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第11話
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最近、第一王子の様子がおかしいらしい。
その噂はたちまち王宮の者たちの間で広まっていき、知らぬものはいないほどになっていった。
「元のエリス様、一体どこに行かれてしまったのでしょう?」
「さぁ…。第一王子の妃としての立場はほぼ内定されていたようなものだったから、誰かにその身を狙われてしまったものだとは思うけれど…」
「でもそれにしては、情報が出てこなさすぎでしょう?いなくなったエリス様を返してほしいならなにをしろ、なんて要求の声が届けられることもないし、彼女の身がどこにあるっていう話がもたらされることもないし…。一体何が起こっているのか…」
王宮に仕える使用人たちは、毎日のようにエリスに関する話題を口にしていた。
それもそのはず、まさか彼女がこのように突然その姿を消してしまうなど、誰も予想だにしていなかったことだからだ。
その身が消えてしまってしばらくの月日が経つ今になってなおその話題が絶えないところに、彼らの抱く関心の強さが感じ取れる。
するとその時、彼らの前をエリスが通りすぎた。
「こ、こんにちはエリス様!」
「こんにちは!」
「こんにちは。いつもお仕事ご苦労様です」
エリスは自然な口調で彼らに挨拶を返し、そのまま彼らの前を通りすぎていく。
…以前のエリスを知る彼らにしてみれば、この状況ほど恐ろしさを感じるものはなかった。
なぜなら、たった今自分たちに挨拶を行ってエリスの姿は、かつて自分たちが見ていた本物のエリスの姿と瓜二つだからだ…。
2人はその場から遠のいてくエリスの姿を確認した後、小さな声でこう会話を交わし始める。
「…ねぇ、最近シュノード様の様子がおかしいって話、聞いてる?」
「…えぇ、もちろん。ついこの間までは本物のエリス様の事だけを常に考えていた様子だったのに、最近のシュノード様はそうじゃなくなってるんでしょ?」
「あぁ…。エリス様の情報ならどんな些細なものにも飛びついていたというのに、全く興味を示さなくなっておられる様子…」
「それどころかむしろ最近は、まるで今のエリス様の方が本物のような扱いを始めているって聞いたけれど?」
シュノードの発する異様な雰囲気は、その周囲にいる人間たちならなばより強く違和感として感じているところであった。
それもそのはず、エリスの事を溺愛し続けていたシュノードがこのような姿を見せることなど、これまでに一度たりともなかったことなのだから…。
「…もしも、もしも今エリス様がこの王宮に戻ってこられたら、シュノード様は一体どうされるんだろうか…?」
その疑問は、この状況を見た者ならば自然と抱くものであった。
…ただし、そこに答えが伴っているかどうかは別の話…。
「あまり考えたくもないね、そんなことは…。我々はシュノード様の事を押さ冴えするのが仕事なのだから、余計な心配をするのはかえって失礼かもしれない。シュノード様がどんな選択を取られようとも、それを支持してお支えすることしかできないのだから」
「それはそうだが…」
「まぁ心配はいらないとも。エリス様が失踪してしまわれた時、シュノード様はこの国ありったけの力を注力してエリス様の行方を捜したんだ。それでも彼女の姿を見つけることはできなかったのだから、もうこれから先エリス様の姿が見つかるという可能性の方が低いだろう?」
「そ、それは……」
「たぶん、シュノード様もその事を理解されている。だからこそ今、もうその現実を受け入れて元のエリス様の事を考えないようにしているんじゃないだろうか。そうだとしたら、それこそ我々が変に心配事を抱くのは無粋と言うものだろう」
「うーん……そうなのかねぇ…」
その話自体は真実であり、大規模な捜索にもかかわらずエリスの姿はまったくどこからも出てこなかった。
ゆえにシュノードが現実を受け入れようとしているという説には信憑性が伴うものの、もう一方の使用人は素直にその説が受け入れられない様子だった。
