステラリアはそう言った。
幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。
なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、
「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」
なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。
※この作品は他サイトにも掲載されています。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません
冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」
アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。
フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。
そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。
なぜなら――
「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」
何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。
彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。
国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。
「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」
隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。
一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。
家族から見放されましたが、王家が救ってくれました!
マルローネ
恋愛
「お前は私に相応しくない。婚約を破棄する」
花嫁修業中の伯爵令嬢のユリアは突然、相応しくないとして婚約者の侯爵令息であるレイモンドに捨てられた。それを聞いた彼女の父親も家族もユリアを必要なしとして捨て去る。
途方に暮れたユリアだったが彼女にはとても大きな味方がおり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる