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第3話
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「そうです、あんまり体調がよくないんです。なので今日はお帰り頂けますか?」
私は自分の心を鬼にして、レベラ様に対してそう言葉を告げた。
そりゃ私だって、できるものならレベラ様と一緒にデートをしたい。
前の世界ではまともに彼氏もできずに終わったのだから、新しいこの世界では前の世界でできなかった分を取り返せるくらいに遊んでみたい。
その相手がこんな整った顔立ちで心優しい王子様だというのならなおの事。
…でも、今の私はどんな手を使ってでもレベラ様から距離を取らないといけないのだ。
「そうですか…。お体の事が一番ですから、無理にとは言えませんね…。しかし、ずっとずっと楽しみにしていたので本当に寂しいです…」
「う…」
レベラ様は心から残念そうな様子でそう言葉を漏らす。
するとその後、彼の両隣に控えていた二人の騎士がひそひそ声でこう言葉を発した。
「…この部屋に入ってくる時、すっごい大きな声だしてましたよね?」
「本当に体調が悪いのか?嘘なんじゃないのか?」
「でもだとしたら、なんでそんな嘘を?レベラ様の方からデートに誘っているんだから、断る理由がなくないですか?」
「だから、あえて、だよ。あえて身を引くことで、レベラ様の気を引こうとしているんだ。さすが悪役令嬢だよな、考えることがずる賢いというか、小賢しいというか…」
「こら君たち、勝手なことを言うんじゃない。どうしてアリシラ様の事を信頼することができないんだ。無理を言って一方的に押しかけてきたのはこっちの方なんだから、反省するのは僕たちの方だろう」
「う…。も、申し訳ありません…」
2人はその場でレベラ様からくぎを刺され、それ以上の言葉を封じ込められる。
しかし二人の発した言葉は、私の胸に強く突き刺さった…。
や、やっぱりこの世界の私はどう動いても悪役令嬢になる運命なのかしら…。
でもここでレベラ様の誘いに乗ったところでそれは同じことだろうし、結局私が悪役令嬢呼ばわりされる未来は変わらなそうだし…。
…などということを頭の中で考えていたら、突然レベラ様は私に近づいてそのまま私の手を取る。
その光景にかなり驚く私の顔を見ながら、彼は近い距離でこう言葉を発した。
「アリシラ様、あなたの体調が一日も早く良くなることを願っています。その時はぜひとも、僕と一緒の時間を過ごしていただきたい」
「だ、だめですよレベラ様!そんな近づかれたら、病気がうつってしまうかもしれませんから!」
私はとっさにその手をそっと払いのけると、レベラ様から視線を切ってそう言葉を告げた。
それは私の本心からの言葉で、本当にレベラ様の事を気遣ってのもの。
…まぁ、実際には私は病気じゃないという嘘は入っているけれど、それでも今私が本当に病気だったら同じ行動をすると思うもの…。
けれど、そんな私の言葉にレベラ様は思わぬ言葉を返してきた。
「それなら構わないですよ。僕が病気をもらう事でアリシラ様が元気になるというのなら、こんなにうれしいことはありませんから」
「う」
それはもう本当にうれしい言葉だし、実際私の心の中はかなり色めき立っている。
でも、今の私にそんな言葉をかけられてしまったら、周囲の人たちが私に向ける視線はまたそういうのになってしまう…。
「(…ほら見ろ、やっぱりわざとあんな態度を取っているんだ。さすが性悪な悪役令嬢だぜ…)」
「(素直に言った方がまだかわいげがあるのになぁ…。ああやって暗に心をつかみにかかる方がよっぽどいやらしく見えるよなぁ…)」
先ほどレベラ様から注意を受けたからか、直接言葉には出さない二人。
それでもその表情には彼らが考えていることがばっちり現れていて、その言葉はばっちり私のもとに届いていた。
「と、とにかくおかえりください!!ほらターナー!!レベラ様のお帰りよ!!はやくお見送りを!!」
おそらくドアの外に控えているであろうターナーに向けて、私はそう言葉を叫んだ。
とても病気を持っている女の声量ではないことは理解しているけれど、それでもこの場を収めるにはもうこれ以外の方法を思いつかなかった。
「し、失礼します…。それではレベラ様、大変恐縮なのですがお嬢様もこうおっしゃっておられますので、今日の所はお引き取りをお願いいたします…」
「もちろんです。アリシラ様に無理などさせられませんから」
「それでは僭越ながら、この私がお見送りをさせていただきます。こちらにどうぞ…」
ターナーは心の底から残念そうな表情を浮かべながら、あからさまにテンションの低い口調でそう言葉を発し、レベラ様と二人の騎士たちを案内していく。
…そのすれ違いざま、騎士の二人が小さな声で私に向けてぼそっとこう言葉をつぶやいた。
「なんだ、見送りにも来ないのか…。レベラ様が屋敷から出るというのに…」
「何度も言ってるだろ、それも計算なんだよ。悪役令嬢らしいじゃないか」
…なんですって??
私はあなたたちの事も思ってあえてこういう対応をしてあげているんじゃない。
もし私がセオリー通りレベラ様に近づいたら、私にざまぁするためにあなたたちの仕事が増えるわけでしょ?