…そして、それからあまり時を経ずして、どちらの考えが正しいものだったが明瞭に示されることとなるのであった…。
その噂はたちまち王宮の者たちの間で広まっていき、知らぬものはいないほどになっていった。
「元のエリス様、一体どこに行かれてしまったのでしょう?」
「さぁ…。第一王子の妃としての立場はほぼ内定されていたようなものだったから、誰かにその身を狙われてしまったものだとは思うけれど…」
「でもそれにしては、情報が出てこなさすぎでしょう?いなくなったエリス様を返してほしいならなにをしろ、なんて要求の声が届けられることもないし、彼女の身がどこにあるっていう話がもたらされることもないし…。一体何が起こっているのか…」
王宮に仕える使用人たちは、毎日のようにエリスに関する話題を口にしていた。
それもそのはず、まさか彼女がこのように突然その姿を消してしまうなど、誰も予想だにしていなかったことだからだ。
その身が消えてしまってしばらくの月日が経つ今になってなおその話題が絶えないところに、彼らの抱く関心の強さが感じ取れる。
するとその時、彼らの前をエリスが通りすぎた。
「こ、こんにちはエリス様!」
「こんにちは!」
「こんにちは。いつもお仕事ご苦労様です」
エリスは自然な口調で彼らに挨拶を返し、そのまま彼らの前を通りすぎていく。
…以前のエリスを知る彼らにしてみれば、この状況ほど恐ろしさを感じるものはなかった。
なぜなら、たった今自分たちに挨拶を行ってエリスの姿は、かつて自分たちが見ていた本物のエリスの姿と瓜二つだからだ…。
2人はその場から遠のいてくエリスの姿を確認した後、小さな声でこう会話を交わし始める。
「…ねぇ、最近シュノード様の様子がおかしいって話、聞いてる?」
「…えぇ、もちろん。ついこの間までは本物のエリス様の事だけを常に考えていた様子だったのに、最近のシュノード様はそうじゃなくなってるんでしょ?」
「あぁ…。エリス様の情報ならどんな些細なものにも飛びついていたというのに、全く興味を示さなくなっておられる様子…」
「それどころかむしろ最近は、まるで今のエリス様の方が本物のような扱いを始めているって聞いたけれど?」
シュノードの発する異様な雰囲気は、その周囲にいる人間たちならなばより強く違和感として感じているところであった。
それもそのはず、エリスの事を溺愛し続けていたシュノードがこのような姿を見せることなど、これまでに一度たりともなかったことなのだから…。
「…もしも、もしも今エリス様がこの王宮に戻ってこられたら、シュノード様は一体どうされるんだろうか…?」
その疑問は、この状況を見た者ならば自然と抱くものであった。
…ただし、そこに答えが伴っているかどうかは別の話…。
「あまり考えたくもないね、そんなことは…。我々はシュノード様の事を押さ冴えするのが仕事なのだから、余計な心配をするのはかえって失礼かもしれない。シュノード様がどんな選択を取られようとも、それを支持してお支えすることしかできないのだから」
「それはそうだが…」
「まぁ心配はいらないとも。エリス様が失踪してしまわれた時、シュノード様はこの国ありったけの力を注力してエリス様の行方を捜したんだ。それでも彼女の姿を見つけることはできなかったのだから、もうこれから先エリス様の姿が見つかるという可能性の方が低いだろう?」
「そ、それは……」
「たぶん、シュノード様もその事を理解されている。だからこそ今、もうその現実を受け入れて元のエリス様の事を考えないようにしているんじゃないだろうか。そうだとしたら、それこそ我々が変に心配事を抱くのは無粋と言うものだろう」
「うーん……そうなのかねぇ…」
その話自体は真実であり、大規模な捜索にもかかわらずエリスの姿はまったくどこからも出てこなかった。
ゆえにシュノードが現実を受け入れようとしているという説には信憑性が伴うものの、もう一方の使用人は素直にその説が受け入れられない様子だった。
…そして、それからあまり時を経ずして、どちらの考えが正しいものだったが明瞭に示されることとなるのであった…。
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