上 下
3 / 5

第3話

しおりを挟む
「そうです、あんまり体調がよくないんです。なので今日はお帰り頂けますか?」

私は自分の心を鬼にして、レベラ様に対してそう言葉を告げた。
そりゃ私だって、できるものならレベラ様と一緒にデートをしたい。
前の世界ではまともに彼氏もできずに終わったのだから、新しいこの世界では前の世界でできなかった分を取り返せるくらいに遊んでみたい。
その相手がこんな整った顔立ちで心優しい王子様だというのならなおの事。
…でも、今の私はどんな手を使ってでもレベラ様から距離を取らないといけないのだ。

「そうですか…。お体の事が一番ですから、無理にとは言えませんね…。しかし、ずっとずっと楽しみにしていたので本当に寂しいです…」
「う…」

レベラ様は心から残念そうな様子でそう言葉を漏らす。
するとその後、彼の両隣に控えていた二人の騎士がひそひそ声でこう言葉を発した。

「…この部屋に入ってくる時、すっごい大きな声だしてましたよね?」
「本当に体調が悪いのか?嘘なんじゃないのか?」
「でもだとしたら、なんでそんな嘘を?レベラ様の方からデートに誘っているんだから、断る理由がなくないですか?」
「だから、あえて、だよ。あえて身を引くことで、レベラ様の気を引こうとしているんだ。さすが悪役令嬢だよな、考えることがずる賢いというか、小賢しいというか…」
「こら君たち、勝手なことを言うんじゃない。どうしてアリシラ様の事を信頼することができないんだ。無理を言って一方的に押しかけてきたのはこっちの方なんだから、反省するのは僕たちの方だろう」
「う…。も、申し訳ありません…」

2人はその場でレベラ様からくぎを刺され、それ以上の言葉を封じ込められる。
しかし二人の発した言葉は、私の胸に強く突き刺さった…。

や、やっぱりこの世界の私はどう動いても悪役令嬢になる運命なのかしら…。
でもここでレベラ様の誘いに乗ったところでそれは同じことだろうし、結局私が悪役令嬢呼ばわりされる未来は変わらなそうだし…。
…などということを頭の中で考えていたら、突然レベラ様は私に近づいてそのまま私の手を取る。
その光景にかなり驚く私の顔を見ながら、彼は近い距離でこう言葉を発した。

「アリシラ様、あなたの体調が一日も早く良くなることを願っています。その時はぜひとも、僕と一緒の時間を過ごしていただきたい」
「だ、だめですよレベラ様!そんな近づかれたら、病気がうつってしまうかもしれませんから!」

私はとっさにその手をそっと払いのけると、レベラ様から視線を切ってそう言葉を告げた。
それは私の本心からの言葉で、本当にレベラ様の事を気遣ってのもの。
…まぁ、実際には私は病気じゃないという嘘は入っているけれど、それでも今私が本当に病気だったら同じ行動をすると思うもの…。
けれど、そんな私の言葉にレベラ様は思わぬ言葉を返してきた。

「それなら構わないですよ。僕が病気をもらう事でアリシラ様が元気になるというのなら、こんなにうれしいことはありませんから」
「う」

それはもう本当にうれしい言葉だし、実際私の心の中はかなり色めき立っている。
でも、今の私にそんな言葉をかけられてしまったら、周囲の人たちが私に向ける視線はまたそういうのになってしまう…。

「(…ほら見ろ、やっぱりわざとあんな態度を取っているんだ。さすが性悪な悪役令嬢だぜ…)」
「(素直に言った方がまだかわいげがあるのになぁ…。ああやって暗に心をつかみにかかる方がよっぽどいやらしく見えるよなぁ…)」

先ほどレベラ様から注意を受けたからか、直接言葉には出さない二人。
それでもその表情には彼らが考えていることがばっちり現れていて、その言葉はばっちり私のもとに届いていた。

「と、とにかくおかえりください!!ほらターナー!!レベラ様のお帰りよ!!はやくお見送りを!!」

おそらくドアの外に控えているであろうターナーに向けて、私はそう言葉を叫んだ。
とても病気を持っている女の声量ではないことは理解しているけれど、それでもこの場を収めるにはもうこれ以外の方法を思いつかなかった。

「し、失礼します…。それではレベラ様、大変恐縮なのですがお嬢様もこうおっしゃっておられますので、今日の所はお引き取りをお願いいたします…」
「もちろんです。アリシラ様に無理などさせられませんから」
「それでは僭越ながら、この私がお見送りをさせていただきます。こちらにどうぞ…」

ターナーは心の底から残念そうな表情を浮かべながら、あからさまにテンションの低い口調でそう言葉を発し、レベラ様と二人の騎士たちを案内していく。
…そのすれ違いざま、騎士の二人が小さな声で私に向けてぼそっとこう言葉をつぶやいた。

「なんだ、見送りにも来ないのか…。レベラ様が屋敷から出るというのに…」
「何度も言ってるだろ、それも計算なんだよ。悪役令嬢らしいじゃないか」

…なんですって??
私はあなたたちの事も思ってあえてこういう対応をしてあげているんじゃない。
もし私がセオリー通りレベラ様に近づいたら、私にざまぁするためにあなたたちの仕事が増えるわけでしょ?
それをさせないために私はあえて身を引いてあげているんじゃない。
むしろ感謝してほしいわね。

私はそのまま屋敷から去っていく3人の姿をその場で見送り、後を追う事はしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方がそう仰るなら私は…

星月 舞夜
恋愛
「お前がいなくなれば俺は幸せになる」 ローズ伯爵には2人の姉妹がいました 静かな性格だけれど優しい心の持ち主の姉ネモ 元気な性格で家族や周りの人から愛されている妹 ネア ある日、ネモの婚約者アイリス国の王太子ルイが妹のネアと浮気をしていることがわかった。その事を家族や友人に相談したけれど誰もネモの味方になってくれる人はいなかった。 「あぁ…私はこの世界の邪魔者なのね…」 そうしてネモがとった行動とは…… 初作品です!設定が緩くおかしな所がありましたら感想などで教えてくだされば嬉しいです! 暖かい目で見届けてくださいm(*_ _)m

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

処理中です...