それをさせないために私はあえて身を引いてあげているんじゃない。
むしろ感謝してほしいわね。
私はそのまま屋敷から去っていく3人の姿をその場で見送り、後を追う事はしなかった。
私は自分の心を鬼にして、レベラ様に対してそう言葉を告げた。
そりゃ私だって、できるものならレベラ様と一緒にデートをしたい。
前の世界ではまともに彼氏もできずに終わったのだから、新しいこの世界では前の世界でできなかった分を取り返せるくらいに遊んでみたい。
その相手がこんな整った顔立ちで心優しい王子様だというのならなおの事。
…でも、今の私はどんな手を使ってでもレベラ様から距離を取らないといけないのだ。
「そうですか…。お体の事が一番ですから、無理にとは言えませんね…。しかし、ずっとずっと楽しみにしていたので本当に寂しいです…」
「う…」
レベラ様は心から残念そうな様子でそう言葉を漏らす。
するとその後、彼の両隣に控えていた二人の騎士がひそひそ声でこう言葉を発した。
「…この部屋に入ってくる時、すっごい大きな声だしてましたよね?」
「本当に体調が悪いのか?嘘なんじゃないのか?」
「でもだとしたら、なんでそんな嘘を?レベラ様の方からデートに誘っているんだから、断る理由がなくないですか?」
「だから、あえて、だよ。あえて身を引くことで、レベラ様の気を引こうとしているんだ。さすが悪役令嬢だよな、考えることがずる賢いというか、小賢しいというか…」
「こら君たち、勝手なことを言うんじゃない。どうしてアリシラ様の事を信頼することができないんだ。無理を言って一方的に押しかけてきたのはこっちの方なんだから、反省するのは僕たちの方だろう」
「う…。も、申し訳ありません…」
2人はその場でレベラ様からくぎを刺され、それ以上の言葉を封じ込められる。
しかし二人の発した言葉は、私の胸に強く突き刺さった…。
や、やっぱりこの世界の私はどう動いても悪役令嬢になる運命なのかしら…。
でもここでレベラ様の誘いに乗ったところでそれは同じことだろうし、結局私が悪役令嬢呼ばわりされる未来は変わらなそうだし…。
…などということを頭の中で考えていたら、突然レベラ様は私に近づいてそのまま私の手を取る。
その光景にかなり驚く私の顔を見ながら、彼は近い距離でこう言葉を発した。
「アリシラ様、あなたの体調が一日も早く良くなることを願っています。その時はぜひとも、僕と一緒の時間を過ごしていただきたい」
「だ、だめですよレベラ様!そんな近づかれたら、病気がうつってしまうかもしれませんから!」
私はとっさにその手をそっと払いのけると、レベラ様から視線を切ってそう言葉を告げた。
それは私の本心からの言葉で、本当にレベラ様の事を気遣ってのもの。
…まぁ、実際には私は病気じゃないという嘘は入っているけれど、それでも今私が本当に病気だったら同じ行動をすると思うもの…。
けれど、そんな私の言葉にレベラ様は思わぬ言葉を返してきた。
「それなら構わないですよ。僕が病気をもらう事でアリシラ様が元気になるというのなら、こんなにうれしいことはありませんから」
「う」
それはもう本当にうれしい言葉だし、実際私の心の中はかなり色めき立っている。
でも、今の私にそんな言葉をかけられてしまったら、周囲の人たちが私に向ける視線はまたそういうのになってしまう…。
「(…ほら見ろ、やっぱりわざとあんな態度を取っているんだ。さすが性悪な悪役令嬢だぜ…)」
「(素直に言った方がまだかわいげがあるのになぁ…。ああやって暗に心をつかみにかかる方がよっぽどいやらしく見えるよなぁ…)」
先ほどレベラ様から注意を受けたからか、直接言葉には出さない二人。
それでもその表情には彼らが考えていることがばっちり現れていて、その言葉はばっちり私のもとに届いていた。
「と、とにかくおかえりください!!ほらターナー!!レベラ様のお帰りよ!!はやくお見送りを!!」
おそらくドアの外に控えているであろうターナーに向けて、私はそう言葉を叫んだ。
とても病気を持っている女の声量ではないことは理解しているけれど、それでもこの場を収めるにはもうこれ以外の方法を思いつかなかった。
「し、失礼します…。それではレベラ様、大変恐縮なのですがお嬢様もこうおっしゃっておられますので、今日の所はお引き取りをお願いいたします…」
「もちろんです。アリシラ様に無理などさせられませんから」
「それでは僭越ながら、この私がお見送りをさせていただきます。こちらにどうぞ…」
ターナーは心の底から残念そうな表情を浮かべながら、あからさまにテンションの低い口調でそう言葉を発し、レベラ様と二人の騎士たちを案内していく。
…そのすれ違いざま、騎士の二人が小さな声で私に向けてぼそっとこう言葉をつぶやいた。
「なんだ、見送りにも来ないのか…。レベラ様が屋敷から出るというのに…」
「何度も言ってるだろ、それも計算なんだよ。悪役令嬢らしいじゃないか」
…なんですって??
私はあなたたちの事も思ってあえてこういう対応をしてあげているんじゃない。
もし私がセオリー通りレベラ様に近づいたら、私にざまぁするためにあなたたちの仕事が増えるわけでしょ?
それをさせないために私はあえて身を引いてあげているんじゃない。
むしろ感謝してほしいわね。
私はそのまま屋敷から去っていく3人の姿をその場で見送り、後を追う事はしなかった。
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